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2023年4月3日月曜日

James Carlos Blake / The Wolfe Family -ブレイク渾身の新シリーズを読め!-

今回は前々から言ってて、やっとという感じのジェイムズ・カルロス・ブレイクのWolfe Familyシリーズ。その第一回という感じで、#0『Country of the Bad Wolfes』と#1『The Rules of Wolfe』について書きます。
という感じでやろうというのは最初から決まっていたのだが、さて、具体的にどうやるかについては少し悩んでしまった。単純に出版された順番で行けば、#0 『Country of the Bad Wolfes』(2012年)、#1『The Rules of Wolfe』 (2013年)ということで#0からやるのが順当なところなのだが、実はこの『Country of the Bad Wolfes』という作品、先だって未訳おススメのところで書いたように、19世紀初めから20世紀初頭メキシコ革命勃発期までの 約100年に亘る大作であり、かなり歴史小説的な側面もある作品でもあって、いつものように単純に出だし部分のみを紹介するというやり方ではあまりに中途半端になってしまい、またその一方で、シリーズ中で#0とされて いることからもわかるように、#1から始まる物語の前日譚となるものであり、そういう意味でも先に知っておくとよい話であるわけで、双方を考えるとそれについて書くとなれば簡単なあらすじにせよ、全編を紹介するというのが 妥当ということになるだろうと思うわけである。
しかしながら、結構な大作ゆえ簡潔にまとめてもそこそこ長くなるし、また全面的ネタバレとなるとやっぱ読みたくない人もいるかもしれんし、ということで、今回は#1『The Rules of Wolfe』について紹介した後に、 ネタバレしちゃうけど読みたい人は、という感じで#0『Country of the Bad Wolfes』について書くという形でやって行きます。あと、まあ『Country of the Bad Wolfes』という作品は繰り返しいっとるように、 犯罪小説というよりはWolfe一族を近代メキシコ史のなかで書いた歴史小説的側面も強いので、自分のような根気だけが取り柄の変わりもん以外にはそっちから始めろというのもちょっときついかという思いもあるので。 しかしながら、特に日本のクズレベルの評論家がそういう言い方が自分の見識かなんか示せると思って言う「何作目がシリーズ最高傑作」みたいな口車に乗せられて、前後関係が重要になる現代のハードボイルドシリーズを、 途中から拾って読むような読み方は本当にクソだっつーことははっきり言っておく。このシリーズに関しては#0からは少しきつくても、最低#1からは順番に読むべし。

ジェイムズ・カルロス・ブレイクについては翻訳が3冊あるのだけど、そちらに書いてないことやその後について、まず簡単にまとめて行きます。1947年、メキシコ タンピコに米国より移住した3世として生まれる。祖先は アメリカ人、イギリス人、アイルランド人、スペイン人が混淆した家系で、その中にはメキシコで捕縛、処刑された英国出身の海賊もいるそうです。少年時代をメキシコシティで育ち、大学教育は米国で受け、米国での 軍歴もあり、現在はアメリカ市民として帰化しています。
1995年『The Pistoleer』でデビューした後、2005年までに19世紀から20世紀初頭あたりまでの時代背景でアメリカ-メキシコ国境近辺が舞台の犯罪小説を9作発表。うち第6作から第8作までの3作が翻訳されています。 その後7年の間を置き、2012年より開始されたのがこのWolfe Familyシリーズということになります。この7年の沈黙については作品について紹介しながらのちに考察して行きます。
というところで2013年に出版されたWolfe Familyシリーズ#1『The Rules of Wolfe』から始めて行きます。

■The Rules of Wolfe

この作品のプロローグは、Wolfe一族のひとりであるRudyという青年の一人称で始まる。物語の冒頭で、現在21世紀初頭のWolfe一族の状況の一部がかなりラフに語られ、それによると彼らはRudyの住むアメリカ側テキサス州 南東部のメキシコ国境のリオ・グランデ川沿いの彼らの地に暮らす者と、メキシコ、メキシコシティに在住しそちらで社会の表裏で力を持つ者たちに分かれているということだ。この作品内に登場するのは、 そのうち米国内テキサス側の一族となる。
メキシコ側のWolfe一族の裏稼業の中には、そちらの犯罪社会への武器の供給があるのだが、その商品をリオ・グランデ川を越えて密輸するのが、テキサス側のWolfe一族であり、現在その実行役となる一族の若手が この語り手のRudyとその兄のFrankである。
彼らの取引先の主なものは、メキシコ側のWolfe一族となるのだが、時にはそちらから紹介された組織と直接取引をする場合もある。そんな例外的な取引に彼ら二人が向かうところからこの物語は始まる。
船で取引地点に向かった二人は、そこで不穏な気配を感じる。案の定、待ち伏せていた船から彼らに向かって銃が発射され始める。取引相手の裏切り。こちらを皆殺しにして金を払わず武器を手に入れようという算段だ。
二人は彼らの勝手知ったる複雑な地形の水路へと敵を引き込み、こちらの素性を一切明かすことなく敵を殲滅する。ちょっとした厄介なアクシデントだが、初めてでもなく想定内の事態を処理するというところだ。
このプロローグのエピソードは、21世紀初頭現代のWolfeファミリーの陣容の一端を見せるためのもので、今作のその後の物語につながるものではない。そして、この物語の主人公はプロローグで一人称で語っていたRudyではなく、 その中で言及されていた、彼らの年下やっと20歳を迎えたぐらいのEddie Gatoという青年である。

そしてプロローグに続く本編は、このEddieの物語から始まる。ここで混乱のないように説明しとくと、この作品はそれぞれに中心となるキャラクターの動きを追った章ごとに分かれている三人称記述により語られるが、 その後も登場するRudyパートのみが一人称記述という形になっている。
Eddieは、メキシコ北西部、ソノラ州にある組織の所有する牧場で見張り塔の上にいた。彼がこの牧場に来てからもう2か月になる。「牧場=Rancho」と言ってもここでは何らかの家畜が飼育されているわけではない。彼の所属する 麻薬カルテル-ボスであるLa Navajaの組織が所有し、その中にある邸宅で客をもてなしたり、ボスや幹部たちがパーティーで馬鹿騒ぎをするための施設だ。屋敷内には通常、そこを管理するための人間と料理人数人、そして Eddieを含む見張りが四人いるだけ。周囲には何もなく、何の楽しみもないこの土地に見張りとして送り込まれてくるのは、組織に入って間もない下積み最下層の一兵卒。あまりの退屈さに逃げ出したり、厳格な規律を破り 処分される人間は後を絶たないが、ここで定められた任期を務めあげれば、そこから組織の一員としてスタートできる。
なぜWolfeファミリーの一員であるEddieが、他の組織の最下層メンバーとして働いているのか?実はWolfeファミリーには、大学へ行き学位を取得した者以外はファミリービジネスに加われないという厳格なルールがある。 Eddieは、身体頭脳を含む様々な能力により若くして身内内では認められる実力の持ち主だが、この掟によりいまだファミリービジネスに参加できず、その不満から家を飛び出し勝手に他の犯罪組織に加わったというわけである。 しかし、また一方で一族にはそのビジネスについて秘密にするという不文律の厳格な掟があり、Eddieもそれは守り、偽名を使い自らの出自については隠している。

そして、牧場ではまた今日から幹部たちのパーティーが開かれる。パーティーと言えばつきものなのは女。ボスや幹部たちと一緒に大勢の女が送り込まれてくる。そんな中で、Eddieには前回のパーティーから気になっている 女が一人いた。女の名はMiranda。大勢の中でも目を惹かれる美しい女だが、それだけではなく、ほかの女たちとはどこか違う雰囲気がある。プールでの馬鹿騒ぎに加わらないだけでなく、どこか特別扱いされている様子もある。
見張りの一兵卒がパーティーの女に手を出したりすればただでは済まないのは当然だが、そんなものに止められるEddieではない。様々に策をめぐらせて彼女に接近し、遂に深夜Mirandaの部屋に潜り込み、一夜を共にする。
実はMirandaは今回のパーティーでは遅れて翌日到着予定の、組織のナンバー2Enriqueの女であり、故郷の田舎町で目を付けられ半ば無理やり連れ去られ現在の境遇にあった。
明け方、不穏な気配に目を覚ますEddie。予定より早く到着したEnriqueが、まっすぐMirandaの部屋へやってくる。選択の余地もなく乱闘になり、EddieはEnriqueを殺してしまう。
組織のナンバー2を殺せば、当然何ら弁明の余地もなく殺されるのみ。残されたチャンスは逃亡しかない。今のところはこの状況は誰にも察知されていない。二人は、牧場にある中でも追っ手を振り切れる可能性の高い ボスの車を盗み出し、メキシコの荒野へと逃亡する!

