
フランスがまた一つのマンガ=コミック=バンド・デシネ大国であるなんてことは今更言うまでもありませんが、実は日本からはその実態はあんまり見えてないんじゃないか?と思う昨今か結構昔からか。というのは、まあバンド・デシネっちゅうのも日本では時々翻訳はされているが、やっぱ供給側がバンド・デシネは芸術である!というアカデミックな方々だったりするので、どうしてもそういう方向に偏りがちなんじゃないかなということ。別にそういうものが嫌いなわけじゃないんで、翻訳されるのはいいんだが、でもさあ、やっぱりマンガだろう?本質っつーかメインストリームつーかもっとそこらに出てて読まれてるのみたいなもんはもうちょっと違うんじゃないのか?みたいなことは思ってたわけである。
そこでこの電子書籍時代。近年ではComixologyにも多くのフランスのパブリッシャーが参入しており、そこではフランス語のみならず英語に翻訳された作品も数多く読むことができるようになっておる。バンド・デシネがワシのようなアカデミック要素皆無の人間にも手が届く時代が到来したのである!よっしゃ、こうなったら芸術である!基準抜きで色々なバンド・デシネを読んでやろうじゃないの!と乗り出した最初の作品がこれである。これかよ!というツッコみが日仏双方から上がってそうだが、まあ今回はホラー・コミックという流れでね。これからもっと色々なのについて書くからさ。あと今回はComixologyの英語で読めるのを中心にフランスのパブリッシャーも色々とリストアップしますんで。それではここからミーがおフランスの怖いマンガについてレクチャーしちゃうざんすよ!…えっとこのネタなんとか通じてるよね?最近のアニメとかあったし。まだ観てないんだけど…。
【DoggyBags Heartbreaker】
まずは概要について。出版はAnkama。日本でも翻訳されアニメも放送されている『ラディアン(Radiant)』の版元でもあります。『DoggyBags』がシリーズタイトルですが、連続した長編ストーリーではなく、一冊ごとにキャラクターもストーリーも独立した一巻完結もののシリーズのようです。ページ数は100ページ前後。バンド・デシネというのはまず50ページぐらいのがあって、その次がこの100ページぐらいのになるんだろうな、て思ってんだけど認識間違っていたらごめん。その100ページぐらいの中にアメリカのIssueサイズの25ページぐらいの話が3本立て、というのがシリーズのフォーマットのようです。内容としてはホラー、オカルトといったジャンルで、シリーズ全体のもう一つのテーマがパルプ。デザイン的にも内容的にも、いかにもな安っぽいパルプテイスト満載の大変魅力的な素晴らしいシリーズであります。この「Heartbreaker」はシリーズ中のVol.6なのですが、残念ながら英訳されているのはこの一冊のみ。ですが、本国フランス語では13巻プラスが出版されており、その辺の素晴らしいカバーだけでも後ほどComixologyから画像を借りてきて並べるつもりです。と、書いたところで実はAnkamaのインプリントであるLabel 619というレーベルでいくつか英語で読めるのも発見?その辺も含めてもう少し詳しいことは後ほどに。
この『Heartbreaker』では、3本立てになっている各作品のライターは共通で、Céline Tran (Katsuni)とRUNの二人による合作。Céline Tranは本業は女優・モデル・ダンサーという方面の女性で、映像方面にも手を拡げるライターRunと映画関連の仕事で出会い、タランティーノその他のジャンルへの愛好で意気投合し、それがのちにこの合作へと結実したということらしい。その辺のことはTranによる前文に書かれています。そして3作それぞれのカバーは、以下のようなこのTranさん自身による主人公をイメージしたかっけー写真で飾られております。


米西海岸ポルノ産業地帯、その一角のある建物の一室で、今日もポルノ・フィルムの撮影が始まる。クラブでナンパされ優男の口車に乗り撮影を待つ一人の女性。
だが、いざ撮影が始まったかと思うと、相手役の優男は彼女の傍を離れ、代わりに数人の全裸のスキンヘッドの男たちが現れる!
話が違うと、逃れようとするも強引にねじ伏せられる女性。顔いっぱいに残忍な笑みを拡げる男たちの口に見えるのは、牙?
その時…!
漆黒のボディースーツに身を包んだ黒髪の美女が乱入し、両手に携えたブレードで戦闘を始める!

