もー最初に言ってしまうが、大傑作!ハードボイルドの新星の登場です!普段はこんな声も届かないであろう辺境から一方的に対立しているマッチョ説教派ハードボイルドファンでも必ずや納得するであろう素晴らしい作品です。
【あらすじ】
俺は12年ぶりに故郷であるこの国境の町Imperial Valleyに帰って来た。
ハイスクールを卒業し、カレッジに進学、そして俺はそのままL.A.に住み着き、小説家を目指しながら様々な職を転々として食いつないできた。
だからと言って親父と仲違いをしたとかいうわけじゃない。時々は電話をして互いの様子を聞き、そしていつもバカ話で大笑いして電話を切った。
そして親父はずっと隠していたのだ。
自分が癌で余命僅かなことを…。
親父はこのImperial Valleyで自分の畑を耕して暮らしてきた。
俺が生まれたときに母親は亡くなり、以来男手ひとつで俺を育ててくれた。
親父と子供時代を過ごした我が家で一晩を過ごし、翌朝、病院に赴く。
ベッドに横たわった親父と、まるでこの先何も悪いことが起こらないかのように、いつも通りにバカ話を続け、大笑いする。
そして親父が言う。
「娼婦を探してきて欲しい。名前はYolandaだ。」
俺は昔ながらの悪友Bobbyに同行を頼み、国境を越え、Yolandaを見つけた。
そして、病床の親父の許に連れて行くことができた。
だが、それで終わりじゃあなかった。
そして、あの忌まわしい殺人事件が起こる…。
タイトルのDove Seasonというのは、Dove(野生の鳩)の猟が解禁になる季節のこと。その季節になると猟のための観光客も増えて、あちこちで散弾銃の音が聞こえてくるようになります。と言ってもこの物語の中では物騒な感じというよりは、地平線が見えるような砂漠の空に花火のように銃声が鳴り響くというイメージです。読みながら運動会シーズンの日曜の朝とかに花火の音が聞こえてくる感じを思い浮かべていたのだけど、今はもうそういうのはやらないのかな?
とにかく私としてはひたすら絶賛しかない作品です。笑えるところは本当に笑えるし、泣けるところは本当に泣ける。
まずは主人公と父親との関係。常にバカ話で笑い転げている親子。そして父親は言うのだ。「笑っていられる時は笑っているんだ。俺はそう教えて来ただろう。俺はもうすぐ死ぬ。死ぬのは本当に怖い。だから笑って死ねるようにお前に来てもらったんじゃないか。」
それこそがこの作品のテーマです。主人公たちは様々な苦境に直面し、ある時はやけくそのように馬鹿笑いしながら突き進んで行くのだ。こういう物語が素晴らしくないわけがない。
そして、キャラクター。一人称の語り手である主人公Jimmy Veeder Fiascoは30歳の特別な能力を持っているわけでもない普通の男。だが、この心優しき男は世の中に不正がまかり通ることを見過ごしては置けない男である。メキシコの貧しさ、苦境を目の当たりにすれば、自分がその中で被害を受けるようなことがあっても、抜きんでた腕力など持っていなくても動かずにはいられない男である。世の中そういうものだ、小僧、なんて言ってスカしてるのがハードボイルドじゃあないんだぜ。
相棒Bobbyも何ら特別な人物ではない。田舎で子供時代遊んですごした悪ガキがそのまま大きくなったような男で、酔っ払って時々問題を起こす厄介者ではあっても、誰からも悪人だとは思われていたりはしない。自分の畑を持ちこの町でそれなりに普通に暮らしているが、親友に頼まれれば何とか都合をつけて駆けつけてくれる。本当に頼りになる相棒とは、常に親身になって相手のことを心配し、そして信頼してなんだろうと命懸けで助けてくれるような人物なのだ。
他にも、遠距離恋愛でなし崩しに解消されたことにムカついてる元彼女の看護師のAngie、メキシコ人労働者相手のバーの経営者Mr.Morales、その孫で、子供時代からビジネスマンに憧れ、現在は国境をまたぐアンダーグラウンドの大物ビジネスマンとなり情報面で協力してくれるTomas(「正確」な道案内メモが笑える)、お笑いコンビのBuck BuckとSnout、Bobbyの彼女なのだけど彼があまりにも問題児なのでその関係を一切秘密にしている保安官事務所のGriseldaなど、登場する人物全てが個性的で魅力的です。
そしてまた、この人は見せ場を作るのが本当に上手い。地平線上に立ち昇る野焼きの煙の壁を挟んだ対決とか、悪党の避難場所と化した閉鎖された砂漠の真ん中の地熱発電所などという、燃える場面をうまく出して来る。前述した、背景となっているような砂漠の広い空に花火のように散弾銃の音が響き続けるのも本当に素晴らしい。
