昨年本編は完結し、あちらではもう評価も定まっているような有名作ですが、やはり日本ではあまり知名度も広くはないようですし、きっちりやって行かねばと思っております。
さて、Vol.1、2ではそれぞれ5話から成るストーリーでしたが、今回は単発の11号、18号の間に12、13号の2話、14~17号の4話のストーリーを挟む形で、計8号分が掲載される形となっています。
【Bag O' Bone】(11号)
南北戦争で一山当てようと企んだジャックは南軍に入隊し参戦するが、結果は敗北。軍を離れての帰路、森で出会った老人からイカサマポーカーでなんでも入る不思議な袋を手に入れ、そして森を抜けたところにあった屋敷の唯一人の生き残りで今晩までの命と語る美女に、その身体と引き換えに命を救ってやると持ちかけるのだが…。
お馴染みジャックと豆の木の、一攫千金を狙い続けるジャックが主人公の話。ちょっと工夫の無い言い方ですが、大人の寓話といった作品。
作画はBryan Talbot。イギリス出身のベテランアーティストで、アンダーグラウンドのコミックからキャリアを始め、イギリスでは巨匠Pat Millsの代表作やJudge Dreddなども手掛け、アメリカではおもにDC、Vertigoで多くの作品を描いています。このころではコミック・レジェンドを迎え、ぐらいの感じだったのではないでしょうか。メインのストーリーを描くMark Buckinghamらのシャープな画とはずいぶんテイストは違うのだけど、寓話には合った感じの味わいのある画です。
【Caper】(12~13号)
Fables本部前に一人の風采の上がらない男が現れ、狼男Bigbyを呼び出す。彼の名はSharp、ジャーナリストである。Sharpは彼らが不死であるなどの情報を握っているとして、強引に取材を迫ってくる。だが、Sharpは彼らの事をバンパイアだと思い込んでいた。Bigbyはその場ではSharpを追い返すが、勘違いはしていてもこのままでは彼らFablesの秘密が危ない。動物農場で重傷を負い、療養中のスノーホワイトには告げず、Bigbyは極秘に集めたメンバーで解決を図る。メンバーはジャック、ブルーボーイ、フライイーター、プリンス・チャーミング、青髭の面々。彼らは眠り姫を伴いSharpとその家族が住む高級アパートに乗り込み、眠り姫の指に針を刺し、建物中の人間を眠らせことを進めようとするのだが…。
Fablesの秘密を守るためには手段は選ばず、という感じで少しダークにクライム・アクション風にも描かれています。この章では狼男Bigbyと青髭との不和が表面化し、続く章の展開に関わって行きます。
キャラクターについては、相変わらずブルーボーイの出自が不明な他、以前から本部内の掃除婦として登場していたフライイーターが襲撃チームにも加わってくるのですが、こちらも調べてみたのだけどわかりませんでした。ひょろっとしたあまりぱっとしない温厚な人ですが、元は王子らしい。おとぎ話の中にも日本ではあまり知られていないのがあるのか、自分がその方面に無知すぎるのかもよくわからない状態です。すみません。Zenescopeの本当よりもっと怖くてエロいグリム童話とかもっと読んだら出てくるかな?あと、プリンス・チャーミングは1巻から出ているスノーホワイトの元ダンナの、イケメン王子のこのシリーズにおける正式名称です。
作画は第1章「Legens in Exile」を手掛けたLan Medina。前はちょっと雑にやってしまったのでちゃんと調べたところによると、フィリピン系のアーティストで、1961年生まれということなのだけど、アメリカでの作品は2000年代以降のようで、地元ではかなり活躍して有名作家になった後そちらに活躍の場を移したということなのかな。フィリピン系では昔のアレックス・ニーニョから、最近のマーベル作品で驚異的な画力を見せるJerome Opeña、Valiantで活躍中のMico Suayanなど本当に素晴らしいアーティストも多いので、いずれもっと詳しく調べてみたいと思っています。しかしアーティストについてもやりたいと言いつつなかなか手が回らずできていないのですが、とりあえずJerome OpeñaについてはWikiもできていたので、興味のある人はそちらを調べてみてください。