で、フランスと日本では線へのこだわりの強さが共通しているかも、ということなのだけど、日本について言えば基本マンガが白黒であるところからそういう発展をしてきたわけで、この傾向は初期白黒時代の英国2000ADや、アメリカでも『Creepy』『Vampirella』などのウォーレン・コミックなどにも見られるものである。うん、アメリカにもちゃんとあったね。で、日本的にはフランスのバンド・デシネは基本的にカラーというような認識があり、最近でもどっかにそう書いてあったの見かけたのだけど、実は結構白黒の文化もあったのではないかということが推測されてくるわけである。実際、後述するがフランスの過去のヒーロー物などを多く出版しているHexagon Comicsのやつとか見ると白黒多いようだしね。まあ要するにエライ人の言う定説やなんかを鵜呑みにしないで自分の目で見てみろいうことやね。せっかく読みやすくなってるのだからどしどし読むべし。あともちろんこんなマリンのものともマウンテンのものとも知れないエラくない人の言うこともコーモラントドリンクしないようにね。
…とまた延々脱線が長くなってしまったのだが、話をこの『First Blood』に戻そう。割と文字情報多目な印象があるバンド・デシネだが、この作品はその辺少な目で、ご覧のような結構サイレントに近いスタイリッシュな戦闘シーンが続いたりする。この第1作の時点では黒髪の美女の正体は不明で、スキンヘッドや撮影スタッフも人外異形のものらしいことはわかるがその正体については謎のまま終わる。

黒髪の美女がヴァンパイアハンターKitsuneとなるまでの誕生エピソード。
交際していた男に裏切られ、男性不信になり新たな関係を築けなくなっていた彼女は、クラブで出会った男に説得され、ポルノ・フィルムの撮影現場へと足を踏み入れる。
そして、1作目同様の展開。だが、前の女性の時のような救済者は現れず、彼女は異形の男たちに嬲り者にされ鋭くとがった爪で身体を切り裂かれ血みどろになってゆく。

だが、彼女はその生命の炎が尽きるまで闘いを止めず、憎悪と怒りに燃える目を上げる。
そしてその時、男たちが動きを止める声が上層から響く。
「終わりだ!」
撮影を見物していた上級ヴァンパイアの男が、彼女の卓越した意志力、生命力に惹かれる。
そして男は、自らの血を与え、彼女を血族の一員として迎える…。
だが、堕落し弱者を貪るヴァンパイア・コミュニティの一員となることを潔しとする彼女ではなかった!
そして背徳の街の闇に潜むヴァンパイアを狩る漆黒の美女、ヴァンパイア・ハンターKitsuneが誕生する。
こちらの作画はFlorent Maudoux。この人については、ちゃんとWikiもある。…が、フランス語で読めない…。ごめん。同じく読めないけど、ホームページもあります。2011年から更新無いみたいやけど…。(Florent Maudouxホームページ)


金と権力で女性への暴行の罪を逃れるのみならず、その大邸宅の奥で攫った女性を愉しみのために惨殺し続けるサディスティックな富豪の実業家が、次のKitsuneのターゲット。
護衛達を次々と抹殺しながら邸宅へと押し入り、富豪の処刑準備に取り掛かったKitsuneは、その奥に秘匿されたヴィンテージ物のワインのようにビンに詰められラベルを張られた偉人たちの血液を発見する…。

作画はGuillaume Singelin。独特のタッチやベタの使い方やカラーのセンスなんかがいい感じのグロテスク感出してて、結構お気に入りだったりしたのですが、調べてみるといつもとはちょっと違うタッチで描いた作品のような印象。このTumblrとか見るともう少し違う方向のアーティストなのかな(https://www.tumblr.com/tagged/guillaume-singelin)。

以上3作に加え、合間にCéline Tranのエッセイらしきものや嘘っぽい広告などを挟んだ、なんともいかがわしく素晴らしい1冊でありました。こちらの英訳版、プリント版・Kindle版などはないようですが、Comixologyから入手できます。
ではここで最初の方で書いた通り、『DoggyBags』シリーズ全13巻のカバーを並べてお見せします。画像はComixologyから。













