Translate

2021年7月19日月曜日

Wile E. Young / The Magpie Coffin -スプラッタウェスタン!ここに開幕!!-

今回はまたアメリカのコミックの重要作について書く予定だったのだが、予定変更、順番を繰り上げてこれについて書くことにした。いや、今語らねばならんだろう、スプラッタウェスタン!Wile E. Young作『The Magpie Coffin』である!
と言ってみても、多分日本でこれについて騒いで熱くなってるのもワシ一人ではないかと思われるので、責任問題としてまず簡単に概略を説明しておこう。

スプラッタウェスタンというのはつい昨年2020年に始まったごく最新のジャンルである。こいつをぶち上げたのは2019年発足のこのジャンルの新興パブリッシャーDeath's Head Press! 2020年3月に出版された今回の『The Magpie Coffin』を皮切りにスプラッタウェスタンなるシリーズを開始し、現在(2021年7月)までに11作を刊行し、更なる新作も続々と準備されている。 本年のスプラッタパンクアワードに多数の作品がノミネートされ、その存在を広く認められるところとなっている。のかどうかはよくわからんが、ちょっとこのジャンルの動向にそれほど 明るくもないこのボンクラの注目も鷲掴みにしたというところだ。はあ?ジャンルなんていうのはどっかのクソ評論家共が認定するもんじゃねえ。販売目的だろうがなんだろうが、 俺たちゃこれをやるぜ!と強い意志で立ち上げ、そこに優れた作品が集まれば成立だ!そしてこのジャンルでは、現在このスプラッタパンク、エクストリームホラージャンルの次代を担う、 最前線の若手勢力が次々と参戦し、ジャンルの柱となるべき作品を打ち立て続けているのだ!そして現在最も注目されるこのジャンルに、最初の地平を切り拓いたのが今回の作品、 Wile E. Young『The Magpie Coffin』なのである!

【The Magpie Coffin】

彼は深夜、雷の音に目覚める。この時期のテキサスに雷など落ちないものだ。これは予兆か。
予兆を見逃せば、それは死へとつながる。師は彼にそう教えた。
ベッドを抜け出し、常のように死を求めてささやきかける銃を収め、彼は眠り続ける娼婦を残し、ホテルの部屋から出立する。

ホテルの前には酒場。何かを祝う人々で賑わっている。男はバーに向かい、まず一杯。そして2杯目を注ぐバーテンダーに尋ねる。
「何の祝い事だ?」
彼の方を向いたバーテンダーは、その時、男の目の下に刻まれた印に気付き、蒼白となり言葉を失う。
「こちらが尋ねているのに答えないのは不作法じゃないかね。」
「…厄介事は勘弁してくれ…。連中はインディアンとの戦が終わったのを祝ってるだけなんだ…。」
その時、祝杯を挙げる酔漢のひとりがバーカウンターへやってきて、男の隣に座って自分たちがいかにしてインディアンを退けたかを、自慢げに得々と語り始める。 そして、話が白いバッファローを護っていたインディアンの呪術師の老人の殺害へと至った時、男の表情が強張る。だが、それには気付かず、酔漢は話を続ける。
「その呪術師が最期にそれだけ、奴らの言葉じゃなく英語で言ったそうだ。Black Magpieが来る、とな。」
その時、酔漢は男の目の下に刻まれた印に気付き、息をのむ。しかし、男の銃はすでに抜かれており、その銃弾は彼の前で話し続けていた酔漢の目に向かって行った。
そして酒場はただちに流血の屠殺場と化す!

男の名はSalem Covington。またの名をThe Black Magpie。
コマンチ族のシャーマンから教えを受けた呪術の使い手である。手にした銃の呪いにより、銃弾により殺すことはできず、その銃が囁く殺すべき男を次々と殺し、南北戦争より名を馳せ、現在は お尋ね者として首に賞金が掛けられている。その目の下に刻まれた呪術の印により誰からも知られるが、彼の首を取れる者はいない。The Black Magpieは銃では殺せない。
予兆によりこの酒場に引き寄せられた彼は、ここで彼の師であるシャーマンDead Bearが殺されたことを知る。
師が最期にその殺害者たちに告げたように、Black Magpieが現れたのだ。

殺戮の場と化した酒場で、最後にまだ息のある男にCovingtonは告げる。
「白いバッファローと共に殺されたのは俺の師だ。殺したやつの名を教えろ。少しでも楽に死にたかったらな。」
恐るべき苦痛で息を引き取る間際、男は5人の男の名を白状する。
標的は5人の男。そして、The Black Magpieの復讐の旅が始まる!

