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2016年5月21日土曜日

Joe Clifford / Wake the Undertaker -現代ノワールと古典の融合-

ずいぶん久しぶりになってしまったのだけど、注目のインディー・パブリッシャーSnubnoseからの作品。Joe Cliffordの『Wake the Undertaker』です。
あの必読アンソロジー『All Due Respect』で一番手として登場し、生ゴミでいっぱいのバケツをぶちまけたようなダークで狂気に満ち溢れた作品を見せてくれたJoe Cliffordが、果たして長編ではどんな作品を書くのか、かなりの期待を持って臨んだのでした。


【あらすじ】

19歳の天才シンガーColin Specterは、大手レコード会社との契約を手にし、今夜のライブを最後に街を出るつもりだった。彼を見出し、サンフランシスコ、ベイエリアのナイトクラブでスターにしたオーナーのGabrielにはまだそのことは告げていない。Gabrielは街のアンダーグラウンドを取り仕切る犯罪組織のボスCephalus “the Old Man” Christosの息子だった。恋人で、共に街を出るストリッパーのZoeyは心配するが、ColinはGabrielを友人として信用していた。だが、Colinは裏切られる。波止場に連れ出された彼は、足を折られ、顔に大きな傷を負い、そして声帯を潰され、息のかかった警察に失敗した麻薬密輸の犯人として引き渡され、刑務所に入れられる…。

そして7年…。
物語はここから始まる…。

Colin Specterにかつての面影はない。刑務所で生き延びるため身体を鍛え上げた彼は、周囲からも一目置かれる存在となっていた。
そして、出所を間近に控えた日、Colinに面会者が訪れる。それは無実のColinを刑務所に放り込んだ張本人のGabrielだった。

Colinが刑務所に入っている間に外の世界は大きく変化していた。Gabrielの父である”the Old Man”は慈善事業に手を広げ、街の表社会の実力者となっていた。そして、市長選への出馬も控え、裏社会とのつながりを消すため、実の息子であるGabrielをも潰しにかかっていたのだった。

お前のような奴が必要なんだ。俺に手を貸してくれ。Gabrielは言う。
だが、当然のようにColinはその頼みをはねつける。

しかし、外の世界はColinに優しくはなかった。
保護観察官に紹介された倉庫での荷揚げの仕事で、あまりの横暴な振る舞いにColinは雇い主親子を叩きのめす。
そして、彼には刑務所に戻る以外には、Gabrielに頼るしか道はなかった…。

そして、ColinはGabrielの下で”the Old Man”の調査尾行を始める。
そしてその一方で、ずっと心にかかっていたことも個人的に調べ始める。
あの日以来二度と会うことの無かった、恋人Zoeyの行方…。


主人公がすべてを失うプロローグから、血みどろの復讐劇になるのかと思っていたら、意外な展開。父親に追いつめられ、ジリ貧のボスGabrielと、過去の経緯ゆえに微妙な立場にある主人公Colinが素人探偵として行動して行くストーリーは、あのハメットの『ガラスの鍵』を思わせる展開なのです。こういうのを現代の設定でできるとは思わなかった。メインのストーリーからは主人公Colin Specterの一人称で語られるのですが、言葉遣いは現代のノワール風なのだけど、全体のリズムのようなものは何となくクラシックな雰囲気もある。まさに現代ノワールと古典の融合というべき作品です。『All Due Respect』掲載の作品からの印象では、どちらかというとエンタテインメントより文学指向の作家かと思っていたのだけど、テクニカルな作品作りもできるところを見せてくれた感じ。昨年はアンソニー賞のベストミステリー部門にもノミネートがあり、ミステリーというジャンルでもメインストリームの方向に乗って行っているところです。個人的な感想では終盤もう少し派手な立ち回りがあった方が良かったかと思うけど、一方ではそれをやったらクラシカルな雰囲気が壊れるかも、とも思ったり。今後更なる伸びが期待される作家の初期の代表作として読む価値ありの作品です。

作者Joe Cliffordは、一時期はホームレスのジャンキーでかなりやばいところにもいた人だそうです。見た目も御覧の通り。Out of the Gutterのプロフィールでは刑務所までは入ってないそうですが、プロフィールにそんな説明が入る作家って…。以前Snubnose作品として取り上げた『Piggyback』の作者Tom PittsとともにOut of the GutterのFlash Fiction Offensiveのエディターを務めています。長編小説としてはこの作品がデビュー作で、第3作のJay Porterシリーズ第1作『Lamentation』が、前述の通りアンソニー賞のベストミステリー部門にノミネートされています。Jay Porterシリーズは第2作『December Boys 』が間もなく、2016年6月7日発売予定となっています。その他には、あちこちのアンソロジー、ウェブジンにも多くの作品を発表し、Snubnoseからも作品集『Choice Cuts』が出ています。今後の活躍が期待される実力派の作家、と言っていいのではないでしょうか。

というところで、やっとのSnubnose2冊目なのですが、当のSnubnoseの方はどうも新作の発行が止まっている様子。割と古いのは残っているのだけど、近作には消えているものもあり、他のパブリッシャーに移っているのではとも思われます。一時期はこのシーンの中心だったSpinetingler Magazineの出版部門なのですが、やはりその位置も色々と移り変わっているところなのでしょう。まあ、勢力が変わるというよりはSpinetinglerの方が運営が苦しくなって、という状況なのだろうけど。現在勢いのあるAll Due Respectを始めとし、色々と新しいところにも広げていかなければと思いつつ、まだいい作品も残っているSnubnoseについても早く読んでいこうと思っています。

ここで緊急のお知らせ。急げっ!アンソニー賞ノミネートのJay Porter第1作『Lamentation』Kindle版が現在0.99ドルで販売中です!2作目発売前の期間限定と思われますのでここはぜひお早めに!あともう一つおまけで、たぶんアマゾンでそのページに行くと下に出る「この商品を買った人は…」っていうおススメにあるはずの、今年度エドガー賞オリジナルペーパーバック部門受賞のLou Berneyの『The Long and Faraway Gone』が200円台の特別価格で販売中!どちらもこの機会に絶対手に入れておくべき作品ですが、期間限定と思われるので終わってしまってたらごめん。Kindleならではのこういうセールってなるべく伝えたいと思うのだけど、期間限定でいつまでとかわからないのも多いし難しいところです。そういえば『スーツケースの中の少年』のニーナ・ボーウシリーズ第3作英訳版がこの前まで1.99ドルだったのだけど誰か買った?そういうのも見つけたらダメ元ぐらいでなるべく伝えて行くように努力いたしますです。あと、今回の2作などせっかく手に入れた本についてはいつか必ず書くつもりですので。ではまた。


Joe Cliffordホームページ

Snubnose

Out of the Gutter


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