今回はジェイムズ・エルロイ『Widespread Panic』。2019年出版の新L.A.5部作第2作『This Storm』と2023年出版の第3作『The Enchanters』の間、2021年に出版された、アンダーワールドUSA三部作に登場した実在したL.A.の私立探偵
フレッド・オターシュを主人公とした作品。うわ説明長っ。フレッド・オターシュ(Fred Otash)、1922-1992年。元ロサンゼルス市警警察官。ハリウッドで最も悪名高い私立探偵。映画『チャイナタウン』のジャック・ニコルソン演じる私立探偵ジェイク・ギテスのモデルとなったことでも知られている。
エルロイの一連のサーガでは、L.A.四部作の最後『White Jazz』に「スターの私立探偵」として登場。Underworld USA三部作では、主に物語の背景的なところで行動する。
エルロイの作品としては、2012年に電子書籍のみで出版された『Shakedown』という中編作品がフレッド・オターシュを主人公としたもので、この作品を元にデヴィッド・フィンチャー監督でHBOでTVシリーズが企画されていたそうなんだが、 これはお蔵になっている。今回の『Widespread Panic』はこの中編小説を元に作られた長編作品ということらしい。『Shakedown』の方はもう販売終了となっているので比較はできないんだが。あーちゃんと目を光らせて買っときゃよかったなあ…。
だがこれは単純に過去の中編を焼き直して長編として出し直したというだけのものではない。実はこの時期にこの作品が出たのには理由がある。これはこのフレッド・オターシュというキャラクターを、現在進行中の新L.A.5部作に取り込んで行くための ワンステップだったのだ。
2023年『The Enchanters』の出版に際し、事前に発表されていた序盤のあらすじは、60年代マリリン・モンローの死についてフレッド・オターシュが捜査するというもので、当初は前作『Widespread Panic』の続編的なものと思われていたようだが、 出版直前にこの作品が『This Storm』に続くシリーズ第3作であり、そこまでは四部作として予定されていたものが五部作となったことが発表された。
まだその『The Enchanters』を読んでいないし、フレッド・オターシュが物語の中でどう動いて行くかはわからないんだが、新L.A.5部作第1作『Perfidia』、第2作『This Storm』を読んだところでは一つその理由が想像できる。
新L.A.五部作の、とりあえず最初の2作の中心となるのは、第二次大戦中から始まるロサンゼルス市警内のダドリー・スミスとウィリアム・パーカーの暗闘だ。おそらくはこの続きでもその二人がストーリーの中の重要な位置を占めてくることに なるのだろう。だが、旧L.A.四部作においてダドリー・スミスが様々な事件の裏側で暗躍する黒幕的存在だったのに対し、その時点で本部長だったパーカーについてはほぼ名前が出てくるだけでその人物についても具体的に書かれることは少ない。 そこで新五部作の中でパーカーの物語を今後新たに動かして行くためのファクターとして取り込まれたキャラクターが、このフレッド・オターシュなのだろう。
この『Widespread Panic』は、オターシュの架空の回想録という形で、1940年代末オターシュが警察を辞め、私立探偵となるところから始まり、その後の1950年代について語られる。その中でパーカーとの関係も多く語られて行く。
エルロイの英語版のWikiを見ると、その著作リストの中で新L.A.五部作はその第3作と、今年6月出版されたばかりの第4作は、括弧付きでFred Otash #2、#3という形で、この『Widespread Panic』の続編でもあるように記述されている。その意味は多分、 この『Widespread Panic』の続きとなるようなオターシュの回想が、エルロイが一連のサーガで使っているスタイルである、交互に入れ替わる複数の人物の視点(新L.A.五部作についてはこれまでのところは四人)の一つとして使われて行くと いうことなのだろうと思う。
