今回はJoe Cliffordの『Give Up The Dead』。2017年にOceanview Publishingより出版されたJoy Porterシリーズ第3作です。ドラッグの蔓延に疲弊したアメリカの行き止まりのような田舎町を舞台とした、2010年代後半~20年代を代表するシリーズとして注目してきたJoy Porter5部作の第3作。いや、注目してきて少しでも早く読まなければと思ってたのだけど、結局前やってから 2年か…。あっ勘違いしてたけど、そんとき色々重なって2023年11月から2024年1月まで休みになって、2023年11月ごろに書き始めたけど実際に出したのは2024年2月とかなってたんだ…。あー…。あの時のごたごたやいまだに修正されてないところとか 思い出してややへこんだ…。
2年前の前回は、更にしばらく前に読んだまま書けなかった第1作『Lamentation』(2014)と第2作『December Boys』(2015)を一緒にという感じになってしまった。…なんかこれまでの数々の不始末をまとめて見せられる感じになってるんだが…。 まあへこんでばかりいても進まないんで、何もなかったような顔をしてまずはそっちのJoy Porterのこれまでから。
第1作『Lamentation』では、ニューハンプシャーの田舎町Ashtonに住み、地元で死亡した人の不動産を片付ける仕事をしていた青年Jay Porterが、唯一の肉親だがドラッグ中毒で面倒ばかり起こす兄の起こした事件に巻き込まれて行く。友人と共に PC関連機器の回収処理業を始めた兄Chrisは、地元の有力な一族でChrisとも過去に因縁があったLombardi家の営む建設会社の廃棄されたハードディスクをたまたま入手し、そこから引き出した情報により命を狙われることとなる。何とか兄を助けようと 試みるJayだったが、Chrisは決して真相が明らかにならない謎を残しながら、Jayを助け自身の苦痛に満ちた人生を終わらせるため、半ば自殺という形で警官隊の銃火の前に飛び出し、死亡する。
Jayとの間に息子Aidenをもうけながら、別れて別の男性と暮らしていたJennyとも最後には和解し、事件の捜査のためやって来た親友Charlie Finnの旧友である保険会社の調査員Fisherの紹介により保険会社に就職しAshtonから出て行くというところで、第1作『Lamentation』は終わる。
そして第2作『December Boys』。前回途中までしか書いてなかったので、こちらややネタバレになるかも。第1作でよりを戻したJennyとその後結婚したJayは、保険会社の支社に調査員として務め、そこに近いPlastervilleに家を借り家族三人で暮らしていた。 Jayは、ある事故による保険金請求案件を調べるうち、近隣のティーンエイジャーの少年少女が些細な件で次々と矯正施設に送られている不審な動きに気付く。気が進まないままにその件を追って行くうちに、彼は地元の判事までが関わるティーンエイジャー、 ドラッグ中毒者の矯正施設建設にまつわる黒い利権の陰謀へと巻き込まれて行く。そしてその背後にいたのは、またしてもLombardi家だった。一方で家庭では妻Jennyとの関係もこじれ、彼女は息子Aidenを連れて母の許へと帰ってしまう。様々に追いつめられ、 パニック障害を患ってしまうJay。かつて兄が殺害されそうになった湖で、Lombardiの手の者たちに殺されそうになるが、保安官Turleyに救われ、判事の不正も明るみに出て事件は解決する。だが、Jennyとの関係は完全に修復不可能となり、離婚へ至り、Jayは 一人、Ashtonの町へと帰って行く。
これらの過去の事件は今作でも度々言及されることになるのだが、第2作『December Boys』の方は、作品内世間的にニュースになったRoberts判事の事件といういわれ方をすることが多い。
あと過去作からのことで知っておいた方がいいのは、Lombardiのセキュリティとして第1作でJayを度々脅かした元バイクギャングのErik Bowman。第2作でも登場するのだが、後半ある事情からLombardi家と対立することとなり、Jayに表には出ていない 情報を教えるという形で、部分的に協力する。あくまでも情報だけで、どういう形でも手を貸すようなことはしないのだが。実は今作でもほんの少しだけ登場するのだが、多分そこまでは書かないと思うのだけど一応。
前作の最後で殺されかけたときに、Jayは足の神経を痛め、歩行などの際に時々ぼやく。
