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2024年12月26日木曜日

James Carlos Blake / The House of Wolfe -Wolfeファミリー・シリーズ第2作!-

今回はジェイムズ・カルロス・ブレイクの『The House of Wolfe』。2015年に出版されたWolfe Familyシリーズの第2作です。

Wolfe Familyシリーズについては、以前#0『Country of the Bad Wolfes』と#1『The Rules of Wolfe』を一度にやったのだけど、今作はその#1に続く2作目。なんか現在英国No Exit Press版ではこれがThe Wolfe Series Book 3とかになっていて ちょっとややこしいのだが。
#0『Country of the Bad Wolfes』では19世紀に遡るWolfe一族の百年に亘る歴史が、メキシコ革命の始まりぐらいまで描かれ、そこから一気に100年ぐらい飛んで、21世紀初頭から始まるのが本編Wolfeファミリーシリーズとなっている。
国境であるリオ・グランデ川をはさんだ両岸に拠点を持ち、その歴史を通じメキシコへの武器密輸の最大供給元となりながら、両国の表社会でも裏社会でもその正体を隠しながら存在し続けるWolfe一族。一族の者のみが関わるそのビジネスには、 大学教育まで進み、学士号を取った者しかそれに携わることができないという厳しい掟があった。ファミリーの中でもその能力実力を認められながら、その掟のためビジネスに加われないことに不満を持つEddie Gatoは、独断でファミリーを 抜け出し、メキシコの麻薬カルテルに正体を隠したまま最下級兵士として加わる。だが、そのボスが囲っている美しい女性と恋仲になり、組織から逃亡し決死の国境越えでアメリカの地を目指す、というのが#1『The Rules of Wolfe』の ストーリー。
第1作では主にメキシコの辺境、荒野、砂漠地帯が描かれたが、この第2作では一転し、首都メキシコシティが舞台となる。第1作では断片的にのみ語られた、まだ謎の多い百年後のWolfe一族だが、今作ではそれらがどの程度明かされるのか? Wolfeファミリーシリーズ、第2作『The House of Wolfe』!


■The House of Wolfe


Wolfe Landing, Texas
物語はWolfe一族のアメリカの拠点、テキサス Wolfe Landingから、前作同様そのメンバーであるRudyの一人称で始まる。前作もそうだったが今作も一人称の語りがあるのはこのRudyだけで、他はそれぞれ違う人物の視点であっても、 常に三人称で記述される。まだ2作だけど、とりあえずブレイクが決めたこのシリーズのスタイルのよう。
Wolfe Landingの酒場であるDoghouseの、少し閑散とした日曜の晩の様子から。Rudyは酒場の主人で従兄弟であるCharlie FortuneとEddie Gatoと共にカウンターでブラックジャックをやり、横のテーブルには彼の兄Frankと常連であるProfessorが座って バーメイドのLilaが給仕している。ちなみにEddie Gatoは前作の最後に無事にアメリカに戻った後は、ちゃんと掟に従い大学を卒業し、現在はファミリービジネスに加わっている。
昼間から降り始めた小雨が夜になっても続き、日曜の夜とあっては店内は閑散としている。彼らの土地であるWolfe Landingは、先に続くところのない行き止まりであり、道を間違えた旅行者でもなければそうそう人の来る場所ではない。とはいえ、 土曜の夜のDoghouseサパースペシャルには近隣ブラウンズヴィルの常連たちが名物のシーフードガンボやバーベキューリブのために大勢詰めかけるのだが。
Charlieが勝ち、テーブルの掛け金をかき集める。Eddieがトイレに立ち、Lilaが代わりに入りゲームが続けられる。そこで店の入り口に二人の男が現れる。

「両手を頭の上に置け!全員だ!」メキシコなまりの声が命ずる。
二人の黒いスキーマスクを被った男。濡れた服。一人は中背、もう一人は小柄。二人ともに銃身を切ったショットガンを手にしている。雨の音で誰も連中がやって来た音に気付かなかった。
RudyはEddieがトイレの出口、彼らの視界外に一瞬現れ、すぐに姿を消したのを見止める。
店の中の者たちは二人の言うとおりに、カウンターの前に集められる。
一人がCharlieに近付き、言う。「お前がボスだな」
「金庫はどこだ?ごまかすなよ。金庫があるのは分かってるんだ」

Charlieは肘で後ろのドアを指す。「事務所だ」
二人が気を取られた隙に、表のドアからEddieが両手に銃を構え忍び込んでくる。強盗犯の入来を容易にしたのと同じ雨音に紛れ、一気に彼らの後ろまで近づく。
「お邪魔しますよ」いたって普通の口調で、Eddieがスペイン語で告げる。

男たちが振り向き、ショットガンの銃口が逸れる。Rudyが床に伏せ、FrankがProfessorをスツールから突き飛ばし、CharlieがLilaをカウンターの後ろに引っ張る。
そして拳銃とショットガンの発射音が同時に響く。
その間、約2秒。
Rudyが目を上げると、Eddieが強盗犯の一人にかがみこみ、心臓の1インチ上で銃を撃ちとどめを刺していた。うつぶせに倒れたもう一人も背中から同様に。
常に確実に仕留める。昔ながらのルールだ。

強盗犯の顔にも、財布の中の免許証からの身許にも覚えはなかった。奥まった地にあるこの店が狙いやすしと見た犯行なのだろう。
問題なく合法的に処理できる事件だが、それにより人目を引くことは何よりも彼らが嫌うことだ。
店の掃除はLilaとProfessorに任せ、CharliとRudy、Frank、Eddieは死体を運び出し、着衣と持ち物を処分した後、トラックに積み込む。
トラックは闇夜の中を進み、やがて開けた河岸へと着く。
二人掛かりでそれぞれ二つの死体を川に放り込む。暗闇の中でしばらく待つと、水音が響き始める。
ここには19世紀に彼ら一族がこの地に落ち着いて以来何かと役に立ってくれるワニ達が住み着いている。朝には骨の欠片ぐらいしか見つからなくなっているだろう。

店に戻ったのは夜中の一時ごろ。掃除もすっかり終わっていた。Charlieがそれぞれに一杯奢る。そして、LilaとProfessorは帰って行く。
Charlieに促され、全員が帰ろうとドアに向かった時に、電話が鳴る。
こんな時間に誰だ、と無視しようとするが、Lilaが忘れ物でもしたのかもな、とEddieが近づき受話器を取る。
Lilaだと思って取った彼の顔からにやけが消える。「どなた?」
「俺は帰ったと言え。切れよ」Charlieが言う。
「それは…、いえ、申し訳ありません。声を存じ上げていなかったもので」Eddieが電話に向かって言う。「Eddieです。Eddie Gatoです。…はいっ、彼ならここにいます」
Eddieは送話口を押さえ、受話器をCharlieに向かって差し出しながら言う。「Harry Mackからだ」

Harry McElroy Wolfeは、Wolfe一族の三人の長の中でも最年長にして、テキサスファミリーのヘッドだ。そして、Charlieの父でもある。
彼が店の電話に掛けてくるようなことはない。Charlieに連絡を取りたければ、大抵携帯に掛けるし、それを取れない時にはメッセージを残す。
恐らくは既にそちらには掛け、メッセージを残したのだろう。それでもなお、店の電話に深夜一時半に掛けて来るというのは、ただならぬ事態が起こったということだ。

Charlieは父であってもヘッドであるHarry Mackには常に敬語で話す。時折「はい」と「そうです」と答えるのみでCharlieは電話に耳を傾ける。
そして最後に「わかりました。着替えてパスポートを用意するだけです。一時間以内にそちらに着きます」と話し、挨拶の後電話を切る。
そして待つ三人に向かって言う。
「Jessieが攫われた」

序盤約20ページのプロローグ部分は、前作同様にWolfe一族のやり方、というものが示され、それに続き本作のメインストーリーとなる一族の一人であるJessieがメキシコで誘拐されたことが告げられる。
その先は、その中がさらに短い章に分かれたⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの四部で構成され、最後に短いエピローグが入るという構成。
大筋としては、メキシコシティに住む名家富豪一家同士の結婚式が行われ、そこで身代金目当ての誘拐事件が企まれ、家族の友人として花嫁の付き添い役として参加していたJessieが巻き込まれ、誘拐犯に捕らわれ、危機に陥るというもの。


なんか色々悩んだのだけど、この作品、特にこの第1部に関しては、上から順番に書いて行くという方法ではかなり冗長になる上にわかりにくくなるかと思う。理由としてはこのパートが主に誘拐犯たちの視点による犯罪小説形式で書かれており、 その詳しい理由などをそこでは書かないまま、手順に沿った行動を積み重ねて行くという形になっているから。
ゆえに結構予め整理した感じのあらすじとなってしまうことを、ご了承いただきたい。国産物や翻訳されたものと違い、現物との距離がある原書を紹介する上では、なるべく実際に読んだ感触と近い形で説明するのを心掛けているのだが、 やっぱ時々こういう風に難しくなったりするのだよな。

