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2025年5月10日土曜日

Craig Johnson / The Cold Dish -Walt Longmireシリーズ第1作!-

今回はCraig Johnsonの『The Cold Dish』。2004年から始まっている、ワイオミング州の架空の郡Absarokaの保安官Walt Longmireシリーズの第1作です。このシリーズはTVシリーズにもなり、 アメリカのケーブルテレビA&Eで3シーズンの後、Netflixに移り第6シーズンまで放送されたとのこと。日本じゃ観れないようだけど。

おっさんの皆さんに朗報です!令和の世、読書難民に成り果て、俺たちが心から楽しめるような本なんてもう地球上に存在しないんだろうと諦めていたおっさん諸君!ここにあったぞ! このWalt Longmireシリーズこそがそれだ。なんと現在までに長編20作が出版され、今年5月には21作が出版予定。その他中編や短篇集など。もう当分読むものには困らないねえ。やったぞ!
まあこのLongmireシリーズ、アマゾンで見るといくらか日本でも読まれている様子もあるんだが(日本在住の英語圏の人たちかもしれんけど)、ここでこちらの方でもプッシュしとくぞ。
それではWalt Longmireシリーズ第1作『The Cold Dish』です。

■The Cold Dish


Walt Longmireはワイオミング州Absarokaの保安官。年齢は50代。結婚はしていたが、近年奥さんには癌で先立たれ、現在は独り暮らし。この作品には登場しないが、娘がいて今は大都市で弁護士をしている。
この作品は全編、主人公Walt Longmireの一人称で語られる。

「Bob Barnesが国有地の近くで死体を見つけたって言ってるわよ。外線1番」
窓から山に囲まれた風景の中を飛ぶ鵞鳥を眺めていたLongmireは、彼女が入って来たのに気付かず、署の受付兼通信係のRubyを見返す。
「Bob Barnes、死体、外線1番」Rubyは繰り返す。
「あいつ酔ってるようだったか?」Longmireは電話の赤ランプを見ながら言う。これから逃げる方法がないかとぼんやり考えながら。
「彼が素面だったのを聞いたことが無いから、分からないわ」Rubyは言う。

Longmireは外線1番と、スピーカーフォンのボタンを押す。「おい、Bob、どうした?」
「やあ、Walt。あんた信じないだろうがな…」
Bobの声は特別酔っているようには聞こえない、だが彼はプロの酔っ払いだ、簡単には断定できない。
「なあ、冗談抜きで。俺達ここで冷たくなってるの一つ見つけたんだよ」
「一つだけかな、フフン?」
「なあ、ウソじゃねえって。BillyがTom Chathmanとこの羊を国有地から冬の牧草地に連れてこようとしたら、チビ助共がなんかの周りに集まってて…。冷たくなってんのを見つけたんだよ」
「お前見たんじゃないのか?」
「いや、Billyが見たんだ」
「Billyとかわれ」

「やあ、保安官」Bobのヤングバージョンが応える。
「Billy、お前死体を見たんだって?」
「ああ、俺見たよ」
「どんな風に見えた?」
少々の沈黙。「死体らしく見えたけど」
「知ってる誰かだったか?」
「そこまで近くで見てないんだけど」
「死んだ雌羊でも子羊でもないんだな?」Longmireは念を押し、場所を訊き、30分かそこらで誰かを行かせると話す。
「分かった…、あ、保安官?親父がビール持って来てくれって、もうなくなりそうなんだ」
「ああ、任せろ」Longmireは電話を切る。

まあこの辺までのやり取りで、既にこの作品が好きになって来るんだが。
Longmire保安官は、途中でちゃんとビールのシックスパックを買って向かうが、途中で保安官補のVic -Victoria Morettiのパトロール現場に寄る。うち1本のビールを開けて飲みながら。
Vicは、フィラデルフィアの警官一家の出身で、アカデミーを優秀な成績で卒業し、大都市の警察勤務もある女性。結婚した夫の転勤に伴いこの田舎にやって来て、家でぼんやりしてるのもなんだぐらいの感じで求職に訪れ、採用される。 Longmireが最も頼りにしている保安官補で、出来れば自分の仕事を継いでくれないかと思っている。
Vicの今日の担当は、町の大通りのクリスマス装飾に伴う交通監督。
立ち寄ったLongmireはBob親子が死体を見つけたと通報してきた、と話す。
「あの親子が死体を見たって言うんなら、私は中国の戦闘機パイロットってとこね」
「うむ、深刻な殺羊事件が我々を待っているようだな」
なんだかんだで、VicはBob親子の通報への対応を引き受けてくれ、Longmireは残りのビールと共に、家へ帰る。

