カリブ海に浮かぶトリニダード島。今日は祭りの夜。こんな夜に来る客もない。自身が経営するネットカフェを今日はそろそろ閉店にしようかと思うMaya。その時、背後からの突然の襲撃者のワイヤーが彼女の首にかけられる!屈強なプロの軍人。決死の戦いで襲撃者を返り討ちにしたMaya。だがなぜ?自分の所在は誰も知らないはず。そして、この自分が生きていることも…。
かつてMayaはモサドの暗殺などを行う秘密工作員だった。コードネームはJet。不幸な生い立ちながら、優れた身体能力や数々の才能を持つ彼女の行きついた先はそこだった。だが、平穏な生活を求めた時、多くの秘密を知る彼女に平和な引退は許されるはずもなかった。そして、ある破綻した作戦の最中、彼女は自らの死を偽装する。以来この遠く離れた誰にも知られるはずのない地で静かに暮らしていた。今日のこの時までは…。
もちろん襲撃者は一人ではない。チームを組んだプロの傭兵たちが次々と彼女に襲い掛かる。何故自分の生存・潜伏先が知られたのか?敵は何者なのか?追撃者を次々と返り討ちにし、彼女はトリニダード島を脱出し、ベネズエラへ。そしてさらにその先の世界に、蘇ったJetの戦いは繰り広げられて行く!
冒頭、何の説明もないままネットカフェの店番のお姉さんが襲われ、プロの軍人相手にすさまじい戦いを始めます。これが映画だったら、なんだか状況は分からんが、役の人がミッシェル・ロドリゲスだからなあ、とかぐらいで納得するぐらいの戦いっぷり。そこから時々挿入される回想などで、徐々に彼女の正体がわかって行くという展開になります。彼女の正体とかどの辺まで書いていいのかな、と思いながらAmazonの作品紹介を見てみたら1行目に元モサドの工作員とか書かれてたので、まあいいのでしょう。
序盤、次から次に現れる敵とバトルを繰り広げながら決死の脱出行に至る展開は、かなり迫力・臨場感があり読ませます。で、この手のストーリーとしては、序盤謎の襲撃から脱出、中盤は敵の正体を掴み、終盤は反撃、という展開になるわけですが、続く中盤はやはり少しペースダウン。とは言ってもまあ許容範囲のうち。そしていよいよ終盤反撃パートに入ると、まずJetがゴージャスな感じでモナコのカジノに現れ、あ、結局そういう方向に行っちゃうのかな、と個人的には少し心配させられたのですが、やがてアクションパートに戻ると、序盤に続く臨場感が戻ってきます。ここでふと、この人の書き方ってすごく迫力も臨場感もあるのだけど、ひたすらJetを追いかける感じになり、少しもっと広い状況が見えにくいかな、という思いが頭をかすめ、そこで気付きました。これはまさしくゲームのFPS(3人称だからTPSかな?)をやっている感覚!と言ってもただ撃ちまくって進んで行くというものではなく、きちんと敵を見極め戦略を立てつつ手順を正確に積み重ねて切り抜けて行く、という良質のものが再現されている感触がありました。そして激しい戦闘をくぐり抜け、怒涛の追撃!そしてついに敵のボスを追いつめると、大迫力のエンディングへとたどり着くのでありました。
この作品の作者、Russell Blakeの経歴を見ると、フリーのジャーナリスト、とかいうことで、ゲーム関係の仕事をしていた様子はありません。たぶんこういうものに触れながら育ってきた人が一番面白いと思う書き方をしたらこういう結果になったというものなのではないでしょうか。こういうものってこの人に限ったことではなく、もしかしたら現在このジャンルで多く見られる現象なのかもしれません。ちょっとこれからこのジャンルを読んで行く一つの指針になるかな、と思ったりもしました。ただし、これで洋ゲーのシューティングこそが現代のパルプだ!などという結論に飛びついてしまうのはつまらない。こういう小説にも、ゲームにもそれぞれの展開、未来があるわけですから。パルプジャンルにも『Blood & Tacos』みたいな動きもあるわけだしね。ゲームで例えるなら、それこそこれでもか!この野郎!とひたすら撃ちまくって進むぐらいの無茶苦茶なのが出てきてもいいと思うし。この手のを読むならまずこれかな、ぐらいで読んでみたのだけど、意外と面白い発見があった気分です。
これは結構長く使っている考え方で、自分のものみたいな気がしてるけど、元ネタは分からないけど多分誰かの受け売りなんじゃないかと思うのですが、アクション小説とエスピオナージュみたいなのを区別するとき、キャラと設定を剣と鎧の蛮族に置き換えても話が成り立てばアクション小説!というのがあって、それで行くともちろんこれはアクション小説です。アクション小説となれば、アクションの迫力・臨場感・スピード感などが優れていればいいわけで、エスピオナージュと読み違えて評価を下げてしまったりするのはもっての外なのですが、このRussell Blake氏もやはり少しはそちらの方に色気を出してしまって、中盤つじつま合わせとそっちの雰囲気作りで少しCIAとか出てくるところがあるのだけど、そこはちょっと余計。Russell Blake氏には「アクション小説家」としてアクションに特化したものをガンガン書いていって欲しいものです。
Russell Blake氏 |
というわけで、とうとう手を付けてしまったこのジャンル。こういうものはどんどん読んでいってこそ意味があるものですが、いかんせんどうにも読むのが遅いところが悩みの種です。この『JET』にしてもそれほどひねりのない読みやすい文章でちゃんと時間を当てれば早く読めるはずなのだけど。この『JET』シリーズの続きも読みたいし、色々ある面白いのかわからないものにも挑み、いずれはまず私以外に手を出してみる人がいると思えない油を塗った筋肉表紙の作品まで進み、さすがにアブラマッチョだけは控えます…というぐらいの域に達してみたいものだと、今後も無意味な努力に励んでいこうと思います。
Russell Blakeホームページ
Russell Blakeの著作(多すぎるので一部シリーズのみ)
●JETシリーズ
●Assassinシリーズ
●Blackシリーズ
●Drake Ramseyシリーズ
●クライブ・カッスラーとの共作
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