Translate

2014年2月21日金曜日

Tomes of the Dead: I, Zombie -Al EwingのSFホラー小説-

『Tomes of the Dead: I, Zombie』は、前回とり上げた2000ADのSFホラーコメディコミック『ZOMBO』のScript担当のAl EwingnによるSFホラー小説です。2000ADと同系列のAbaddon Booksから2009年に発売されました。タイトルやカバー絵から見て、ゾンビが主人公のハードボイルドに見えますが、実はそうではありません。いや、マニアがよくやる「これはハードボイルドに非ず!フンっ!」というやつではなく、この進むにつれて思いがけない展開をして行く小説の導入部の見せかけだったりするからです。

*****************************************************************

どうしようかと思ったのですが、やはり内容が伝わりにくいかと考え、かなりネタバレになってしまうのですが、半分ぐらいまであらすじを書くことにしました。まあ、なかなか翻訳が出る機会はないと思うのですが、もし読んでみようと思う人がいたなら、途中で上のと同じ*******のラインのところまで飛ばしてください。

-プロローグ-
語り手は群れからはみ出して独りで森の中で狩りをする原始時代の男。凶暴な獣と戦いながら、男は”ゴースト”の視線を感じている。

少し状況のわからないプロローグに続く第1章のタイトルは「My Gun Is Quick」。マイク・ハマーシリーズ第2作のタイトルです。ここで、まだハードボイルドを期待している私は、この小説のタイトル『I,Zombie』は、『I,The Jury』からきているのだなと気付きました。このあとも各章のタイトルは、いくつか違うものもありますが基本マイク・ハマーシリーズのタイトルで続いていきます。
そして、話は主人公の私立探偵John Doeの一人称で始まります。

彼は10年前ロンドンのホテルの一室で死体として目覚める。それ以前の記憶は全くない。だが、自分にはどうやら前からの仕事があり、その能力もある。そして、現在までその仕事を続けている。そして今、彼はイカサマ企業の社長の依頼で令嬢の誘拐事件を捜査し、犯人のアジトをつきとめ、その倉庫内で銃撃戦が始まったところ。普通の人間ではない彼には2つの特殊能力がある。ひとつは、身体の一部分を切り離し、それを別に操作できること。そしてもうひとつは、サイボーグ009の加速装置のような、異なった時間の流れの中を移動できる能力。この2つの能力を駆使して犯人グループをたちまち制圧するJohn Doe。だが、彼にはもうひとつ、ゾンビとして目覚めて以来どうしても制御でない衝動があった。最後の一人に向かうJohn Doeの意識が急に途絶え、そして、気が付くと彼は男の脳を貪り喰っていた。そして、閉じ込められた箱の中から恐怖に慄いて見つめる少女の目…。

救出には成功したものの、虚脱した少女の様子から報酬は見込めないな、とうなだれて事務所に帰ったJohn Doeを迎えたのは、腐れ縁の悪徳刑事からの電話だった。「助けてくれ!なんでもくれてやるから…。すぐに来てくれ!」気は進まないが、金にはなると踏んで出かけるJohn Doe。だが、着いてみると既に悪徳刑事は殺されていた。そして、彼は気付く。”これは狼男の仕業だ!”屍肉を喰う狼男はゾンビにとって最大の大敵!一目散に逃げ出すJohn Doeへ、狼男の執拗な追撃が始まる!

この辺りまで読んできて、なるほどこういうモンスター的な物の出てくるダークファンタジー系のハードボイルドになるのだな、と思ったわけですが、まあ、話は思いがけない方向に展開して行きます。

遂に狼男を返り討ちにしたJohn Doe。だが、その時背後から謎の銃弾が彼を襲う!
…意識を取り戻すとJohn Doeは拘束されていて、目の前にはボクサー崩れ風の男が立っている。「俺はお前らのようなゾンビを狩るエキスパートだ。」男はここがロンドン塔の地下深くの迷宮であることを告げる。「お前は友人だったEmmett Roscoeを何故殺したんだ?」だが男の訊問に10年以上前の記憶のないJohn Doeには答えようがない。ゾンビである彼を意識不明にした銃弾と同じ効果の電磁ロッドによる拷問で、彼の身体は激痛とともに崩れ始める。そしてJohn Doeの意識は再び暗黒へ…。

-インタールード 1-
1578年 日本。
織田信長は伝説の死人のような男”Cold Ronin”の許を訪れ、宿敵上杉謙信の暗殺を依頼する。首尾よく隠密裏に依頼を果たした”Cold Ronin”。だが、織田信長の台頭によりこの国は住みにくくなると予見した彼は、小舟に乗り独り新たな地へ旅立つ。

ここで記述は一旦3人称へ。ボクサー崩れの男の名はAlbert Morse。イギリスに昔から存在していた対ゾンビ機関、現在はMI-23に属する。John Doeへの訊問を中断したMorseは、上司のMister Smithに呼ばれる。組織のトップであるMister Smithは、巨大な頭部に役立たずの胴体がぶらさがり、念力で浮遊しテレパシーで語るフリークスである。そしてSmithの口から、ゾンビに関する恐るべき事実が語られる。

「あれはいわゆる歩く死人などというものではない。いや、そもそも奴らは生きた人間だったことすらないのだ! あれは、小さな細胞が寄り集まって人間を装っているだけの物なのだ!」