まずこの誘拐事件は、本来それらの脅威から護るのが仕事の警備会社のトップであるJaime Huertaにより企てられている。自身が立ち上げた警備会社で実績と信用を積み重ね、こういった重要人物から仕事を依頼されるまでに昇り詰めたHurrtaだが、 この大富豪両家から大金を奪い取れる結婚式というチャンスに、少年時代からの友人で、現在は少数精鋭のギャング団のリーダーとなっているGalanに計画を持ち掛け、この誘拐計画が実行されることとなる。
第1部は、Belmonte家とDemetrio家との結婚記念パーティーが行われているBelmonte家の屋敷に、警備全般を担当するAngeles de Guardaの社長であるJaime Huertaが二人の男を伴って現れるというところから始まる。この二人はGalanのギャング団の メンバーであり、まずは屋敷の警備を気付かれないままに元々の自分の部下から誘拐計画実行のためのギャング団に入れ替えて行く。
屋敷でのパーティーがひと段落し、花嫁花婿と家族は別の場所で行われる二次会のために車に分乗して向かうこととなる。花嫁の付き添い役であるJessieも、その車に乗る。既に運転手はギャング団に入れ替わっており、理由を付けて予定のルートから外れ、 人気のない場所へと花嫁花婿、兄弟たちが乗った車を進め、そこで誘拐が実行される。
誘拐の手段としては、総勢10名になる両家の子息を二つのグループに分け、それぞれ別の場所に監禁し、両家それぞれに同額の身代金を要求し、それが支払われた後グループごとに解放するというもの。別の車に乗っていた両家の両親たちも、 同様の人気のない場所へ連れて行かれ、それらの説明をされた後、誘拐団の厳重な監視の元Belmonteの屋敷に帰される。
そして、まだ屋敷に残っていたJessieの招待客として招かれていた、彼女と同年代で仲の良い従姉妹でありメキシコ側Wolfeファミリーの一員であるRayo Luna Wolfeが、両親たちの不審な様子からドアの外で聞き耳を立て事態を察知し、 それがテキサス側のファミリーにも伝えられるところとなる。

第1部に関しては、主にギャング団サイドと、そこから自力で脱出を図るJessieからの視点により進められて行く。


短い第2部は、Wolfeファミリーサイドとして、Rudyの一人称のみで語られる。
Rudyはarry Mackからの報せの後、Charlieと共にメキシコシティへ向かう。そしてメキシコ側の組織Jaguarosの作戦行動のトップで、テキサス側のCharlieと同じポジションであるRodrigo Alvaro Wolfe、事件を察知し連絡したRayoらと会う。
第2部で描かれるのは、Rudyの目から見たこれから事件に対応するメキシコ側の態勢といったところが主だが、後半ではJessieの生い立ち、キャラクターや、ある事情で両親を失って以来Jessieの親代わりとして彼女を後見してきたCharlieの 思いなどが語られる。

大体この辺までで全体の半分ぐらい。続くⅢでは誘拐の翌日、身代金受け渡しのための動きが始まって行く。
指示された通り、翌朝身代金を用意するため屋敷を出る両家の父親。問題が起こらないようにそれぞれを監視のため尾行する誘拐団の男たちの車。
そして更に、メキシコ側のWolfeファミリーメンバーと、Rudy、Charlieが、それらに悟られないよう密かに監視し始める…。


誘拐物といえば、エド・マクベインの名作『キングの身代金』が思い起こされる、というのがワンパターン、定番、テンプレートだが、まず言っとくとこの作品ではそれ思い起こしちゃダメ。
なぜかと言えば、そういった従来の誘拐物では、誘拐犯⇔誘拐された者の家族、捜査する側という関係で描かれ、場合によっては前者はほとんど描かれず、後者のみの視点ということも多い。だがこの作品では、誘拐された家族の側、富豪両家の両親たちの 描写は極めて少なく、特に第1部に関しては、いかにして誘拐犯たちが自分達の計画をスムーズに完遂させるかという方向の犯罪小説といった様相になっている。ここで誘拐物といえば云々を思い起こしていると、読んでいる側がモラル的な違和感に 捕らわれてしまい、話について行けなくなってくる場合もあるだろうということ。実際のところ、自分もややその傾向に嵌まりかけたし。
ではなぜこの作品はそんなことになっているのか?
まず作中で明確に告げられる誘拐犯側の思惑。この誘拐を計画通りに進め、大金をせしめ、人質は無事に返す。それが最も後の捜査追及からも逃れやすい形だ。
そして、この中で第三の局となるWolfeファミリーの考え。とにかくJessieが無事に戻ることが最優先。そのためには、まず誘拐が問題なく成功し、人質が無事に返されることが望ましい。だが、犯人の実態がわからない以上、人質が無事に返される 保証はなく、そのために犯人を突き止め、事態の推移を慎重に見守る必要がある。ちなみに付け加えれば、メキシコの表と裏に強力なネットワークを張り巡らせるWolfeファミリーゆえ、後に犯人を突き止め報復を加えることはできるという考えもその背景にはある。 第1作『The Rules of Wolfe』の最後では、Eddieの敵となった麻薬カルテルを、後に極秘裏に壊滅させる経緯が簡単に描かれていたりする。
以上の二つの物語の方向性から、この作品は従来の思い起こされる系の「いかにして人質を安全に救い、犯人を突き止めるか」ではなく、「いかにして誘拐計画を成功させるか」という犯罪小説寄りの物となっているわけだ。
そしてこういった方向の話で最悪の結果となるのは、誘拐計画が破綻すること。それは人質が全員殺されるという可能性に繋がる。そして犯罪小説の常のように、完璧に見えたこの犯罪計画も、次第にあちこちから綻び始めて行くこととなる…。

前は多分#0『Country of the Bad Wolfes』と#1『The Rules of Wolfe』を続けて読んだために気付かなかったのかも、と思うのだが、今回この『The House of Wolfe』を読んで、ブレイクの文章に若干の読みにくさを感じた。
『Country of the Bad Wolfes』というのは19世紀のWolfe一族百年を描いた作品で、なんかほぼ歴史小説といった感じの物。何しろ百年ぐらいを書くのだから、そういう小説では一つの行動やら、その人の生い立ち、人物関係などがずらずらっと やや動きの乏しい説明的とも言えるような文章で書かれることとなる。割とそんな感じの描写がこっちの続く作品でも使われているような印象。そっちの『Country~』の方でもよくあったのだけど、1ページ以上に亘って改行なしでずらずらっと 書かれるようなのがざらに登場する。
ブレイクの考えでは、物語をコンパクトにまとめる手法ということになるのかもしれないが、やはりやや読みにくい印象になるのは否めないかも。元々歴史的なところに舞台を置くブレイクの至った地点ということになるのかもしれないし、 なんか批判しようというような意図はないが、これから読む人のために一応注意しとく。
しかし、動きのある見せ場についてはさすがという感じで、終盤50ページぐらいの息詰まる追撃って感じのところでは、なんか色々放っぽリ出してひたすら読み耽った。いやいや、自分的には最近ではそうそうそこまでのは無いから。

そしてこの作品で最も印象に残る圧倒的というような風景が、本当にあるのかはわからないのだが、メキシコシティの貧民街の先にある広大なゴミ捨て場の、その奥にあるゴミが燃やされている巨大な穴。毎日やって来る多くのゴミ運搬車によって 次々と放り込まれ続け、その中央で燃える炎は大嵐が来ても消えることなく燃え続けるという地獄の穴というような情景。
作中に時々現れたり言及され、最終的な追撃の舞台ともなるこの地獄の穴はこそが、この作品の中心というべきものだろう。
これを読んだ後ぐらいに読み始め、まあ二段組約850ページという化け物的作品ゆえまだ読み終わってないのだが、現時点で既に21世紀を代表する文学との呼び声も高いロベルト・ボラーニョ『2666』を読んでいて、簡単に説明できるような作品ではないのだけど、 関係あるとこだけ説明すると、第1部~第3部の物語がいずれもメキシコのサンタテレサに至り、その背景のようにその地で女性の連続殺人事件が起こっていることが語られる。そして全5部の中でも最長ぐらいになる第4部「犯罪の部」では、 そのサンタテレサで次々と女性の陰惨な死体が発見され、場合によっては身許すら不明なままで大半は未解決のまま放置される様子が、淡々とという感じで延々と描かれる。
それを読みながら常に頭に浮かんでいたのが、この「地獄の穴」だった。
この『2666』に、ジャンル小説というところではウィンズロウのカルテル三部作。21世紀前半のこの時期の、文学のある部分ではメキシコが重要な地点として記憶されることになるのだろう。エルロイ新LA五部作の第2作『This Storm』における ナチスと日本と共産主義者がメキシコでその地の独特の政治ポジションによりメキシコの政治権力の高いレベルまでと手を結ぶ混沌もかなりすごかったしな。
そしてこの後も、まだ見ぬメキシコを舞台とする恐るべき作品と出会うことになるのだろうが、そこにおいても自分の頭からは常にこの「地獄の穴」が離れないのではないかという予感があるよ。

ジェイムズ・カルロス・ブレイクも今年で77歳。60代半ばぐらいでこのWolfeファミリー・シリーズを開始した時点で、自身の集大成とするような意図もあったのではと思う。前回『Country of the Bad Wolfes』に過去作『In the Rogue Blood』の Edward Littleが登場することを書いたが、その後も過去作のキャラクターをこのWolfeファミリー・シリーズに組み込み、自身の作品世界を統合しようというような考えも持っているのかもしれない。いや、それ個人的に大いに希望するので、 絶対持ってるはずだ!と強引に確信する。
第1作『The Rules of Wolfe』では、現在空白となっている20世紀部分に少々の言及ぐらいしかなく、今作ではメキシコサイドでもっと語られるのではないかと期待していたのだが、そちらについては全くなくて、メキシコ側のWolfeファミリーについても、 軽い輪郭が見えるくらいしか書かれなかった。いや、他作品のキャラクターというところは一旦置いといても、『Country of the Bad Wolfes』で最後に壊滅状態となったWolfeファミリーの土地や、父親が開き、後に双子が拠点とした入り江とか その後どうなったのかスゴイ気になってんだよ。
しかし、その一方で、現代を舞台としたこのWolfeファミリー・シリーズでは、現代のメキシコを描くということがブレイクのより重要なテーマとなってきているようにも思える。『The Rules of Wolfe』のメキシコの辺境に無法の王国を築き、 君臨する麻薬カルテル。そしてこの『The House of Wolfe』における、極端な貧富の差の結果として頻発する誘拐事件。
そしてそれらの混沌と悪徳の象徴となるのがこの「地獄の穴」なのだろう。これが今のメキシコの姿だ、というブレイクの声が聞こえてくるようだ。
どうやら現代のメキシコを描くという方向がメインとなっているように思われるこのWolfeファミリー・シリーズ。だが前述のような過去20世紀の物語の構想は、確実にブレイクの頭の中にはあるはず。それらは今後このシリーズの中で言及されて行くのか? それとも、今後『Country of the Bad Wolfes』の続きという形で単独で書かれる可能性もあるのかも?
どうする?みんな読みたかったあの人のその後とかこれから出てくるかもしれないんだぜ。色んな意味でこのジェイムズ・カルロス・ブレイクWolfeファミリー・シリーズからは目が離せないよなあ。このシリーズについては今後も絶対に追って行き、 その行く末を見届けるものであります!


