■Geraldine/Andy Rivers
今日はBillyの誕生日だ。行きつけのいつものバーで祝う。俺とBillyはガキの頃からの親友だ。同じ学校に通い、いつも一緒だった。だが、奴は今はいない。酒も浴びるほど飲んで、女にもだらしなかった。いつも奴の女房にごまかして庇ってやった。だが、そんなことは大したことじゃなかった。しかし、ドラッグだけは違った。そして奴は変わり始めた…。
粗野な男の一人称で語られる、友情の悲しい末路。結末が独特の余韻を残します。Andy Riversはニューキャッスル出身の作家で、著作は前の第3回で書いたByker Booksから…と書こうと思って少し調べて彼自身のホームページを見つけて見てみたら、当のByker Booksが終わってしまうとの記事が…。イギリスの現在の犯罪小説の拠点の一つとして期待していたのですが、残念です。一応著作のリストは載せておきますが、いずれは無くなるかと思われますのでお早めに。
Andy Riversホームページ
■A Minimum Of Reason/Nick Boldock
ここも昔はいい町だった。だが時の流れとともにだんだんとさびれていった。奴らが来るようになってから事態はさらに悪くなってきた。あのモスクに出入りする奴ら…。だが今日からすべてが変わる。そうDoddsyは言った。そして彼Carlがこれからその一番重要な役を担うのだ…。
イスラム系移民への逆恨みによる犯行と、その皮肉な結末。さびれて行く町でサッカー観戦ぐらいしか楽しみが無く、不満ばかりたまって行くという感じが良く伝わる。阿部和重の『シンセミア』みたいな町を思い浮かべたり。Nick Boldockはヨークシャー出身の作家であちこちのアンソロジーやウェブジンに作品を発表しています。
Nick Boldockホームページ
■Dope On A Rope/Darren Sant
Pete Howellは橋からガソリンの浸み込んだロープで吊るされていた。なぜこんなことになったのだろう。彼は考える…。
前夜フレディー・マーキュリーをうたって浮かれていた青年が、何故町で一番凶悪なギャングの怒りに触れることになったのか?短めながらバイオレンスとユーモアのスパイスが効いた作品です。Darren Santはハル在住の作家。ハルというのはヨークシャーのハルの事でいいのかな?すみません、地理には暗いもので。イギリスに限らず…。Byker BooksのBest of British Crimeにも彼の作品があります。もう少し長いのも読んでみたい、これからが楽しみな作家です。
Bykers Books以外にも1冊イギリスのウェブジン発のパブリッシャー、Near To The Knuckleからの著作もあります。同名のアンソロジーも出しているところなのだけど、別のところのと勘違いしてて最近まで気が付かなかった。イギリス犯罪小説の拠点の一つとしてこれから注目して、もう少しよく調べます。
Darren Santホームページ
Near To The Knuckle
■A Speck Of Dust/David Barber
私は小さな部屋のテーブルの前に座って、Stilitsを待っている。奴の本名はKevin West。汚い金貸しだ。彼自身はパッとしない小男だが、いつも屈強な部下二人を従えている。だが、私にはその金が必要だ…。そして屈強な手下の手でドアが開けられ、Stilitsが部屋に入ってくる…。
意外な結末。果たして「A Speck Of Dust」だったのは誰だったのか。David Barberはマンチェスター在住の作家で、個人出版でいくつかの短篇をKindleで出しています。ホームページを見ると何も書いてないのだがやめちゃったのだろうか?とりあえずリンクだけは載せときます。
David Barberホームページ
■Hard Times - A Charlie Splinters Story/Ian Ayris
俺のオフィスはThree Rabbits。なじみの昔ながらのパブだ。今日はそこで依頼人と会う。電話の印象通り、60代と思しき男性だ。仕事の内容を言い難そうにしている彼に、ダチに協力してもらって作った俺の料金表を見せる。だが、彼の依頼はそこに載っていない仕事らしい…。
私立探偵(と思われる)Charlie Splintersを主人公とした短篇。それ程悪くは無いけど、ハードボイルドならもうひとひねり欲しいところというのは欲目か。Ian Ayrisは、ロンドン、ラムフォード在住の作家。あのCaffeine NightとNear To The Knuckleから1冊ずつ著作があります。後者はByker Books Best of British Crimeで出ていたものの再版。Charlie Splintersシリーズは見つからないのだけど、あちこちに沢山短篇も発表しているそうなので、どこかのアンソロジーに収録されているのでしょうか。