組織はメキシコでも有数の麻薬カルテル、ただ距離を離しただけでは逃げ切れるものではない。Eddieは国境を越え、アメリカへの逃亡を目指す。
翌朝になり、Enriqueの死体を発見した組織は、ボスの命令下、組織を総動員して直ちに二人の追跡を開始する。

そしてEddieの故郷、テキサスのWolfe一族の地。一族でも最高齢の女性、Catalinaは、Eddieが組織から逃亡したという情報を受け、RudyとFrankをメキシコへと派遣する。Catalinaは、Eddieの名付け親でもあり、 彼に期待し常々目をかけており、実はEddieの出奔後も密かに見張りを付けその動静を窺っていた。
そっちを後に紹介するところでなんだけど、#0『Country of the Bad Wolfes』を読んでいると、ここでCatalina登場か!という感じになる。#0と#1の間には100年の期間がありCatalinaはそれをつなぐ唯一の人物である。 実は『The Rules of Wolfe』では彼女がこの主人公をEddieと名付けた理由については言及されていないのだが、『Country of the Bad Wolfes』を読むとその理由、彼女のEddieに向ける期待などが明らかになる。

追跡の先鋒を倒したEddie。だが、それくらいでは組織を振り切ったことにはならない。Eddieは彼らの死体から携帯を奪う。だが、これを使うことはできない。組織のメンバーの携帯には当然追跡装置が仕掛けられているからだ。 実はメキシコの犯罪組織へのこの手の追跡システムの供給元はWolfe一族の係累であり、Eddieも自身の興味から叔母にあたる経営者の女性からそのシステムについて学んでいた。その携帯を起動すれば信号が発信され、 追跡者に彼らの位置が知られる。だが、追跡を振り払い国境を越えれば、彼らを素早く救援してもらえる命綱にもなりうる。勝手に飛び出したEddieから家族に救援を求めることはできない。だが、一か八か、Eddieは一族に向け、 そのコードナンバーのみを伝える。

と、まあこんなあたりで。馬をSUV車に乗り換え、GPSなど今風の仕掛けもめぐらせた、以前からのブレイクファンも全く期待を裏切られることのない、まさに「現代版」ジェイムズ・カルロス・ブレイクって感じの、アツい手に汗握る、 国境を目指すアウトロー・アクションである。この#1から読み始めてWolfe Familyシリーズを追って行っても多分全く問題ないのだろうし、実のところを言うと、このシリーズ#1からMysterious Press/Grove Atlanticで 2013年から出てるのだが、#0『Country of the Bad Wolfes』はその前年2012年にCinco Puntos Pressというメキシコ関連の文学系書籍を出版しているらしいミステリ分野ではないところから出ていて、本格的にシリーズに 加えられる形でGrove Atlanticから再版されるのは2020年になってからということで、本国でこのシリーズを読んでいた人たちも多くはこの#0を読まないままシリーズを読み進めていたのだろうと思う。そんな微妙な ポジションの#0なのだが、それはそもそもがブレイク自身の構想なのだから当然なのだが、やはりそちらを知っていた方がこのシリーズをより楽しめるものである。そんなわけで、かなり要約はするものの、全面的にネタバレ という形で、続いて#0『Country of the Bad Wolfes』です。

■Country of the Bad Wolfes

えーと、見出しだけ見て飛ばして読んできた人がいるといけないのでもう一度言うけど、ここからはネタバレするので注意してください。ということで、では最初に次の画像を見てもらおう。



この作品全5部に分かれていて、各部の冒頭にそこまでで語られるWolfe Familyの家系図が掲載されている。話が進むにつれその家系図は大きくなって行くわけで、その最後第5部冒頭の家系図をかっぱらってきたのが下の画像である。 いや、ほんとはダメなんだけど。ごめんね。
この作品にはこの家系図に書かれた人物が全て出てくる。と思う。ちゃんと照らし合わせたわけじゃないんでやや腰砕けだが…。この時代のことで、多くは生まれてすぐ亡くなったり、子供の頃に死んでしまったりで 数行~1ページぐらいがかなり多いのだが、それでもこの量である。実際の分量で言えば、これを除くブレイク作品の倍。翻訳が出ているのが文庫大体400~450ページぐらいなので、そのボリュームでの上下2分冊というところか。
そして、#1の現代ではメキシコの裏社会に大きく手を広げているらしいWolfe Familyだが、最初から犯罪一家だったわけではないので、この作品も犯罪小説というよりは、一族を中心に書かれた約百年にわたる歴史小説、 といった傾向が強い。
まあ、何をくどくどと言ってるのかというと、これこういうやつだから、読み始めて思ってたのと違うー、とか言ってぶん投げんなよ、という話。実際自分も、うーこのパートそろそろ終わんねえかなみたいな気分で読んでた ところもあるし。あ、主にロマンス部分ね。一族が拡大する過程では色々恋愛とか結婚とかあるから。
約百年にわたる歴史小説的なやつということで、メキシコのその辺の歴史についてはちょっと詳しくなれます。ウィキペディアとかでメキシコの歴史見ながら読むとより楽しめる部分も多いです。自分もそんな感じで読んだ。 ブレイクの意図のなかでもメキシコの歴史について書くことは大きな比重を占めてると思うし。あー、でももし日本でこれ翻訳出たりすることがあった場合は、ほらいつも言ってるお勉強要素がないと本も褒められない 駄目な大人が出てきて、その辺を得々と語るような本がつまらなく見える解説長ったらしく書いたりするんだろうねえ。そんなの要らねえから。
なんだかんだ言っても、こういうのがむしろ好きという人もいるだろうから、そういう人なら多分楽しめるんで、ネタバレなんぞ読まずに本編を読むことをお勧めします。そして私同様ロマンスパートではうーとなる人も ある程度あらすじわかってれば、これから先面白くなりそうだからな、と思って乗り越えられるかもしれんし。結局のところ、作品自体に何ら問題はないんだが、読む人を選ぶかもしれんし、この先読めば必ず楽しめるはずの 人がここで躓いたらやだな、という考えでのネタバレなんで、その辺考えて読む読まんを決めてください、ってところです。

先に書いた通り、この作品は5部に分かれており、大体半分に分けた前半が1部と2部、後半を残り3分割というぐらいの構成になっています。各部に分けて簡単にあらすじを紹介していきますが、ここから結構長くなるな。

【第1部】

第1部のさらに前に数ページのプロローグがあり、そこではこの一族の開祖ということになるRoger Blake Wolfeについて書かれます。
Roger Blake Wolfeは、1797年、英国海軍の家系に生まれる。家族同様に海を愛する若者として成長するが、そのアウトロー気質から海軍には留まれず、英国を飛び出し大西洋を荒らしまわる海賊として名を馳せるようになる。 1826年、英国より賞金首をかけられた彼は、米・南米海岸を拠点とすべく大西洋を渡る。だが、米大陸目前で、船は難破し米東海岸ニューベッドフォードへと流れ着く。そしてニューハンプシャー、ポーツマスで、当地で出会った 女性Mary Margaret Parhamと結婚する。しかし、海賊への誘惑が抑えられない彼は、船を手に入れ、妻を残し再び船出する。夫不在のまま、Maryは双子の男児を出産。そしてその6か月後、彼女はRoger Blakeがメキシコの地で 捕縛され、処刑されたとの報せを受ける。
そして、ここで生まれた双子からWolfe Familyの物語は始まるのだ。