なんとか年内にもう一本、とやや頑張り何とか間に合ったか。今年は去年みたいに年末年始体調崩して寝込むことにならんよう気を付けようと注意しつつ…。
あんまりガラではないが、最後に年末の挨拶でもして終るとしよう。なんかまあとにかくよいお年を。来年も良い本の情報をなるべく多くお届けできるよう頑張りますよん。ってことで。

■James Carlos Blake著作リスト
●Wolfeファミリー・シリーズ

  1. Country of the Bad Wolfes (2012)
  2. The Rules of Wolfe (2013)
  3. The House of Wolfe (2015)
  4. The Ways of Wolfe (2017)
  5. The Bones of Wolfe (2020)

長編

  • The Pistoleer (1995)
  • The Friends of Pancho Villa (1996)
  • In the Rogue Blood (1997)
  • Red Grass River (1998)
  • Wildwood Boys (2000)
  • A World of Thieves (2002) 『無頼の掟』
  • Under the Skin (2003) 『荒ぶる血』
  • Handsome Harry (2004) 『掠奪の群れ』
  • The Killings of Stanley Ketchel (2005)

短篇集

  • Borderlands (1999)


※追記:
2025年1月11日、ジェイムズ・カルロス・ブレイク氏が81歳で亡くなられました。このThe Wolfe Familyシリーズについても、まだ多くの構想があったと思われ、本当に残念なことです。ブレイク氏の優れた作品の数々が、末永く読み継がれるように願っています。ご冥福をお祈り致します。

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2024年12月5日木曜日

Josh Stallings / Beautiful, Naked & Dead -2010年代ハードボイルドの到達点!Moses McGuire三部作開幕!-

今回はJosh Stallingsの『Beautiful, Naked & Dead』。2011年に出版されたMoses McGuireトリロジーの第1作です。

いや、これについては本当に申し訳ないとしか言いようがない。少なくても5年…、いや7~8年ぐらい前に書いておかなきゃならん作品だった。
2010年代に出版された作品の中でも重要作という認識は常にあり、読むからには絶対に書かねばならんと思いつつ、モタモタ進めるうちに、あ~あれの続き書かなきゃならんからまた後回し見たいのが積み重なり、延々と遅れるうちに、 なるべく新しい作品について書いて行かなければという思いから、これは少し古いものになってしまったかもしれないなどという気持ちも薄く被ったり、ということまで重なり延々と後回しになっていてしまった。
ただ、この作品については読むからには絶対に書かねばならんという思いが常にあり、それゆえにあんまり書けない時期、読んでも書けないかもしれないようなときにはなかなか手が出なかったというのも、これほどまでに遅れてしまった要因の一つ。 …いや、結局全てお前のせいじゃん…。重ね重ね申し訳ない…。
2010年代、アメリカのAmazon.comで、インディークライム作品を検索すれば、Anthony Neil SmithのBilly Lafitteシリーズや、Ray BanksのCal Innsなどと並び、必ずぐらいにおススメに挙がってきていたのがこのMoses McGuireシリーズ。 それらとも完全に並ぶ、2010年代ハードボイルド/ノワール最重要作、Moses McGuireトリロジー!本当に遅ればせながら、ここから始まります!


【Beautiful, Naked & Dead】


この世にあんたの生命がかかってるステンレススティールの銃身のガンオイルほど冷たい味の物はない。

俺のスナブノーズのスミス・アンド・ウェッソン.38口径のハンマーを押し戻し、発射位置にクリックする。トリガーへの3ポンドの圧力はハンマーを雷管に落とし、4.5グレインの無煙火薬を発火させる。爆発の結果は、158グレインの鉛を秒速1085フィートで 銃身から発射させ、俺の口蓋を掘り起こし、脳を通過し頭蓋骨の後ろから飛び出させる。まあ、かなり複雑な工学過程に見えるが、単に一つの命が終わるだけの、このとき俺がやろうとしている単純極まりない作業だ。馬鹿め。俺がやるべき全ては、 充分長くうろつき回り、みんなが列を作ってその仕事をやりに来るようにすることだっていうのに。

2ポンドの力を加えた時、電話が鳴る。ただの悪いニュースの追加あたりがありそうな話だ。だが、クソくらえだ、後でいつだろうが自分を殺すことはできる。あるいはビールを飲むか、ボーリングに行くか、何だろうとみんなが自分を殺す時 以外にすることを。

「もしもし?」
「Mo?…今忙しい?」
それはKellyからだった。クラブXtasyのウェイトレス。俺が金欠の時に用心棒をやってるストリップバー。この2年はいつもそうだが。彼女はおそらくは俺の唯一の本当の友人だ。

「どうした?」
「ちょっと複雑なの。あなたが私にとって、この世界全体でただ一人信用できる人だから、わかるよね、Mo?」
「奴らが…、彼女を…、私の妹を捕まえようとしてて…。えっと…私はあなたが思ってるような人間じゃないのよ…Mo」
「奴らって誰なんだ、Kell?」
「奴らは…わかるでしょ…ややこしいのよ。私のこと嫌いにならないでね、Mo。私は…ただ…つまり…。まずいことになって、私たちじゃどうにもならなくなって。でも、あなたを傷つけたくはないのよ。ただ、妹が…」

「どこにいるんだ、Kell?家か?」
「クラブにいるわ…、Mo…、月曜だから…。でも奴らは…、奴らからは隠れられないのよ…、関係ない、わかる?」
「一杯飲んで落ち着け。15分でそっちに行く」

一人称語りの主人公が、拳銃を加えて自殺を試みてるという何とも物騒な感じで物語は始まる。
用心棒を努めるストリップバーのウェイトレスKellyからの助けを求める電話により、主人公Mosesはとりあえず一時的にでもこの世に引き戻され、愛車76年型ノートン・コマンドに跨りバーへ向かう。
Kellyはクラブで唯一性的サービスを行わないウェイトレスで、Mosesにとっても性交渉を伴わない唯一の純粋な友人だ。

クラブに着いたMosesは、オーナーのMannyの甥であるバーテンのTurajに、Kellyはどこだと尋ねる。
あいつはシフトの途中で出てっちまった。服さえ着替えないままな。
折り合いの悪いTrujの言い草に腹を立て少しもめるが、電話じゃ15分と言ったが結局1時間ほど過ぎてしまってる。追い掛けて話しを聞くか?
とりあえずはどうしようもなくビールを出させてカウンターに座るMoses。

ぼんやり店内を眺めていると、プライベート・ラップ・ダンス用個室からアルメニア人のチンピラの二人組MuttとJeffが出てくる。
この店のオーナーはイラン人で、アルメニア系のシマは別にある。この店で連中がデカい顔をする権利などない。
通りすがりにダンサーに度を過ぎたちょっかいを出すのを見て立ち上がりかけるMosesだったが、Trujにあいつら悪い奴じゃないから、と止められる。
そして、二人が出てきた個室から中にいるはずのダンサーが戻らないのも気になり、Mosesはそこに向かう。

部屋の中にはダンサーPiperが意気消沈した様子で座っていた。
「何があった?」
「畜生…、あの鉛筆チンポ野郎、週に100ドル出せって…、さもなきゃ…」
「奴らにいくら渡した?」
「200ドル…、あいつらラップダンス代すら払わなかった…」

直ちに二人を追って外に出るMoses。アルメニア人たちは彼らの10年物のBMW 740iに向かって歩いていた。痩せた小男と連れのマッスル野郎。
駆け寄ったMosesは、大男にタックルをかまし、髪を掴んでBMWのフードに叩きつける。鼻の潰れる音。
頭を引き上げ、もう一度叩きつける。力の抜けた男を側道に転がす。
その間に、小男はポケットから銃を取り出し、Mosesの顔に突きつける。グロック9mm。
「アタマ吹っ飛ばすぞ、この野郎!」
「やってみろよ、頼むわ。引き金引きなよ。目と目の間のここだ」額を指さしMosesは言う。
躊躇って横目で相棒を窺ったスキが命取りになる。Mosesは小男の銃を持った腕を押し上げ、そして男を走って来たモンテ・カルロめがけて放り出す。
何処かの骨が折れる音の混ざった重い衝突音。小男は宙を飛び放り出される。有り難いことにここはL.A.だ、車はそのまま走り去る。