かつては町中に住んでいたLongmireだったが、妻の希望で離れた眺めのいい土地を買いそこに移っていた。丸太のキットを買い、自身で少しずつ組み立ててログハウスを作った。だが妻Marthaは、その完成を待つこともできず癌で亡くなる。 以来四年、Longmireは内装も未完成なまま、その家で一人で暮らしている。
今日は一人娘Cadyから電話があるはずだ。Longmireは電話を待ちながら、ビールを開け届いていた通販カタログを眺める。
だが、思いはどうしても心残りな三年前の事件へと移って行く。

近くのネイティブアメリカン居留地に住む胎児性アルコール症候群の少女Melissaが、四人の少年にレイプされるという痛ましい事件。
犯人の少年たちは逮捕起訴されたが、執行猶予となりこの地で自由に暮らしている。
この地を守る保安官として、Melissaのためにもっと何かしてやれなかったのかという思いが、彼の胸に悔恨として強く残り続けている。

ビールが無くなり、Cadyからの電話はなく、通販カタログにも飽きた。Longmireは、親友であるネイティブ・アメリカンのHenry Standing Bearの経営するバーレストランRed Ponyへと向かう。
LongmireとHenryは、小学生時代からの知り合いでハイスクール卒業までは敵同士のように争ってきたが、その後それぞれのベトナム従軍経験などを経て、現在は最も気を許せる親友となっている。
到着してみると、店の灯りが半分消えている。中を見ると営業中のようだが…?

店に入るとHenryが、「ビールか?」と訊いて一本手渡してくる。そしてそのまま歩き去って行く。手にタイヤレバーを持って。
プールルームの向こうのバーを見ると、8人の客が座っている。普通に営業中なのは確かだが?
ビールを片手にHenryの向かった先に付いて行く。暗くなっているその先では、壁の装飾の板が数枚剥がされて、地の壁が露わになっていた。
Henryはその壁板の一枚にタイヤレバーを差し込み剥がす。壁が現れる。「畜生」さらにもう一枚。また壁。「畜生」
「改装中なのか?それとも何か探してるのか?」
Henryは懇願と脅迫を同時にやっているような動作で壁を示し言う。「ヒューズボックスだ」
「お前それを板で覆っちまったのか?」

ここでヒューズボックスをめぐる面白もあるんだが、とりあえず省略。
Henryと共に一旦バーに戻ると、そこにVonnie Hayesがいるのに気付く。
Vonnieは、同じくLomgmireが子供のころから知っている同年代の女性。美人。裕福な家の出で、父親が亡くなった後町を出て、アート系の大学に通い彫刻家になり、結婚もしていたが今は離婚し独り身。高齢となった母親の世話のため町に戻り、 ここで暮らしている。Longmireの亡き妻Marthaとも図書館の仕事を通じて仲が良く、彼女をよく知る娘Cadyは、父と彼女を結び付けようと何かと画策して来る。
Longmireもその気がないわけではなく、偶然出会えたVonnieとバーで会話を楽しむ。そこで店の電話が鳴る。
電話を取ったHenryは、「ああ、奴ならここにいる」と告げLongmireに受話器を手渡す。
てっきり娘Cadyからだと思って受けたLongmireの耳に、Vicの声が飛び込んでくる。
「死んだ羊じゃないわよ」

ここまで28ページ!殺人事件など起こらない田舎の警察という感じで大変のんびり進んで行く。
電話の終わりにはまた「BobとBillyをおとなしくさせとくためにビールを持って来てね」
そして最後に「死体はCody Pritchardよ」と告げられる。

Cody Pritchard。Melissaをレイプした四人のうちの一人だ。
これは意図的な殺人なのか?それとも狩猟関連の事故なのか?
死体は背中から撃たれ、かなりの大穴が空いていた。古いショットガンかと予想されるが、銃はなかなか特定できない。
そしてLongmireは、Omar Rhoadesを訪ねる。