【Storybook Love】(14~17号)
青髭の館をひそかに内偵するマウスポリス。そして、動物農場事件の首謀者であり、逃亡中のゴルディロックスが匿われているのを発見する。だが、脱出の際に見つかり、相棒のネズミは斃れ、マウスポリスのみなんとか逃走する。青髭は事態が発覚する前に、翌朝早く職務に復帰したばかりのスノーホワイトと狼男Bigbyを魔法にかけ、自らの意志の無くなった二人を休暇旅行に出掛けさせる。そして、数日後、二人は急に意識を取り戻し、どこかも知れない山奥でキャンプしているのに気付く。事態も把握できぬまま下山し始めるが、そんな彼らにその山中でひそかに彼らを亡き者にしようと企む刺客が迫る。そして一方、マウスポリスに内偵の指令を出していたのは意外な人物だった…。
山中の脱出劇では、Bigbyが巨大な狼に変身。二人の関係も急展開しますが、それと暗躍し始めた人物については、続くストーリー、次巻で。
ゴルディロックスはイギリスの童話『3びきのくま』に出てくるキャラクターだそうで、調べてわかりました。今度どこかで読んでみます。マウスポリスはネズミに乗った小さなおまわりさんなのですが、これも原典は分からず。マッピーじゃないしな…。
作画は第2章「Animal Farm」のMark Buckingham。『Hellblazer』で彼が初期から優れたアーティストであることを思い知ったのですが(Hellblazer -Jamie Delano編 第3回-)、イギリス出身のアーティストで、Vertigo『The Sandman』などの他、DC、マーベルなど数多くの作品を描いている人です。『Fables』という作品の雰囲気に合わせたデザイン的なコマ割りも多く見せてくれます。1,2巻をやった時、どちらもインカーがSteve LeialohaでMedinaとBuckinghamの画を混同してしまったりしたのですが、今回はMedinaの方はインカーがCraig Hamiltonという人に変わっていて、両者の違いは明らかです。やっぱりインカーが描くときの線の選択によってずいぶん変わるものだと思う。Hamiltonも別の文句のつけようのない仕事なのだけど、Leialohaはちょっと段違いの優れたインカーではないかと思います。この辺は作品の内容や好みによって違うものかもしれないけど。
【Barleycorn Brides】(18号)
それは昔、Fablesたちが”敵”に領土を奪われ新天地に逃げてきたころの話。彼らのホームランドが危機にあることを聞き、勇敢なリリパットの男たちは遠征隊を組み、海を渡る。しかし、敵がリリパットの地へも侵攻を謀っていることを知り、敵に故郷の場所を知られないために遠征隊はリリパット王国に戻ることができなくなってしまう。戦況も悪化し、遠征隊は他のFablesとともに新天地へと移ることになる。そして新たなSmall Townを建設する。しかし、やっと新たな町を作ったものの、男ばかりで作られた遠征隊、町には女性がいなかった。そんなある日、町の新たな住人として親指姫が現れる。だが、状況はさらに悪化。一人きりの女性を巡り、男たちの間に諍いが絶えなくなる。そして、事態の打開のため、ホームランドにまだあるはずという、親指姫を産み出した花の種を求め、勇敢な一人の男が冒険に旅立つ。
こちらも11号のものと同様の、おとぎ話の登場人物を使った新しい寓話。話の中だけで断片的に語られていたホームランドからの脱出の時期の事も描かれます。ジャックの話も南北戦争だけど、これはもっとさかのぼる時代になるのでしょう。1,2巻を読んでた時には割と最近の事かと思っていたけど。でもアメリカなので、少なくとも18世紀以降にはなるようだけど。しかしこの手の寓話風の話って、まとめるのが難しくて少し長くなってしまうものですね。