小男を路地に引き摺り戻し、その過程でグロックを取り上げる。苦痛にわめく男を黙らせるため、頭を地面に叩きつける。
そこで体勢を立て直した大男が歩み寄って来る。報復する気満々の目がMosesの手のグロックにとまり、足を止める。
この9mm弾だけで奴を止めるのは無理だろう。ここは駆け引きだ。「何をやるにしろ、オマワリが来て、この銃と血とこいつについて説明しなきゃならんことになる前に片付けた方がいいぞ」
大男は少し考えた後、Mosesの前を過ぎ、小男を回収しBMWのバックシートに積み込む。
大男がかがんだスキに男のポケットから財布を抜き出す。免許証と金を抜き取った後、財布をフロントシートに投げ込む。
「ウチの女の子にちょっかい出そうなんてまた考えてみろ。必ず見つけ出すからな」
BMWは大男の運転で走り去る。それを見送りながらMosesは思う。近頃の若い奴はどうなってんだ?俺があの年の頃はこんなオヤジにいいようにされはしなかったぞ。

店に戻ったMosesは、アルメニア人たちの200ドルをステージでダンス中のPiperに渡す。
Kellyのことが気になりながらも、ステージから降りたPiperの誘いを断り切れず、個室でラップダンスのサービスを受けてしまうMoses。
店に戻り、Kellyの番号に掛けるが、相変わらず通じない。
バーに行き、明らかにアルメニア人たちと通じていたTrujを脅し、店のルールではご法度になっているKellyの住所を聞き出す。

聞き出した住所のKellyのアパートに行ってみる。カーテンの隙間からのぞく詮索好きな目を気にしながら、階段を上りドアをノックする。
応答はない。Kellyは不在のようだ。
Kellyから話を聞いていた、飼っている犬をよく連れて行くドッグ・パークへ行ってみる。
ここにもKellyの姿はない。

諦めて家に帰り、マッカランを注ぐ。
Kellyのことが頭から離れない。自分が心配するほどのことではないのだろう。そう言い聞かせる。
もう一度Kellyの番号に電話する。やはり応答はない。
Mosesは再びノートンに乗り、彼女のアパートへと向かう。

Kellyのアパートには依然灯りはなかった。ノックの後、スチールのカードを使い鍵を開け、中に入る。きちんと片付いた、いかにも彼女らしい部屋。
そしてベッドルームのドアを開け、持ってきたマグライトで中を照らす。
最初に目に入ったのは、ベッドの上の足。彼女は裸でベッドの上に手足を拡げ、穏やかに眠っているように見えた。彼女の頭の後ろが赤く血に染まっていることに気付くまでは。
信じられず、彼女がまだそこから見返してくることを望みながら、顔を照らす。後ろの壁が目に入る。飛び散った血、髪の毛、骨の欠片、脳髄。
顔には撃たれた跡はない。殺人者は、彼女に拳銃を咥えさせ撃った。喉から入った弾丸は後頭部に抜けた。
彼女の身体を照らしてみる。千切れかけた乳首。乳房、腹には煙草を押し付けたいくつもの跡。
膝から崩れ落ち、床に座り込むMosesの目から涙が溢れ出す。

身動きもできずその場に座っていたMosesは、やがてバスルームからの音に気付く。
ドアを開けてみると、Kellyの飼っていたストロベリーブロンドの子犬が飛び出してくる。
やっと解放され、一時は喜ぶが、彼女の飼い主の様子に気付き、うなだれベッドわきに垂れた動かなくなった彼女の手を悲しげに舐める…。
アパートの中の自分の指紋が残っていそうなところを拭き、子犬を連れて部屋を出るMoses。
酒屋の外にあった公衆電話から、偽名で警察にKellyの死を通報する。

バイクを運転するため、子犬をレーザージャケットの胸に入れる際、首につけられたタグから犬の名前がAngelと知る。
家に帰り、古い寝袋を使ってAngelの寝床を作る。
3~4杯のスコッチを飲んで横になるが眠れず、ベッドに上がって来たAngelの寝息を聞きながらやっと眠りに落ち、翌朝悪夢にうなされ目覚める。
昨日のドッグパークに行き、Kellyの友人を見つけ、Angelを引き取ってもらうよう頼むが、不審がられるばかりで諦め、家に帰り子犬を置いて、クラブに行く。

クラブには既に警察が聞き込みにやってきていた。警察はMosesを怪しいと睨み詰問するが、その場は引き下がる。
だが翌朝、自宅で叩き起こされたMosesは、手錠を掛けられ警察署へと連れて行かれる。今度は暴力事件で服役したMosesの前科と、Kellyのアパートでの目撃証言を持って。
しかしそれ以上の容疑を固める証拠もなく、少々の尋問の後、Mosesは釈放される。
翌週、Kellyの葬儀が行われ、縁者も見つからないKellyの遺灰は、最も近い人間としてMosesに渡される。
そしてKellyの捜査は打ち切られる。身寄りもないストリップバーのウェイトレスに、それ以上警察の人員が割かれることはない。

そして9日が過ぎる。打ちひしがれスコッチを呷り続けた。だがもう病み疲れていることに病み疲れた。
俺には二つの選択肢がある。気力を起こし、今度こそ自分を殺すか、Kellyを殺した奴らを見つけ、報いを受けさせるかだ。俺の魂の麻痺は、沸き上がる怒りにより除かれる。目には目を、歯には歯をだ。
怒りは俺の心に張られた蜘蛛の巣を吹き飛ばす。誰かがKellyが被った代償を払わせなければならない。警官が奴らを見つけられないなら、俺がやる。

最後のKellyとの話に出て来た"妹"。手がかりとしては、それが考えられる。
犯行現場だったKellyのアパートを調べてみるが、収穫は無し。だがクラブの彼女のロッカーを探るとポストカードが見つかる。
ネバダの合法風俗店Cock's Roostからのポストカード。やっと落ち着ける場所を見つけたと喜ぶ文面に、Cassの名。
Mosesはネバダへと向かい旅立つ。そしてそれはMosesを果ても見えない暴力の嵐の中へと導いて行くこととなる…。


主人公Moses McGuireの生い立ち、それまでの人生については、三分の一ぐらいまで進んだあたりで、やっと語られる。
カリフォルニア州アルタデナ荒んだ街に生まれ、6歳の時暴力的な父親は家族を捨てて去り、来る日も来る日もテレビ伝道師を眺める狂った母親にも放置され、兄Lukeと二人で自分達の生活を支えながら育つ。
16歳の時、その兄も彼を捨てて去り、兄の出生証明と古い免許証で年齢を偽り、海兵隊に志願入隊する。
そしてレバノンに派遣。そこで、間違った作戦のため、避難中の民間人を射殺してしまう。
罪悪感から酒に溺れ、不名誉除隊を待つばかりの身になったころ、故郷に置き去りにして来た母親の死亡通知が届く。
だが、彼が感じたのは罪悪感でなく、解放されたという気分だけだった。

荒れた少年時代からの繋がりで、いくらかの組織犯罪への伝手もある。現在あの辺はどうなってて、引っかき回すことになっても大丈夫かとの確認ぐらいのものだが。詳しくは語られてはいないが、暴力事件での前科もある。
最初から望みもなかったような人生の末に辿り着いた底辺で、いつでも命を投げ捨てたいような気持で崖っぷちを彷徨うように生きる。だが、同じように底辺で生きる店の女たちには、仕事に留まらない気持ちで守りたいと願う。
実は冒頭でぶちのめしたアルメニア人二人組とも、後には同じような世界で生きる人間としてのつながりも生まれたりもする。

序盤から愛車76年型ノートン・コマンドで走り回り、移動手段がバイクの主人公って結構珍しいよな、と思っていたのだけど、Kellyの妹を捜し州外に足を延ばすことになると、割とあっさり売っちゃって四輪に乗り換えたり。 そんなにこだわりなかったのかな…?
苦労の末見つけ出したKellyの妹もまた、同じ犯人により命を狙われており、そこからは彼女の命を守る旅へと物語はシフトして行く。
警察が見捨てる世界での事件は、殺害犯人と殺害理由の特定では解決しない。自分たちの生命が蹂躙されないための解決は、相手を潰す以外にはない。
正義のエクスキューズすら持たない暴力による解決は、この時代へのハードボイルドからの一つの解答か。
2010年代ハードボイルドの最もヘヴィーな部分を代表するMoses McGuireトリロジー第1作!


Moses McGuireトリロジー。トリロジーなんで、どういう形かわからんけど3作で終わります。やはりより主人公そのものが事件に関わる部分が深くなっているような現代のハードボイルドは、短命で終わる傾向にあるのか。
そう考えると、いつ人生終っても全然不思議じゃないジャック・テイラーさんのシリーズが、意外とロングランなのも不思議なのかも。いや、もう一回りぐらいして考えれば、人生なんてそうそう綺麗に終われるもんじゃなく、 色んなもん引き摺りながら延々と続いてしまうのだよ、ってことかもしれんね。
いずれにしても、開始時点でもうそうやって続いてきた自分の人生を投げ捨てようと思ってるような主人公の物語が、どう続いて行くのか要注目ですな。今度はちゃんと追って行くから。

作者Josh Stallingsは、1958年L.A.生まれの現在66歳。アマゾンのページに掲載されている作者紹介によると、元犯罪者、タクシー運転手、クラブの用心棒などの仕事(一部?)を転々とした後、脚本、編集などで映画製作に携わり、トレイラー編集者として 多くの受賞歴もあるとのこと。米露合作映画『The Ice Runner』で、脚本と編集を担当。作家Tad Williamsと脚本を共同執筆し、監督した映画『Kinda Cute for a White-Boy』は、サバンナ国際映画祭で最優秀作品賞を受賞した。その他に、ロボコップの 脚本家などで知られるエドワード・ノイマイヤーとゲーム『Ground Zero: Texas』のシナリオを共同執筆した、というような経歴あり。
2011年のこの『Beautiful, Naked & Dead』がデビュー作となる。版元Heist Publishingというのが正体不明なんだが、もしかするとStallingsの個人出版社かも。そしてMoses McGuireシリーズが、『Out There Bad』(2011)、『One More Body』(2013)と続き、 同2013年には今や伝説となっちゃったSnabnose Pressより自伝小説らしい『All The Wild Children』を出版。残念ながら現在は絶版なのだが…。いや、私は持ってるんでいつか読むが自慢するが。続いて2015年にはHeist Publishingより 『Young Americans』。2021年にはAgora Booksより『Tricky』を出版しているが、これプリント版のみでやや入手困難かも。
寡作なのか、他の仕事もあるせいか、出版運に恵まれないか、やや作品数の少ないJosh Stallingsなのだが、一方で複数の作家が日替わりで記事を書く「Criminal Minds」というサイトのメンバーでもある。
やや最近の注目記事で「10 Books Every Crime Writer Needs to Read, or a Quick Guide to Hard Boiled, by Josh Stallings」というのが あったので、最後にそれを紹介しておこう。

