しかし4年とは…。まあその後しばらくあまり書けない時期が続いたのもあるのだけど、主にはその第1作『Dead I Well May Be』を読んであまりにもマッキンティという作家に感銘を 受けたため、持病の貧乏性が発動し、もったいなくてなかなか手が出せなかったというのが原因。しかし、世には読むべき本もあまりに多く、もったいなくて手を出せない作品の山も 高くなるばかり。これではいかんと、正にその山の頂上位にあるこの作品Dead三部作第2作『The Dead Yard』をやっと手に取ったという次第なのでありました。
そりゃどうもこうもないよ。前作『Dead I Well May Be』を読んだ時点でマッキンティ作品はすべて傑作であると確信してるし、クソ評論家じゃあるまいしそん中で優劣をつけて 自分の鑑識眼を誇示してこれが作品に対する評論だというような顔をするつもりも毛頭ない。素晴らしい。大傑作だ。4年も放置していて本当に申し訳ありませんでした。Dead三部作第2作『The Dead Yard』であります!
【The Dead Yard】
戦場と化したベルファストの街を見渡す主人公Michael Forsytheの視点から始まる第1作『The Dead Yard』。この第2作も同様にまた一つの暴動を見渡すForsytheの視点から始まる。
1998年、スペイン。イギリスとアイルランドのフーリガンが衝突し、暴動と化したスペインの街角にMichael Forsytheはいた。
だが、今回のForsytheの物語について語る前に、前作『Dead I Well May Be』についてその後をちゃんと書いとかなきゃならんだろう。あっ、今更で悪いが今回は第1作『Dead I Well May Be』については 完全ネタバレしますんで。そちらについてはアイルランドで食いっぱぐれたForsytheが つてを頼ってアメリカに渡り、ニューヨークのアイルランド系犯罪組織で次第に頭角を表し、チームと共にメキシコへ派遣されたのだが…、というほんの序盤のところで終わってしまっていた。 なぜそんな少ししかストーリーを紹介できなかったかというと、実はこの物語あらすじとして書いてしまうとあまりにシンプルで、これ以上書くと結末までわかってしまうからである。
ドラッグ取引のためメキシコへ行ったForsytheらだったが、その取引の現場にはメキシコの官憲が待ち伏せしており、彼らはただちに逮捕されてメキシコの刑務所へと送られる。罠だった。 そしてForsytheは悟る。これが愛人に手を出されたボスからの報復であることを。その怨恨でForsytheひとりに手を掛けると面子がつぶれると考えた奴は、チーム全員をまとめてここへ 送り込んだのだ。
と、ここまで書いてしまえばあとは想像できるだろう。その通りだ。この刑務所を脱獄し、組織のボスへ復讐する。大変シンプルなストーリーだ。だが、シンプルなのはそうやって要約した あらすじだけだ!
放り込まれたのは地獄のようなメキシコの刑務所。数少ない白人として受刑者の間でも迫害を受ける。初日に袋叩きに遭い散々殴られた上に靴や服を奪われる。一切コミュニケーションすら取れない 敵に囲まれ、彼らは必死に自分の身を護る。そして、絶望の中で微かな脱獄の可能性を見出し、それにすがり、辛うじて生き延びようとする。だが、その中で仲間はひとり、またひとりと倒れて行く。 朦朧とした意識の中で、繰り返しForsytheが見る幻想の小人の王国。そして、ようやく準備が整った時、生き残っていたのはForsytheとチームの中でかつては最も折り合いの悪かったScotchyの 二人だけとなる。
嵐の夜、彼らは房を抜け出す。鉄条網に覆われた壁面。そこを越えれば外だ。必死によじ登るForsythe、少し遅れてScotchyが続く。サーチライトが彼らをかすめ、そして戻り、今度ははっきりと彼らを捕える。 スペイン語の怒号。銃声。Scotchyの身体から血が噴き出し、鉄条網に絡まりながら落ちて行く…。
鉄条網に引き裂かれながら塀を乗り越えたForsythe。そして嵐の中を走る。ただひたすら走る。力が尽きると岩陰で眠り、また走り続ける。そして走る力も尽き、杖にすがって進み続ける。何日も…。
倒れている彼を救ったのは、都市部から遥かに離れた奥地の村人だった。刑務所で靴を奪われ、裸足で鉄条網を登り、荒野を駆け抜けてきた彼の足は既に救う見込みがない状態になっていた。 意識ももうろうとしたまま、Forsytheは足首から先を切断される。
とにかく物理的に腹にずんずん響くぐらいの文字通り息詰まるという感じの凄まじい語り。結局ネタバレを気にしてここのところまで書けなかったことで、ずっと『Dead I Well May Be』については ほとんど書いていないという思いがこの4年間あったわけなのでした。この凄まじさによって、読者は主人公Forsytheの怒りを共有する。何が何でもこの苦しみ・怒り・仲間の無念は復讐されなければ ならない。何が何でもだ!これが復讐物語だ!