いや、まだ読んでないところなんで想像されるとか思われるとかばっかりで申し訳ないんだが、とにかくまだそっちに進んでないこの時点で新L.A.五部作の一つという形になってないこの作品を、その一部として読む意味みたいなもんを 説明しようとしてるところなんで、その辺は勘弁して。
さてこの『Widespread Panic』という作品、もう少し具体的に見て行くと、テイストとしては同様に実在の人物を主人公とした『ハリウッド・ノクターン』(1994)収録の中編「ディック・コンティーノ・ブルース」に近いかと思う。
架空の回想録という形で、一人称で書かれるが、私立探偵というところから想像されるハードボイルドスタイルというようなものではなく、オターシュが深く関わっていた50年代の有名なスキャンダル誌コンフィデンタルのような文体で書かれる。 エルロイ作品の中ではそれをモデルとしたハッシュハッシュの記事が引用として多く挟まれているが、あんな感じ。頭韻を強引に多用し、名詞・動詞を形容詞的に使ったりその逆もありで、まああんまり読みやすくはないよ。実際のところ、 本編5部作の方でもその手の「変形語」みたいなのはざらなんで、まあ本編原書で読んでる人なら大丈夫でしょ。
内容としては、まずプロローグ的な40ページほどの短い第1部「Shakedown」から始まり、ここではオターシュが警察を辞め(クビ?)私立探偵を開業するまでが書かれる。その後は「Pervdog」と「Gonesville」の2部に分かれ、それぞれに1950年代前半、後半が オターシュの一人称により語られる。
「Pervdog」の50年代前半は、ハリウッドとそこに関わる当時の左翼活動が中心となり、50年代後半の「Gonesville」はニコラス・レイ監督の『理由なき反抗』の撮影・製作過程の裏側というようなものが主となり、その中でそれぞれでオターシュと 関わりのある人物の殺害事件が起こる。
あれ?もう説明終わったか?みたいな感じあるんだが、もう少し詳しくやってくよ。とりあえず今回はそれぞれの章についてざっとあらすじを紹介するという形でやってく。もちろん殺人事件の結末までは書かないが。あんまり長くならないといいんだがな…。 とにかくそんな感じで『Widespread Panic』始まります。
Widespread Panic
Shakedown
監房2607号 贖罪刑務所 無謀破壊者収容ブロック 背教者煉獄 2020年7月16日
俺はこの地獄の底で28年暮らしている。そして今、奴らは俺が自分の失敗の連続の人生の回想録地図を作り、そこからの抜け道を書き記すことが出来ると告げた。
俺が軽蔑し、従ってこなかった全ての宗教的なクソが本物として動いてる。善人たちのための天国があり、畜生並みのクズ悪党のための地獄がある。俺みたいな奴のための煉獄がある。-病んで狂ったシステムにつけ込み、大災難を引き起こす腐食性の下種。 俺は自身の罪により20年以上焼かれてきた。俺は地上での人生の破滅的な詳細を追体験してきた。俺の悪賢い看守達は報酬をぶら下げ続ける。:
お前の歪みきった旅を記録しろ。真実を吹き鳴らし、勝ち誇れ。天国まで跳び上がり、その高音を打ち鳴らせ。
ベイビー、告解の時間だぜ。
オターシュが死亡したのは先に書いた通り1992年。以来死後28年に渡って投獄されてきた煉獄の贖罪刑務所の監房で書かれた手記という形で物語は始まる。
前述の通り、この作品は全3章に分かれているが、それぞれの冒頭に、導入部としてこの贖罪刑務所の「現在」のオターシュの前文が挟まれて行く。いや、オカルトや、宗教的な話にはならないから。ただの設定か、エルロイがあの世のオターシュから 何らかの手段で受け取った回想録の前文ということだから。
そしてその前文的な第1章に続き、死の直前である1992年8月14日にビバリーヒルズのNate & Al's Deliでの昔の仲間と馬鹿話をした後心臓発作を起こす様子が挟まれ、続いて本編の過去へ。ちなみにオターシュの命日は、1992年の10月5日、70歳で亡くなっている。