双子はそれぞれSamuel Thomas、John Rogerと名付けられる。二人そろって頭も切れ、喧嘩も強いという感じに育って行くのだが、成長するにつれ二人の性格には違いがあらわれてくる。弟であるJohn Rogerが勉強熱心で あるのに対し、兄Samuel Thomasは父のアウトロー気質を受け継ぎ、夜には家を抜け出し少年時代から酒場や売春宿に入り浸る放蕩ぶりを示す。兄弟仲の良さには変わりはないのだが、その違いは、日本で言えば高校を卒業する という時期に二人の道を分けて行くことになる。兄Samuel Thomasは船乗りを目指し、弟John Rogerは法律学校への進学を決める。だが、彼らの卒業まであと2か月を残し、母Maryはその人生で初めて病に伏し、そのまま亡くなる。 もう残すものもなくなった二人は卒業とともにその地を去ることを決意し、出立に先立ち、二人そろった写真を撮影し、それぞれが一枚を手にし、再会を固く約束し別れる。
だがその直後、船に乗るポーツマスの港町へ到着し、宿を取ったばかりのSamuel Thomasに、その後の人生を大きく変える出来事が起こる。

えーと、この後に起こる出来事については、もう読んだ時点から読んでない人に伝えるときになんかうまくはぐらかせてお楽しみにしたいなあ、と思ってたんだが、まあこういう形でやると書かないわけにはいかんなというところで ちょっと悔しいし、お楽しみを取ってしまうようで申し訳ないんだが。いや、色々ネタ的な意味でさ。とりあえず日本においてはシリアスなフィクションを書く時にはこれは絶対に使わない。ヒント:ちこくちこくー。

宿に荷物を置き、夜の街へ散策に出かけたSamuel Thomas。薄暗い路地の角を曲がったところで、逆方向から来た男と激突してしまう。相手はこの町の巡査。強打し鼻をつぶされた巡査は怒り狂い殴り掛かってくる。 相手は警官となればこちらが殺されてしまっても犯罪者だと言い張れば通ってしまう。生命の危険を感じ、Samuelは所持していた銃で相手を撃ち殺してしまう…。

という次第。まあ実際にあった事件レベルでもこういうのありそうに思えるが、日本でシリアスなフィクションの重大な場面でこのシチュエーション使うやつまずいないだろうな、ってちょっと横道でした。

正統防衛とはいえ、目撃者すらいないところで警官殺しが通るわけはない。Samuelは宿に荷物を取りに戻ることすらせずに、そのまま逃亡する。行き場もなく彷徨ううちにSamuelはメキシコとの戦争のための新兵募集所を 見つけ、氏名を偽って入隊する。
そしてSamuelはテキサスへと送られるが、軍隊内での貧富身分階層による差別待遇に嫌気がさし、仲間とともに脱走し、国境を越えメキシコの義勇軍に参加する。だが、続く米墨戦争はメキシコが大敗。Samuel達メキシコ義勇兵は 捕縛され、処刑されなかった者は顔に「M」の烙印を捺される。生き残った者達の一人であったSamuelだったが、収容所から解放された後も帰る場所すら失い、メキシコシティの路上で生きる気力すらなくし無気力に 横たわる。
そのまま死を待つばかりであったSamuelを救ったのは、近くのカフェの娘Maria Palomina Blanco Lobnosだった。アメリカ軍によって焼き付けられた「M」は、不名誉と軽蔑の烙印だったが、メキシコ民衆から見れば、祖国の ために戦った英雄の証だった。彼女の父の家に保護され、手当てを受け回復したSamuelはその店で働くようになり、やがてMariaと結婚しメキシコシティに根付いて行くことになる。

序盤Samuel Thomasの物語がここまで語られた後、続いてはJohn Rogerの物語が始まって行く。ここからしばらくはJohn Rogerの話となり、Samuel Thomasのその後について語られるのはかなり後となる。
ハノーバーで学校に通い始めたJohn Roger。船に乗ったのち、寄った港ごとに手紙を送ると言っていたSamuel Thomasだったが、一向に彼からの手紙は届かない。彼の性格を知るJohnゆえ、さほど心配せず、そのうちこちらに 現れ音信不通の説明をしてくれるだろうと思っていたが、半年が過ぎ、更に初年度の試験が終わるころになっても連絡が来ないことにさすがに不安になり、乗った船が難破したなどの可能性も頭に浮かび、当地の 港湾事務所に連絡を取ってみる。Samuelの乗った船が再びポーツマスに寄港する時期を知り、そこに合わせて港町へ向かう。しかし、そこでJohnはSamuelがそもそもその船に乗ってすらいなかったことを告げられ愕然とする。 その後も手を尽くして調べるが、Samuelの消息は一切掴めず、失意のうちにJohnはSamuelの捜索を諦める。
唯一の肉親である双子の兄を失い沈むJohn Rogerだったが、その一方で勉学には励み、学業では優秀な成績を収め、運動能力にも秀でた彼は、学校のフェンシングチームでも活躍する。やがて卒業を迎えたJohnは、同級生で フェンシングのチームメイトである、ニューハンプシャーで法曹界の名家の子息の親友、James Davision Bartlettの父の法律事務所に弁護士として勤めることとなる。James Bartlettとその家族との親交が深まる中で、 JohnはJamesの妹Elizabethと恋仲になり、やがて結婚する。
なかなか子供が生まれないことが唯一の悩みではあったが、二人の結婚生活は順調に続いていた。そんな中、Elizabethには叔父にあたるRichard Davisonが久しぶりにBartlett家を訪れる。一族の中でも変わり者の彼は、 メキシコとの貿易会社を設立し経営していた。拡大するメキシコとの貿易の中で、現地でのマネージメントに携わる人材を探していたRichardは、John Rogerの有能さに目を付け、仕事を持ち掛ける。夫婦ともに 新たな地とそのビジネスへの期待に魅せられた彼らは、これを受けメキシコへ渡る。そして、メキシコへ到着して間もなく、Elizabethが妊娠し、彼らの間に待望の第一子John Samuelが産まれる。

こうして、様々な運命の変転によりそれぞれの事情でメキシコの地に立つことになった双子。そして、John Rogerには更なる運命の転換点が訪れる。
John Rogerのメキシコ赴任により、輸出時の損失などの問題も改善され、貿易会社は業績を伸ばして行く。そんな中、Johnはある大物荘園主との取引の中に継続されている明らかな不正があるのを発見し、その荘園主との 取引を中止する。しかし、暴力や強奪まがいの手段で勢力を伸ばしてきた悪徳荘園主は、それに怒り、息子とともにJohnの自宅へ押しかけ、強引に決闘を挑む。死闘の末、親子を倒したJohnであったが、重傷を負い 片腕を失う。
しばらくの後、荘園主の未亡人が療養中のJohn Rogerを訪れる。夫と息子に虐待され奴隷扱いを受けてきた彼女は、彼らから解放してくれたJohnに対して感謝の念さえ抱き、自分は引き継ぐ気のない荘園を破格の値で 譲りたいと申し出る。こうしてJohn Rogerは、メキシコの地にWolfe Familyの土地となるBuenaventuraを手に入れることとなる。

というところで第1部了なのだが、まだ第1部なのにメチャ長ッ…。まあ最初は詳しく書かなきゃなんないというところはあるんだけど。第2部以降はもう一段階要約度を上げて行きますんで引き続きお付き合いください。

【第2部】

第2部はほぼこのBuenaventuraでの話となる。この荘園を手に入れた当初は、まだ貿易会社とも兼業という状態で、主にアメリカ大使館からリクルートした信頼できる部下を通じてという形でやっていたが、南北戦争が勃発したり、 港が一時期フランス領になったりなどの政変を経るうちに、社長のRichard Davisonが亡くなるなどの事情もあり、John Rogerの仕事は荘園経営に絞られて行き、アメリカとの関係も薄くなって行く。
Buenaventuraを手に入れ、その広大な土地を探索するうちに、John Rogerはそこに地元の者がほとんど行くこともない入り江があることを知る。そこへ向かう川はあまりにも曲がりくねった急流で、そこを乗り越えられた者は 過去に存在せず、陸路は全く開かれていない豹などの危険な野生生物が棲むジャングルであるため、その状態で残されていた。
John Rogerは、遠征隊を組んでその入り江を見に行く。やっとで到着したJohnは、その美しさに一目で惚れ込み、そこまでの道を開きそこに別邸を建てるに至る。Elizabethもすっかりそこが気に入り、余暇は夫婦でそこで過ごすようになり、 JohnはElizabeth号と名付けた帆船も入り江に浮かべるようになる。
第一子John Samuelは、幼少より馬を愛し、のちに荘園の厩舎を管理するようにもなるのだが、それ以外は比較的インドア派で入り江には興味を示さず、夫妻がそちらに向かうときは家で留守番をしていることが通例となる。