と、自分的にはとにかく絶賛、何ら欠点のない絶対おススメの傑作ですが、まあどうでもいいことだけど付け加えれば、殺人事件が起こりますが謎解き要素はあまりありません。ですので「謎解きクイズが入ってないやつはミステリに非ず。」というような考えで、「ミステリと思って読んだがミステリではなかった。」とか、「ミステリというよりは普通小説(ナンすか?ソレ?)として読むべきであろう。」なんてどーでもいいミソをつけて回るような方々には全然おススメしません。
作者Johnny Shawはこの主人公Jimmy Fiasco同様にInperial Valleyで生まれ育ったそうです。その後、UCLAで脚本について学び、現在はオレゴン州ポートランドに在住。古書店を経営する傍ら、あちこちの大学で脚本について教えているそうです。
この『Dove Season』(2010)は彼の最初の長編小説で、2012年に長編2作目『Big Maria』を発表し、アンソニー賞オリジナルペーパーバック部門賞を受賞。その後、以前に取り上げました異色アンソロジーシリーズ『Blood & Tacos』の編集で少しのブランクの後、2014年にJimmy Veeder Fiasco第2作『Plaster City』を発表。そして今年2月に最新作『Floodgate』が発刊されたところ。
私については、このブログを始める前に遡りますが、まず『Thuglit』issue1に収録の「Luck」を読んで一目惚れ。街でどこにも行き場もない2人のチンピラの友情を描いた本当に好きな作品。私の頭の中ではラストシーンにストップモーションがかかり、あの傷だらけの天使のテーマの最後のところが流れてしまうのです。そしてあの『Blood & Tacos』!様々な作家により「発見」された70年代メンズ・アドベンチャーの隠れた名作によるこのアンソロジー、以前より少しは状況が見えるようになってみてみれば、映画『大脱走』クラスに凄い面子のそろった快作です。とにかく4作そろえておく価値あり!そしてやっとこの『Dove Season』にたどり着いたわけなのですが、くどいようだが本当に100パーセント以上に期待に応えてくれた、このジャンルのファンならだれにでも絶対おススメの素晴らしい作品でした。
現在まだ4作ながら、いずれの作品も好評を持って迎えられ、快進撃を続けるJohnny Shawの作品、いずれの日にかは日本でも必ずや翻訳が出るものと信じております。しかし、その際、またぞろホークがスーさんがで始まり、『初秋』のような展開を期待したい、などと終るような、もういつだったのか読めなくなっているぐらいに賞味期限の切れた解説を載せたりするのだけは勘弁願いたいと思います。まー、ちょっと余計だったか。いつものことで。毎度すみません。
【追記(2016年3月28日)】
本日、いつものようにあてどなく書店内を彷徨っていたところ、なんと、ジョニー・ショー長編第2作『Big Maria』の翻訳が出ているのを発見しました!マグノリア・ブックス『負け犬たち』(野村恵美子・訳)。3月25日発売ということで何ともタイミングが良かったのだけど、こちらの方では何の意図も関係もありません。私としましては未読でも、ジョニー・ショー氏には絶対の信頼を持っているので100パーセントのおススメです。自分的にはKindle版も持っていることだし、彼の文章もかなり好きだったりもするので、そのうち原文で読んでから答え合わせ的に読んでみようかと。
主にロマンス・ミステリー系だが最近は自分的にも少し気になるのもちらほら見えるマグノリア・ブックスからの快挙!今後にもますますの期待を持って注目したいところ。この勢いでAnthony Neil Smithとかも出してくれよー。賞とかとってないとだめなの?
とにかく遂に翻訳作品も出たところで、この作品がまたぞろミステリ分類家による「ミステリではない」指定や、ケチを付けりゃあ頭が良く見えると思い込んでるような輩の「辛口」評に阻害されることなく、きちんと楽しむべき人に読まれて評価され、今後もこの優れた作家の日本への紹介が進むことを願うばかりです。
Johnny Shawオフィシャルウェブサイト
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