フレッド・オターシュは元海兵隊員で、45年の復員後LAPDに勤め始める。腐敗した警官ながらマイペースで暮らしていたオターシュに、転機が訪れる49年4月2日から物語は始まる。
その日の署内は騒然としていた。強盗事件が発生し、犯人は逮捕されたが、警官が一人撃たれて重体だ。そこでオターシュは強盗課のハリー・フレモントに声を掛けられる。
「役に立て、小僧。ジョージア・ストリートに警官殺しが出た。ホラル署長はお前が対処するのがいいと考えてる。お前にとっちゃ逃せない機会だろう」
ガレージに向かい、言われたパトロールカーに乗りジョージア・ストリートの拘置所へ行く。そして後部座席の新聞の下にあった32口径スナブノーズリボルバーを手に取る。
内勤の警官が配管に手錠で繋がれた男を指さす。左腕には添え木があてられている。
オターシュはその男の手錠を外し、拘置所の外へと連行して行く。ジョージア・ストリートに通行人はいなかった。
オターシュはポケットに入れていた銃を頭の上で撃つ。
慌てて振り返る男。何かを言おうと口が動く。オターシュは自分の拳銃を抜き、男の口を撃つ。そして銃を男の右手に握らせる。
奴は「頼む」と言おうとした。同じ展開で繰り返されるこの夢。細部については向きを変え変更される。「頼む」は常に変わらず留まり続ける。俺は生きている。奴は死んでいる。そいつが悪意ある結末だ。
撃たれた警官は生き延びた。一週間ほどで内勤で勤め始める。フレモント、ホラル署長は、オターシュを褒めたたえた。
Ralph Mitchell Horvath。1918-1949。自動車泥棒/強盗/へなちょこクズ野郎。
Ralphは未亡人と二人の子供を遺した。
オターシュは罪悪感に駆られ、ここから月に一度彼女たちにいくらかの金を匿名のまま届け続けることとなる。
1950年、ウィリアム・パーカーが署長に就任。モラルに厳しいパーカーは、オターシュを呼び出し、お前には常に目を光らせとくからな、と警告する。
そしてオターシュは、ある撮影現場で離婚を承諾しない夫に悩まされていた女優、Joi Lansingを助けたことから知り合い、その離婚に手を貸す。
「ハリウッドはあんたみたいな男を必要としてるわ」Joiとの出会いはオターシュを新たな裏道へと引き込んで行くことになるが、またその一方で、彼女とは多くの愛憎をその後に繰り返して行くことになる。
Joiの伝手により、オターシュはL.A.ランチマーケットの用心棒となり、様々な裏商売にも手を染めて行く。
その中で、オターシュはエリザベス・テイラーといい仲になり、彼女のビヴァリーヒルズホテルのバンガローの屋根の上で、並ぶバンガローに住む映画スターたちと共に、ネバダで行われた核実験を花火気分で見物する。
藤色とピンクの混ざった光に照らされる空。この藤色とピンクのイメージは作中で何度となく繰り返されて行くことになる。
そしてオターシュは、ランチマーケットを徘徊する売れない俳優の卵の青年と知り会う。ジェームズ・ディーン。
ランチマーケットのオターシュのオフィスに入り浸るようになったディーンは、愛読書であるスキャンダル誌を読みながら言う。「ビビった予想屋の戯言だな」
「こんなもんより遥かにえげつないもんを手に入れられるぜ、フレディ。俺ならCockpit Loungeの一晩で三冊分の価値のあるものを提供できる」
窓の外ではニューススタンドに新たな雑誌が補充される。『コンフィデンタル』。
その夜、運命は俺を裏切り始めた。オターシュは回想する。
エリザベス・テイラーからの紹介で離婚専門の弁護士Arthur Crowleyから電話。新たな方面への仕事の展開を話し、電話を切ったところでオフィスのドアが開けられる。
入ってきたのは二人の部下を引き連れた、ウィリアム・パーカー。
年貢の納め時と知り、バッジをパーカーに放り、ガンベルトを外し、椅子に落とす。
「殴れよ、ビル。俺の卑しさの遥か上に鎮座し、ルールをそこここで捻じ曲げ、後生大事に職務を守りやがれ。俺の頭はまな板の上、さあギロチンを落としやがれ」
啖呵を切るオターシュに嘲りの笑みを浮かべ、パーカーは話す。
オターシュが懇意にしていたスチュワーデスのBarbara Jane Bonvillainが麻薬密輸で捕まった。彼女はコミュニストのエージェントでユーゴスラヴィアのアカの親玉チトーの個人大使だった。