作画は女性アーティストLinda Medley。90年代、主にDCで『Doom Patrol』などの作画や、カラーリストとして活動した他、子供向けの本のイラストなどもやっていた人だそうです。代表作は個人出版から始まり、現在はFantagraphicsから刊行されている『Castle Waiting』という作品で、『Fables』と同様、様々な寓話をモチーフにしたもののようです。アメリカのコミックファンにはよく知られた作品のようです。こちらも11号と同じように寓話風のタッチで描かれています。
おとぎ話の誰もが知っているキャラクターを使うという、ある意味ありがちなところから始まったシリーズですが、ただそのパターンによりかかって話を作るのではなく、単純な善悪ではなく登場人物それぞれが思惑を持って絡み合う、更に深みのあるストーリーへと向かって今回は進んだ印象です。Bill Willinghamは、正しい意味での大人向けのストーリーが書けるいい作家だと思います。また、メインのストーリーとは別に、今回から始まった新しい寓話もこれから楽しみなところ。調べてみると意外な作家でずいぶん勉強になったり。特にLinda Medleyについては自分的にはなかなか知る機会の無かっただろう作家で、収穫でした。そういうアーティストの起用も、アーティスト出身のWillinghamならではのアイデアなのかな。
ずいぶん間が空いてしまって、やっと3巻という体たらくですが、全22巻とまた先の長い道のり、今後はなんとかあまり間が空かないように継続してやっていきたいと思っております。モタモタしているうちに合本的構成になっていると思われるDeluxe Editionの方の刊行も進んでしまっていたりもするのですが、とりあえずは全22巻のTPBの形でやっていく予定です。ちょっと複雑でDeluxe Editionでは2巻でこの11~18号と単行本のみの話2本が収録されているようだが…。うむむ、ちょっとうまくいかないところはすみません。後々考えて行きますので…。
その他、スピンオフ作品などについては依然よくわかっていないところなのですが、2014年12月から1年間デジタルで発行された(現在はTPB版も発行)『Fables : The Wolf Among Us』は、2013年に発売されたゲーム『The Wolf Among Us』を原作としたもので、このシリーズのメインストーリーの前日譚になっているようです。ライターはWillnghamではありません。ゲームの方は日本未発売ですが、Steamでは購入可能ですので、なんとかそのうちやってみたいと…、ん~、でも『Shadowman』も全然進んでないし、なかなかゲームまでやる時間、今難しいからなあ。ちなみにそちらの方は詳しくないのではっきりとは分からなかったのですが、有志による日本語化も進んでいるようです。
最後に最近のVertigoについてなのですが、少し前に新体制が整ったようで多くの新シリーズが始まったというようなことを書いたけど、またそれがDCの上の方の意向でひっくり返ってしまったようで、Karen Bergerの後を引き継ぎ現在の中心となっていたShelly BondがVertigoを去り、今後はDCのキャラクターによる少し上の年齢層をターゲットとした作品が中心となって行く方針になったようです。まあある意味原点の原点に戻ったともいえるのだし、マーベルMAXのような方向を期待すればいいのかもしれないけど、やっぱりこれまでの歴史を考えると惜しい気がする。Scott Snyder、 Jason Aaron、Jeff Lemireといった作家がオリジナル作の発表の場をImage Comicsに移し、 Matt Fraction、Ed Brubakerらはオリジナル作の版権もIconからImageの移行し、というのが昨年あたりの状況で、その辺の役割はImageに移ったと考えるところなのでしょうが。とりあえずは前向きに、またDCの隠れたキャラから思いがけない作家により、『Hellblazer』や『Sandman』みたいなのができるといいなあと希望を持ちながら、今後もVertigoには新作旧作共に注目して行きたいと思います。次こそはなんか新し目のをやるつもりです。
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