Omarはこの地に住む大金持ち。広大な土地を所有し、そこに各地から客を招き、自らも一緒に狩猟を楽しむ。
銃に関しても大変なコレクションを持ち、地方の警察の鑑識ではすぐに突き止められないような種類の銃についても広い知識がある。
何番目だかの妻との夫婦げんかの仲裁に入って以来、Longmireとは親しい間柄だ。
ファッショナブルな着こなしで、言葉少なにクールに語る、やや変人だが、常にLongmireには協力的。
そしてOmarはここで使われた銃をシャープス・ライフルと断定する。

シャープス・ライフルは西部開拓時代の有名なライフル。1874年に600ヤードの距離から馬を殺せるとして、軍に制式銃として採用される。南北戦争後、各地で白人との闘いにインディアンにより使われ、シャープシューターの名を広める。
故ジェイムズ・カルロス・ブレイクもこの銃がお気に入りで、登場人物がシャープスで遠距離射撃を決めるシーンがいくつかある。
.50口径のライフルを500ヤード以上の距離から撃てる者は?Omarはこの郡のなかで1ダース以内に絞れると言う。
「俺、お前、Roger Russell、Mike Rubin、Carroll Cooper、DurantのDwight Johnston、Phil La Vante、Stanley Fogel、居留地のArtie Small Song、お前の親友Henry Standing Bear」
「あるいは、スリーパー。この銃に精通しているが、そのことを誰も知らない誰かだ」

「ウェスタン・ミステリー」とのコピーもあるこの作品では、この開拓時代に遡るライフルにまつわる謎が物語のあちこちで顔をのぞかせてくる。
シャイアン族がジョージ・アームストロング・カスターに降伏するとき、手渡されず隠されてきた「死のライフル」と呼ばれたシャープスの一丁だとか、いかにもおっさん心をワクワクさせるのとか。

まずそんな方向のところから紹介してきたが、実際のところは田舎のちょっとのんきな保安官的展開がメインという感じか。
先の選挙を見越して、田舎の教会の恒例行事パンケーキ・デーに参加したり、昔ながらの地元民とのやりとりも多く描かれる。
親友Henryが、少しは健康に気を使えと、朝のジョギングに引っ張り出しに来たり、作りかけで放り出してあるLongmireの家を見かねて、居留地の若者を雇い立派なポーチを作らせたり。
とにかくLongmireを何かと面倒見てくれるHenryにより、なかなか距離が縮まらないVonnieとの橋渡しをされ、ロマンス展開も盛り込まれてくる。
かなりヤバい人物ながら、頼りにはなる片足の前保安官Lucian Connally。保安官事務所近くのBusy Bee Cafeの、誰よりも近隣の事情通の女主人Dorothy Caldwellなど、魅力的なキャラクターも話の展開と共にゆっくり紹介されて行く。

とりあえずハードボイルドジャンルではないが、どういう作品か読んでおきたいぐらいの感じで読み始め、こちらで書くかどうかも未定だったのだが、主人公Walt Longmireとその仲間たちについてはかなり好きになっていて、ちょっと楽しい田舎の 保安官ミステリーみたいな方向で書いてみようかと思いながら読み進め、約半分200ページを過ぎたあたりで、そこまでの印象を変えるぐらいに物語は大きく展開し始める。
まず第2の事件の発生。これにより、狩猟関連の事故の可能性も考えられていた事件の方向が、一点に絞られて行く。
そこから続く、町に迫る猛吹雪へと向かって行く捜索活動。更にその中での決死の救出劇。生死の境を彷徨いながら、幻想的とも言えるモノローグへと至るこのシーンは作品の大きな見せ場となって行く。
いやいや、ただの面白田舎保安官じゃないぜ。このおっさんやる時はやる!