■10 Books Every Crime Writer Needs to Read, or a Quick Guide to Hard Boiled, by Josh Stallings


リーダーからの質問に答えるという形式のこのサイトの記事で、全ての犯罪小説作家が読むべきと思うクラシック作品を教えて欲しい、というのに応えて書かれたもの。複数のジャンルで、全10作品を選んでいる。

Hard-boiled
#1 The Big Sleep, by Raymond Chandler (1939)
  『大いなる眠り』(レイモンド・チャンドラー)
#2 Cotton Comes to Harlem, by Chester Himes (1969)
  『ロールスロイスに銀の銃』(チェスター・ハイムズ)
#3 Devil in a Red Dress, by Walter Mosley (1990)
  『ブルー・ドレスの女』(ウォルター・モズリイ)
#4 Dancing Bear, by James Crumley (1983)
  『ダンシング・ベア』(ジェイムズ・クラムリー)

Country Noir
#5 Tomato Red, by Daniel Woodrell (1998)
#6 No Country for Old Men, by Cormac McCarthy (2005)
  『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』(コーマック・マッカーシー)

Latin American Hard-Boiled
#7 An Easy Thing, by Paco Ignacio Taibo II (1977)
  『三つの迷宮』(パコ・イグナシオ・タイボ二世)
#8 Death in the Andes, by Mario Vargas Llosa (1993)
  『アンデスのリトゥーマ』(マリオ・バルガス・リョサ)
#9 Dark Echoes of the Past, by Ramón Díaz Eterovic (1990)

Epic Crime Fiction
#10 Cartel trilogy by Don Winslow (2005-2019)
  カルテル・トリロジー(ドン・ウィンズロウ)
  The Power of the Dog『犬の力』、The Cartel『ザ・カルテル』、The Border『ザ・ボーダー』

それぞれの作品についてStallingsのコメントが付いているが、そちらについてはリンク先のオリジナルの方を見てね。
つーわけで、うん、現在のハードボイルドってとこから考え俯瞰した、見事なクラシックラインナップやね。さすが。
『ダンシング・ベア』について、世界は腐って卑しい場所ではあるが、それでもなお救う価値があるというメッセージに打たれたというコメントがあるが、大いに同意する。これまでに書かれた最高のハードボイルドだってところにも。 ああ、クラムリー全作読み返そうっと!
ハイムズに関しては、自分は結構読むの遅れたのだが、ハードボイルドの歴史の中で絶対になしでは語れない作家だと思う。モズリイ、なんだかんだであんまり読めてないのは反省。最新Mulhollandで再開以前までのシリーズは、1000円以下ぐらいで 入手できるようになってるみたいだし、未訳のところから継続して読まねば。
時々言ってる読書のプロの下劣座談会で「ミステリとして」踏みにじられた名作パコ・イグナシオ・タイボ二世『三つの迷宮』が入ってるが、もう気持ち悪い見るのもヤダで翻訳ミステリみたいなところいくら無視しても、こういう過去の 負の遺産が現れることにはホントうんざりだわ。
楽しい前向きな話題に戻せば、Ramón Díaz Eterovicの私立探偵Herediaシリーズ全然知らなかったんで、ホント嬉しい!英訳電子書籍版2作しかないんだけど、なるべく早く読んで書くですよ!あと、ダニエル・ウッドレルもなんだかんだ言って ほぼ未訳なんだよな。とにかく来年ぐらいウッドレル作品読み始めるを目標に。あとマリオ・バルガス・リョサも!
最後のEpic Crime Fictionってとこ、ウィンズロウのカルテル三部作はまだ最近の作品だが、これ間違いなく必読のクラシックになる作品だからね。それはそれとして前文的なStallingsのコメントとして、ここには『ゴッド・ファーザー』が 入るべきなんだけど、映画は何度も見たけどオリジナルの小説読んでないからな、って書いてあって、実は自分もそうだと気付いた。ここにそれが入るべきかという意見にも賛成だけど、多分今後も原作は読まないな…。いや、大して意味ないんだけど、 なんとなくわかんない?

なんだか他人の作ったものに対して勝手にしゃべり過ぎたかとも思うのだけど、色々気付かされたり頷くことも多い素晴らしいリストでした。リンク元の方もよく読むべし。こういうものが見つかれば、今後もなるべく多く紹介して行ければと思います。
なかなか新作が出ない感じのJosh Stallingsなんだが、こういう形でも作家というところにいる限りは、いつかまたすごい作品を出してくれるものと期待する。まあ、まずはMoses McGuire三部作をちゃんとやり遂げなければな。

結構コツコツ頑張ってたつもりなんだが、気付けばもう12月か。長年ぐらいのスパンでこれは絶対すごいやつだと思ってたMoses McGuireを、やっと紹介できたけど、まだまだ読むべき書くべき作品は山積みナリ。まーとりあえずはできるだけ 頑張ってみます。死なない程度とかに。なんかそのライン思ったより低いかもしれんとか思う今日この頃だが…。

■Josh Stallings著作リスト


●Moses McGuireトリロジー

  1. Beautiful, Naked & Dead (2011)
  2. Out There Bad (2011)
  3. One More Body (2013)

長編

  • All The Wild Children (2013)
  • Young Americans (2015)
  • Tricky (2021)


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2024年11月18日月曜日

2024 ワンダーランド・ブック・アワード 受賞作品発表!

今回はこちらでは初になるのだけど、2008年以来今年で16回目となるワンダーランド・ブック・アワード 2024の発表です。2023年に出版されたビザーロ・フィクション作品の中から短篇集部門と長編/中編部門の2部門で候補作が選ばれ、10月ごろだったかに ファイナリスト各5作品に絞られた後、投票により選ばれ今年は初の米オレゴン州アストリアでの開催となったBizarroConにて11月9日に発表となりました、…はず…。

前回すぐやると言った割には遅くなって申し訳ない。どうもワンダーランド・ブック・アワード関連の情報、去年までBizarro Centralの中に掲載されてたんだが、今年から BizarroConのホームページということになったようで、そちらを毎日チェックしてたんだが、いつまでたっても更新されず、11月の14日深夜ぐらいになって、File770の方に掲載されやっとわかったという次第。
File770というのは、もしかしたら自分より良く知ってる人も多いのかもしれないのだけど、結構歴史のあるらしいSF系のファンジンのサイトで、現在はMike Glyerという人がやっているらしい。なんかもう一方でやってる スプラッタパンク・アワードもなかなか発表されないうちにこちらで教えてもらうことも多いんだが、ちょっといい加減な説明になってしまっていたらごめんなさい。SFやホラー系のコンベンションや、賞の情報などかなり手広く教えてくれる 大変ありがたいところ。
というわけで、最近になってこれもちゃんとやらなくてはと思い立ち、調べたらもうすぐじゃんぐらいになって、やや大慌て、やっつけ感あるぐらいで申し訳ないんだが、ワンダーランド・ブック・アワード2024の各部門受賞作/作家のわかる限りの 概要と、ファイナリスト各部門5作品についてぐらいのところでやって行きます。


■Wonderland Book Awards 2024


短篇集部門
●All I Want is to Take Shrooms and Listen to the Color of Nazi Screams by John Baltisberger (Planet Bizarro)


「私は4歳のとき、最初のナチを殺した。それは芸術ではなかった。私が向精神性の殺人の喜びを知るのは、もっと先になってからだった」
こうして筆者の不気味で血まみれの回想録は始まって行く。
ある部分は回想録、そして小説、そして短篇集。『All I Want is to Take Shrooms and Listen to the Color of Nazi Screams』は単なる書籍以上のもの、それは一つの人生の在り方だ。

John Baltisbergerは、多くユダヤ的要素に焦点を当てた、スペキュレイティブとジャンル・フィクションの作家。彼の作品は、神秘主義、信頼、罪、そして自己責任といったテーマへの探求として執筆されている。
2018年より多くの作品を出版し、受賞歴も多い。2021年にはスプラッタパンク・アワードに短篇集『War of Dictates』がノミネート。ホラー系パブリッシャーMadness Heart Pressのエディターでもある。

とりあえずはこんなところか?作品解説について、わけがわからんという声も多そうだが、まあ読んでもいない作品でアマゾンの解説からではこんなものかと。そもそもそんなにわかりやすいものでもないだろうし。
以下はファイナリストに残ったほかの4作品。

  • What Remains When the Stars Burn Out by P.L. McMillan (Salt Heart Press)
  • Gush by Gina Ranalli (Madness Heart Press)
  • An Altar of Stories to Liminal Saints by Rios de La Luz (Broken River Books)
  • Bizarro Classicks by Emma Alice Johnson (Freak Tension Books)


長編/中編部門
●Edenville by Sam Rebelein (William Morrow)


