Translate

2016年4月16日土曜日

Paul D. Brazill/Guns Of Brixton

今回は、前回まで長々とやってきました英国犯罪小説アンソロジー『True Brit Grit』の編者でもあり、イギリスの現在のこのシーンのオーガナイザー的立場でもある作家Paul D. Brazillの、とりあえず現在のところの代表作である『Guns Of Brixton』であります。


なんてこった。Big JimがHalf-Pint Harryの頭を吹っ飛ばしちまった。ボスのTony Cookのために、スーツケースを受け取って来るだけの仕事だったのに。うっかりショットガンが暴発しちまったんだ。こうなっちまったものはしょうがない。次の仕事が待ってる。Harryの死体は途中でAnarchy Alの所に寄って始末を頼むとしよう。KennyはBig Jimと死体をジャガーのトランクに積み込み、用意してきたドレスに着替えはじめる…。

新年最初の朝、まだ昨夜の年越しパーティーの二日酔いもさめぬまま、勤め先の宝石店に出勤してきたLynne。昨日のパーティーはどうだった?とゲイのゴージャス・ジョージに問いかけながら、鼻からコカインを吸い込む。その時、窓から駐車場にジャガーが滑り込んでくるのが見える。車から降りてきたのはやけにがっしりした体格の女2人。あれはロシア人だわ。派手に金を使うに決まっている。早く店を開けなきゃ。

Big JimとKennyは宝石店での収穫に満足しながら、ジャガーを疾らせる。ブリクストン・ヒル・ロードからコールドハーバー・レーンへ。かつらを取り、化粧をぬぐい、祝杯を上げながら…。

Richardは妻Camillaに言いつけられ、気の進まないパーティーの買い物に車を走らせる。気分を盛り上げる曲を探し、助手席のCDに気を取られ、目を戻すと、おい!ここは一方通行だぞ!前方からは逆走してきたジャガーが突っ込んでくる…。


という感じで、他にも殺し屋神父、引退したタフな老ギャング、事件そっちのけで目に入った女性に片っ端から欲情する刑事などなど、イカレた奴らが次々と登場し、ロンドンを走り回りぶつかり合う。果たして生き残るのは誰か?そしてボスTonyが求めるスーツケースの中身は?

ガイ・リッチー初期の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』あたりに近い感じと言えば分りやすいかと。ガイ・リッチーの映像的遊びなどの部分を除いても、タランティーノ『レザボア・ドッグス』とかとどこか違うテイストがブリティッシュ・ノワール。あの感じが好きな人にはおススメ。嫌いな人については果てしなくどーでもいいです。
長さとしては134ページで中編というよりは短めの長編という感じでした。当地の流行や風俗に言及されるところも結構あったのですが、ちょっとその辺はあまりわからなかったり。地方出身者についてそれぞれの地方で違う呼称があったりするのは面白かった。あまり言ってはいけないよび方なのだろうけど。
最後の落ちについては、サッカーはおろかスポーツ全般に疎い私は少し調べてやっとわかったのだけど、一般常識なのかな?

版元は現在英国犯罪小説方面で注目のCaffeine Nights Publishingなのですが、こちらも元は『True Brit Grit』で再三登場のByker BooksのBest of British Crimeの一冊でした。無くなってしまったのは本当に残念なのですが、大体の作品はこのCaffeine Nights PublishingやNear To The Knuckleで新たに出版されているようです。

作者Paul D. Brazillについては、とりあえずあんだけ頑張ったので、『True Brit Grit』のときかいたのをコピー。

いくつかのアンソロジーの編者である他、作家としても活躍中で、代表作は『Guns Of Brixton』。また近年は自らパブリッシャーBlackwitch Pressを立ち上げ、第1回で紹介したチャリティー・アンソロジー『Exiles』もそちらから出版されています。他にも彼の企画で同キャラクターを複数の作家が書いている狼男探偵Roman Daltonシリーズも注目。現在はイギリスを出てポーランド在住で、ホームページではポーランドのノワールPolski Noirの企画も準備中です。現在のイギリスのこのシーンの中心人物の一人でしょう。

ということなのですが、時間がかかり過ぎてその後変化もあったので補足訂正を。まず、自らのパブリッシャーであるBlackwitch Pressについては、現在閉鎖中のようでホームページからは消えています。Amazonでは販売は続いているので完全にやめてしまったようではないのですが。どうも、その後も活動が拡がり、多忙というのが原因と思われます。
そして、最後に書いたPolski Noirについては本格的に始動を開始したようで、ホームページ内のリンクから進めるようになっています。ただし、ポーランド語のようで読むことはできないのですが…。また、スロベニアで翻訳された作品も出され、そちらの作家の作品も紹介されていたりと、かなりグローバルに活動を広げているようなので、Poliski NoirについてもいずれはPaul氏の編集による英訳されたアンソロジーなどが出されるのではないかと期待しています。
イギリス方面については、昨年秋から、米Out of the Gutter内にBrit Grit Alleyを設け、イギリス作家のインタビューやニュースなどを発信しています。
自作の方では、現在2冊が準備中。まず、おなじみAll Due Respect Booksから短篇集『The Last Laugh』。そしてCaffeine Nights Publishingから『Cold London Blues』。こちらはどうも今回の『Guns Of Brixton』のキャラクター達が再登場する模様で楽しみな作品です。
ということで、作家としても各方面のオーガナイザーとしても、今後ますますの活躍が期待されるPaul D. Brazill。イギリス、そしてポーランドなどの現在のノワール状況を知りたければPaul D. Brazillから目を離すな!


Paul D. Brazillホームページ

Caffeine Nights Publishing

Out of the Gutter


●関連記事

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第3回

●狼男探偵Roman Daltonシリーズ


●Paul D. Brazill


●Paul D. Brazill編集のアンソロジー


'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。

0 件のコメント:

コメントを投稿