そしてパーカーは更に付け加える。「ミスBonvillainは本当は性転換した男だったんだよ。お前は男とファックしたんだ、フレディ。お前はホモ野郎さ。とっとと俺の警察から失せろ」
パーカーの糾弾はオターシュを打ちのめす。"お前は男とファックした"、"お前はホモだ"。
酒を飲み続け、床に倒れ、やってきたカブトムシと延々対話を重ね、やっとで立ち直る。
役所の知り合いに電話し、2000ドルで最速で私立探偵免許を得られるように交渉する。
海兵隊時代の仲間を集め、本格的にArthur Crowleyからの離婚商売を開始し、荒稼ぎする。
その間も、ディーンなどからハリウッドの醜聞は集まり続ける。
そこで、『コンフィデンタル』誌の発行者である、ロバート・ハリソンから協力を求める手紙が届く。
オターシュはハリスに、ハリウッドのあちこちに盗聴器を仕掛ける提案をする。
そうして集めた情報で『コンフィデンタル』とオターシュは急激にのし上がって来る。
だがそれは、様々なところで軋轢も生み出してくる。
オターシュに訴訟を起こそうとしたジョニー・レイを、怒りに任せ殴りつけた夜。深夜のランチマーケットでディーンとオールドクロウを酌み交わしていたオターシュは、ディーンから『エデンの東』の役が決まったと告げられる。
はぐれ者の軍団。奴らはすぐそこにいる。奴らは俺を罵る。俺に呪いをかける。奴らは俺の混沌の中の同志だ。お前は俺たちの同類だと語り掛ける。
「ジミー、お前は自分がなんでイカレてるか知ってるのか?」
「さあな、フレディ。あんたこそどうなんだい?」
俺は言った。「俺にもわからん、だがそいつはしばしば俺をひどくイラつかせるんだ」
Pervdog
1954年2月。再び有名人たちと共にビヴァリーヒルズホテルのバンガローの屋根の上でネバダの核実験を見物することになったオターシュは、その隙を見てジョン・F・ケネディのバンガローを探る。狙いは招待客たちのアドレスブック。
盗み出したそれらを探るうちに、多くのハリウッドの左翼活動家と繋がりがあるConnie Woodardという女性のアドレスブックを見つける。その手の記事も『コンフィデンタル』誌の売り物の一つ。
そしてその中から、ブラックリストには載っていないSteve CochranというB級俳優の名を見つける。
直感からその名を探してみると、ケネディらのアドレスブックにも見つかる。こいつは何者なのか?オターシュは探りを入れることにする。
Steve Cochranの留守を狙い、盗聴器を仕掛けるべくその道の専門家であるBernieと共に家へ忍び込む。壁に飾られたナチスの旗や日章旗。またいかれた誇大妄想が一人。
一方で、ディーンから持ち込まれた仕事、ロック・ハドソンのホモセクシュアル疑惑を抑え込むための偽装結婚の相手探しが始まる。
そして、パーカー直属の強面軍団、LAPDの"ハット班"がオターシュの前に現れる。「署長がお前に会いたいそうだ、フレディ」
パーカーは外の駐車場に駐められた車の中で待っていた。
「お前が職務中に殺した男の未亡人、Joan Hubbard Horvathが、昨夜自宅で殺害された。子供たちは学校の遠足で留守だった。様子からはレイプ強盗殺人に見える。女は首を絞められ、刺されていた」
「現場からお前の指紋が付いた14枚の封筒が発見された。うち二つには250ドルが入っていた」
彼女の爪に残された皮膚と血液型から、オターシュへの容疑は消えた。だが、封筒の指紋についてでっちあげの説明はしない方がいいぞ。
オターシュは彼女の夫を殺した経緯の真相を話し、罪悪感から5年間金を渡し続けていたと告白する。だが彼女とは一度も話した事はない。
パーカーは、オターシュがケネディのバンガローの盗難を警察から盗み出した犯罪者の指紋で偽装していたことも感付いていた。
「捜査に協力しろ。ビヴァリーヒルズ署に逮捕されたくなければな」
殺害されたJoanについて詳しく調べると、結構な高学歴だったことがわかって来る。なぜ彼女はRalph Mitchell Horvathのような安物のチンピラと結婚したのか?