大抵のアクションメイン作品だと、ここからエンディングへとなだれ込んで行くところだが、この作品はそこからまた、一旦面白田舎保安官モードへと戻る。
耳と手に凍傷を負い、病院へと搬送されたLongmireだが、いや、寝てるわけにはいかんよとのそのそと勝手に病院を抜け出し、あちこち歩きまわっては行く先々で、おねえさん、おばさん、おばあちゃんたちに「耳を触るんじゃないの!」と叱られ、 お前の耳が落ちる方に10ドルだ、とからかわれる。
だが、そうこうしているうちに事件は動き、エンディングへ向かって再び大きく加速して行く。
でこぼこの農道、荒れ地を渡るカーチェイスの後、やっぱり来たか!の様々に前振りされていたアレ!
この長距離に対応できる武器は、車に積まれたままになっていたシャープス、死のライフルのみ!託された銃弾!これをやれるのはお前だけだ。

そこから唯一人で進んで行くLongmire。悲しい真相に向かって。
そしてエピローグの深い余韻。
ラストシーンにはほろりとさせられ、そしてこのWalt Longmireと愉快な仲間たちに必ずまた会いに来るぞ、と誰もが思うことだろう。


なんか昨今そこら中で撒き散らされているような、なんか人を見返してすっきりした~い、別に自分に特別ななんかあるわけじゃないけどお、みたいな貧しい願望にお応えする、とぼけた周り中からなめられてる奴が実は無自覚で最強でしたなんていうややこしくてわざとらしいものじゃない。
人情派で心優しく、事件通報者からビール持って来てくれようとか言われちゃう田舎保安官で、あいつまたジョギングに誘いに来るからその前に早朝出勤しちゃおうみたいなヘタレだが、やる時は当然のようにやる当たり前に格好いいおっさん。本当はそんなやつそこら中にいるんじゃない?
明らかに「ガキ」と言ってる文脈で「少年」と気を使って直されるような中でさえ、当たり前の日常語のように「バーコード頭」と嘲られ、こんな奴らが好むのはスポーツ新聞とエロ雑誌のみと決めつけられて読むものさえ奪われ読書難民化が進むばかりの 我等おっさんが、弱い者いじめでしかない若造いびりや、サービスのつもりの下品なSMまがいのエロ描写にうんざりさせられることも無く、心の底から楽しめる素晴らしいWalt Longmireシリーズ。
本当はこんな作品が定期的に継続して出版され、金曜の帰りに書店によって、おっLongmireの新刊出てるじゃん!とニコニコして帰るみたいな暮らしがしたかったよねえ。
でも今からでも遅くはないぞ。この人気シリーズ、ホントにいっぱい出てるから。もう当分、下手すりゃ残りの人生ぐらい読むものには困らないぞ。よかったねえ。
いやいや、悪いことは言わんからとにかく読めって。こんなんゴチャゴチャ言う以前の鉄板おススメ作品だぞ!


と、楽しくおススメしたところで、ちょっと面倒なことも書いとこう。
なんかさ、Longmireシリーズが多くの人に読まれるといいなあと思うと、そこから「これこそが私の考えるハードボイルドだ」とか言い出す阿呆が現れかねんとも思われるので。
このLongmireシリーズが、なぜハードボイルドではないかと言えば、まずもう単純にハードボイルドジャンルというところから出て来た作品ではないということ。
そして、これが日本限定でハードボイルドだと勘違いされかねない状況について説明する。

例えば「ハードボイルドなやつ」というような形容詞的な使用法がまずある。この「ハードボイルド」の語源は、そもそもが軍隊内のやや悪口ぐらいのところの、煮ても焼いても食えない奴というというものらしい。
そこから考えられるハードボイルド小説ジャンルの中のキャラクターで、最も「ハードボイルドなやつ」と言えば、マイク・ハマーだろう。
だが、日本におけるハードボイルドは、以前書いたように、かの馬鹿げた本格通俗という形で、マイク・ハマーを排除するというところから始まっている。そしてハメット-チャンドラー-マクドナルドとはいうものの、実際にはチャンドラーのみを ハードボイルド精神という形で解釈しようとしてきたのが、日本のハードボイルドに対する考え方だ。で、まあその解釈というのが大雑把に言えば、日本古来の男らしさ、男の中の男的なところに通ずるもの。
この勘違い「ハードボイルド」を上記のような形容詞として使おうとして、更にハメットだー、チャンドラーだーを加えて辻褄を合わせようとしてきたのが、今も流通し続ける日本の出鱈目ハードボイルド解釈というわけ。
だが、以前から何度も言っているように、実際のハードボイルドジャンルの作品は、その時代によって変化するリアルな犯罪を通じて社会を描くという方向で発展してきたもので、フィリップ・マーロウのようなキャラクターを作ろうとか、男の生き様を 描こうなどという形をたどって来たものではない。
こうして、実際にはハメット、チャンドラーから形を変えつつ連綿と続くハードボイルドジャンル作品群が、その出鱈目ハードボイルド解釈に阻害され理解さえされなくなってきているのが日本の現状。
更には、日本のミステリ業界にはびこる「本格ミステリ」なる思想。海外では単なるクラシックで現在ではほぼ書かれていないものだが、日本国内のみでそれをミステリの最上位とする考えから、ないなら国内で指定すれば海外作品も「本格ミステリ」とすることができる という形で解釈によるジャンル的なものが作られ続けている。
この考えに基づき、実際にはハードボイルドジャンル作品は書かれ続けているのに、ここまで書いて来た日本が考えるような「ハードボイルド」に一致するものがない、ゆえにもはやハードボイルドは存在せず、「本格ミステリ」同様にこちらで指定すれば 新たなハードボイルドを作り出せるというような出鱈目さえ起り始めているわけだよ。まったく。