グースバンプス meets スティーブン・キング at Edenville大学!そこにやって来た若き野心家のホラー小説家である新任講師が、血塗られた町の歴史を発見する。図書館の地下の秘密結社、異次元と正体が蜘蛛である人々…。

Sam RebeleinはGoddard Collegeでクリエイティブ・ライティングの芸術修士の学位を得て卒業。ゲーム『The Last of Us Part II』でなんか受賞(詳しく書いてない…)という経歴を持つ人らしい。これまでに多くの短編を書き、 短篇集も出版されているが、長編はこれがデビュー作となる。

短篇集部門の方より少し分かりやすいかと思ったので、作品解説短め。大体こんな感じならわかるよね。グースバンプスについては私同様知らない人もいるかと思うが、1992年から出版されているR・L・スタインによる大人気児童向けホラー小説シリーズ ということ。日本では10巻まで出たが、本国では62巻が出版され、スピンオフなんかも含めると240作とかになるらしい。
米メジャーであるWilliam Morrowから出版され、英国版もTitanから出版。スプラッタパンク・アワードでも同様のがあったけど、この辺ももはやマイナージャンルからもう少し広いところに浮上し始めてるのかも。ちなみにこっちに画像が出てるのが 米William Morrow版で、下のリストの方が、やや安い英Titan版。アメリカで出たものがイギリスで出ると少し安くなるのが通例だけど、逆のケースだとあんまり安くなんないよね。
以下はファイナリストに残ったほかの4作品。

  • Glass Children by Carlton Mellick III (Eraserhead Press)
  • Soft Targets by Carson Winter (Tenebrous Press)
  • The Last Night to Kill Nazis by David Agranoff (CLASH Books)
  • Elogona by Samantha Kolesnik (WeirdPunk Books)


というわけで、とりあえず何とか始めてみましたのワンダーランド・ブック・アワード2024でした。やっぱり少しでも掘り下げてみると、これ読んでみたいとなるものだね。
まだまだ全然わからんという感じだけど、何とか少しずつでも読んで深く探って行かねば。なんだか読まねばと思うものを山積みにしてると、読めないという思いばかりが前に出るんだけど、最近になって明らかに重要作なのに、 書けないから先送りになってたようなもんも多いと気付いたり。何とか頑張って読んで次々書いて行かねばと思うばかりです。
ワンダーランド・ブック・アワードについては、ちょっと調べてみたところ、なんか9月ぐらいにノミネート各部門20作ぐらいが出て、10月にファイナリストが決まり、11月に受賞作発表ぐらいのやや慌ただしいペースのようです。 とりあえずその最初からやれるかは不明だけど、また来年もきちんと追って行かねばと思っております。

過去(2008-2023)の受賞作一覧はこちら→



■Wonderland Book Awards
●短篇集部門

●長編/中編部門

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2024年11月9日土曜日

Grant Wamack / Black Gypsies -シカゴの新しいストリートを闊歩する、最新注目作家クライム作品!-

今回はGrant Wamackの『Black Gypsies』。2022年にBroken River Booksより出版された作品です。

Grant Wamackという作家は日本にはほぼ知られていないのでは、という以前に自分も最近まで知らなかった。きっかけとしては、近年のスコットランドを中心とした新進ノワールの発信地の一つである、作家Stephen J. Golds(日本在住らしい)主催の ウェブジンPUNK NOIR MAGAZINEに、Grant Wamackのインタビューが掲載されているというのを聞きつけて。
ここにインタビューが掲載されるというのは、それなりに注目すべき作家なのだろうと思い、まずアマゾンで出てる本を調べ始めたところ、この『Black Gypsies』がKindle Unlimitedで出ているのを発見。詳細を見たところ、ジョーダン・ハーパーと こっち界隈じゃ作家/レビュアーとしてかなり信用できるScott Adlerbergからの賛辞が掲載されており、100ページほどの中編と手頃でもあったため、とりあえずこれから読んでみたという次第。
割と新しい作家なのかなと思っていたのだけど、2010年代半ばごろに中編作品が2作出ていて、そこからしばらくは出版運に恵まれなかったが、2020年代に入り新たなベースを得て、注目が集まり始めている作家のようです。
黒人作家で、シカゴの黒人社会を描いた作品であるこの『Black Gypsies』も登場人物は基本的にすべて黒人、というあたりは先に言っといた方が混乱少ないかと思う。
前述のインタビューなどについては、後ほどにという感じで、まずここから『Black Gypsies』です。


【Black Gypsies】


1. Tatted Like a Biker Boy Marcusが最初のタトゥーを入れた日、誰かが店に銃弾を撃ち込んできた。
物語はシカゴのうらぶれたタトゥーショップから始まる。店主Reginald "Jazz" Harrisは、この店を20年やっている。周囲のシカゴの街は様々な出来事で様変わりしてきたが、この店は主に黒人相手に変わらず続いて来た。
Marcusの腕に彫られているのは、日本のアネモネを背景にした"JACKBOY"の文字。
店のテレビのフットボール中継に、店内の客やReginaldが一喜一憂し、ついついタトゥーガンを強く押し付けすぎたり。
店内で流れていた曲をMarcusが気に入った様子なのに気を良くしたReginaldが、今度CDを持ってきてやると言うと、ストリーミングで聞くから曲名リストだけ教えてくれりゃいいよ、そもそも俺CDプレイヤー持ってねえし、と応えられ 近頃の若い奴はでイラっとしたり。
店内のソファに座っていたLukeが、今の試合で500ドル儲けたぞ、と言って立ち上がり店を出て行く。
そしてReginaidがタトゥーに集中を戻し、Marcusが次に流れて来たリル・ダークに頷き始めた時、外で銃声が響く。
弾丸が店に飛び込み、ガラスが割れる。タトゥーガンを放り出し、床に伏せるReginald。Murcusもその隣に続く。
そしてそこから窓の外を見つめながら、これ以上弾が飛んでこないことを祈る。マスタード・イエローと青の車が猛スピードで走り去る。誰かが通りの向こうで叫ぶ。
そして二人は、自分が撃たれていないことを確かめながら、ゆっくりと起き上がる。
母親も心配してるだろう、帰った方がいいんじゃないか?と言うReginaldに、もうほとんどできてるんだろ、完成させてくれ、と答えるMarcus。
そして20分後、完成したタトゥーを誇らしげに見るMarcus。
「トラブルに巻き込まれるんじゃないぞ。ここらの連中の誰かを失うのはもう沢山だ。お前は家族なんだぞ」今日の出来事から改めてMarcusに言い聞かせるReginald。
「わかってるさ、俺は大丈夫だよ」とTシャツを直して出口に向かうMarcus。
Reginaldは、こいつが21まで生き延びて欲しいと願う。それがシカゴで長生きする最初のチェックポイントだ。
そして外の通りに出て行くMarcus。すれ違った誰かが、泣きながら言う。
「Lukeが撃たれた」

2. A Crossroad of Sort 家に帰ったMarcusは、早速タトゥーを母親に見つかり、小言を喰らう。
部屋に戻りウトウトしていると、相棒のGordoから連絡が来る。「仕事だぜ、兄弟」
「5時に外に出てる」返信し、出かけるMarcus。

仕事の後、帰りの地下鉄でMarcusはうっかり眠ってしまい降りる駅を乗り越してしまう。
一駅先で降り、公園を横切って帰ろうとしたMarcusは、違う地区のがギャング団と遭遇してしまう。
必死に路地裏を逃げ回り、近くの家の裏庭に潜り込んだところで見つかり、あわやというところで住民の通報でやって来た警官により助けられる。

3. Crooked Country Gordoは深夜の1時にコール・オブ・デューティーをやってるところに、Marcusからの電話を受ける。
警察につかまっちまった、保釈金を持ってきてくれよ。
相棒のピンチに、Gordoは警察署に駆け付け、500ドルを窓口の警官に渡す。
領収書をくれよ。そんなもんはねえよ。待合室でおとなしく待ってろ。
やがて出て来たMarcusを車に乗せ、家まで送り届けてやる。
「俺は出て行かなきゃな。お袋はストレスになってしょうがねえ」
「俺んとこに来いってずっと言ってるじゃねえか」
「そうじゃなくてさ、俺たちは州を出るんだ。どっか西、カリフォルニアとかよ。盗める車も山ほどあるはずだぜ」
「夢見てりゃあ、そのうちに叶うさ」


まあ100ページほどの中編だし、このくらいで。
主人公である19歳の不良少年以上犯罪常習者未満という感じのMarcusを中心に、相棒Gordoや、他の仲間、敵対するギャングなど、時に視点を変えながら、犯罪が日常のシカゴの黒人街が描かれて行く。
Marcusが相棒のCordoとやってる「仕事」については、Amazonの商品ページのあらすじ説明でも言及されてるんで、隠すこともないんだが2章でそこが描かれず飛ばす感じで帰りの電車のシーンになってたんで、とりあえずそのまま書いてここでも言及しないどく。
最初はエピソードの端々に見える主人公たちよりワンランク上という感じの犯罪の断片みたいなものから、『エディ・コイルの友人たち』みたいになるのかな、とも思ったのだが、なんとなくつなげればつながるけど、あくまでも彼らが生きている 生活圏での背景的なものにとどまっている感じ。
1章の最後あたりのタトゥーショップのReginaldの警句や、3章最後の二人のやり取りあたりでこの作品のテーマ/メッセージはぼんやり見えてくる。そして終盤二人はある出来事からワンランク上の敵との対決という危機に直面することとなる。 クライマックスというべき最後から2番目の章が、ある形でこのテーマと直結するところなど、かなりの作者の実力を感じさせる。
タイトルの『Black Gypsies』は、Marcusが作中で出会い付き合うようになる同年代の女性に関係することなのだが、まあ短い作品でそこまで書くのもなんかと思うので、読んでみてのお楽しみということで。
作中、多くの登場人物の会話に出てくる「nigga」という単語。通常「黒んぼ」みたいな蔑称で使われるものだが、彼ら黒人同士の間では、palというような呼びかけから、People、guysというような感じまで幅広い意味の使われ方をする。そこら中で ヒップホップ/ラップミュージックが鳴り響き、niggaと呼びかけ合う新しいストリートを描いたクライム作品。新しいもんを求める人なら押さえとくべき秀作であるよ。