どうだい、壮観だろう。なんかワシ結局こーゆーことが楽しくてこれ続けてんじゃないの?とか思ってしまうよ。ずらっと並べているうちに気付いたのが、Vol.12の「身の毛もよだつ恐怖とサスペンス!」!…ちょっと小さくて見えにくいんだけど、できたらComixologyの方ででも確認してください。3本立ての一本を担当しているのがAtsushi Kanekoってこれあのカネコアツシやろ?いや日本のマンガ家の活躍も知らぬうちに拡がっているのですね。Comixologyのプレビューではカネコさんのは見れないけど、なんか日本の中学校が舞台になってるらしい最初の話を数ページ見られますよ。
既刊13巻なのだが、多分これ全13巻というコンセプトで出しててこれで全部なのだと思う。英国にもノワール小説のレーベルなんだけど同じことをやってたNumber Thirteen Pressというのがありましたね。その後に出た上の『Heartbreaker』の続編とか他にいくつか出てる同系列が通番ではなく『DoggyBags présente : 』になってるのはそういう事情かと。
で、最初ちょっと曖昧いい加減に書いていたシリーズの出版についてもう少しちゃんと。まずこのシリーズの版元がAnkamaであるのは間違いないのだけど、実際に出版しているのはインプリントであるLabel 619というレーベル。Comixologyの方で見てるとよくわからなかったのだけど、ホームページの方を見て、フランス語読めないなりに何とか把握出来ました。Label 619というのはAnkama内にホラーとかアレなやつ専門のレーベルとして立ち上げられたインプリントのようです。Comixologyで見ると、この『DoggyBags』シリーズも含めほとんどの作品がAnkamaで発売されていて、Label 619の方には少ししかないのですが、実際にはこの手のやつはLabel 619レーベルとして出版されているようです。アメリカのパブリッシャーでオールエイジものをメインで売っていくようになってアレなやつを別レーベルに分けたのを見たことありますが、これがそういう事情なのかは分かりません。

今回これのためにその辺をちょこまか見ているうちに、『DoggyBags』シリーズの同じ作品が本体AnkamaとLabel 619の両方で販売されているのを見つけ、これどこか違うのかな?と個別商品ページを開いてみたところ、Label 619の方がフランス語作品のマーク[FR]がついているにもかかわらず何故か説明文は英語?プレビューを見てみると、作品の方も文章は英訳されている?つまり、なにか登録の過程で間違ってフランス語のマークがついてしまってそのままになってるとかいう事情と思われる。いや、よくあるよね。頭から全部記入すんのめんどくさいから他ののフォームコピペで使って、消さなきゃなんない項目そのままで出しちゃうとか。多分そんなとこだろう。あっ、私も前のスプラッタパンク・アワードのところでほぼそっくりの失敗してたっす…。
で、Label 619で現在販売中の作品のうち『DoggyBags』シリーズのフランス語マークが付いてる奴は、実は英語で読めます。その他前述の『FREAKS SQUEELE』シリーズや、SF作品『SHANGRI-LA』など、気になる作品も英訳で販売中。Ankama in EnglishとLabel 619の様子から察するに、国外英語圏への進出をねらうAnkamaながら、なかなか戦略の見極めがつかないところで、世界中に散らばるワシのような珍しいもの怖いものに目がないうつけ者群に目を付け、まずはそっちジャンルのLabel 619レーベルによる展開を図ってきたのであろう。当面スローペースながら、今後もまだ見ぬバンド・デシネを我らの手の届く形で提供してくれることが大いに期待できるAnkama、Label 619に注目していこうではないですかい。
Ankama
Label 619
まあ毎度のことながらなーんか想定より長くなってるのだが、ここからは頭のところで書いたようにComixologyで英語で読めるのを中心に、バンド・デシネのパブリッシャーについて探って行こうと思います。



あとついでにメビウス英訳作品についてですが、こちらHumanoidsの他にも米Dark HorseからもMoebius Libraryとして出版されているものがあります。うち『The World of Edena』の方は翻訳見たことあるけど、『Inside Moebius』の方は未訳なんじゃないのかな。Dark Horseものならプリント版も手に入りやすいかもね。


Dargaud、Dupuisといったところも多分そこそこ大きいところなのだろうけど、自社では英訳作品を販売していません。ただ、このあたりもEurope Comics、Cinebookで英訳が見つかるのもあるようです。

とまあこんなところがComixologyで英語で読めるバンド・デシネというところかと。いや、見逃してたところあったらごめん。あと、途中でちょっと触れたように、現在は自社で英訳版は出していないが、Europe Comicsとかに参加しているというのもあったりするので、もっと深くはこれからということで、今回はこの辺で勘弁してください。