冒頭の部分、ちょっとわかりやすいように三人称視点で書いたけど、この物語実は主人公Salem Covington=The Black Magpieの一人称によって語られている。Magpieとはカササギ。巣に色々なものを集める 習性で知られる鳥だが、その名の通り、彼は自分が殺す相手の人生を物語として蒐集する。その他にも呪術に使用するため、死体の頭皮や目玉なども集め、彼が旅に使う荷馬車の奥に収納している。 敵、特に復讐する相手にはとことん容赦なく、残虐に痛めつけて殺すというようなかなりダークな主人公である。

その後、CovingtonはDead Bearが属していたコマンチ族の住処へと向かい、情報を集めた後、彼らと闘っていた軍隊の砦へと向かう。見張りに立っていた2人の男のうち、一人を殺し、 もう一人を師の仇である5人の男の顔の確認のために連れ去る。その若者Jake Howeは、その後この復讐物語の結末までCovingtonに同行することになる。 誘拐され、強制的に引き回されて行くわけだが、旅が進むにつれ二人の間には微かな友情も芽生えてくる。しかし…。

師Dead Bearの死地へと赴いたCovingtonは呪術を用いて死せる師の魂を呼び出し、彼の遺体を見つけ出す。その遺体を収めた棺を鎖で括りつけた馬車を駆り、師の仇である5人の男を求めて荒野を進んで行く。 この棺こそがタイトルにあるThe Magpie Coffinである。その棺は、復讐の場にはCovingtonの手により引かれて行き、またある時は危地に陥ったCovingtonを呪術の力で救う。

Covingtonにはかつて同じくDead Bearに教えを受けた兄弟がいた。今は世を去っているこの兄弟については、Covingtonの一人称の語りの中で断片的に語られるのみなので、それほどはっきりとはわからないのだが、物語終盤である形で主人公Covingtonの前に立ちふさがってくる。そうか、そういうことだったのか!という感じですんげー話したいんだけど、ネタバレはいかん。それがあーなってあの結末へと至り、うむむそういうことだったのかとなるのだが、言わん。いやホントにここは読んでくれよう。

この作品の最初のページには、「親父とオリジナルのGood, Bad, and Uglyへ」という献辞が記されている。言及されているのが日本では『続・夕陽のガンマン』という出鱈目極まりない タイトルで知られるマカロニウェスタンの名作であることは言うまでもないだろう。「バニー嫌いな人この世に存在しなくない?」(BY喜多川海夢)のと同様に、この世にマカロニウェスタンが 嫌いな人など存在しない!そのマカロニウェスタンにスプラッタパンク、エクストリームホラーを混入しドロドロに煮込んだのがこのスプラッタウェスタン『The Magpie Coffin』である! 後には謎の酒場のピアノ弾きや棺桶屋などのジャンルおなじみのキャラクターもいわくありげに登場。そして主役を張るのは棺桶を引きずって現れる放浪の呪術ガンマン!迎え撃つ5人の悪玉! これが面白くないわけないだろう!

