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2015年1月18日日曜日

The Long Midnight Of Barney Thomson -抱腹絶倒!連続殺人鬼コメディ!-

Barney Thomsonはスコットランド、グラスゴーに住む中年の理容師である。いつものように雨降りの陰鬱なグラスゴーの朝、Barneyは長年勤めている床屋に出勤する。

彼の勤める床屋には他に2人の若い理容師がいる。Wullie Hendersonはこの店の現在のオーナーの息子。妻帯者だが、女性にもてて話も上手くこの店の一番の人気の理容師である。Chris Porterは独身者で少しだらしなく遅刻も多いが、調子が良く人と話を合わせるのがうまい男。そして、Barneyは話下手で、しかもこの国の床屋では定番の話となるサッカーの話題にもあまり関心が無い。おまけに年長者ということもあり、店の客は若い二人に集中し、Barneyは店奥の一番悪い椅子を担当させられている。

今日も話のかみ合わないまま一人の客の散髪を終え、送り出したBarneyは順番待ちの客に声をかける。だが、席で待っている大勢の客はいずれも気まずそうにBarneyを拒否する。遂にBarneyの怒りは頂点に達する。

”俺はあの二人のために床屋としての技術まで不当に貶められている!こうなったら奴らを亡き者にするしかない!”

時を同じくし、グラスゴーには謎の連続殺人鬼が跋扈していた。被害者の身体の一部を切り取り家族に送り届けるという残忍な犯人の手掛かりはおろか、殺害された被害者の遺体すら見つかっていない。またしても何の成果もないまま記者会見に臨まなければならなくなったHoldall刑事部長は、つい”犯人についての重要な手がかりが見つかり逮捕は間近だ”と口から出まかせを並べてしまう…。

一方、Barneyは同僚二人の殺害を決意したものの、いざとなるとどうすればいいのか悩むばかり。気弱なBarneyには実際にはそんな度胸も行動力もないのだ。TVドラマ中毒の彼の妻はそんな彼の悩みには全く気付かずTV画面から目を離さず生返事をするばかり。長年のドミノ仲間の親友に思い切って打ち明けると、異常者を見る目で見返され、冗談だとごまかす。だが彼の過激な母親に職場での悩みをもらすと”そんな奴らは頭をぶち割ってやれ!”などとけしかけられる。

そしてまた床屋の一日が終わる。Chrisを先に帰し、Barneyと二人で店の片付けをするWullieは、気まずそうに父親からの申し出としてBarneyにクビを言い渡す。動揺しながらも平静を装い片付けを続けるBarneyだったが、手が震え床に水をこぼしてしまう。罪悪感から手助けに動いたWullieは、その水に足を滑らせ、Barney手に持った鋏の上に倒れ込む…。

自分の意思とは全く無関係に殺害計画が達成されてしまった…。だがこの死体をどうすればいいのだ!?


スコットランドのミステリ作家Douglas Lindsayの連続殺人鬼コメディBarney Thomsonシリーズ第1作、『The Long Midnight of Barney Thomson』です。いやはや本当に笑わせてくれた作品なのですが、いざとなるとなかなかその面白さを伝えるのは難しかったり。そこで今回はその一部を少し紹介してみることにしました。Barneyの過激な母親が登場するかなり笑えるシーンです。


 バーニーがフラットに足を踏み入れると、即座に腸をよじる悪臭が襲い掛かった。彼の頭にまず浮かんだグロテスクな想像 - 彼の母親は数日前に突然死し、その身体が腐り始めている!母親の腐った遺体に躓く予感に彼の身体は硬直した、がそんなはずはない。母親とは前夜話したばかりだ。いずれにしてもこのスコットランドの凍てついた3月の気候で、母親の攻殻化した身体がそんなに早く腐るはずがない。 
 キッチンに近付くにつれ悪臭は強まり、彼はここが臭いの元だと確信する。ペースを速めキッチンのドアへ突き進む!
 母親は大きな鍋の前に立ち、沸き立つ赤い液体をかき混ぜていた。エプロンを着け、頭にはヘア・カーラー。彼は臭いの元を探る。あの鍋か?それとも女性がホームパーマの際頭に突き立てる恐ろしげな代物か?いや、間違いない、あの鍋だ!
「母さん…な、なにをやってるんだい?」
 母親は玉の汗の浮かんだ上気した顔を上げ、振り向く。
「見りゃあわかるだろっ!ワインを作ってるんだよ!」
 彼はまだ僅かな理解ながら、新たな認識に目をみはる。たぶんそれですべて説明が付くのかもしれないが、彼には醸造の知識は全く無い。
「こ、これがワインの作り方なのかい…?」
 彼女はかき混ぜる手を止め、腰に手を当て、唇を引き結びバーニーに厳しい視線を向ける。彼女の小鼻が拡がる。彼にはお馴染みの40年間怖れ続けてきた姿に撤退の準備にかかる。
「ああ、よそ様がどうやって作ってるかは知らないが、これがあたしのワインの作り方なんだよっ!とっとと向こうに行ってすわってな!あたしもすぐに行くから!」
 居間でバーニーが脱力して座っていると、すぐに母親も現れソファに腰を下ろし煙草に火をつける。
「な、なんでワインなんて作ってるんだい?母さん…?」
 すべての疑問に答えがあるわけじゃないだろうと肩をすくめ、彼女は言った。
マーマレードを作るのに十分な砂糖が無かったんだよ!」 