そしてElizabethは再び妊娠し、Wolfe家には第2の双子が誕生する。だが、この出産によりElizabethは命を落とし、それが原因で長男であるJohn Samuelは母を奪ったこの双子を憎むようになる。また、Elizabethのこの地への 埋葬をめぐる対立から、アメリカのBartlett家との関係は完全に断たれることとなる。
双子はそれぞれJames Sebastianと、Blake Cortezと名付けられる。母を失った二人のために、不幸な生い立ちを持ち、6日前に自らの子を毒蜘蛛に噛まれて亡くした14歳の少女Marina Colmilloが乳母として雇われる。Elizabethを 失った悲しみ、落胆からJohn Rogerはこの双子にほとんど構うことなく、双子は乳母のMarinaと、Wolfe家のメイド長であるJosefinaを親代わりとして育てられる。

このような複雑な出自を持った双子だったが、周囲の目を全く介さず、という感じで二人そろえば何でもできるという天才悪ガキとして育って行く。まずは屋敷内をすべて把握し、叱られて部屋に閉じ込めても大人にはわからない方法で すぐさま抜け出し、二人を別々に閉じ込めてみてもいつの間にか合流して二人で遊んでいるという始末。成長してくるにつれ、町では喧嘩で負け知らずの一方、屋敷内の図書室の蔵書を片っ端から読み漁り、様々な知識を 蓄えて行く。
やがて彼らも14歳になり、領地内の様々な場所へ少々危険とも思われる冒険を繰り返すようになっていたが、そんなある日、双子があの誰にもできなかった入り江への川下りを準備しているらしいことが発覚する。 さすがにJohn Rogerも彼らを書斎に呼び、もしそんなことをやろうとしているなら絶対にやめるように諭す。双子はにっこり笑って、「はい」と父に返答し、翌朝早く出発し川下りに向かう。今まで誰をも寄せ付けなかった 激流だったが、卓越した運動能力の二人はそれを乗り越え、かつては両親が愛したが、母の死後誰も足を踏み入れることのなかった入り江へと到達する。

ここで第2部終了。第1部よりいくらか短く書けたか。とりあえずここで半分というところですが、この『Country of the Bad Wolfes』という作品、大雑把に言うと前半が海賊Roger Blake Wolfeの双子の息子の話で、後半は ここで産まれた第2の双子を中心とした話となって行く。それにしても、読んでるときは双子が川下りに行くときは、おお、あの入江か、という感じになったのがあらすじで省略しちゃうとその間の時間が物語内時間的にも読んでる実時間的にも飛んじゃって、すぐ後になってなんか味気なくなっちまうっす。なんかごめん。
というところでこのへんで半分だけど、どうかね?もうこんなやつのあらすじ読んでないでちゃんと読んでみないかね?もったいないよー。まあとりあえずは始めたもんなので、このままネタバレして行きますが。 では続いて、第3部です。

【第3部】

1884年、John Rogerはメキシコに渡って30年目にして初めてメキシコシティを訪れる。妻Elizabethとも常に行ってみたいと話していたが結局叶わず、この度政治経済的な用件での訪問が初めてとなってしまった。 時代は19世紀で、この時期には鉄道も敷かれていたが、John Rogerくらいの金持ちでもそのくらいの旅行は結構大変だったということだろう。この辺の政治経済的な話というのは、メキシコ史にストーリーが 絡むところなんだが、そちらについても書いていると途方もなく長くなってしまうので、最低限ぐらいを残して省略している。いや、そういうのもあるからちゃんと読んでよね。
会合の後、一足早く宿に戻ることになり一人メキシコシティの街を歩いていたJohn Rogerは、近くのカフェから懐かしいメロディが流れてくるのを耳にする。少年時代、双子の兄Samuel Thomasと演奏していた ホーンパイプの「Good Jolly Roger」。John Rogerは曲が聞こえてくるカフェに進み、ドアから店内をのぞき込む。ホーンパイプを奏でていたのは、30歳ぐらいと思われるがっしりした体格の男だった。 だが、John Rogerは彼の容貌に明らかな兄Samuel Thomasとの近似を認める。はるか昔に死んだものと諦めていたSamuel。だが実はこの地で生きていたのか?
John Rogerは店に入り、その男性に話しかける。
「今聞こえてきた曲。それは誰かに習ったのかね?」
「はい。お好きな曲でしたか?」
「それを教えたのは君のお父さんかね?」
「はい…。なぜそれを?」
「彼と話したい。いや、聞いてくれ!私は彼を知っているし、彼にどうしても会わなければならないんだ!」
「残念ですが…。父は既に亡くなっています。父は10年前に亡くなりました。」

いやはや…。ついに生き別れの兄弟が再会!と思ったところでこの残酷な事実。読んでいてかなり、ああ…、って感じになったんだが、それをこうやってネタバレしちゃうのもかなり心苦しいっす。
Samuel Thomasは10年前、近所の子供を助けて犬に嚙まれ、狂犬病を発症し亡くなっていた。妻Mariaと結婚し、三人の子供を儲けカフェの主人として暮らしてきたSamuelだったが、妻にさえも米墨戦争以前のこと、 なぜ軍隊に志願したか、実は双子の弟がいることなどは一切話さなかったということだった。

Samuel Thomasが遺した三人の子供。まずそこにいたのは長男のBruno Tomas。一旦は軍隊に入ったが、父Samuelが亡くなった後は、祖父の代から引き継がれてきた店と家族のため除隊し、店の切り盛りに携わってきた。 誠実な人柄の働き者で、のちにBuenaventuraに移ってからは、軍隊で培った馬の知識を持って、そのころには父の下で経営事務などを執り行うぐらいまで成長したがとかく人を寄せ付けない性格のJohn Samuelとも その共通の馬へ関心で唯一ぐらいに信用される人物となる。
そして次女のSofia Reina。見た目も美しく性格も優しい申し分のない女性なのだが、とにかく何かの呪いぐらいに結婚運が悪く、20代後半であるが独身。それまでにもう4回も結婚しており子供に恵まれたこともあったのだが、 いずれも病気や事故などで全員が亡くなっている。もはや何かの運命としか思うしかなく、既に結婚は諦めている。
そしてもう結婚して家を出ているBrunoの姉にあたる長女のGloria Tomasina。Sofia Reinaとは正反対というような奔放な女性で、17歳だった1867年、ある男性と5か月の婚約の後、一夜にして別の男と結婚する。その日、 Gloria Tomasinaは親友の女性の結婚式に出席する。相手はかなり年上のアメリカ人で醜怪な面相の大男Edward Little。後にメキシコの大統領になり、独裁者となるポルフィリオ・ディアスの友人にして、腹心。結婚パーティーで、 GloriaはLittleの息子Louis Welch Littleに言い寄られ、それを見た婚約者が怒り、二人はその場で決闘になりGloriaの婚約者は敗北し死亡する。GloriaはそのままLouisと結婚し、メキシコシティを去る。

兄Samuel Thomasと再会できなかったことは残念だが、思ってもみなかった係累に出会えたことに大変喜んだJohn Rogerは、母子にBuenaventuraに来て一緒に暮らすことを提案する。だが、Samuel Thomasの妻であり二人の 母親であるMariaは、生まれ育ったメキシコシティを離れたくないと告げ、次女Sofia Reinaが母とともに残り、BrunoのみがBuenaventuraへ行くことになる。