そして、作品と共に強く称えたいのは、これを異色ホラーの単品作品ではなく、シリーズ化し、スプラッタウェスタンという新ジャンルをぶち上げたDeath's Head Pressである。このアイデアが この作品の作者Wile E. Young、または別の作家からもたらされたものなのか深い事情は不明だが、それを聞きこれはいける!このシーンの中の新たなジャンルとしてぶち上げる価値があるぞ! と見抜いた慧眼!
Death's Head Pressは2019年に立ち上げられたばかりの弱小インディーパブリッシャーである。なんか色々幸運が重なってニューヨークのメジャー出版社の傘下に入る みたいなことが無きゃ短命に終わり、ごく一部のマニアの記憶に残るだけの存在になるかもしれない。だが常に!こういう奴らの読者が目を瞠るような新たな作品を世に出したいという強い意志こそがジャンルを、シーンを、次のステージへ向かわせるのだ!
ただな、いや、ただとかいうほどのことじゃないんだけど、Death's Head Pressってホームページに行ってみたりとか、本のカバーにも見られるんだけど「DHP」って略してあって、これ見ると実態のエグさに反し何かとても平和的で健康的な印象を受けてしまうのだが…。ほら、日本の有名な某社からの連想な。あ、これその会社へのなんかのバッシングとかになってないよね。そんな意図ないし。 まあ日本人限定ということなんだろうけど。ただもしかして日本のその会社の謎のアルファベットの同じ並びがDeath's Headの略だったら怖いよね。調べればわかるのかもしれんが、そっちの方が楽しいので敢えて調べない。

そして、いやバカ話思い付くと書かずにはいられんので話それちゃったけど、元に戻してそして!最初にも書いたがこの期待のジャンルにはスプラッタパンク/エクストリームホラーの現在、 そして次代を担う才能が続々と参戦してきている。スプラッタパンクアワード第2回長編賞受賞のKristopher Triana、第3回受賞のChristine Morganを始めとして、ノミネートで名前を見たことが あるようなこのジャンルを先導して行く才能の新作が次々とスプラッタウェスタンジャンルに登場しているのである。この作品についてはマカロニウェスタンベースだったわけだが、 何しろウェスタンと言えばアメリカでは伝統的な人気ジャンル。更に奥深い伝統ジャンルとホラーの組み合わせによるスプラッタウェスタンの世界も見られるのかもしれない。

例えば、よく言ってる話だけど、アメリカやら色んな国にはパルプという言葉に代表されるワクワクするような出版物が過去に数多く出されていて、そういうのに目がない私のような人間は、 あ~そういうのと同時代に生まれていて片っ端から読めるような環境にいたかったなあ、と常々思っているわけだ。そしてここに登場したこのスプラッタウェスタン。そりゃあかつての物とは 環境も条件も違うだろうが、これは現代の状況で限りなくそれに近付く勢いを持って軌道に乗りつつある、現代のパルプなのではないか!
パルプは、いやパルプに限らず全ての作品は、評価が定まった後にさも発掘面して重々しく語る一方で現代の作品にはほとんど目を向けないような評論家・研究者のために存在するわけではない。 それがたとえ目先の金のために書かれたものであっても常に、それらの作品は現在目の前に存在する読者に向かって書かれているのだ。今、同時代に存在する読者を全力で楽しませるために書かれているのだ! くだらない教訓要素やお勉強要素が無けりゃあ本も褒められないようなクズなんぞにゃ本読みの資格はねえ!問答無用で楽しませてくれる本を求めるものこそが真の本読みだ! 君が真の本読みなら、この現代のパルプを読むべし!これがスプラッタウェスタンだ!オレはこれを推すぞ!全力で読むぞ!願わくばDeath's Head Press、DHPがこの新ジャンルを100巻、200巻と出し続けてくれるように!これこそが現代のクソ空気読み社会のプレッシャー下で生きる我々のためのサプリメントだ!わーい、つなげたぞ!何と何を?