何かと過去からの連続としての言及も多く、全くここから本作を単独で読むことはおススメできないのだが、とりあえずあらすじ説明する分にもわからなくなるかもしれないところはこのくらいかと。ではここからJoy Porterシリーズ第3作『Give Up The Dead』 です。
Give Up The Dead
前作の事件から3年後。感謝祭の日、Jayは元妻Jennyと息子Aidenと食事をした。他に開いている店が無かったので、Denny'sになってしまったが…。
その一時間ほどの間、彼は幸せに過ごした。そしてJennyの新しい夫が車で迎えに来て、元妻と息子は去り、Jayは独り駐車場に残された。
そして沈鬱な気分で自分の車に向かっているとき、彼の現在の仕事のボス、Tom Gableから電話が掛かる。
「今晩、オークションをやってもらえないか?」
「今晩かい?」
Ashtonに戻ったJayは、以前の仕事であるTom Gableの不動産片付けの会社の仕事に戻っていた。依頼されてその家屋の家具などのオークション販売会を行うのも業務の一環だ。だが、祭日にそういう依頼が来るのはとても珍しい。そこそこ長く勤めている Jayが憶えている限りでも一度だけぐらいのものだ。
感謝祭を家族で過ごすので、頼んでしまうことになって申し訳ない、と謝りながらTomは言う。「このKeith Mortensonという依頼人は、ノースカロライナからのフライトで来たんだ。家族の地所の整理のために。世襲財産さ。帰りを急いでるんだ。 もし俺たちがやらなきゃ、Owen Eatonのところに行っちまい、俺たちは委託を失う。ちょっとした掘り出し物だと思うんだが」
Owen Eatonは、この地で同様の商売をしている、Tomより大きな商売敵だ。Tomは現在の彼の会社をJayに売却すると話しているが、なかなかにそれだけの額の金を作れない現状、常にそれを狙っているEatonが買い取るというケースもあり得る。
Jayは通常のパーセンテージに加えて、300ドル払うというTomの申し出に、オークションの代理を承諾する。
一旦Tomの家に寄ってからオークション会場になる倉庫へと向かっているところで、親友Charlieから電話が掛かる。
かつて電話会社に勤めていたCharlieだったが、背中を痛め退職し、現在は手当で暮らしながら行きつけのパブDublinerに入り浸っている。その時の電話も同じDublinerからだった。
感謝祭の夜ひとりで過ごすのも寂しかろうぐらいの気持ちで、断るだろうと思いながらオークションを手伝ってくれと持ち掛けると、以外にも引き受けるとの返事。Jayは途中でCharlieを拾ってから、会場に到着する。
途中しばらくのブランクはあるものの、高校卒業からTomのところでこの仕事をしているJayは、中古家具などについてそこそこのエキスパートになっており、並べられた家具や装飾品にオークション用の値札をつけて行く。
そこには既に数人のバイヤーが到着しており、その中にはOwen Eatonの姿もあった。Eatonは一人の中年男と話していたが、Jayの姿に気付くと男に外に出るように促す。
不審に思ったJayが、あれは誰だと尋ねると、Keith Mortensonだと答えが返って来る。このオークションの依頼者だ。
外に出てみると、Mortensonはその駐車場に駐められたEatonトラックの傍にいた。中を見てみると、Jayの知識ならわかるヨーロッパの高価で取引されるアンティーク家具が置かれていた。
Eatonはこれに目を付け、Jayを通さずMortensonと直接取引しようとしたのだ。
Mortensonにいくらの値で売るのか尋ねたところ、案の定法外に安い価格だった。企みがばれたEatonはもう少し高い金額を提示し、オークション主催者としてのJayに手数料も払うと申し出る。手持ちでは足りないが、その価値に対しては払えない金額ではない。 だが、Tomに相談している時間の余裕もないのだろう。Jayは諦め、手数料を受け取りEatonの取引を容認する。
苦い気持ちで中に戻ると、Keith Mortensonが追ってきて、今日のオークション開催の礼ということで包みを手渡して去って行った。中を見るとそれは冬用のコートだった。
オークションを滞りなく終了させた後、家には自転車で帰ると言うCharlieをDublinerに戻し、Jayは独り暮らしの自宅へ帰る。
Jayの現在の住居は、かつてAshtonから離れていた時と同じHank Millerのスタンド兼自動車修理工場の二階に住んでいる。HankもTom Gable同様に長い付き合いでJayを息子のように思ってくれる人物だ。