Ian Ayrisホームページ
■Never Ending/McDroll
Gemmaはドアをノックする。「警察です。開けてください。お尋ねしたい事があります。」応答なし。ここもか…。若い女性の連続失踪事件を捜査中のGemmaは成果なしのまま暑に戻る。そして、ミーティングの後、彼女にはさらにうんざりする事態が待ち構えていた…。
女性刑事Gemmaの活躍を描く、このサイズではうまくまとまった感のある作品。McDrollはスコットランド、アーガイル在住の女性作家。とても景色の良いところだそうです。『All Due Respect』にもたまたま拳銃を手に入れた落ちこぼれ2人組による騒動を描いた作品「never too old for fun」が掲載されています。どちらもユーモアのある会話などでキャラクターを身近に立体的に見せる上手さが光る作家です。短篇シリーズThe Wrong Deliveryシリーズなどを個人出版で発表しています。
McDrollホームページ
■Imagining/Ben Cheetham
私は、すべてをどう終わらせるか思い浮かべる。最初は花屋。ガソリンを撒き、火を放つ。私の結婚生活を破壊したこの場所がきちんと燃え上がるのを見届ける。そして、私はロンドンの中央に向かって歩き出す。かつての勤め先へ向かって…。
すべてを失った男の破滅的な狂気の行動が、一人称現在時制で淡々と語られ続ける。最後の段落がトンプソンの名作『内なる殺人者(おれの中の殺し屋)』の結末を思い起こさせたり。シェフィールド在住の作家Ben Cheethamは受賞歴もある作家とのこと。(何賞なのかよくわからなかった。)犯罪小説シリーズA Steel City Thrillerを4冊刊行中。なかなかの作品だけど、明らかに短篇用の特別なスタイルのようなので、長編ではどういう感じになるのか見てみたい作家です。
Ben Cheethamホームページ
■Escalator/Jim Hilton
6歳の娘Tanyaが家に帰って来るなり叫んだ。「パパ!Tommy Rawlingsがあたしのことひどく蹴ったのよ!なんにもしてないのに!」Alan Brooksは娘に駆け寄る。「Rawlingsのクソガキか!親子そろって救いようのないクズだ!」そしてAlanはクソガキへの制裁のため、家を飛び出して行く…。
子供の喧嘩に親が、というパターンがエスカレートして行き、最終的には陰惨なことになるブラック・コメディ。James Oliver Hiltonはイングランド北部在住の作家。ホラーシリーズThe Grand Grimoire3作と短篇集1冊の他、今年夏にはアクション性の強い犯罪小説らしいGunn Brothersシリーズ第1作『Search & Destory』が発売されるそうです。
James Oliver Hiltonホームページ
■Face/Frank Duffy
街で知り合った女性Kaitlinと深い関係になったJessicaは、彼女と2人で油田に働きに出ている夫Martinの殺害を謀るのだが…。
同性愛カップルによる夫殺害計画というストーリーなのですが、ノワール/サスペンスというよりはホラー傾向が強い作品。イギリス出身だけど現在はポーランド在住の作家Frank Duffyは、3作の著作がありますが、いずれもホラーのようです。
Frank Duffyホームページ
というわけで、『True Brit Grit』第4回もなんとか終了、残すところあと1回となりました。モタモタしているうちに英国期待の星Byker Books終了という残念な事態になってしまったり。とにかくは、残り1回きっちりと速やかに完成させ、早く本格的に現代英国クライム・ノベルの探索に臨まねばと思う次第であります。
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True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第1回True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第2回
True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第3回
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