ところで、Forsytheが失ったのはどっちの足だったのだかいまだによくわからない。少なくとも読み返してみても、切断される時には書かれてはいなかった。まあ私はかなりのボンクラ不注意者なので、 その後に書かれていたけどスルーし続けていまだによくわかんないだけかもしれないけど、とりあえずこれは作者マッキンティの一人称の語り手であるMichael Forsytheのキャラ付けではないかと思う。 つまり片足足首から先失ってしまったけど、どっちだかも言わず必要な時だけ「足」と言うようなヤツ。
そして地獄から脱出したForsytheはニューヨークに帰ってくる。復讐のために。この地獄を抜けてきたForsytheが、チンピラとしてアイルランドからやってきたころには見上げていた、組織の幹部を あっさりと次々と始末して行っても我々は全く違和感など感じない。オレわかってる面したいだけの阿呆以外は。そしてForsytheはかつてのボス、Darkey Whiteへとたどり着く。そこにはあの Bridgetもいた。俺はDarkeyと話がある。バスルームに行っててくれ。遂に復讐が果たされる時だ。だがその時。銃声!そしてForsytheは腹に衝撃を感じる。Bridget…?振り向いたForsytheの 目に映ったのはバスルームに隠してあったのだろう.22口径を彼に向けて構える彼女の姿だった。Bridgetを蹴飛ばし、放り出された銃を奪い合い、血を流しながら、ForsytheはDarkeyの息の根を止める。 だが、Bridgetだ…。つまりは彼女が本当に愛していたのはDarkeyだったということだ。そもそもがDarkeyは俺を始末するためにメキシコへ送る必要などなかった。奴らがあの地獄で死ぬ必要は 全くなかったのだ…。
やり切れぬ思いを抱えながら、Forsytheは意識を失っているBridgetの無事を確かめ、Darkeyの屋敷を出る。腹からの出血で意識も朦朧となりながら、ForsytheがERにたどり着いたところで物語は終わる。
シンプルな物語だ。中学生にだって簡単にあらすじを要約できる。だがその物語を作者エイドリアン・マッキンティが、Michael Forsytheという主人公を通じて綴るあまりにも素晴らしい語り口! 本当にいつまでも読んでいたい作品というのはこういうものだ!この一作を読んで、私はマッキンティ作品はすべて傑作であると確信した!優れた作品というのは、過去や現在の周辺のどの作品と くらべて優れているなどという相対的なものではなく、常に絶対的なものである。作品に優劣順位をつけるような愚劣かつ下衆な商売で長年食いつないできたようなクズ共は、もはや作家・作品に 対して相対的でないストレートな評価などできなくなっている。近年の作品に対してホークがスーさんがだのジャック・ヒギンズがだのの遥か昔のいくらか若かったころ読んだ作品しか持ち出してこないような ロートル肉体LOVE書評家なんぞこの数十年に渡る経歴で一体何読んできたんだと呆れざるを得ないぜ。ジャンルには常にある種マイルストーンとなるような作家が現れる。個人的には好きじゃあなくても、 ロバート・B・パーカーなんてのもそういうものだろう。ランズデールやクラムリー、バーク、コナリー、ルヘイン、エルロイ、ヴァクス、ペレケーノス、ウィンズロウ、そしてかのケン・ブルーウンに続き、またしても アイルランドから登場した現在から未来へ続くマイルストーンとなるのがこのエイドリアン・マッキンティだ!そう言わしめるほどの実力を見せつけてくれたのがこの『Dead I Well May Be』という作品なのだ!
