【あらすじ】
地球からはるか遠くに設置された女性犯罪者専用矯正施設。
通称Bitch Planet。
そこには今日も様々な事情で法を犯し、懲役を言い渡された者たちが送られてくる。
宇宙船の中ではチューブに繋がれ眠らされたまま移送され、到着と同時に家畜のように裸のまま送り込まれる受刑者たち。そして各々に手渡された囚人服を身に付ける間もなく暴動が巻き起こる。
そこがBitch Planet。
その頃、地球ではひとりの男が役所を訪れ、担当官に嘆願していた。
「私の妻MarianはBitch Planetに送られてしまった。妻をあんなとんでもないところに置いておくわけにはいかない。早く手続きを進めてくれ!」
高額の賄賂を手渡された担当官は、男に嘆願が受理されたことを告げる。
騒動の収まったBitch Planetでは一人の受刑者が呼び出され、看守に連行されて行く。
その様子に不穏なものを感じたひとりのアフリカ系の精悍な女が後を跡ける。
彼女の名はKamau kogo。
彼女の動きを察した他の受刑者たちが看守の気をそらしている間に、Kamaruはその女Marianを物陰に引き込む。
「なんかヤバいことになりそうだ。あたしの後ろに隠れてな。」
すぐに看守たちに囲まれる2人。だが、Kamaruは鮮やかな体術で複数の相手をさばいて行く。
しかし、Kamaruが前方の敵にひきつけられている隙に、忍び寄った何者かによりMarianは喉を切り裂かれ、絶命する。
そして、地球では妻への「手続き」が完了したことを知り安心した男が、新たな愛人とともに帰って行く。
Marian殺害の罪をきせられるKamaru。
そして彼女に一つの提案がもたらされる。
「囚人でMegatonのチームを作って欲しい。そしてそのチームで試合を行うのだ。
提案が受け入れられれば、お前のこの罪については考慮しよう。」
ただちに提案を突っぱねるKamaru。
だが、他の受刑者からのある情報が彼女を動かし、女囚チームの結成が決定される。
そして、Bitch Planetは新たな方向に向かって動き始める…。
SF女囚アクション!女囚と言えば、この主人公Kamaruのモデルは明らかに、あのパム・グリアであります。そしてストーリーは、ご覧の通り、あの『ロンゲスト・ヤード』方向に向かって進行中というわけです。
エクスプロイテーション・ムービー的なアプローチも濃厚で、とにかくおススメ、と言いたいところなのですが、このTPB1巻はまだやっと話が動き出したところ。まあこのTPB1巻では1~5号の5話収録で、うち1話がチームメンバー一人の過去についての話で、あと4話で、入所、提案、チーム結成、看守チームとの練習試合、という展開で、まだこれからという少し物足りない印象でも仕方ないところでしょう。
私がこの作品に注目したのは昨年初め頃のことで、それからTPBの発売を待ちかねていたところ、やっと出たのが秋頃の事。その後も最近やっと7号が出たところという、若干スローペースな刊行状況です。画の方に時間がかかっているのだろうかと推測されるところですが、どんどん話を進めて行く勢いが欲しい作品でもあるので、なんとか頑張って欲しいものです。
その他に本作で少し気になるところというと、メディア王的な大物実業家Fatherという男が、イベントからの利益を目論み様々に画策している場面が毎号登場するのですが、まあ、そういうシーンは勿体付けた言い回しの会話が続いたりと若干かったるく、少しストーリーの勢いを妨げるもの。まずは話の勢いを重視すべきではないかな、という印象です。あとはPlanetというわりにはあまりその辺の大きさが感じられなくて、フツーの刑務所ぐらいにしか見えない、とかあるけど、その辺のところは低予算映画的ということでいちいちツッコミを入れることはないかな。
ということで、まずはこのTPB1巻がもしかしたら今ひとつに見えてしまうかもしれない点から指摘させてもらいました。しかし!これはまだまだ始まったばかりなのだ!やっとストーリーを軌道に乗せたところで、まだそれぞれのキャラクターについてはほとんど掘り下げられていない。主人公Kamaruにもいろいろ秘密がありそうだし、刑務所ものなら当然のポイントとして脱獄についても微かにほのめかされていたり、また囚人内に必ずいると思われる裏切り者は誰なのかとか、これから話を盛り上げて行くであろう要素は山盛りです!メディア王のくだりも話が進むにつれてもっと盛り上がるものになってくるはず!とにかく大いに期待の持てる題材なのですから、長い目を持ってこの先も大いなる期待を持ちながら見守って行きたいというのが私の感想です。
ライターKelly Sue Deconnickといえば、あの現代アメコミを代表するライターのひとりであるマット・フラクションの奥さんです。代表作は、マーベル近年の『Captain Marvel』や、2014年アイズナー賞ベスト・ライターを受賞したImageb Comicsの『Pretty Deadly』など。各地の米空軍基地で育つというジャック・リーチャーのような生い立ちを持つ彼女は、コミックの仕事としてはまずはマンガ・アダプテーションから入ったそうです。マンガ・アダプテーションって何だろうと思っていたら、何ともタイミング良く、前回紹介したマンガ翻訳者Zack DavissonさんがThe Comics Journalの記事の中で説明してくれていました。一旦翻訳されたマンガのセリフを、もっとアメリカの読者に合ったものにして行くという仕事のようですね。Gail Simone、G. Willow Wilsonなど女性作家の活躍が目覚ましい最近のアメコミ界の中でも、最も注目されるライターです。
作画Valentine De Landroはカナダ出身のアーティストで、代表作はマーベル『X Factor』など。この作品では共作者としてクレジットされていて、カラーまでの全工程を手掛けているようです。毎号の独特のカラーリングに扇情的なコピーが踊るエクスプロイテーション・ムービー風味たっぷりのカバーはかなり格好良く、巻末には女性向けの昔風の安っぽいニセ通販広告(顔をカバーするマスクとか、男の服が透けて見えるメガネとか)も載っていて、デザイン・コンセプトとしては、タフでラフな感じの女性向けのチープなコミック誌というところでしょうか。実際にそんな購買層がいるのかわからんが…。画風としては、中間的な線を極力廃した線と陰で構成されるデザイン的もので、女囚ならもっと生々しいのを、という人には少し物足りないかもしれないけど。
今回は少し論旨の分かりにくいものになってしまったのかもしれないけど、要するに私の言いたかったことは、もしかするとこの『Bitch Planet』TPB1巻は少しイマイチ感を持つ人もいるかもしれないけど、色々な意味で大いに期待できる作品なので、ここで見捨てるのはあまりにももったいない、長い目でこの先に期待して欲しい、ということです。ちょっと発刊ペースが遅いのはネックだが、その間は『Pretty Deadly』『Captain Marvel』などのKellyさんの他の作品を読みつつ、あーもっと言えばあまりにもどれをとってもハズレなしに見える問題作を次々発表するので逆に迷って手を出しそびれている旦那マット・フラクションの作品もそろそろ何か読みつつ、うまくいけば夏ぐらいに出るかもぐらいのTPB2巻を最大限の期待を持って待ちたいと思います。
Kelly Sue Deconnickオフィシャルウェブサイト
■Kelly Sue Deconnick
●Image Comics
●Captain Marvel
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