第3部はここで再発見され合流するもう一つのWolfe一族の話となる。ここで新登場した人物たちや、のちの独裁者ポルフィリオ・ディアスとの関係が、この物語をさらに深くメキシコ史と連動させる展開となって行く。 そして物語は第4部へ。

【第4部】

入り江への川下りを成功させた双子、James SebastianとBlake Cortezは、しばらくの後の帰還後、父から月に一度は戻ることを条件に入り江を自分たちのものにする。こいつらこれぐらいで譲歩しないと帰ってこなくなるからな。
John Rogerが行かなくなって久しい入り江はすっかり荒れ果てており、二人はまずそこに父が建てた短期滞在用の家をリフォームし、自分達が使えるようにする。次にかつては母の名が付けられていたが、それももはや 読めなくなっていた見捨てられた船。あちこちを修復し、彼らの乳母であり、実はそのころには二人の愛人ともなっていたMarinaの名を付ける。
二人には計画があった。川下りの際、急流を抜け河口近くで見たクロコダイルの生息地。その皮による商売。二人はその皮を手に入れ、改装した船で近くの港へと向かう。しかし、その港町の工場をを持つ鰐皮の加工業者は、 とんでもない悪党だった。上質の皮はそれなりの値段で買い取るが、後に売り手の跡をつけ相手がその鰐皮の猟場についたところで殺害し、その場所を自分たちの物とする。双子は取引の後、尾けられていることに気付き、 自分達の入り江の勝手知ったる地形に誘い込み、追尾者全員を始末する。更に、直ちに港町に取って返し、深夜に紛れ一味を全滅させて工場を燃やす。
双子の新たな取引相手となったのは、その悪徳業者により港町への進出を阻まれていた中国人業者。それを壊滅させたのがこの二人であることも察知した中国人は、双子と良好なパートナーシップを結び、更に高価で取引される フカヒレの供給も持ち掛ける。
鰐皮とフカヒレの取引で、港町を一つの拠点として富を蓄え始めた双子だったが、常に自らの本拠地である入り江に戻るときには追尾に気を付け、自分たちの本当の素性については隠し続けていた。

一方、Buenaventuraへ移ってきたBruno Tomasは、John Samuelからも馬の管理の仕事も任され、この地に落ち着き結婚もする。あと、書いてなかったけどJohn Samuelも既に結婚していて子供もいる。Brunoの結婚式から 一月後、John Samuelの息子、Roger Samuelの5歳の誕生祝が開かれ、双子も入り江から戻り、参加する。だが、悲劇はそこで起こる。

パーティーの中で、John Samuelは新たに手に入れた馬を披露する。だが、その中の一頭が手の付けられない暴れ馬で、Brunoを始めとする全員が困り果てていた。そこに現れたのが双子の片割れJames Sebastian。 その暴れ馬を見事に乗りこなして見せる。そしてパーティーの主役であるRoger Samuelを拾い上げ、一緒に馬の背に乗りもう一回り。だがその時不意に馬が沈み込み、二人は中に投げ出される。激しく地面に叩きつけられ、 片腕を骨折したJamesが体を起こしてみると、馬は片足を折って地面でもがき苦しみ、Roger Samuelは首を折り地面の上で息絶えていた。

事故であったにせよ、息子を殺した双子へのJohn Samuelの憎しみはさらに深いものになり、双子もその場を去った後は、定期的な入り江からの帰還も途絶えることとなる。
6か月後、戻らない双子に心を痛めたJohn Rogerは、Brunoに二人の助手を付けて入り江へ向かわせる。かつてJohn Rogerが開いた道も既に無くなり、双子以外には困難極まるジャングルの陸路を抜けて入り江にたどり着いた Brunoだったが、双子は不在で会うことはできず、家に手紙を残して戻る。
Brunoからの手紙を読んだ双子は、屋敷へと戻るようになったが、親代わりとして育ててくれたMarinaとJosefinaにのみ会って帰る訪問が続く。そんなある日たまたまキッチンに現れたRoger Samuelの母親であるVictria Claraに 出会ってしまう。Victriaは息子を失った悲しみはあるが、それで姿を現さなくなった二人にも心を痛めており、再会を喜び一月後のもう一人の息子Juan Soteroの初聖体には必ず参加するよう二人に約束させる。

一方、荘園にはある問題が持ち上がっていた。荘園には代々引き継がれるmayordomoと呼ばれる管理人、執事的な職があり、BuenaventuraではRynaldoという人物がその職に就いていた。これはJohn Roger以前の悪徳荘園主から 引き継がれたものだったが、Rynaldoは真面目な人物で、John Rogerも安心して彼にその仕事を任せていた。だが、彼もさすがに高齢になり、後継を考える時期になり以前より懸念していた問題が目の前の急務となる。
彼には二人の息子がいた。長男のMauricioは多くの面で優秀で、その仕事を任せうる人物だったのだが、その優秀さが災いしてか、軍隊に入り自身の力での出世を望み、その時期にはそれも実現され自身の部隊を持つ将軍にまで 昇り詰めており、荘園の仕事を引き継ぐ気持ちは全くなかった。残された選択である次男Alfredoは、性格的にも優柔不断、アルコールの問題も抱えていて、とてもそのような責任ある職を任せることはできない。 困り果ててRynaldoはJohn Rogerに相談し、話し合いの結果、mayordomo職は例外として家督として息子に引き継がないということで同意した。すっかり安心したRynaldoだったが、その職は当然自分に引き継がれるものとして 疑わないAlfredoにその決定を話す機会のないまま急死する。
Rynaldoの死後、AlfredoはJohn Rogerに呼ばれ、Rynaldoとの話し合いの結果、mayordomo職は家督として彼には引き継がず、Brunoが務めることになると告げられ愕然とする。そして代々引き継がれてきたmayordomoを、彼、 そして一族から奪い去った者として、Alfredoの憎悪はJohn Rogerへと向けられて行く。

そして1886年6月25日。Juan Soteroの初聖体の日。
John Rogerはその朝キッチンにより、Josefinaに双子が来たら初聖体の後、自分のところに顔を出すようにと伝えるように告げる。双子は父がその場を去ったのを見計らったように現れ、体を洗い正装してから少し遅れて 教会に到着する。John Samuelと顔を合わせるのを避け、父からの言いつけを無視して儀式が終了すると直ちに教会から去る二人。だがその途上、Blake Cortezが足を止め、振り返る。
「どうも妙なもんを見た気がする。」
二人は直感に従い、来た道を教会に向かって戻り始める。

Alfredoはその日の朝からJohn Rogerを密かに追い続けていた。父の死を利用して自分からmayordomoの座を奪い去った憎き男。酒の力を借り復讐を実行に移す機会をうかがっていた。だが、彼が教会から出てきた今を 逃せば次のチャンスはなかなか訪れないだろう。
AlfredoはJohn Rogerに歩み寄り、その胸にナイフを3度突き立てる。

崩れ折れるJohn Roger。悲鳴。双子は一歩遅れてその場に駆け付ける。やった奴はどこへ逃げた!?周りを取り巻く群衆が指さす。Alfredoを追い詰めた双子は彼の手足の腱を切り、近くにあった豚小屋に放り込み 生きたまま豚に食わせる。

John Rogerはそのまま亡くなる。父の仇を取った双子。だが、そのあまりにも凄惨な方法は新たな問題を引き起こす。Alfredoの兄Mauricioは今は自身の部隊を率いる将軍だ。彼に非があったとしてもそのあまりにも残酷な 殺され方には怒りを燃やし、報復の手を向けてくる。
双子は生まれ育ったその地を去る決意をする。出立に先立ち、幼いころからの屋敷内の探索で見つけていた父の机にしまわれていた父と兄Samuel Thomasの写真と、父が若い頃より折に触れ書き続けていた個人的な手記を 持ち出す。John Rogerは自身の父が海賊であったことを誰にも告げていなかったが、二人だけはその手記を盗み読むことで知っていた。
双子は育ての親であるMarinaとJosefinaにのみ別れを告げる。だが、育ての母にして二人の愛人であるMarinaは彼らに追いすがり、双子はその逃亡に彼女も連れて行くことになる。そして三人は入り江へ向かう。