あー、なんかずっとほとんど書けてないという思いが頭から離れなかった前作とそれに対する思いを書き切った感じで、もう今回終わるぐらいの気分になっとるけど、今回はその続きである第2作 『The Dead Yard』がメインである。しかしまあ、今回もネタバレ回避でまたほとんど書かなかったような気分になるんかな…。
だがその前に、実はこの作品にはエピローグがある。なんか私の読んだ現在は絶版のSerpent's Tail版ではここまでに書いたラストの後に、マッキンティの最新情報はこちら、みたいなホームページのURL やらSNSのリンクなどが載ったページが入り、その後に続くという体裁で、なんとなくあとでシリーズ化決まってから追加されたのかな、みたいな想像もされる感じなのだけど。「Coda:Eleven Years Later-L.A.」 というタイトルの約10ページのそれは、タイトル通り11年後のL.A.での話。トレーダーだか何だかやってる彼女の自宅で帰りを待っていたForsytheは、そこで彼を狙って来た襲撃者を迎え撃ち、それが Bridgetから遣わされた殺し屋であることを知る。彼女が遂に組織のトップへと上り詰めたのだ。Forsytheが新たな戦いのために旅立つところで物語は終わる。あ、ここに出てくる彼女は、多分アイツが俺を 売ったな、ぐらいのもんなのであんまり重要ではないので。
そして第2部『The Dead Yard』へ!ここでやっと…。
第1作のエピローグが11年後、ということで、そこから始まるんかなと思っていたら、そこまで行かず4~5年後ぐらいの1998年から始まる(Forsytheがニューヨークにやってきたのが1992年なので、 そのくらいだと思う)。冒頭に書いたように、1998年のスペインにちょっとしたバカンスで訪れていたForsytheは、イギリスとアイルランドのサッカーのサポーター フーリガンの衝突による 暴動に巻き込まれる。この事件が実際にあったのかどうかはちょっと調べてみたけどよくわからなかった。多分マッキンティが書いているので実際にあったのだろうと思うけど。調べたと言っても 日本語のみの検索だったので、もう少し範囲を拡げればわかったのかも。サッカー関連とか調べると山ほど出てきてめんどくさくなったのでちょっと調べてすぐに放棄。サッカーにすんげえ詳しい人なら 知ってるんじゃないすか。
で、前作の最後からここに至るまでの話は、少し読んでると出てくる。復讐を遂げて重傷を負って病院にたどり着いたForsytheは、当然のことながら警察の取り調べを受ける。結果、アメリカ国内における アイルランド系ギャングの情報を提供する代わりにFBIの証人保護プログラムに入り、別の身分を得て現在に至るというわけである。現在彼の名前はBrian O' Nolan。そして仮住まいのシカゴで出会った 子分の若者を引き連れて、ちょっとしたバカンスにスペインを訪れたところでこの暴動に出くわしたというわけ。ちなみにこの子分の若者は、最初だけしか出てこないので、特に気にする必要なし。 名前も出てきたかわからん。
Forsytheとその子分は、暴動を避け市街地を離れて山へ登る。風光明媚なスペインの高地にすっかり魅せられ、しばらくはここで暮らそうかなどと思っていたForsytheだったが、到着した翌朝に やって来た地元警察に逮捕される。暴動から逃れてきたフーリガンの一味だと思った地元民に通報されてしまったのである。
逮捕拘留されたのは癪だが、あのメキシコの刑務所に比べれば天国だ。しばらくはここで暮らすか、とのんびり構えていたForsytheの許へ面会人が現れる。英国大使館から来たという男女二人組。 だが、こいつらはそんなもんじゃないだろう。そしてすぐに素性を明らかにする。
我々は英国情報部の者だ。君に提案がある。