さて、ここでLongmireシリーズへと戻るのだが、前述のようにこれはハードボイルドジャンルの作品ではなく、本来の意味での形容詞としてのハードボイルドにも全く合致しない。唯一近く見えて誤解される危険性があるのが、日本的な思い込みによって 捻じ曲げられてきた男らしカッコイイぐらいの意味の「日本が考えるハードボイルド」というわけ。
もうこれさあ、和風ハードボイルドみたいな言い方で区別すべきじゃない?そんでハメット、チャンドラーなんてこじつけもやめて、和風ハードボイルドのストレートな体現者であるセニョール・ピンクを引き合いに出すべきだろ。
「これこそが私の考える和風ハードボイルドであり、セニョール・ピンクだ!」
オレが大好きなLongmireにそんなひどいこと言うの何処のどいつだよ!

なんかさ、和風ハードボイルドみたいな言い方で日本の「ミステリ評論」って部分のクソっぷりを批判していると、まあクソも多いが優れた作品だって多い国産ハードボイルドってところまでごっちゃにして、というかそこについて批判しているようにさえ 見えるんだろうな。本心では不本意なところではあるんだが、それも仕方ないんだろ。もう全部ひっくるめてまとめて流しちまえ。ドバゴジャーーーーー!!!!
もう日本の翻訳ミステリなんてものについて考えるだけでも絶望感しかなく、深く考えすぎるとこれを続ける気さえなくなってくる。なんかこのまま数年だか目を背け続けて、何やってんだかさえわからなくなってくるぐらいになれば、 その辺でいくらか建設的みたいな目を向けられるようになるか、あるいはそのものが完全消滅みたいなことになるんだろうな、とか時々いくらか前向きに考えるような日もある今日この頃っす。


なんかさ、もう日本の翻訳ミステリみたいなところから、アクションみたいな方向に広げたあたりまでのところで面白いものが出てくることは期待できない、うっかりこれ面白いんかな、ぐらいに手を出したら、ゴミ仕様によりただハズレを読んじまったなあ、 ぐらいじゃすまないぐらいやな気分になるっつーのもよくわかったんで、もうそっちの方も原書で探していいのがあったら紹介して行こうみたいなのが、現在の考え。前々回に書いたホラーなんかも含めてもっと手広く多くの本を紹介して行きたい、 そのためにはもっと沢山書かなければ、頑張るぞ、というところだったんだが…。
どうも今年に入ってから体調がすぐれず、なんか3月4月ぐらいには、午前中コミックの方をやって午後本店こちらの方をやるというスケジュールもあまり維持できず、半分以上は午前中で力尽きちゃうような状態が続いていたんだが、4月末になりとどめのように、 虫垂炎を発症、GW期間中10連入院という事態になってしまったですよ、トホホ…。
なんか自分的にはここしばらくの不調の累積の結果のようになってしまったが、虫垂炎って何が原因だったんだろうと調べてみたところ、あんまりよくわからん…。結局ストレスみたいなもんなんだろうか、と考えると、ここしばらくの最大のストレス といえば、なーんかこっちの方が全く思い通りに進まんというあたりだったり。そんなわけでやっと娑婆に戻されてからは、まだ近所のコンビニまで行く体力も覚束ないまま、少し書いては寝て休みを繰り返し、何とかこれを仕上げたという次第。 いくらかストレス改善に役立ったんやろか?
まだわからんというところだが、何とかこれが底であることを望み、ここから上向きベクトルで進んで行ければと思うんだが。書かなきゃならん作品も溜まって来てるしな。なんとか早く通常運転ぐらいに戻し、そこから量を増やして行けるように、 ここからまた頑張れればと思うものですよ。