来月8月に発表となるスプラッタパンクアワードにも既に多くのスプラッタウェスタンシリーズがノミネートされている。この新ジャンルがどう暴れてくれるのか大変楽しみなところである。 うーん、もっと頑張ろうと思ってるけど次これになっちゃうかも。とにかく楽しみにしような。
まあこれが日本で出る可能性はほとんどないと思われるけど、なんかスプラッタウェスタンという名前の格好良さにひっかかったどこかの出版社がうっかり出した場合の最低のシナリオを想像してみると、 な~んか映画ライターみたいな輩を連れてきて、カビの生えたおちゃらけ半笑いサブカル口調でB級がどうのこうのとかワンパターンなことをぬかした挙句、スプラッタウェスタンについてはもらった資料でお座なりに 紹介したぐらいで大半はご自慢のマカロニウェスタン知識披露で終わるような「解説」付けられて、オトモダチのライターさんと楽しく出版しましたー、ネタにしてねー、みたいなもんが出ることかな。 そんなん果てしなくいらんわ!もしホントに日本で出ても、解説がタランティーノの話で始まってたらまず100パーセントクソだな。本気で面白い本を読みたいと思ってる人間向けではなく、 小手先のウケ狙いで売ろうとするような日本の出版業界にゃ、こんな素晴らしいジャンルを出版する資格なんて微塵もねーよ!どーせ出ねーし!いやーやっぱり最後はいつものやな感じで終わっちゃいましたー。 ごめんねー。

あ…、結構勢いで書いていて、うっかり作者Wile E. Youngについて書くのを忘れそうになってしまってた。Youngさん、本当にごめん。Wile E. Youngはテキサス出身で、アメリカ南部ゴシックホラーの ゴーストやモンスターの物語に囲まれて育ったとのこと。航空関連スペシャリスト、IT業界でのキャリアもあるそうです。南部の歴史に根差した傾向のホラー作品で多くのアンソロジーなどに作品を 発表しており、長編作品は他に、前年2019年に出版されたホラー作品『Catfish in the Cradle』があり、『The Magpie Coffin』はそれに続く2作目となるようです。ジャンルでのこれからの活躍が期待される作家であり、本作はまさにその手ごたえを感じさせる作品と言えるでしょう。なんか後から書いたから、前のところとテンションやら言葉遣いに大幅な違和感あるだろうが、私は常に作者については、 リスペクトを持って対応する信条やし、最低限のTPOぐらいはある大人やからね!
とにかく色々読まねばならんもんが山積みの中で、何とか読もうと思ってるスプラッタウェスタンなのだが、一方で我が国我らの戸梶圭太先生作品が、ここんとこせめてもの広告にでもなれば、と毎回 載せてはいるもののノーコメント状態が続いていて大変申し訳なく思っている。すんません。次は『5Gマンを殺せ』を読む予定で私のスマホKindle内で延々待機中の状態であるのだが…。何とか近日中に。 ああ、なんやかんや色々頑張らねば。へこんで終わり…。

Death's Head Pressホームページ

■Death's Head Press スプラッタウェスタン
  1. The Magpie Coffin / Wile E. Young (2020年3月)
  2. Hunger on the Chisholm Trail / M. Ennenbach (2020年5月)
  3. DUST / Chris Miller (2020年6月)
  4. The Night Silver River Run Red / Christine Morgan (2020年8月)
  5. Starving Zoe / C. Derick Miller (2020年9月)
  6. A Savage Breed / Patrick C. Harrison III (2020年10月)
  7. Red Station / Kenzie Jennings (2020年11月)
  8. The Thirteenth Koyote / Kristopher Triana (2021年1月)
  9. Shadow of the Vulture / Regina Garza Mitchell (2021年3月)
  10. They Built a Gallows for You and Me / Cody Higgins (2021年6月)
  11. Human-Shaped Fiends / Chandler Morrison (2021年7月)


【2024年1月追記】一旦は作品の販売が終了していたスプラッタウェスタンシリーズだったが、サイト修正の際調べてみたところ、全作が再版され、2023年春からは新作も出版されていることが分かった。急ぎの修正なので上のリストと下のアマゾンへのリンクが一致していなくて申し訳ない。
その下に追加したSplatter Western One-ShotはDead Sky Publishingから2023年秋より始まっているシリーズだが、調べてみたところDead Sky PublishingはDeath's Head Pressのインプリントとのこと。
また、Kristopher Trianaの『The Thirteenth Koyote』はスプラッタウェスタンシリーズ第8作として刊行された作品だったが、現在はBad Dream BooksよりThe Koyote Trilogyの第1作として販売されているので、別に並べた。


■ Kristopher Triana / The Koyote Trilogy

'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。

0 件のコメント:

コメントを投稿