1998年。長らく続いたアイルランド紛争はようやくIRAとの停戦合意にたどり着こうとしていた。だが、それを快く受け入れない勢力もまだ存在する。そんな勢力に今動かれてはせっかくの 合意が破談になりかねない。IRAも現在それらの抑え込みに必死になっている。そして彼らの意思も届きにくいアメリカの地にもそんなIRAの分派が存在する。強硬派の極めて危険なグループだ。 IRA本体からの抑え込みも効かず、そして我々にも潜入捜査官などを用意する時間の余裕もない。そこでMichael Forsythe、君に白羽の矢が立ったというわけだ。君はアイルランド人で、 犯罪組織での経験もあり、FBIによる人物保証も付いている。この地での逮捕起訴を取り下げ、ただちに釈放する見返りとして、ボストンを根城とするIRA分派組織Sons of Cuchulainnへ潜入し、彼らの動向を探ってほしい。
冗談じゃない。誰がそんな危ない仕事を引き受けるか!なんだかんだ言ってもイギリスの国内世論もあり、せいぜい1年もすれば恩赦で釈放されるだろう。この程度の刑務所ならそのくらい苦にもならん。 それまでのんびり暮らすさ。お断りだ。
そう突っぱねるForsytheに、英国情報部エージェントは切り札を出して来る。
ならば仕方ない。君の身柄は手配が出ているメキシコへ送られることになる。
メキシコ…?Forsytheの背筋が凍り付く。脱獄犯としてもう一度あの地獄に戻されたら、今度こそ生きて出られる見込みはない…。
こうしてForsytheは不本意ながら英国情報部のためにボストンのIRA分派へ潜入することを承諾する。
そして舞台は再びアメリカへ。Forsytheは英国情報部とFBIが掴んだIRAによるSons of CuchulainnのリーダーGerry McCaghanの暗殺計画に便乗し、組織潜入への足掛かりを掴んで行くのだが…。
とまあ、まだまだほんのさわりなんだが、今回はこの辺で。まあ年内には必ず読んで続く第3部について書くときに全面的にネタバレしちゃいますんで。
さて意外な展開を見せたDead三部作第2部なのだが、この設定でなんかスマート気なスパイものになるわけではなく、前作同様のヘビーで血生臭いクライムアクション展開をしてゆくことになるのでご安心を。 特に終盤のあの凄まじさは…ぐはー!今作もマッキンティの筆が疾りまくり、サービス山盛りなので、それが欠点に見えてしまうようないろいろ弱った読書のプロ老人なんかは病人食みてえなの 読んでりゃいいんじゃねーの?なんか知らんけどあるんじゃねーの?脳トレ風ミステリとか?ノトミス?
前作の続きはどうなったの?という人向けには、Forsytheが釈放されてアメリカに戻り、FBIの証人保護プログラム担当者と会うところで少し説明がある。そもそもがForsytheが復讐したDarkey Whiteは アイルランド系組織のニューヨーク支部のボスで、組織にはさらに上のボスも存在している。Darkeyを殺し、FBIに情報を売ったForsytheの首には当然高額の賞金がかかっている。だが、現在組織の方は FBIによる追求と勃興し続ける他組織との抗争に追いつめられて、実際のところはForsytheに構ってはいられないというのが現状。彼にかけられた賞金もメンツとしては引っ込めるわけにはいかないが、 現在はそれほど積極的に探してすらないということになっているそうだ。その一方でニューヨークでは唯一あのBridgetのみが報復に執念を燃やしており、組織の中でも力を伸ばしつつあるらしい。
そんなわけで、この第2作では予想された第1作の続きとなるアメリカのアイルランド犯罪組織、Bridgetとの闘争については描かれず、Forsytheが不本意ながら請け負った英国情報部からの IRA分派への潜入・情報収集工作という展開となる。舞台はボストンと言えば、日本でも翻訳が出たマッキンティ最新作『ザ・チェーン 連鎖誘拐』を思い起こした人も多いだろう。良くは知らんけど ボストンもマッキンティにとっては思い入れのある地なのだろう。この作品ではForsytheが闊歩するボストンの様々な風景が、『ザ・チェーン』とはまた違った形で鮮やかに描き出されて行くことになる。そしてそこに登場する作品タイトルの 『The Dead Yard』とは?この第2作も第1作同様、まあまず日本で出る見込みはない絶対的必読作品ナリ!必ず読むべし!