そして件のPUNK NOIR MAGAZINEのインタビュー (PUNK NOIR MAGAZINE / A Punk Noir Interview with Grant Wamack)から作者Grant Wamackについて 探って行こう。
高校時代ははアーティスト志望で、コミックの仕事をしたいと思っていたそう。だが当時(2006年ごろ)には、スーパーヒーロー以外のものがあまりなく、自分の目指すものとは違うと思い自身の創作意欲を詩やショートフィクション、ラップミュージックなどへ傾けて行ったということ。
ジャンルとしては、クライム、ホラーといった傾向のものだが、現在はワイアード・ホラーという分野にに最も惹かれているそうである。
実際のところ、現在まで出版されている彼のの中編・長編小説作品で、クライムジャンルのものはこれだけで、他はホラージャンルに属するもの。昨年出版された中編『Bullet Tooth』と短篇集『The Hum of the World』はホラージャンルの ビザーロ・フィクションから選出されるワンダーランド・ブック・アワードにノミネートされ、ファイナリストは逃したものの、短篇集の方は選考外となってしまった中の注目すべき作品としてピックアップされた数作の中の一つに挙げられている。
最近感銘を受けた本として、Stephen Graham Jonesの『Mongrels』を挙げ、好きなノワール小説としてトンプスン『キラー・インサイド・ミー』を挙げるGrant Wamackにとっては、ジャンルの垣根など極めて低いものなのだろう。ちなみに 好きなインディーノベル3作の中に前回のAnthony Neil Smith『Slow Bear』を入れていたり。生死関わらず、一緒に飲んでみたい作家とか、いい質問ですね。
前述の中編『Bullet Tooth』は、フレディやジェイソンのようなタイプのオリジナルのホラーキャラクターがシカゴに現れる話のようだが、この『Black Gypsies』のストリートにそういう殺人鬼を乗せたような作品かもと期待される。 とりあえずはなるべく早い機会にこれから読んでみたいところ。現在最新作は不思議の国のアリスと映画ミッドサマーを組み合わせたようなシュールなホラー『The Frolicking』。今後は『Bullet Tooth2』も予定されているとのこと。 いかなるジャンルにせよ、これからの活躍が期待されるGrant Wamackに注目すべし!


ここでPUNK NOIR MAGAZINEについても少し。同じくスコットランドのJohn BowieのBristol Noirと共に2017年に登場し、 当方なども新スコットランド一派の登場か?と期待したんだが、どうもそれほど地域的な感じの大きなムーブメントとはならなかったようだが、両サイトともワールドワイドな新たなノワールの発信地としてのウェブジンとしては 継続機能し続けている様子。あんまりちゃんと見てられなくて申し訳ないんだが…。
例えばJohn Bowie/Bristol Noir編集の2冊のアンソロジー『TAINTED HEARTS & DIRTY HELLHOUNDS: Bristol Noir Anthology 1』と 『SAVAGE MINDS & RAGING BULLS: Bristol Noir Anthology 2』。Stephen J. Golds編集のアンソロジー『Gone』(いつの間にかKindle版が絶版に…)などを見れば その成果は窺えるものだろう。
PUNK NOIR MAGAZINEのStephen J. Goldsについては、現在そちらのPUNK NOIR PRESSから出版されているThe Dead, The Dying & The Goneシリーズなどの作品がある。
そのうち、シリーズとは知らんまま最初の『Say Goodbye When I’m Gone』をしばらく前に読んでるんだが、あんまり書けない時期でJohn Bowieなどと共に、期待の新しいスコットランドノワール作家みたいな感じでやれればとか思ってるうちに…、 となってしまって申し訳ない…。
1960年代のハワイが舞台の、全てを失い亡き妻のアンティークショップを経営するアイルランド系老ギャングと、日本から騙されて連れてこられた娼婦、朝鮮戦争で人間性を破壊された韓国系ギャング、三者の運命が交錯するアツいノワール。 日本的には、騙される女の子パートの60年代貧乏ダウナー昭和白黒ムービー的なところがちょっときつい人もいるかもとかは思ったかも。長く日本に住んでいるらしいGolds氏らしく、きちんと書かれているのは確かだが。
なんとかシリーズって形で、今後もっとちゃんと書けるように努力しますので。
その他、PUNK NOIR MAGAZINEでは、エディターの一人である、なんかそれぞれバラバラの出版社からになっているようだがデビュー作からのPigsトリロジーを完結させ、自身のUrban Pigs Pressも立ち上げている James Jenkinsにも注目。なるべく早くなんか読めるといいのだけど。

Grant Wamack著作リスト
●中編/長編

  • Notes from the Guts of a Hippo (2013)
  • A Lightbulb's Lament (2014)
  • Black Gypsies (2022)
  • God's Leftovers (2022)
  • Bullet Tooth (2023)
  • The Frolicking (2024)

●短篇集

  • The Hum of the World (2023)



ワンダーランド・ブック・アワードについて


というわけで、また出てきてしまったワンダーランド・ブック・アワード。なんだか長年にわたりぐらいで、ちょくちょく目にしながらも手が回らず、また今度扱いしてきたビザーロ・フィクションと言う奴なのだが、多分逃れられない運命なのよ と諦め、ここらで腰を据えてちゃんと取り組んでみることにした。
なんかワンダーランド・ブック・アワードとかどこかでやってくれてないのかよ、と少々調べてみたんだが見つからないので、また一からという感じで始めてみる。日本語カタカナ表記にしてみたけど、昭和とかだったら不思議の国文学賞とか 訳されていたのかもね。ビザーロ・フィクションという表記に関しては、正しい発音はビザロだとか、ビザーローだとかいう人出てきそうな気もするが、知ったことか。とりあえず現時点の日本では、こういうところに目を向けるような人、 限りなく減っているんだろうしね。

ワンダーランド・ブック・アワードというのは、年間に発表されたビザーロ・フィクションの中から選ばれた作品に与えられる賞であり、2008年よりオレゴン州ポートランドで毎年開かれているBizarroConの場で発表され、授賞式が行われている、らしい。
で、ここはまずビザーロ・フィクションというところから始めてみる。
まずビザーロ・フィクションの定義というようなものをWikipedia/Bizarro fictionから引用してみると、「破壊的で、奇妙、滑稽な作品を創り上げるため、不条理、風刺、グロテスクといった 要素に加え、ポップシュルレアリスムやジャンルフィクションの定型などを使用する現代文学のジャンル」ということ。
こちらは2005年にEraserhead Pressなどのパブリッシャーを中心に、ジャンルを明確に立ち上げるために提唱されたものらしい。遡ればナボコフや、バロウズといった作家作品にも当てはめられるものだが、ここで一旦明確に定義し、ジャンルとして作って 行こうという感じだったのだろう。

まあ定義やら説明だけではよくわからんと思うので、とりあえず自分が知ってる範囲でのサンプルになりそうなアンソロジーを二つ紹介しておく。 どちらもジャンル立ち上げ時に中心的存在であったEraserhead Pressからのもの。ちなみにEraserhead Pressは、スプラッタパンクアワード初期あたりにはかなり多くの作品を出していたDeadite Pressと同じ出版社で、Eraserhead Pressの方が本体らしい。
ひとつは『The Best Bizarro Fiction of the Decade』(2013)、もう一つは『In Heaven, Everything Is Fine: Fiction Inspired by David Lynch』(2013)。後者はデイヴィッド・リンチからインスパイアされた作品のアンソロジーで、有名なデビュー長編映画の タイトルを会社名としてるパブリッシャーらしいところ。
実は双方とも最初の2~3作ぐらいしか読めてないのだけど、印象で言えば前者がシュールで悪夢的な寓話、後者がデイヴィッド・リンチ的なシュールで悪夢的な寓話という感じ。…いや、ごめんだけど、それくらいしか思いつかない…。
『The Best Bizarro Fiction of the Decade』はランズデールやStephen Graham Jonesといった作家の作品も入った560ページとかのアンソロジー。こちらはKindle Unlimitedなので、ちょっとどんなもんか見てみるのにいいかと思う。ダリ風の グロいカバーが素敵。それにしてもStephen Graham Jonesぐらいそろそろなんとか読んで書かないと…。
『In Heaven, Everything Is Fine: Fiction Inspired by David Lynch』の方は、定義説明とか読んでデイヴィッド・リンチみたいなのかなと思った人にはお勧めかも。こちらは前者のようなビッグネームとかはないのだが、あまり広くはない ジャンル内では知られた作家が揃っている様子。最初の話が映画のセットのようなダイナーの中である事情で身動き取れなくなる人達の話。2番目が囚人の一人が行方不明になりごまかすために人形を作った看守の話。3番目が都市を取り巻く壁が 住民に深刻な影響を及ぼすためそれを防ぐために内側に新しい壁を作り続ける話。どう?面白そうでしょ。
ただまあ、10年位前に出たものなので、もしかすると今時のものとはちょっと変わってるかもしれないけど。ジャンルなんてその中の作家たちの新しいアイデアでどんどん変わって行くものだからね。定義なんてものは作家たちがそれをぶち壊して広げて 行くためにあるようなものだよ。
あと、ビザーロ・フィクションというジャンルに於いて、短編作品は重要なところではあるが、中編・長編作品になると色々手法とかも変わって来るのではと思うのだが、そっちの方にはまだ手を付けてなくてサンプル的なものも出せなくて申し訳ない。