そしてロック・ハドソンの偽嫁探しの候補者として、ディーンがClaire Kleinを紹介して来る。小学校の教師として勤めながら、女優もやっているという女性。
謎のSteve Cochranについての調べも進む。あいつは左に傾いてるって噂だが?
ロック・ハドソンの偽装結婚の仕込み。バーの駐車場でチンピラ集団に絡まれたClaireをハドソンが助ける。待機していた『コンフィデンタル』のカメラマンが仕込みの警察が犯人を連行するまでを撮影する。
Joanの家に忍び込み、家探しをしたオターシュは、寝室の壁に盗聴器が仕掛けられていたのを見つける。
『コンフィデンタル』誌のために、まだ表に出ていないハリウッドの左翼系スキャンダルをあぶり出せないかという目的での謎のB級俳優Steve Cochranの調査は、通話記録から頻繁に連絡を取り合っているConnie Woodardにも向かい始める。
ロック・ハドソンの偽嫁候補Claire Kleinは、自分もConnieに興味を持っていると言う。自分はL.A.にある男を殺すために来た。その男の名前はわからないのだが、おそらくConnieが知っている。
そしてConnie Woodardについて調べ、接近したオターシュは、彼女と恋仲になり関係を持つようになる。そして彼女と繋がりのある左翼活動家の人脈を知る。
その中で、オターシュは殺されたJoan Hubbard Horvathが、実はそういった左翼活動に深く関わっていたことを知るのだが…。
第2部「Pervdog」についてはこの辺で。
物語の軸となる、Joan Hubbard Horvathの殺害に関する調査と、ウィリアム・パーカーとの関係というところを中心に拾ってきた感じで、かなり省略した人間関係なども多いのだが。パーカー直属の"ハット班"の面々については、 L.A.四部作で出てきた名前もあったかな、とか今後の新L.A.五部作で重要になるのもあるかな、と気にはなったのだが。
ロック・ハドソンの偽嫁候補探しは、ここで予定していたClaire Kleinが失敗することとなり、第3部へと引き継がれる。
第2部の最後に、オターシュは"ハット班"に連行され、数々の犯罪行為について取調室で絞られた末、留置場に放り込まれる。
そして現れたパーカーに告げられる。これまでの行為での訴追から逃れたければ、今後は俺の情報屋密告者となり、囮になり、『コンフィデンタル』の廃刊に協力しろ。
Gonesville
第3部の中心となるのは、ニコラス・レイ監督の『理由なき反抗』の撮影・製作現場の状況。
ディーンはレイ監督に深く傾倒し、結果オターシュとは袂を分かつこととなる。レイのメソッド演技法思想により、出演者・撮影クルーはある種のカルト化し、酒場を襲うなどの乱行、犯罪を繰り返すようになって行き、オターシュは親友ディーンが そこに巻き込まれて行くことを危惧する。
一方、ハリウッドに流れる海賊ラジオ放送に、『コンフィデンタル』やオターシュを激しく非難する匿名の女性Miss Blind Itemが登場し、オターシュはその素性を調べて接触して行く。そして数々の犯行により投獄されている Carryl Chessmanに激しく憎悪を抱くその女性Lois Nettletonに惹かれて行く事となる。
オターシュは、レイ監督がディーンがChessmanを演じる次回作も予定していることを知る。
ロック・ハドソンの偽嫁選びには、Claire Kleinの失敗により、もう少し信頼のおける相手が選ばれる。話題性を盛り上げるため、記事のための三角関係を演ずる女性Janey Blaineも用意されるが、その直後、Blaineは路上で陰惨な 殺害遺体として発見される。
Carryl Chessmanを模倣したかのような犯行。オターシュはニコラス・レイ配下の集団、そしてディーンが関与しているのではないかと不安を抱く。
第3部についてはこのくらいで。こちらの軸となるのは『理由なき反抗』だが、それと絡み合うようにCarryl Chessmanに関する動向が描かれている。