さて作者エイドリアン・マッキンティの近況なのだが、まあSNSなどを見るととりあえずはお元気のようだが、昨年来からのコロナの影響で、ずいぶん前にアナウンスされていたダフィ・シリーズの 新作の出版も遅れ続けている。一番最新の情報では本年秋には何とか出るようなのだが。その影響で版権の切り替えもスムーズにいかず、昨年秋ごろだったか以前の出版社の版権が切れて以来、 電子書籍版ではダフィが全作絶版中という困った状況が続いておる。今回のDead三部作については辛うじて出版されているが、私の読んでたSerpent's Tail版については版権切れで絶版という状態。 あっちのカバーの方が好きだったんだけどなあ。まあ秋のダフィ新作出版に合わせて現在絶版中の作品も復刊されてくるでしょう。多分『ザ・チェーン』に続いておなじみマルホランドからではないかな。 続く第3部について書く時には、下の方にもマッキンティ作品がずらりと並ぶことになるでしょう。今回のはマッキンティ作品がどん底的に出てなかった時期の記録ぐらいにゃなるんじゃないかな、 という感じで。とりあえずほんのさわりだが第2部『The Dead Yard』については書けましたんで、当方はただちに第3部『The Bloomsday Dead』に取り掛かるでやんす!
で、前々回の続きという感じになるのだが、アリゲーター・シリーズを米国で出しているEuropa Editionsからのを色々見てて、 これとか面白いんかなあと思っていたのが、なんだ日本で翻訳出てたじゃん。マウリツィオ・デ・ジョバンニのP分署捜査班シリーズ。第1作『集結』が昨年5月に出て、第2作『誘拐』が 今年5月に出たばかり。第2作が新刊で並んでるのを本屋で見つけて、ああ、こいつあいつやん、と気付いて第1作の方から読んでみた。
ちなみにこのシリーズ英語版では作中でも度々その呼称が出てくるThe Bastards of Pizzofalcone - ピッツォファルコーネのろくでなしシリーズとなっていて、カバーもこんな感じ。 一方邦訳創元文庫版は、シリーズ名もP分署で、いかにも日本向けなカバーときてて、大丈夫かい?場合によっちゃ東京創元社全力で罵倒すんぞ、ぐらいの感じで読み始めたんだが、 んーまあ日本版のこんな感じでもそれほど問題ないかな、でした。ただ、とりあえず第1作では作中で「P分署」なんて呼び方一切してないし、一方では現在87分署ほぼ絶版状態で、 それ今どきの若い読者にわかんの?30代以下ぐらいの読者ほぼ捨て?みたいな印象は否めないんやけどね。
感想としては、まあ全体的には楽しく読めたけど、87分署感については一応意識してその方向でやってみたけど今ひとつ上手くいかんかった、という感じかも。第1作ゆえに キャラクター紹介もしなきゃなんないのでというところはあったのだろうけど、マクベインのようにこの作品ではリズムや流れのためにここは捨てて、ということが あまりできてなかったのではないかという気もしたり。まあマクベインなんてのは唯一無二ぐらいの偉大な作家なんで、そんなストレートに比較してもフェアじゃないかもしれんが。 なんだかんだ言ってもイマドキ読者にはむしろマクベインよりこっちの方が読みやすいかもしれんしね。度々出てくる主人公ロヤコーノ警部の中国人風容貌描写なんかは作者ホントに 87分署好きなんやろなという感じが伝わってきてほのぼのしますね。なんか主人公にキャレラのコスプレさせてるみたい。