で、画像のやつがノルウェーの作家Jasonによる作品。なんかこれ日本でも受けそうだからどっかのおしゃれサブカル系とかが翻訳するんじゃないかと思ってたんだけど、どこからも出ないね。「モンテペリエの狼男」ってタイトルで、狼男になっちゃった男の表紙なのだけど、この人元々は犬。二足歩行で服を着てる犬とか動物のキャラクターたちによるユーモアとペーソスって感じの話。まだこれしか読んでないのだけど、Fantagraphicsからは結構沢山出ています。大変好き!なんかこっちがもう少し余力出てきて、その頃になっても日本でどこからも出てこなかったらいずれはなんか書くよ。ちなみにこの人も作品の舞台がフランスだったりしたもので、フランスの人だと思い込んでました。現在はフランス、モンテペリエに在住とのこと。多分名前で検索してもなかなか見つからなそうなのでJasonさんのブログのリンクも載せとくです(cats without dogs)。

Fantagraphicsからのヨーロッパ作品は多分よく調べればもっとあるんだろうけど、自分が読んだり知ってたりするのはこのぐらいで。Fantagraphicsについては本当は書かなきゃならないもんが山ほどあるのだよな。もっと頑張らねば…。
とりあえず本丸であるフランス語がまだだし、新たなバンド・デシネの入り口になる英訳版のまとめのフリぐらいにしかなんないかな、と思いながら書き始めた『DoggyBags Heartbreaker』なのだけど、わかる範囲で調べてみても結構色々見つかったりで思いのほか長くなってしまったよ。うーむ、フランス語で読めるようにならなければという思いが強くなるばかり。とりあえずのところは色々と読み始めている英語で読める日本未訳のバンド・デシネについてはまた続けて書いて行きたいと思っております。で、今回初バンド・デシネであるし、そっちの知識もいまいち不足してるので、あんまり見当違いの事書かないようにと、少し国内方面で書かれていることを調べてみたりもしたのだけど、んー、まあ、いつも通りに見当違いでいいかなと…。なんか面倒くさくなっちゃってさ…。いや、基本的に善良でバンド・デシネを広めたいと願う人達が真面目に書いているので、こいつが誰にでも吠える狂犬だからと言ってそんな人たちにまで噛みつくものではないよ。まあバンド・デシネについてよくわかることも多いと思うので、もっとよく知りたいと思う人は調べてそっちの方を見て下さい。というか大抵の人はここに来る前にそっち読んでるからこっちは適当でいいよな。ああ、そうだ日本のバンド・デシネ観にもっと必要なのはこの出鱈目感なのだろうと、自己正当化してみよう。
ただ日本でバンド・デシネを語る人たちに一つだけ言いたいことあり。あっちこっち見てると共通して最初に目に入ってくるのが、「バンド・デシネは日本のマンガと違います。」とか「バンド・デシネと日本のマンガの違い」などの文言。それってそんなに重要?大して変わんないよ、日本のもフランスのもアメリカのもイギリスのも。どれもマンガナリ!つーかさ、常々主張しているのだが、すべてはマンガ!そこから始めなければならない!そうでなくては優れた数多の海外のマンガが本当に日本に浸透することはありえないのである!とにかくまずマンガとして読め!細かい違いなんてその後じゃ!バンド・デシネをおしゃれやインテリジェンスから、マンガなら何でも読むマンガ・ジャンキーの手に奪取するのが我輩の目的である。喰らえ!マンガ酔拳!バンド・デシネを漫画ゴラクレベルまで引きずり下ろし、お前を蝋人形にしてやるぞ!はははははははははははははは(コレ変換しようとすると必ず一文字ずつ別の字が出てきて面倒なので全部平仮名!)
なんかまあ主に夏バテでまたしてもかなり長期に亘り沈黙の難破艦してしまいました。申し訳ない。何しろ体力が虫並みなので。ああ虫と言えば、夏となると必ず思うのがあのセミという奴について。我々は夏になると出てきて樹にとまってやかましく鳴くあいつをセミだと思っているが、セミ本人、いや本虫からしてみると、何しろ何年も地中で暮らし、最後ちょっとだけ地上に姿を現すのだから、オレは地中に住んでる奴、セミというのは土の中で暮らす生き物、と思っているのではないか、というのが私の見解なのだが、いかがだろうかファーブル博士。まあそれはさておき、なかなか書けないのをこじらせちょいと考えすぎ、なんか色々特集的なことを続けてきたが、なんか先まだまだ長いからな、今日は休んじゃえ、が積み重なり更なる遅延につながっていることに最近やっと気付いた。やっと…。とにかく早くこの辺のやたら長くなるやつを片付けて、もう少し短く書ける作品ひとつずつについて書くやつをどんどん出して行かねばと、切に思っている次第です。というわけで、次回ゾンビ・コミック特集ホントの最終回、番外編第2回。それ終わったら通常操業に戻るでやんす。今晩からつぎにすぐかかるでよー。じゃあまたねー。
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