Carryl Chessmanは実在した犯罪者で、強盗、誘拐などの罪で1948年に逮捕・投獄され、死刑判決を受けた。この事件は大きな反響を呼び、死刑制度廃止、彼の恩赦を求める運動も起こっていて、作中でもマーロン・ブランドが その先頭に立つエピソードも描かれている。
獄中作家として四冊の著作があり、そのうち1954年に出版された回顧録『Cell 2455, Death Row』は55年に同名でウィリアム・キャンベル主演で映画化されている(日本公開時のタイトルは『死刑囚2455号』)。ニコラス・レイ監督、 ジェームズ・ディーン主演の企画が本当なのかは不明。
ディーンの死についても描かれるが、そこに特別な独自の考察といったようなものは無い。
第3部については、パーカー配下の"ハット班"と行動する場面も多くなっている。
* * *
というわけで、まあ予想通り結構長くなったが、とりあえず『Widespread Panic』一通り説明できたんじゃないかと思う。ここで、2021年の『Widespread Panic』出版時にThe Soluteという多分映画や関連カルチャーなどの情報・評論サイトだと思われるところに掲載された、Grant Nebel氏による 「Freddy Got Fungooed: Widespread Panic by James Ellroy (with John “Son of Griff” Anderson)」という記事を紹介する。
投稿者であるGrant NebelがJohn Andersonというもう一人のライターと、対談形式ではなくリレー方式という形でそれぞれの考えを交互に語った、かなり長文の評論。現在はブラウザでAIがかなりちゃんとした翻訳をやってくれるので、 誰でも簡単に読めると思う。まあそれでもじっくり読めば一時間やそこらはかかるけど。もはやエルロイの翻訳さえも途絶え、自称評論家による「本を読んで、資料を参照し感想を書くだけの簡単なお仕事です」レベルの粗雑な やっつけ感想文ばかり読まされ、もう評論自体にうんざりしているている我々からすれば、これくらいきちんと読んで考えられたまともな評論は、久しぶりに出会えた極上のごちそうぐらいの物である。もうこんなのあるなら自分の拙い感想とかいいや と思ってしまうよ。所詮自分なんか作品紹介までが精々だよな。
他人の功績や努力みたいなもんに便乗横取りするような気分になりそうなんで、特に引用みたいなことをするつもりはないんだが、ひとつこれは自分でたどり着けてなかったところだよなと思ったのが、二人が当たり前のように言ってる 『Blood's a Rover』以後という認識。これはエルロイ読者というところではもう当然の認識だったのだろう。ホント言われてみればぐらいの感覚でやっと気づいたんだが、どうしてもL.A.四部作、アンダーワールドUSA三部作とシリーズごとで 区切って考えてしまいがちになるエルロイ作品なんだが、アンダーワールドUSA三部作の最終作『Blood's a Rover(邦題『アンダーワールドUSA』)』は、その作風として前の二作とは少し異質なものがあり、それが新L.A.五部作 『Perfidia』、『This Storm』へと引き継がれているという印象がある。L.A.四部作の最終作『White Jazz』で用いられた変化が、続くアンダーワールドUSA三部作前半2作へ引き継がれているのと同様のこと。この『Blood's a Rover』以後の 変化というのは、そちらでは道徳観やロマンティシズムという言葉で表現され、なるほどなあと思うんだが、エルロイ読者以外には全く違った方向に誤解されがちな言葉かとも思う。まともな評論の継続みたいなもんがない地域における弊害だよな。 なんかもうちょっとうまく説明できる言い方を今後の課題として考えとくよ。
以上のような『Blood's a Rover』以後という地点でこの『Widespread Panic』が様々な方向から考察されているが、この2021年時点では、少し例外的な作品と位置づけられているように思う。だがその後、前述のようにこのフレッド・オターシュの 回想は、その次の作品『The Enchanters』で、エルロイのメインワークである新L.A.五部作へと合流して行くという新たな動きも起こっている。