危惧していた通り、Mauricioの軍は直ちにBuenaventuraに押し寄せる。その家長を殺害した非はあり、派遣されてきた腹心は慇懃にふるまってはいるが、その裏にこの件をただで済ますつもりはないのは明らかだ。 そもそも双子を憎んでいたJohn Samuelは、ためらいもなく処刑を実行した彼らを売り、軍隊を入り江へ向かわせるが、既に双子は船出した後だった。彼らを捕まえられなかったことで怒りの矛先はBuenaventuraへと向けられ、 その地への軍の圧力は次第に高まって行く。

このBuenaventuraへの危機を救ったのは意外な人物だった。
Brunoはこの危機について書いた手紙をメキシコシティで母とともに暮らす妹Sofia Reinaに送る。そしてそれは更に家を出た後も妹とだけは手紙で連絡を取り合っていた姉Gloria Tomasinaに伝えられる。大統領となった ポルフィリオ・ディアスと関係が深いLittle家は、現在は自らの荘園も持ちそこで暮らしていた。そしてこの弟も暮らす血縁の地の迫りくる窮状は、ディアスの秘密警察の長となっていたEdward Littleに伝えられる。
話を聞いたEdwardは、誰にも告げず馬で荘園を出て、将軍Mauricioの軍の基地へと向かう。そして周囲の地形を探り格好の地を見つけるとそこに潜み、宿舎から出たMauricioを狙撃し、暗殺する。
将軍Mauricioの突然の死により、頭を失った軍はその地の包囲を解き撤退し、Buenaventuraの危機は去る。

Gloria Tomasinaの電撃婚のエピソードから、悪党一味ぐらいのあまりよくない印象を持っていたLittle一家で、これはディアスとのコネで裏から政治的に手をまわして、という展開を予想して読んでいたところで、 このEdward Littleの意外な行動。さすがブレイク、いいキャラを作るのう、とここからEdward Littleの印象を180度ぐらい変えて続きを読んだのだが、ここにきてもう少しこの『Country of the Bad Wolfes』の 執筆出版の経緯を知りたいと思ってブレイクのインタビューなど探していたところ、意外な真相が発覚!実はこのEdward Little、ブレイクの1997年出版の長編第3作『In the Rogue Blood』の主人公のひとりだったのだ! あっ、違う。邦訳タイトル何気に似てるけど『荒ぶる血』じゃない。オレも一旦そう思って本引っ張り出してきた。未訳!『In the Rogue Blood』の最後では19歳だったEdwardのその後がこの作品には書かれていたのだ。 くぅ~、これを先に読んでいたら遂に奴が動いた!ぐらいにワクワクして読めるところだったのに。未読の人は併せてというか、こっちを先に読んどくことをお勧めします。ワシもなるべく早く読む。
それにしてもインタビューの中でもブレイクが言っていたのだが、この作品で書きたかったことの一つには独裁者ディアスのことがあり、あちこちにその辺の記述もあり、またLittle一族についても色々書かれているのだが、 やっぱこういうあらすじでは省略するしかない。いや、だから本編ちゃんと読んでくれって。

一方、逃亡した双子とMarinaのその後。入り江での鰐皮とフカヒレの取引で貯めこんでいた彼らは、当面金に困ることもなくメキシコのあちこちの町を素性を隠して渡り歩いていた。移動手段は船なので、港町か。 町々で二人はギャンブルの場に向かい、まあこの二人だからその辺の才もあり更に財を増やす。大きなギャンブルとなれば土地の権利なども賭けられ、それらを手に入れても売って金に変えていた二人だったが、唯一 その中にあったアメリカの土地だけは手元に残していた。
順調に進んでいたギャンブル行だったが、ある町でかなりの金を貯めこんでいると目を付けられ、深夜借りていた家を襲撃される。返り討ちにして襲撃者を皆殺しにした双子だったが、中にはその地の警官も含まれており、 このままではこれでメキシコ内のお尋ね者となると考え、彼らは国境を越え、アメリカへ渡る。そして土地の権利書を持っていたブラウンズビルに立つ。

というわけでまたかなり長くなってしまったが、怒涛の第4部だったので仕方ないか。しかしこの第4部、かなり登場人物が多く、省略したあらすじではなおもわかりにくくなると思うんだが、なんとかついてってください。で、続いてまた怒涛の最後第5部である。

【第5部】

双子が手に入れた土地は、リオ・グランデ川沿いの人里離れた雑木に一面覆われた荒れ地で、普通に見れば何の使い道もないぐらいの土地だったが、あの入り江で暮らしてきた二人にとってはこれからいくらでも可能性が ある場所だった。
まずは川岸に見つけた高台に彼らの家を建てることから計画し始めたが、そんな折、Marinaが妊娠していることがわかる。どちらが父親なのかはわからないが、産まれてくる子のことを考えれば社会的な形で父親母親を 明確にしなければならない。二人はコインを投げて、James SebastianがMarinaと結婚し、父親となることを決める。三人での関係が無くなってしばらくの後、Blake Cortezはブラウンズビルに借りた家での手伝いに雇った 少女Remediosと関係を結ぶようになり、やがて結婚。双子が極めて近しい関係は変わらないが、彼らの周りには家族が広がっていくこととなる。
ブラウンズビルに落ち着いてしばらくの後、Marinaは彼女にとっても恩人で母のように思っているメイド長のJosefinaが気懸りで、手紙を書きたいと望み、双子もこれを了承する。既にBuenaventuraを去ってから7年が経過していた。 Brunoからの名で届いた返信には、彼らの無事を喜ぶ一方、Josefinaが2年前に亡くなったとの悲しい報せもあった。こうして彼らの間には手紙による関係が復活し、やがてBrunoからの紹介でメキシコシティのSofia Reinaとの 文通も始まり、3地点が手紙により結ばれてゆくこととなる。

かねてからの計画通り、双子は自分達のみの手でリオ・グランデ川岸の高台に家を建てる。次は何をするかと考えていたところで、深夜彼らは自分たちの土地の川岸に不審な動きを見つける。リオ・グランデ川を挟んだ 対岸メキシコとの密輸者たちだった。姿を見せると問答無用で襲い掛かってきた集団を、一人を残し返り討ち皆殺しにし、残った男にここは俺たちの地所だからここを使いたかったらきちんと交渉しろ、と伝えて帰す。
双子が待ち受ける交渉の場に現れたのは、意外な人物だった。地元の有力な実業家で、政財界にも顔が広く、Mr.Wellsとして親しまれているJim Wells。しばらくお互いを探り合いながら話すうち、双子の人物を見抜いた Wellsは意外な提案をする。その密輸を仕切っているのは彼が保安官助手に任命した男だったのだが、その後の素行が悪く、近隣のメキシコ系住民から苦情が出ている。簡単にバッジを取り上げられない事情もあり、 もしお前らがそいつを密かに始末できるなら、密輸商売はそちらが好きにやっていい。
そして二人はその保安官助手を暗殺し、自分たちの土地で密輸商売を始める。当初の主な荷は酒だったが、商売を続けるうちに儲かる商品は武器と見抜き、そちらを主に取り扱うようになってくる。信用できる男たちを雇い、彼らの商売は隆盛して行く。 その一方で、Mr.Wellsとの親交も深めていった彼らは、空いてしまった保安官助手の地位のオファーも受ける。一方では違法な密輸商売をやりながらも、弱者から搾り取るよりその土地の安全平穏を守る方に注力できる 二人は地元での信頼も高めて行く。
双子は稼いだ金で隣接する川沿いの土地を買い続け、遂には海に達する。そして二人はそこに家を建てる。かつて入り江で暮らしたような海岸の家を建てることはかねてからの彼らの夢だった。二人の子供たちも増え続ける一方、 リオ・グランデ川の対岸にLittle家が土地を得て、Sofia Reinaによる仲介などを経て両家の親交は深まり、リオ・グランデ川沿いのWolfe一族はさらに拡大して行く。そして、双子はMr.Wellsに掛け合い、彼らの地に 正式に名前を付ける。やがて新しい地図には最も新しい町としてWolfe Landingの名が記されるようになる。