「だが、あれは放置しておけばいずれ世界を終わらせる物だ。Roscoe教授は、おそらくそれを知ったためにあれに殺された。だからなんとしても奴が何故Roscoe教授を殺したのかを訊き出さなければならない。」そしてSmithはMorseに提案する。顔に水を一滴ずつ垂らす拷問。John Doeの現在の精神を崩壊させれば、10年以上前の記憶を引き出せるかもしれない。

再びJohn Doeの一人称へ。意識を取り戻したJohn Doe。やがて拷問が始まり、彼はすぐにその意味を悟ります。訊問に答える記憶もないのにこれを続けられれば発狂するだけ。どうするか?”時間の中を早く動けるなら、逆も可能なのではないか?”そして、落ちる水のスピードが支障ないくらい周囲の時間をスピードアップさせるJohn Doe。周りではぼやけた影のようなものが動くだけ。どうやらどこかに移動させられたようだ。水も止まっている。時間の流れを戻すJohn Doe。だが、彼が見たのは、解剖され内臓をすべて取り除かれた自分の姿だった!

組織は無反応になってしまったJohn Doeのことを遂にあきらめ、研究用の素材として扱っていたのだ。驚愕する研究員を即座に殺すJohn Doe。壁のカレンダーを見ると、監禁されてからすでに3年経っていた。棚にはJohn Doeの臓器が瓶に詰め並べて保管されている。だが、それらは小さな手足が生えてきたりと異様に変形している。john Doeがそれらを飲み込むと、元の場所に収まっていくのが感じられる。”俺は一体何者なのだ?”

一方Mister Smithは、即座にJohn Doeの覚醒を察知する。しかし、放たれた狼男は、身体を再構成したことによりパワーアップしたJohn Doeに圧倒される。巨大な脳に引き寄せられるようにJohn DoeはMister Smithの許にたどり着く。超能力で阻止しようとするMister Smith。そして、死闘の末、遂にJohn DoeはSmithの巨大な頭部にかぶりつく!

そのとき、John DoeがSmithの脳から感じとったのは、自らの死への恐怖ではなく、人類の行く末への不安ばかりだった。困惑するJohn Doe。そのとき、衝撃とともに彼は自分の正体を思い出す!

そして、世界が終わる…。

-インタールード 2-
1976年 ニューヨーク。
ニューヨークのアンダーグラウンド・カルチャーシーンに突如現れた死体のようなボヘミアン、Johnny Doe。彼はシーンの中でたちまちカリスマ的存在となって行く。彼の取り巻きの友人の一人、Emmett Roscoeは、その奇妙な容貌の秘密を研究してみようと思い付く。シャーレの中で変形し成長する組織サンプル。そしてやむにやまれぬ衝動に突き動かされモルグに押し入って人間の脳を食べたという告白。眠れぬ夜、Roscoeが観た2本立ての映画が彼にひらめきをあたえる。E・グールド/R・アルトマンのロング・グッドバイと2001年宇宙の旅。

「あんたはモノリスと探偵を合わせたようなものなんだ!どこか別の世界のものがあんたからの信号が届くのを待っている。あんたは脳のサンプルを集め、いつか人類がそいつらの役に立つ餌か奴隷にまで進化したとき奴らを呼び寄せる番人なんだ!」

そして、33年後の現在。役目を果たしたJohn Doeは、異様な姿のクリーチャーヘと変身し、別次元の主人を呼び寄せる雄たけびを上げる。

****************************************************************

…長過ぎ。えーというわけで、これが半分くらいまでのあらすじです。後半も怒涛の展開となります。全体で300ページ程の小説ですが、それを6つに分け、50ページ毎に意外な展開をしていくような印象を受けました。一つのストーリーを決まった回数に分けていく、コミックのライターらしい構成だな、と思ったのは深読みのしすぎでしょうか。『ZOMBO』のようなギャグはありませんが、突飛なキャラクターや、妙な能力などでストーリーを振り回しているように見えて、実はそれが伏線で、後で意味が分かったり、案外明確なストリーラインになっていたり、という上手さはそれと共通するように思いました。コミックが面白かったので、どんな小説を書くのか興味があったのと、Kindleでは500円以下で安目の文庫本ぐらいの価格だったので読んでみたのですが、自分としては期待以上に楽しめた作品でした。

版元のAbaddon Booksは、2000ADと同系列のパブリッシャーで、他にはJudge DreddのノベライズやSFアクションアドベンチャー物などのシリーズを多数出版しており、Al Ewingもその中のいくつかを手掛けています。Tomb of the Deadというのも、そのシリーズのひとつですが、こちらはゾンビ物ぐらいのくくりのもののようです。同系列には他に、Solaris BooksというSF専門のレーベルがあり、それに対してこちらのAbaddon Booksは、ペーパーバック専門レーベルという位置づけになっているようです。Solaris Booksについてはまだあまりよく調べていないのですが、アレステア・レナルズや、チャールズ・ストロスも参加しているアンソロジーもあるので、いずれその辺から読んでみたいなと思っています。

Al Ewingの最新小説はそちらのSolarisから昨年出版された『The Fictional Man』で、シリーズ物などに属さないオリジナルで、本格的小説デビュー作ということになるのかな、と思います。内容については、いずれ読むのを楽しみにしているので、あまり調べていません。どっかのおっちょこちょいが調子に乗ってあらすじを半分も紹介していたりしたら台無しですからね!


Abaddon Books 
Solaris Books

●関連記事 

ZOMBO -2000ADのSFホラーコメディコミック- 

'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。

0 件のコメント:

コメントを投稿