だが更に、こちらがモタモタ書いている間に前述のエルロイの英語版のWikiでは、この『Widespread Panic』と『The Enchanters』、更に先月出版されたばかりの新L.A.五部作第4作とされていた新作『Red Sheet』を加えた三作がFred Otash Trilogyとして新L.A.五部作とは別に記述されている?この三作でオターシュの回想が完結するのは分かるが、もう新L.A.五部作とは別になったのか?一体エルロイ作品で何が起きているのか?これについてはきちんと続く作品を読み続けることで探って行きたい。だから読むまで調べないので。
その他ネット、オンラインというあたりで見つけたものを少々捕捉。
エルロイの新作発表に合わせて(便乗?)、エイドリアン・マッキンティが自身のSabstackで『This Storm』出版時、自身がエルロイに行ったインタビューについての記事を書いている (Interviewing The Demon Dog)。エルロイの色々な意見も面白いが、エルロイVSマッキンティというところで見えてくるところもなかなか興味深かったり。 マッキンティサイドの話ではその中で、エルロイが彼のデイヴィッド・ピースについてのレビューを興味深く読んだという話が出てくる。マッキンティはあちこちでピースのRed Riding四部作を高く評価する発言をしている。なんかピースというのは 当然そういうぐらいのポジションだろうと思ってきたんだが、英国作家でもしかするとアメリカではそれほど知られていないぐらいのことがあるのかも、それゆえのマッキンティのピース推しRed Riding推しってところもあるのか?と今更ながら気づいた。
その記事からマッキンティによるGuardianに掲載の『This Storm』のレビュー、 Steven Powellによるエルロイの伝記『Love Me Fierce In Danger: The Life of James Ellroy』のレビュー などへのリンクも張られている。あー、エルロイの伝記も読まなくちゃ。
そんなところをウロウロしているうちにGuardianに、ホント最新、先月最新作『Red Sheet』出版直前のエルロイへのインタビューを見つけた! (James Ellroy: ‘It’s satanic to me, the dependency people have on computers') 記事では結構変わったエルロイの執筆スタイルや連絡方法、監督 カーティス・ハンソンの死去までは気を遣って黙っていたが、映画『L.A.コンフィデンシャル』にはかなり不満があることなど、興味深いことが多数発言されている。フレッド・オターシュについては、死の前年に一度会ったことがあるが、 信用できない詐欺師の類いという印象を受け、『American Tabloid』では一旦別の名前で書いていたが、死去したので本名に直したということ。
なんかね、探せば興味深いことが色々見つかる作家もいるんだから、そういうものもちゃんと調べて紹介して行かなければ、と改めて思ったよ。
ジェイムズ・エルロイは、現代のミステリなんて範疇を越えて、アメリカ文学ぐらいの範囲でも絶対に読まれなければならない最重要作家の一人である。なんて至極当然のことをわざわざ声高に言うことさえ虚しい。もう日本の翻訳ミステリなんてところが いかに劣化・退化・幼稚化・老衰化してエルロイすら出版できなくなったかなんてくどくど言うのも時間の無駄としか思えない。読書のプロ・ミス研人脈・本格ミステリカルトの三悪により食いつぶされ、出版不況の中壊滅状態の翻訳ミステリ業界が 完全に消滅し、「本格ミステリ」などという思い込みとそんな妄想概念はそもそも存在すらしない海外ミステリのつじつまを合わせるためにでっちあげられた「日本の見方」なる腐食が完全に浄化され、世界の現代ミステリ史に対する視点が 日本の中で再構築されて、エルロイの重要性を再認識するなんてことが実際に起こったとしても、50年後かい?百年後かい?