ここでCatalinaが登場する。『The Rules of Wolfe』に一族最高齢の女性として君臨していたあのCatalinaである。Gloria Tomasinaの孫娘、Edward Littleの曾孫としてLittle一族に産まれる。Edward Littleは一族の荘園に 帰っても、外れのお気に入りの土地で独りで過ごすことが多く、またかつて北米ネイティブアメリカンに頭の皮をはがれたという怪異な容貌もあり、一族の特に子供たちはあまり近寄ろうとはしなかった。そんな中、唯一 CatalinaだけがそんなEdwardに懐き、Edwardもそんな曾孫を特別に愛していた。
Catalinaが最初に登場するとき、彼女は後に曾祖父Edwardについて孫たちに語ったというような記述があり、そういったものこの作品中でこれだけで、そこを読んだとき彼女がこの作品と後のシリーズを繋ぐ人物となるのだろう ということは誰もが思うことだろう。そして、『The Rules of Wolfe』において彼女自身が産まれてきた将来を期待する男児に「Edward」という名前を付けた理由もここに由来するものである。更にかなり遅ればせに 作者自身のEdward Littleに対する思い入れも知ると、うーん、とにかくなるべく早く『In the Rogue Blood』読まなきゃなあ、というところである。

時代は20世紀に入り、次第にメキシコ革命の波が押し寄せて来る。
世情不安に便乗した野盗なども横行する状況を危惧したEdward Littleは、Catalinaを含むまだ幼い子供たちを護衛を付けてリオ・グランデのLittle家の地所へ避難させようと考え、列車に乗せ送り出す。 だが、その列車が革命に便乗した野盗まがいの暴漢たちに襲撃される。いとこ達、護衛が次々に殺され、連れ去られる中、彼女自身も暴漢たちにより輪姦される。だが、ことが終わりその後彼女を 殺すつもりであった残っていた一人を逆に射殺し、独り線路を歩いて安全地帯へと逃げ、その後保護されWolfeの土地へと送り届けられる。

そしてメキシコ革命は、刑務所に収監されていたWolfe一族に深い憎悪を滾らせる者を開放する。
この発端となる出来事は、実は第2部に書かれているのだけど、ここでまとめた方がわかりやすかろうと思い、そっちでは省略していた。双子を出産しElizabethが亡くなった後、John Rogerはその寂しさと欲望に駆られ、 家中の女中たちに手を出すようになっていたのだが、そのうちその一人が妊娠する。John Rogerの子を出産した女中は、事情を含められた男性と結婚し、金を渡されよその地へ移りその後は平穏に暮らす。だがJohnがそのことに ついては知らず妊娠させてしまった次の女中には、実は軍隊に行って離れていた夫がいた。彼女はそれを夫には隠していたが、産まれた子を見ればそれが夫婦の人種血統からの者でないのは明らかだった。荒れ狂い、酔いつぶれた 夫は町に現れたJohn Rogerの姿を見て襲い掛かる。襲撃者から身を守るため、相手を殺してしまったJohnは、後に真相を知って愕然とする。母子は金を渡され離れた地に送られ、Johnはその後は女中に手を出すことはなくなる。 まあJohnに関しては、その後娼館通いをするようになり、その辺のエピソードもあるんだが、そっちは省略。
産まれた子はJuan Loboと名付けられる。母子家庭であり、容貌から一目でわかる彼の出自は、差別攻撃の対象となり、押し込められた怒りは彼を狂犬のような行動に駆り立て、必然的な結果のように彼は刑務所へと送られることとなる。 幼い頃より、母は彼にお前の本当のお父さんは大金持ちなんだ、と言い続けていた。ではなぜ俺はこんな社会の底辺に追い込まれているのか?John Rogerへ、そしてWolfe一族へ煮えたぎるような怒りを燃やし続けてきた 狂犬が、メキシコ革命の混乱の中、刑務所より解き放たれる。

刑務所で知り合った仲間を引き連れてJuan LoboはBuenaventuraへと向かう。何の備えもなかったBuenaventuraは、数人の暴漢によりあっけなく蹂躙される。John Samuelの命で脅迫されたBrunoは、リオ・グランデの双子の ことを話してしまい、住所が書かれた手紙も渡す。だがJuanは即座に約束を違え、John Samuelを殺害し、その首を持ってリオ・グランデへと向かう。

Juan Loboが到着したとき、双子は子供達とともに海岸の家に居た。全く気付かないうちに家は取り巻かれ、火を放たれる。双子はそれぞれに子供達を守りながら賊と戦い脱出の道を探る。居合わせたCatalinaも、同年代のいとこの 少女を助けながら独力で脱出する。死闘の末、全ての襲撃者は倒される。だが、双子ももはや助からないほどの深手を負う。
James SebastianとBlake Cortezは月に照らされた海岸に並んで座り、語り合い、そして夜明けとともに息絶える。

双子の最期はいかにもジェイムズ・カルロス・ブレイクって感じで、ベタかもしんないけど泣ける。なんかもうやり切ったぐらいの感じだけど、ここからこの2作によるWolfe Familyシリーズの開幕について少し考察します。

■Wolfe Familyシリーズについて

なんかこれでこのシリーズが少しでも読まれれば、という思いで結構頑張って延々と書いてきたわけだけど、まあこんなの全部飛ばしちまっても一向に構わんよ。むしろそっちが正しい本の読み方だろうし。
かくして、この前日譚である『Country of the Bad Wolfes』が終わったリオ・グランデの「バッド・ウルフの地」から第1作『The Rules of Wolfe』は始まるわけである。『Country of the Bad Wolfes』については、 一族の歴史という視点で書かれた作品なわけで、長い年月を扱う関係で一方ではやや簡潔で盛り上がりに欠けるところがあり、その一方でやや読むのが面倒になる家族の細々したことが長く書かれていたりで、 若干読みにくいものではあるのだけど、総体としてみれば、このあらすじに綴った様に波乱万丈の一族の百年にわたる運命を描いた読みどころも大変多い作品である。
そして誰でも気づくのはこの一族の歴史の最初と、作者ブレイク自身のルーツの類似。というかそれわからせるために最初に改めてブレイクの略歴みたいなの書いたんだけど。インタビューでも明言していたが、ブレイクは このシリーズを自身のルーツと重ね合わせたところから始めているのだ。そういうところからも彼がこのシリーズを自身をも含めたメキシコ-アメリカの歴史をも包括するような作品として構想しているのだろろうと いうことが伺われる。
あと、飛ばしちゃった人のためにももう一度書いておくと、この作品にはブレイクの未訳である長編第3作『In the Rogue Blood』の主人公のひとりであり、作者の思い入れも深いEdward Littleが登場し、そちらの作品の その後が書かれる。そんなところからもこのシリーズを自身の集大成ぐらいに考えていると思われるブレイクの意気込みも垣間見えるものである。『In the Rogue Blood』に関しては、併せて必読ぐらいのものだし、 シリーズ進行につれて今後もそういったものが出てくるのかもしれんね。
そして続く『The Rules of Wolfe』については、まさにあのブレイク作品の舞台が現代に移されたというもので、これから現代のメキシコ国境や、麻薬カルテルなどがどう描かれてゆくのか今後も本当に楽しみなシリーズ である。シリーズでは現代のメキシコについて書かれる一方で、空白になっている20世紀約百年のWolfe一族についても徐々に明らかにされてゆくらしい。