あと暴走運転刑事のでたらめカーチェイスぐらいはあるかなーと思ってたんだけど、断崖海岸風私がやりました自白で終わったりと、んーまあこれキャラクター紹介回で、本格的に始まるのは 次回からかなという雰囲気は全体的にあるかも。しかし、今回コンビを組む主人公ロヤコーノと暴走運転刑事アラゴーナのコンビが、なんか坊や哲とダンチのコンビが捜査に来たみたいな絵が浮かんで 楽しかったり、他にも暴力ハルク刑事やガンマニア女刑事などいいキャラも揃っているので今後には大いに期待が持てるんじゃないでしょうかね。
ただ、ここで多分他の人はあまり言及していないかもしれないこのシリーズの重要な問題点について指摘しておきたい。キャレラのコスプレでモテモテのロヤコーノ警部に想いを寄せる 二人の美女、ピラース検事補と、常連の飯屋トラットリア店主レティツィアが巨乳かぶり!ここはピラースをB~Cカップ、レティツィアをGカップ以上ぐらいの設定にするのがセオリーであろう。 シリーズの今後の展開に関わる重要な要素であるので、敢えてここで指摘しておきたい。イタリア人そんなにサイズにこだわり巨乳一択?作者の趣味?作者マウリツィオ・デ・ジョバンニは 女性客の胸を見つめすぎて銀行をクビになり、作家に転身した、とかデマ流したろかい。
まあなんだかんだ言ってもせっかく出たんだし今後には大いに期待したい、と言ってももうすでに2作目も出てて読めるんだけど。まあコロナの影響であんまり本屋にもいかなかったのもあるんだが、何度も言ってるように 昨今の日本の警察小説と言っとけば何とかなる傾向に辟易し、第1作が出た時手が伸びなかったところはあるよな。こっちがアリゲーターで少しイタリア方向気になって来たので出会えたという経緯なのだけど、 大抵は逆でこういうのがあってイタリア気にしてる人が多くなってきているので、アリゲーターもそこそこ見てくれる人いたのかなと思ったりもする。なんにしてもとりあえずは期待してるので、 第2作も早めに読みたいと思う。しかし、断崖海岸風私がやりました自白を平気でやっちゃうとこから、サービス抑えめ筆走らない読書のプロ老人でも安心して読めるミステリに終わっちまうんじゃないか、 という一抹の不安もあるのだけどね。
まあ日本の通例として創元推理文庫版の翻訳も2作目で打ち止め、というケースも十分考えられるのだけど、その場合はEuropa Editionsの英訳版で続きも読めますので。あと英訳版The Bastards of Pizzofalcone シリーズも日本と同じところから始まっているのだけど、ロヤコーノシリーズ第1作の『The Crocodile』も別に英訳されているので気になる人はそっちも読んでみては。あ、今見たらKindle版500円台と Europa Editionsものとしてはお手頃価格じゃん。早めに買っとけ。1作目からキャレラのコスプレしてんのかな、というのは大いに気になるところですな。
さて21世紀の87分署とか言われて、こちらとしては黙っておれんのがこちら、かのケン・ブルーウン作トム・ブラントシリーズだ!いや、第1作1998年で20世紀末なのだけど…。元祖マクベインとは全く異なるブルーウン作風ながらも1作目から、うわこれ完全に87分署スタイルやん!とうならせるところはさすがブルーウンとしか言いようがない! しかし常々言っておるように、ブルーウンには主人公が事件を解決しないという先鋭的な作風があるため、それを欠陥だと思い込み半笑いでバカにできると思ってるレベルの旧弊なミステリ評論家共に飼いならされた駄目ミステリファンもこの国にはあまりにも多く存在するため、こんな素晴らしいシリーズを日本で翻訳出版する必要は全くない。大体日本のミステリ観は4分の3世紀ぐらい遅れているので、このペースではブルーウンが正しく評価されるまであと3世紀はかかるだろう。世界が滅亡の縁ぐらいまで行ってジャッジ・ドレッド出てくるころかな。そんなもんはとっとと見捨てて原書で読むべし!