ではここから改めてワンダーランド・ブック・アワード。前述のようにオレゴン州ポートランドで毎年開かれているBizarroConで発表されているのだが、なぜそこでかと言うと、ビザーロ・フィクションを中心となって提唱したEraserhead Pressの 地元だという理由。
部門はシンプルに短篇集部門(Best Short Story Collection)と、長編/中編部門(Best Novel/Novella)の2部門。色々調べてみたところで、大抵短篇集部門が上に書かれているのがこのアワードの特徴かもしれない。
以下これまでの受賞作一覧なのだが、こういう場合、例えば2023年出版の作品が、2024年に受賞するわけで、どちらを表記するかケースバイケースであったりして少しややこしく、引用元のWikipedia/Bizarro fictionでは前者の出版年で書かれているのだが、 当方では後者の受賞年の方がわかりやすいかと考えそちらで表記した。
結構多くて後でアマゾンのリンクを作るのが面倒なので、そちらで入手できるものについてはこちらのテキストリンクのみとさせてもらった。この辺のものについては電子書籍版がなくプリント版のみというのも結構多いので注意。あと、出版社については、 現行アマゾンに記載されているものとなります。

短篇集部門


受賞年 作品名 著者名 出版社
2023 The Last 5 Minutes of the Human Race Michael Allen Rose & Jim Agpalza Madness Heart Press
2022 Don't Push the Button John Skipp CLASH Books
2021 Don't F[Bleep]k with the Coloureds Andre Duza Deadite Press
2020 To Wallow in Ash & Other Sorrows Sam Richard Weirdpunk Books
2019 Nightmares in Ecstasy Brendan Vidito CLASH Books
2018 Angel Meat Laura Lee Bahr Fungasm Press
2017 Berzerkoids Emma Alice Johnson Bizarro Pulp Press
2016 The Pulse between Dimensions and the Desert Rios de la Luz Ladybox Books
2015 I'll Fuck Anything That Moves and Stephen Hawking Violet Levoit Eraserhead Press
2014 Time Pimp Garrett Cook Eraserhead Press
2013 All-Monster Action! Cody Goodfellow Eraserhead Press
2012 We Live Inside You Jeremy Robert Johnson Eraserhead Press
2011 Lost in Cat Brain Land Cameron Pierce Eraserhead Press
2010 Silent Weapons for Quiet Wars Cody Goodfellow Eraserhead Press
2009 Rampaging Fuckers of Everything on the Crazy Shitting Planet of the Vomit Atmosphere Mykle Hansen Eraserhead Press
2008 13 Thorns Gina Ranalli Afterbirth Books


長編/中編部門


受賞年 作品名 著者名 出版社
2023 One Hand to Hold, One Hand to Carve M. Shaw Tenebrous Press
2022 Jurassichrist Michael Allen Rose Perpetual Motion Machine Publishing
2021 The Loop Jeremy Robert Johnson Titan Books
2020 Unamerica Cody Goodfellow King Shot Press
2019 Coyote Songs Gabino Iglesias Mulholland Books
2018 Sip Brian Allen Carr Soho Press
2017 I Will Rot Without You Danger Slater Fungasm Press
2016 Skullcrack City Jeremy Robert Johnson Coevolution Press
2015 Dungeons & Drag Queens Emma Alice Johnson Eraserhead Press
2014 Motherfucking Sharks Brian Allen Carr Lazy Fascist Press
2013 Space Walrus Kevin L. Donihe Eraserhead Press
2012 Haunt Laura Lee Bahr Fungasm Press
2011 By the Time We Leave Here, We'll Be Friends J David Osborne Broken River Books
2010 Warrior Wolf Women of the Wastelands Carlton Mellick III Eraserhead Press
2009 House of Houses Kevin L. Donihe Eraserhead Press
2008 Dr. Identity D. Harlan Wilson Raw Dog Screaming Press


以上、これまでの受賞作品一覧。もう日本のアマゾンからは見られなくなってるぐらいのもんもあるんじゃないかと思っていたけど、一応全部見つかったな。まあ過去のプリント版のみとかは事実上の絶版ではあるけど。
作者と作品という形でわかるものはほぼないけど、初期はEraserhead Pressが多かったものから、現在多くのパブリッシャーが出てきている感じとかはわかるが、そのくらいか。とりあえずあとは何とか少しずつでも読んで探って行くしかないか。 まあ何とか追い続けていれば、なかなか読めなくても徐々に輪郭ぐらいは見えてくるんじゃないかと。

当方ノワール/ハードボイルド/クライムというあたりが専門だが、これまでもお伝えしてきたように、主にカントリーノワールといった方向ではアメリカ現代文学、ドナルド・レイ・ポロックやコーマック・マッカーシー、Larry Brownといったあたりで 境界を接し、その境は曖昧になってきている。そして今回のビザーロフィクションというのもまた別サイドでその境界が重なり合っているものなのだろう。そもそもその双方が隣り合って、重なってる部分も多いもんだし。
なんか今更だが、デイヴィッド・リンチ出したんだから『ブルー・ベルベット』や『マルホランド・ドライヴ』とか例に出せばわかりやすかったのかもと気付いたり。
尖鋭的な作家は常にその境界を目指し、突破し、曖昧にさせて行く。ひとつのジャンルの未来を見るためには、その隣り合った境界の向こう側がどうなっているかにも視線を拡げる必要があるのだ。
とまあまとめてみたけど、実際にはそっちの方も面白そうだから是非読んでみたいが8割なんだけどね。

さてここまでに昨年までのワンダーランド・ブック・アワードの一覧を作りとりあえずのまとめを作って来たわけだが、そこで今年のワンダーランド・ブック・アワード!本年米オレゴン州アストリアで開催されるBizarroConにて11月9日に発表となる! …もたもたしてるうちに結局過ぎちゃったじゃないか…。ちなみにオレゴン州アストリアでの開催は初らしい。
そんなわけで、次回はその2024年ワンダーランド・ブック・アワードについて。まあ各部門受賞作の作家作品の概要と、ファイナリスト、最終候補作一覧ぐらいしかできんと思うけど。ホントはもっと余裕があって次の記事書き始めといて 発表があったら2~3日で書いてアップとかの予定だったのだけどね…。

■ダフィ最新作発売日決定!


前回終ってすぐぐらいだったかな?なんか一日外出の予定があって、帰って疲れてゴロゴロしてたらXにマッキンティからの告知が出てた。ショーン・ダフィ・シリーズ第8作『Hang On St. Christopher』が来年2025年3月4日に発売決定! とりあえず現在出ているのはオーディオ版のみの予約受付。
と思ってたら、あれ?マッキンティの出してる画像日本のアマゾンのと全然違うじゃん?ハードカバーやKindleまで書いてあるし???
そんなわけで米Amazon.comのBooksでマッキンティを検索してみたところ、やっぱりアメリカじゃ全部あって既に予約注文も受け付けている上に、過去作のKindle版も出版されている。
アメリカ限定なのかい?と思ってイギリス、フランスのアマゾンも見てみたところ、その両国では発売予定の第8作についてはオーディオ版、ハードカバー版の予約注文が開始されており、過去作Kindle版については第7作『The Detective Up Late』以外は 既に販売されているという状況。んーまあ、日本なんてミステリ超後進国は果てしなく後回しにされてんのかね…。
アメリカのKindle版予約注文受付開始を見て、日本も開始が遅れてるだけで来年3月4日にKindle版手に入るのかも、と一旦はワクワクしたのだが、イギリス、フランスで第7作のKindle版も遅らされている状況を見ると、その可能性は低いのかも…。 結局あと一年ぐらい待たされてやっとペーパーバック版出てみたいなことになんのかな…、とちょっとショボン状態です。まだわかんないけどね。
ちなみに過去作のKindle版については、先週見たぐらいではアメリカでも「もうすぐ出るよ」ぐらいの状態で予約受付してて一昨日見たら出てたぐらいなので、日本でもそのうち買えるようになるとは思いますが。

だが、マッキンティ/ダフィについては更に気になる情報あり!『God’s Away on Business: Sean Duffy, Year 1』(こちらもトム・ウェイツの曲からのタイトル)なる中編作品が、そちらに先立つ来年2月4日に発売予定!こちらは第7作『The Detective Up Late』 の時に書いた序章「Sean duffy, Year Zero」の後、キャリックファーガスのCIDに着任したばかりのダフィの最初の二週間を描いたという内容らしい。
こちらについてはアメリカでもまだ画像もなくオーディオ版のみの予約受付開始なのだが、第8作の3月4日より1か月前に急いでねじ込んだ感じから、そちらにも関係する先に読んどいたほうがいい作品なのかとも思われる。まさかオーディオ版のみ とかいうことはないと思うけど…。

以上、いつどんな形で読めんのかまだ不透明ですが、とにかくダフィ第8作他発売予定出ましたという話。前にマッキンティがノンシリーズ作品新作の方が先に出るみたいな話してたんだけど、そっちについてはまだのようです。それにしても 来年3月4日Kindleで入手できるかも、となって一旦は未読の『The Island』どこで読もうかとなったんだが、予定通り来年前半のどっかぐらいで良さそうかもな。日本の翻訳ミステリなんてものにもっと早く見切り付けとけば、もっと早く 読んだのにと思うばかりっすよ…。もう今更出ても絶対読まんしな。
いずれにしても、来年2025年は、どっかの時点でマッキンティ/ダフィ祭りになる!…はず?



●短篇集

■Stephen J. Golds/The Dead, The Dying & The Goneシリーズ

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