今や新しい読者がエルロイに辿り着く道筋すらほぼ失われた状況なんだろ。映画『L.A.コンフィデンシャル』を観た中の1パーセントぐらいが原作を手に取り、大半が「思ってたのと違う―、読みにくーい」とぶん投げる中、最後まで読み正常に 感銘を受けた数人か?どんな形にせよエルロイに出会い、その凄さを理解した人は絶対に読み続けろ。もうじき80歳になるエルロイが、あとどれくらいの作品を書き続けられるのかはわからない。だが、このあまりにも偉大な アメリカ文学の狂犬、悪魔の犬が作り出した唯一無二の作品群は、何が何でもその最後まで読み続けられなければならんのだ。
■James Ellroy著作リスト
(2026年7月時点での英語版Wikipedia掲載の作品リストを基に作成)
●Lloyd Hopkins三部作
- Blood on the Moon (1984)
- Because the Night (1984)
- Suicide Hill (1986)
●L.A.四部作
- The Black Dahlia (1987)
- The Big Nowhere (1988)
- L.A. Confidential (1990)
- White Jazz (1992)
●アンダーワールドUSA三部作
- American Tabloid (1995)
- The Cold Six Thousand (2001)
- Blood's a Rover (2009)
●新L.A.五部作
- Perfidia (2014)
- This Storm (2019)
●Fred Otash三部作
- Widespread Panic (2021)
- The Enchanters (2023)
- Red Sheet (2026)
●その他の長編
- Brown's Requiem (1981)
- Clandestine (1982)
- Killer on the Road (1986)
●短篇集・エッセイ
- Hollywood Nocturnes (1994)
- Crime Wave (1999)
- Destination: Morgue! (2004)
- Shakedown (2012)
- LAPD '53 (2015)
●自叙伝
- My Dark Places (1996)
- The Hilliker Curse: My Pursuit of Women (2010)
いやホントに今すぐにでも次を読まなければぐらいの気分になってるのだが、あーあれの続きも読まなければ、これ一体何なんだろうみたいなのを次から次へと押し込んでるうちに時間が経ってしまう。本当なら最新作が出たら早急に読んで 次を待つぐらいの態勢にしたいんだが…。まあ次にやるのもその次にやるのも最後には次のを一刻も早く読まなければ、ということになるんだろうしな。イージー・ローリンズの続きも予定してるんだが、ホントに年内に始められんだろうか?
前に『This Storm』やった時は、まだ日本の翻訳ミステリとかどうにかしてくれ、みたいな気分はあったんだが、もはやそんな気分すらなくなったな。なんかさあ、そもそも「本格ミステリ」なんて思想自体が幼稚なもんで、そういうの好きな奴らに勝手にやらせときゃいいだろ、ぐらいがまともな大人の対処だったんだろうが、放置されてる間に調子乗って、もうどうにもなんないところまで来ちまって、その清算のためにオレ程度のガキっぽい大人が文句を喚かされてると思うとホント不快でうんざりするんだけど。そもそももう今の時代「本格ミステリ」なんて誤解を招く言葉を使いたかったら、
(※本書で使用している「本格ミステリ」という表現は、本格的なミステリを指すものではなく、古典的なトリックなどを重視した作品を示す、日本国内のみで使用されているミステリ用語です。)
ぐらいの但し書きが必要だろうが。アホらしい。なんだか次の『The Enchanters』読もうと思う頃には、日本にいくらかでも残ってるエルロイが理解できる人に続きを読むよう促すために、なんて気分すらなくなってないといいけど。 まあ別にどうなっても自分は必ず次も読むし、誰も読まなくっても多分書くけどさ。
