■Craig Johnson著作リスト

〇Walt Longmireシリーズ

  1. The Cold Dish (2004)
  2. Death Without Company (2006)
  3. Kindness Goes Unpunished (2007)
  4. Another Man's Moccasins (2008)
  5. The Dark Horse (2009)
  6. Junkyard Dogs (2010)
  7. Hell Is Empty (2011)
  8. As the Crow Flies (2012)
  9. Christmas in Absaroka County (2012) 短篇集
  10. A Serpent's Tooth (2013)
  11. Spirit of Steamboat (2013) 中編
  12. Any Other Name (2014)
  13. Wait for Signs (2014) 短篇集
  14. Dry Bones (2015)
  15. The Highwayman (2016) 中編
  16. An Obvious Fact (2016)
  17. The Western Star (2017)
  18. Depth of Winter (2018)
  19. Land of Wolves (2019)
  20. Next to Last Stand (2020)
  21. Daughter of the Morning Star (2021)
  22. Hell and Back (2022)
  23. The Longmire Defense (2023)
  24. First Frost (2024)
  25. Tooth and Claw (2024) 中編
  26. Return to Sender (2025)
※シリーズ内時系列みたいなものもあるかと思い、中編、短篇集も一緒に並べたが、短篇集とか収録作ダブっていたらごめん。


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2025年4月2日水曜日

ケン・ブルーウンよ、永遠に。"Grá Go Mor"

2025年3月29日、ケン・ブルーウン氏が74歳で亡くなりました。

つい先日、3月4日にジャック・テイラー最新作『Galway's Edge』が出版され、まだ元気なようでよかったなあと思っていた矢先のことで、本当に残念です。自分的には今読んでる本があと40ページぐらいで読み終わるんで、次は第8作『The Devil』を 読もうと思ってたところだったり。

ブルーウンの死去を知ったのは、3月31日。起きてまずちょっと買い物に出て帰り、色々続きをやらなければとPCを立ち上げたところで、スウィアジンスキーの「Grá Go Mor」と言うタイトルのニュースレターがSubstack経由で届いていて、それを見て 初めて知った。
「Grá Go Mor」というのはゲール語で「Big Love」という意味だそうで、ブルーウンからのスウィアジンスキーへのeメールにいつも書かれていた挨拶ということ。こちらでも使わせてもらった。

かなりがっくり来てしまい、あまり他のことが手につかず、とにかくこの訃報について何か書いておかなければ何も進まないという事態になってしまった。
でも、何書く?「私とケン・ブルーウン」なんておこがましい。私なんぞ、ブルーウンさんの本を読んでいくらかの宣伝になるようここで書いて、それでついでにちょっとした感想やら意見を言わせてもらえるぐらいのもんだよ。
ケン・ブルーウンのジャック・テイラー第1作『The Guards』を初めて読んだときのこと、それはやっぱり喜びや感動だったのだろう。そこにはそれまでのハードボイルドの全てがあり、そして新しかった。こんなやり方でハードボイルドは 続けられて行くのだなあと思った。電子書籍が普及し、日本で翻訳が止まってしまったシリーズも読めるようになった時、そういうものとしてまず最初に手に取ったのは、ジャック・テイラー第3作の『The Magdalen Martyrs』だった。 映画が公開されたにもかかわらず、翻訳も出なかったトム・ブラント・シリーズもまだ最初の『White Trilogy』だけだけど本当に素晴らしかった。
ケン・ブルーウンは、現代、この21世紀初頭ぐらいのところの最高のハードボイルド作家だ。ブルーウンをスキップしてハードボイルドが語れるなんて思ってる奴等はすべてイカサマだ。