さて創元文庫と言えば、あれ出てるね、日本古典ハードボイルド全集。書かれたのは主に日本人がハードボイルドはみんなトレンチコートを着てると思ってた時代で、トラヴィス・マッギーもいくらか 入ってきてたかもしれんがほぼ理解されず、ウェストレイクとかも何とか入ってきてたんかな、というぐらいの頃までのものである。本場アメリカで言えば、Paperback Warrior師匠のところで おなじみのStark Houseあたりが頑張って復刻してるあたりの時代に対応する頃の古典作品である。ちょっと入手困難になってるのも多いこういう古典作品の復刻に力を注ぐ東京創元社には、 ちょっと前の高城高復刻と併せて30倍希釈Stark Houseぐらいの称号も与えて良いだろう。時代的にはあの馬鹿げた本格通俗が大手を振って歩き、アメリカのように私立探偵が免許制ではなく 拳銃の所持も許可されていない日本ではハードボイルドは成り立たない、というような正気を疑うような妄言が真顔で言われていたという頃で、それに加えて日本のハードボイルドには極端なロス・マクドナルド 偏重という問題もあるのだが、そういう問題の多い時代環境でも優れた作品は産み出され得るものである。古典作品というのは常にそれが書かれた時代というのを 考えつつ読まなければならない、ということやね。Stark Houseものに読む価値があるのと同様に、日本の古典作品にも読む価値あり。まあ、文庫本でスペース的にも価格的にも控えめで、いかに監修とかぬかして本の価値まで下げかねない役立たず評論家が名前を連ねてようが買っとく価値、読む価値はある古典全集やろ。
というところなんだが、一方でオリジナルの希釈なしのStark Houseでは、英国ノワールの知る人ぞ知る作家James McKimmeyの貴重な作品が発掘され、作品集としてまとめられ出版されており、 先日Paperback Warrior師匠のところで熱く紹介されていた。(Paperback Warrior / Never Be Caught) うわーそんな作家全然知らんかった!これ絶対読まなきゃ!しかもどっかのピークの過ぎたハリボテ書評家のハナクソ解説なんぞじゃなく、英国ノワールの重鎮にして、かの伝説のBlasted Heathの 設立者でもあったAllan Guthrieによる2004年に行われた作者へのインタビュー付きだぞ!あー師匠経由のやつでは以前いっぺんちょこっと書いたジミー・サングスターの 『Your Friendly Neighborhood Death Peddler』もいまだに読めてないんだよなあ。もう日々これ読まなきゃと思ってるぐらいなのだけど…。やっぱ復刻物でもそーゆーのいっぱいあると、 悪いけど個人的には日本の古典全集ちょっと優先度低くなっていつ読めるかなあぐらいになっちまうんだけど。なんか日本でもええっそんな作家いたんだ!?ぐらいのを発掘して 復刻してもらえんもんかねえ。どーよ、東京創元社さん。
もう少し書きたいこともあったんだけど、ちょっと遅れてたりもするので今回はこの辺で。5月末から6月上旬ごろ色々と用事が立て込んで疲れてたり、やや夏バテ始まってたりと、まあいつものことだな。 最後に予告的なことも含めて言っとかなきゃならんのはアレ!読んだよう!スプラッタウェスタン!!!Wile E. Young『The Magpie Coffin』!期待通りの激ヤバ作品や!スプラッタウェスタン! すげーの発明したな!これについてはなんとしても早めに書いて激推しして行かねばならん!今年はスプラッタウェスタン元年!あ、出たの去年か?まあいいや。ちょっと書かねばならんものも多いのだけど、何とか余地を作ってこれについても激しく語らねばならんので、ここで終わり!それを考えるとくだらん役立たず共に言及してるのなんて時間の無駄以外の何物でもないんだが、ここまでミステリ・エンタテインメント観が歪み切ったこの国じゃ、この場だけでもいくらか是正しなきゃまともに面白い本についても語れんだろうが。てゆーかこっちが心より愛するものを勝手に飯の種にして、てめえの都合で散々捻じ曲げた挙句に偉そうなクソを垂れ流す下衆連中なんて罵倒されて当然だろうが!常に読むべき本・語るべき本は山ほどあり、一方で時間も体力も根性もあまりに微弱だ。だがまだ倒れるわけにはいかん!合言葉はまちカドまぞく第2期まで生き延びよう!すでにかなり壊れ始めている気もするが、あんまり夏バテしないでなるべく早く帰ってくるぞ!あっ、もう7月じゃん!いつの間に?もうすぐS. A. Cosbyの新作も出ちゃうぞ!どどどうしてくれよう?うががっ…。
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