と、まあこんな感じです。力不足で面白さが伝わらなかったら申し訳ない。ちなみに間もずいぶん飛ばしてるし「翻訳」などという御大層なものではありませんが…。
ストーリーの方は序盤はややスローテンポだったりもしますが、その後は次々と巻き起こる予想外の展開に”連続殺人鬼”Barney Thomsonが翻弄されて行く様子は、本当に笑えて楽しませてくれました。果たしてグラスゴーに潜む真の連続殺人鬼とBarneyとにどんな接点がもたらされるかも見どころです。
この作品は以前一時期米Amazon.comのノワール部門にカテゴライズされていたことがあり、私はその時にこの本を知りました。当時は他にシリアルキラーとコメディにもカテゴライズされていて、どんな本だろうかと思っていてやっと読むことができたのですが、期待を裏切らない本当に面白い作品でした。私もこのブログ内ではノワールのラベルを付けていますが、実際にはノワールというよりも、かなりブラックですがイギリスのユーモア・ミステリとかに属する作品ではないかなと思っています。ノワールというと敬遠する人も楽しめる作品なのではないかな、と思います。

このBarney Thomsonシリーズは長編7冊と中編数冊、短編集1冊が出ており、その長編7冊をまとめたボックスセットも販売されています。このクオリティで7冊で(本日2015年1月18日時点で)1200円ちょっとというのはかなりお買い得ではないでしょうか?しかし!、なんとこの『The Long Midnight of Barney Thomson』1冊に関しては現在無料本となっています。ずいぶん長い間無料になっているので当分は無料だと思います。ちなみに、米Amazon.comでKindle本を見ているとアメリカ国内のみで無料というのが多くて悔しい思いをしていたのですが、イギリス発のこの本に関してはアメリカ以外の地域で無料というオプションになっているようです。

作者Douglas Lindsayは1964年スコットランドに産まれ、その後はベルギーなどにも住んだ後、現在はイギリスで奥さんと二人の子供とともに暮らしているそうです。1990年代からこのBarney Thomsonシリーズを執筆しているそうですが、最初の本がいつ出たのかはわかりませんでした。Barney Thomsonの他にはThomas Huttonというキャラクターのシリーズがあり、こちらは同じくグラスゴーを舞台としたダーティーな刑事もののようです。

版元はこのブログでは度々名前の挙がっているBlasted Hath。Anthoney Neil Smith、Annoymous 9といった注目のアメリカの作家の作品も出版されていますが、本国出身のこのDouglas LindsayやRay Banksこそが本命となります。私的にはとにかく出ている本は片っ端から全部読みたい注目のパブリッシャーの一つです。

そして、最後になりますがこの作品実は映画化が進行中です!舞台となるグラスゴー出身の俳優ロバート・カーライルの監督・主演で今年2015年公開となるそうです。やっぱり日本には映画ファンが多いのかこの映画に関する情報は日本語のページも見つかったりしました。スチール写真も出ていて、それを見るとロバート・カーライルという人はうっかり人を殺しかねない感じにも思えますが、それなりにしょぼくれた中年Barney Thomsonをうまく表現しているようです。私は読みながらずっと連続殺人鬼水洋一ぐらいのをイメージしていたのですが。母親役のエマ・トンプソンについてはかなり期待できそうな感じです。この映画が日本でも公開になるのかはわからないのですが、もしそうなったらこの小説も翻訳という可能性もあるかもしれませんね。映画の方も観る機会があったらこちらでとりあげてみたいと思います。


Douglas Lindsay ホームページ

Blasted Heath       

■Douglas Lindsay : Barney Thomsonシリーズ
●長編

●DCI Jerichoシリーズ

●Pereira & Bainシリーズ

●DI Westphallシリーズ


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