感謝祭の食事の残り物を温め直して食べているとドアにノック。
ドアを開けてみると、いかにも高級そうなスーツを着た、体格のいい男が立っていた。
「Vin Biscoglioという者です。聞いてもらいたい話があるのだが、入れていただけるかな?」
「少々遅い時間じゃないかな。俺はもう寝る所だったんだ。加えて、俺はあんたを知らない」
「遅くなってしまったのは申し訳ない。外で車の中に座ってご帰宅を待っていたのだがね。どうやら見逃してしまったようだ」それほど時間を取らせないことは約束する、とBiscoglioは付け加える。
仕方なく、Jayは彼を家へ迎え入れる。
「失踪した少年を見つける手助けをしてほしい」Biscoglioは言う。
「子供が失踪したのは気の毒に思うが、警察へ行ってくれってことだな」
「恐縮だが、我々は警察へは行けないんだ」
俺のところに来ることもできないよ、とJayは笑う。「多分あんたは違うJay Porterのところに来たんじゃないか?俺は地所整理の仕事をしてる。箪笥を動かして、誰もやりたがらない死んだ人の家の片付けをしてる」
君は保険会社で調査員として働いていたのではないかね、と問うBiscoglio。一年も保たずに辞めたよと答えるJay。
「ちなみに、俺のことはどうやって見つけたんだ?」
「君の友人のFisherからだ」
Biscoglioは過去のLombardi家との経緯、Roberts判事の事件の裏の事情などもすべて知っていた。
これはLombardi家に関わることなのか?と問うJay。Biscoglioは違うとだけ答える。
「これらのことを持ち出したのは、君が真実を得るために如何に深く掘り進むかを示しているからだ。これが私の雇用主の関心を惹き、君に仕事を頼むため探した理由だ」
「あんたのボスって誰だ?」
Ethan Crowder、ボストンの大手鉄鋼業社の経営者だとBiscoglioは答える。
Ethanと彼の元妻Joanneは離婚し、息子Phillipは妻が連れて行った。元々は善良な子供だったが、良くない友人と付き合いドラッグに溺れるようになってしまった。困り果てたJoanneは強引な手を打つ。彼の意思を無視し、軍隊式の更生施設に入所させたのだ。
「君はミドルセックス郡には詳しいかな?」Biscoglioは尋ねる。
ミドルセックス郡は自然豊かな地域で、その手の施設も多く、Jayの兄Chrisがそういうところに度々入所していたことで、彼にとってなじみの深い場所だ。当然その類いのことも調査済みなのだろうが。
Phillipが入所している施設は、Rewrite Interventionsというところだ。そこの方針として、彼はある夜、数人の男により枕カバーを被せられ誘拐され、そのまま強制的に入所させられ、携帯など外部に連絡を取る手段も取り上げられている。
「離婚して息子を元妻に取り上げられた父親として、これがどれほどCrowder氏にとってどれほど恐ろしいことか、君にも理解できるだろう」
Jayについて詳しく調べているらしいBiscoglioは、巧みに彼の弱いところを突いて来る。
「我々の共通の友人であるFisherが、君の兄について説明してくれた。君個人のドラッグ関連事件への関心を。君の捜査経歴からの印象で、君が助力について積極的であろうことを我々は望んでいるのだ。報酬を前提として、もちろんのことだが」
「もう遅い時間なんだ。俺は寝なきゃならない。Fisherが何と言ったか知らないが、俺は探偵じゃない。そいうことをやるには免許がいるだろう。俺が持ってる免許と言えば運転の類いだけ、それでゴミが運べる。あんたらが警察に行けないというんなら、ちゃんとした 私立探偵を雇えよ」
どうしても首を縦に振らないJayに、Biscoglioは最後に内ポケットから出した名刺をテーブルに置いて言う。
「これが私の番号だ。考えが変わった時のために。Crowder氏からの報酬提案は裏に書いておいた」
そしてBiscoglioは出て行った。
ふと思いつき窓から外を見るが、雪が降り続ける外を去って行く車は見えなかった。
まだ彼が下にいるのでは、という奇妙な感覚にとらわれ、外に出てみる。
携帯のライトで照らしてみても、足跡もタイヤの跡も見つからなかった。誰もここになどいなかったかのように。
翌朝、雪も止み、Jayは家主であるHankを手伝い、駐車場の雪かきをする。30分ほどでHankの罵り声が聞こえ、行ってみるとガレージの横のドアが錠を壊され開けられていた。
恐らくは近所をうろつくジャンキーの一人の仕業だろうが、Jayの兄の件をよく知るHankは言いかけた口を止め、嵐のせいだろうと言い直す。