「日本におけるケン・ブルーウン」なんてものには何の意味もない。考えるのも、腹を立てるのも、もはや時間の無駄。
本格ミステリなんて御大層な名前の幻想を振り回し、「ミステリ」=犯人当てクイズから永久に「卒業」できない日本のミステリが、ブルーウンを理解できる日なんて永久に来ないよ。
ブルーウン作品が数冊翻訳されただけで、まともに理解もされずぶん投げられた時点で、日本の翻訳ミステリにおけるハードボイルドなんてもんも終わったんだ。

ケン・ブルーウンさん、数多くの素晴らしい本を本当にありがとう。
まだそのほんの一部ぐらいしか読めていないが、どのくらい残っているかわからない残りの人生でブルーウンさんが遺してくれたそれらの作品を楽しんで行きます。
読んだ本についてはまたここに書いて、この国でちゃんと本を読む能力をまだ残している人に伝えて行くのが、私にできるせめてものお返しです。
ブルーウンさんなら、生きてるうちになるべく沢山の本を楽しめよ、と言うんだろうなあ。
どうか、安らかに。

前述のスウィアジンスキーのSubstackの記事について。
ブルーウンへの追悼として、スウィアジンスキーが20年前にDave ZeltsermanのHardluck Stories magazineで行ったブルーウンへのかなり長いインタビューを再録した大変素晴らしい記事です。
さすがという感じで、本当に聞きたいことを聞いてくれている素晴らしいインタビュー。
作家になる以前、世界各地で英語の教師をしていたころの話(ここでは触れられていないが日本にも来たということ)。影響を受けた作家や作品作りについての姿勢など。音楽や、作品内でもしばしばテーマになるカソリックについての考え。 この時点では出たばかりだった『American Skin』(2016)が、シリーズ化を考えていたことなども語られている。
以下のリンクより。Substackのアカウントが無くてもブラウザで見れると思います。
★Substack/Gleeful Mayhem : Grá Go Mor


■Ken Bruen著作リスト

●Jack Taylorシリーズ

  1. The Guards (2001)
  2. The Killing of the Tinkers (2002)
  3. The Magdalen Martyrs (2003)
  4. The Dramatist (2004)
  5. Priest (2006)
  6. Cross (2007)
  7. Sanctuary (2008)
  8. The Devil (2010)
  9. Headstone (2011)
  10. Purgatory (2013)
  11. Green Hell (2015)
  12. The Emerald Lie (2016)
  13. The Ghosts of Galway (2017)
  14. In the Galway Silence (2018)
  15. Galway Girl (2019)
  16. A Galway Epiphany (2020)
  17. Galway Confidential (2024)
  18. Galway's Edge (2025)

●Tom Brantシリーズ

  1. A White Arrest (1998)
  2. Taming the Alien (1999)
  3. The McDead (2000)
  4. Blitz (2002)
  5. Vixen (2003)
  6. Calibre (2006)
  7. Ammunition (2007)

●Max Fisher and Angela Petrakosシリーズ (ジェイソン・スターと共作)

  1. Bust (2006)
  2. Slide (2007)
  3. The Max (2008)
  4. Pimp (2016)

●長編/中編/短篇集

  • Funeral: Tales of Irish Morbidities (1991)
  • Shades of Grace (1993)
  • Martyrs (1994)
  • Sherry and Other Stories (1994)
  • All the Old Songs and Nothing to Love (1994)
  • The Time of Serena-May & Upon the Third Cross (1994)
  • Rilke on Black (1996)
  • The Hackman Blues (1997)
  • Her Last Call to Louis MacNeice (1998)
  • London Boulevard (2001)
  • Dispatching Baudelaire (2004)
  • American Skin (2006)
  • A Fifth of Bruen: Early Fiction of Ken Bruen (2006) (Tales of Irish Morbidities、Shades of Grace、 Martyrs、Sherry and Other Stories、 All the Old Songs and Nothing to Love、 The Time of Serena-May & Upon the Third Crossの合本)
  • Once Were Cops (2008)
  • Killer Year (2008)
  • Merrick (2014)
  • Callous (2021)


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The Dramatist -ジャック・テイラー第4作!-

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Ken Bruen / Sanctuary -ジャック・テイラー第7作-

Ken Bruen / A White Arrest -White Trilogy第1作!トム・ブラント登場!!-



●Max Fisher and Angela Petrakosシリーズ

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