ところでここで気になるのは、まず前作から『Country of the Bad Wolfes』の間の7年の沈黙、そして両作の間の20世紀の百年、もしかしたら当初の構想では『Country of the Bad Wolfes』の後、同形式でその百年を 書くつもりだったのではないか、という疑問である。
そんなわけでその手掛かりを求めて、インタビューなど探してみたのだが、残念ながら後者の手がかりになるようなものは見つからなかったのだが、前者についてはいくらかの言及もあった。長編第9作である 『The Killings of Stanley Ketchel』が2005年に出版された後、ブレイクはしばしの休暇を取ろうと考え、数年ぐらいの間アメリカ、メキシコの各地を旅行していたそうである。そんな中でこの大作の構想も持ち上がって 来たのだろう。
後者については真相は不明だが、なんだかこのくらい歴史にこだわった形で書くなら、続きは次の時代へというのが普通の発想に思えるのだが。少なくとも『Country of the Bad Wolfes』終盤でシリーズを次へと繋げる キャラクターとしてCatalinaを出した時点では、もう現在見られる続きは百年後の現代から始まるという形はブレイクの中で決定されていたのだろうが。最近読んでいるかのジェイムズ・エルロイの新暗黒LA第2作 『This Storm』(まああまりの大作である一方であの狂文体で、あれをひたすら原文で読み続けるほどの気力は無く、他の本と並行してみたいな読み方でまだ半ばぐらいなのだが…。)の冒頭では、前作終盤から引き継がれる メキシコ方面に大きく広がる内容に合わせ、あの狂文体で20世紀前半第二次大戦近辺のメキシコの状況が語られる。そういうのを読むと、これもブレイクの手によるWolfe Familyの一環として読んでみたかったな、 と思ったりもするのだが。ところで今気付いたんだが、エルロイの続き、もしかしたら文春でも出したいとは思っているけど、もうあんな大変なの翻訳する人がいないとかなんじゃないか?もしかするとだけど。

何とかこのシリーズの魅力、重要性とこれからの期待を伝えようと頑張っているつもりなんだが、結局「スゲー、オラわくわくすっぞ!」ぐらいにしかなってないような気もするんだが、とりあえず、スゲー、オラわくわくすっぞ! 以下、本当にこれいつ書けるんだか、みたいな気分になってた頃少し先出ししていたこのシリーズの重要性に関する2点をもう一度少し詳しく書いて行きます。

時代、地域という観点からクロニクル的に書かれた犯罪小説

時代、地域に焦点を当て三部作、四部作、あるいはシリーズとしてクロニクル的に犯罪小説を書くという手法は、言うまでもなくたまたま直前に名前出てきたジェイムズ・エルロイの1987年の『ブラック・ダリア』から続く 暗黒LA四部作から始まる。それに呼応するようにまず1990年から開始され99年までに7作が発表されたのがローレン・D・エスルマンによるThe Detroit novels(未訳)。更に1996年からはジョージ・P・ペレケーノスにより DC四部作が始まり、1999年にはエルロイから深く影響を受けた英国作家デイヴィッド・ピースがヨークシャーを舞台としたレッドライディング四部作を開始する。そして2005年にはあのドン・ウィンズロウによる カルテル三部作が開始。2006年からは北欧スウェーデンよりイェンス・ラピドスによるストックホルム三部作が発表される(第1作以外は未訳)。そして2012年から開始されたこのジェイムズ・カルロス・ブレイクによる Wolfe Familyシリーズも明らかにこの作品群、流れに属するものである。
そして日本にはほぼ伝わっていないこの流れに属するものとしては、あの大御所ジェイムズ・リー・バークによるHolland Family Sagaというものもあり、これについては近日中にジェイムズ・リー・バーク作品について書く 予定なので、そちらでもう少し詳しく。更にあの続刊の発行が切に待たれるエイドリアン・マッキンティによるショーン・ダフィシリーズ!私はこれはちょっと変則的な形でここに属するベルファストシリーズだと 見てるんだがね。まあ日本のほとんどの人はあのお偉い法月綸太郎が言うんだから間違いなし、て感じでこじつけゴミ解説に書かれていた様に今後のシリーズは、成熟し安定してナゾトキに専念する警察小説になると 思い込んでるんやろけどね。
こうして並べてみれば、この流れはもはや現代ミステリという観点から見ても一つのジャンルを形成するぐらいのものだが、日本ではこれを系統的に考えるような動きはほぼ皆無である。んまー日本のイマドキの 「ミステリ評論家」みたいな連中にやらせても、おそらくは先頭にル・カレのスマイリー持ってきて、間にミレニアム押し込んで、さらには日本から二部作でもいいやぐらいになんかねじ込んで曖昧に「ミステリ」って 形に薄めて、おなじみのあんまり方向性のない知ってる本列挙に終わるのが関の山だろうけどね。なんか昨年出たポール・オースターでも、ハードボイルド-文学って観点ならもっと明確なところでそれやらかしてるやつ いたじゃん。

メキシコ国境と麻薬カルテル

この辺についてはまだきちんと把握できてるとは言えないんだが、少し前のカントリーノワール的な流れからも、近年ハードボイルド/犯罪小説ジャンルでメキシコ国境ものが重要なポイントとなっている印象はある。 メキシコ国境ものと言えば少し前のところでは、例えばコーマック・マッカーシーの最近再版されて原題通りになった『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』 で描かれたメキシコのイメージがあり、自分的に思い入れのあるものとしては、ジョニー・ショーの未訳作Jimmy Veeder Fiascoシリーズ第1作『Dove Season』でも同じような印象なのだが、その後完結したウィンズロウの カルテル三部作以降、強力な犯罪組織であるメキシコ麻薬カルテルという要素が加わり、犯罪小説ジャンルとしても大きく変化してきているようである。ここでカルテルが幅を利かせている状況の現代メキシコを描いたWolfe Family シリーズもその変化を見る大きな一例ということになるだろう。今のところここで他に挙げられる作品としては、以前より注目していた J. Todd Scottのテキサス国境あたりを舞台としているChris Cherryぐらいしかないんだが、 こちらについてもなるべく早くもっと深く探って行きたいというところである。
あーあとここでちょっとお詫びなのだが、前にこの辺について書いたとき、ちょうどそのころ見つけていたCraig JohnsonのWalt Longmireシリーズもこっちに属するように書いてしまったのだが、よく調べてみるとまあ同様に アウトドア的な地方保安官もののようなのだけど、ワイオミング州とかまた別の地方ものでメキシコ国境とは関係なかった。すんません。ただNetflixでもやってて19作だか出てて、米版のみならず英版も出版されているような 人気シリーズなんで、こっちも何とか早く読んで出来たらこっちにも書きたいもんですが。

ジェイムズ・カルロス・ブレイクWolfe Familyシリーズを読むべし。結局それを訴えんがために長々とあの手この手で書いてきたわけだし、それに尽きるだろ。 本来であれば、これは翻訳されてもっと読みやすい形で多くの人に読まれるべき作品である。これはいわゆるニューヨークのビッグ5から出ているメジャー作品というようなものではないし、広く万人に受けるものでは ないかもしれない。だが、かつてブレイクの作品3作が翻訳され、それに感銘を受けた者が多く存在するこの国なら、必ずこの新たなブレイクのシリーズに大きく期待する者も多いはずだ。そしてこれはその期待に必ず 応えうる作品である。
Wolfe Familyシリーズ、今後も追って行きますんで。


なーんか色々とバタバタしていたり、フラフラしていたりと、なかなか集中できなかったり時間をうまく作れなかったりという時期だったのですが、まあとにかくできたという感じです。途方もなく長くなってしまって、 書く方も大変だったけど、読む方も大変か。というかこんなの全部読む奴いるのか?まあいいか。ちょっと余力もない感じなので、今回はこれで。今後の予定については、コミック関連の方で近々、数日中ぐらいに ちょっとしたお知らせがあります。こちらハードボイルド関連では、次ジェイムズ・リー・バークの予定だったんだけど、ちょっとこれ先にやっといた方がいいか、というのがあるのでそちらをやってからとなります。 ということで今回は終わり。ではまたよろしく。


■James Carlos Blake著作リスト

  1. The Pistoleer (1995)
  2. The Friends of Pancho Villa (1996)
  3. In the Rogue Blood (1997)
  4. Red Grass River (1998)
  5. Wildwood Boys (2000)
  6. A World of Thieves (2002) 『無頼の掟』
  7. Under the Skin (2003) 『荒ぶる血』
  8. Handsome Harry (2004) 『略奪の群れ』
  9. The Killings of Stanley Ketchel (2005)

●Wolfe Familyシリーズ

  1. Country of the Bad Wolfes (2012)
  2. The Rules of Wolfe (2013)
  3. The House of Wolfe (2015)
  4. The Ways of Wolfe (2017)
  5. The Bones of Wolfe (2020)


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