Hankの気遣いに感謝しながら、Jayは自分の工具セットを使い、錠を止め直す。昨夜のBiscoglioのことが頭を掠めるが、あの高価なスーツを着た男がパーツを漁るようには思えない。
Hankの駐車場の雪かきを終え、JayはTomとのミーティングのために、彼がいつも朝食を食べるダイナーへ向かう。
Tomに昨夜のオークションの報告をして、リストと売り上げを渡し、彼の報酬を受け取る。少し早めのボーナスだと言い余分に報酬を渡してくれる。
朝食を食べた後、新しくピッツフィールドに借りた倉庫の契約に向かうというTomと駐車場で別れる。
別れ際、ふと昨晩のオークションの依頼者Keith Mortensonの話になり、そこでJayはMortensonがCrowder鉄鋼の社員であることを知る。
それからJayは、まずCharlieの家へ向かう。昨晩のVin BiscoglioがFisherからの紹介と話した件について、本人と話すために。FisherはCharlieの友人だが、Jayとはあまりそりが合わず、電話番号すらも知らない。
昨夜の後、またDublinerで飲み、朝に帰ったのだろうCharlieはどうやってもまともに起きず、何とか半分眠っている彼から電話番号を聞き出す。
そしてFisherに電話を掛けるが不在。思いついて昨夜渡された名刺を見て、Vin Biscoglioにも掛けてみるが、こちらも応答はない。
しばらく待ってみるが、双方ともかけ直してくる様子はない。今日もやらなければならない仕事がある。いつまでもこうしてはいられない。Jayはまた眠ってしまったCharlieに書置きを残し、仕事へと向かう。
午後いっぱいかかってU-ホールのレンタルスペースに預けていた様々な家具類を、別の倉庫へ移動するためトラックに積み込む。
一旦出発した後、忘れ物に気付き戻ったところで携帯が鳴る。
だが、それは待っていたどちらからの電話でもなかった。
電話は保安官Turleyからだった。「Tomが、その…、事故に遭った。今は病院だ」
驚愕するJayに、続けてTurleyは尋ねる「Tomは今朝早くピッツフィールドに向かってたのを知ってたか?」
「ああ、新しい地所のリース契約のためにな。展示兼オークションのために借りる所だ。それが?」
何か悪いニュースを聞いたように唸るTurley。
Jayは何があったのか尋ねる。ピッツフィールドからの帰路、山のふもとの人通りの少ない場所で、おそらくは故障を装ってとまっていた車に手を貸そうと降りたところで、頭部を殴られたということ。
「犯人が使った血が付いたバールも見つかっている。しばらくその状態で寒空の下に放置されていたようだ」Turleyは言う。
Jayは急ぎ病院へと向かう。到着しICUへと行くと、Tomの妻Freddieの姿を見つける。近付こうとすると、彼に気付いたFreddieは険しい眼で見返してくる。意味は分からないまま進もうとすると、近くにいたらしいTurleyに止められ、わきの通路に連れて行かれる。
状況が把握できないままにTurleyの話を聞くうちに、Jayは自分がTom襲撃の容疑者となっていたことを知る。
Tomと最後に会い、今日の行動予定を知っていた人間であること。更に現場で発見されたTomを殴打した凶器のバールが、Hank Millerのガレージから盗まれたものであること。
Jayの頭に、今朝のガレージのドアが壊されていたこと、そして昨夜のVin Biscoglieの痕跡も残さないような退去の件が浮かぶ。
更にTomの妻Freddieによると、昨夜深夜2時ごろ、Tomが電話で言い争う声が聞こえてきたということで、それもJayからではないかと疑われている。
Jayには心当たりもないとは言っても、Tomが現在ICUで昏睡状態ということでは何も証明することはできない。
そして更に、Turleyは今日Tomの書斎のデスクに置かれていたのをFreddieが見つけたという封筒をJayに見せる。
そこには、自分に何かあった時には自分の会社をJayに譲る、という遺書めいた文章が書かれた紙が入っていた。
とにかく町から出るな、程度の警告をTurleyから受けて、Jayは病院から出る。駐車場の車に戻った時、Fisherからの電話が掛かる。
FisherにVin Biscoglioの件を尋ねるが、Fisherはそんな名前のやつは知らないし、Jayを誰かに紹介したこともないと答える。
Jayの知らないところで何かが起こり、それは明らかに彼を単独で狙い、彼を事件の犯人へと仕立て上げようとしている。
それは何者で、一体どういう意図なのか?
* * *
またしても結構長くなってしまったが、序盤のオークションの件を含めて、この後のストーリーに大きく関わるところなんで、省くわけにもいくまい。この謎に対する手掛かりは、まずVin Biscoglioと名乗る人物(省略してしまったが、この人物との連絡はその後途絶え、本当にCrowder鉄鋼に関係する人物なのかさえ不明になる)からの依頼であるPhillip Crowderという少年の捜索しかない。
Jayはそれがどこに行き着くのかもわからないまま、その少年の捜索を始める。
一方、電話で事情を聞いたFisherもやって来て、Charlieの家を拠点として、ネットを使い様々な断片から背景の事情を探り始める。
そして、JayはPhillipが入所しているというRewrite Interventionsに直接向かい、調査を始めるが…。
という展開となって行くわけだが、この辺で一旦だが、全5作からなるJay Porterシリーズ真ん中のこの作品、続き物だからという部分を差し引いても、単独でおススメするには少々問題あり、と正直に言っとかなければならんと思う。
これまで全く関わりのなかったようなところから突然巻き込まれるこの事件なんだが、メインである失踪した少年の事件については解決されるのだが、実はJayがなぜ巻き込まれたかという部分が、謎で終わる。実際には続く巻があるのだから、 そこのところは次以降に明らかになるんだろうなと思うんだが、要するにそこが上手く引っ張れてないのだ。
念のために言っとくが、自分はそういうところであら捜しをする人間でなく、これまでに何度かそういう状況で、そこんところは多分そうだから分かってやれよ、といってきた方だからね。
そんな自分でも、ここんところは必然的に突っ込まれちまうだろうなと思ったんで、事前の注意ぐらいのところなんだけど。
この作品で中心となる、そもそもがボストンにいるEthan Crowder、Crowder鉄鋼と、Jayとの間には全く繋がりはないのだが、調べを進めて行くうちに、単純に手頃なところに彼がいたので巻き込んだわけではなく、 明らかにJayを名指しという形で関わらせていることが判明して来る。しかし、その理由は最後に至ってもわからない。
ただ一つだけ手掛かりとなるのは、前述の前作・前々作から登場しているErik Bowmanという人物。Crowderについて調べているうちに、会社のイベントの写真の中にBowmanの特徴的な首の刺青を発見する。この件にはBowmanが関わっているのではないかと 考え、彼の行方を探しているところで、当人からJayへ連絡が来る。ごく短時間の電話だが、とりあえずその時点ではあまりよくわからないが、Jayを利するアドバイス。だが、その後にFisherが調べたことによると、Bowmanは現在刑務所に収監されている らしい。
明らかにJayが全く繋がりがなかったところからこの件に巻き込まれたのには、何らかのBowmanの介入があるのだが、物語はBowmanがなぜ刑務所にいるかの理由を明らかにする前に終わる。
こうやって説明すれば、続く話でその辺の関係もはっきり説明されてくる、というか次にやるのでその辺について書かなかったというあたりは誰でも推測できると思うんだが、その辺を引っ張る形の書き方が少し弱く、そのあたりをいい加減にしたまま 終ったと勘違いする人も出てくるかもと思う。
まあ変な風に勘違いして読まれて、躓かれるといやだな、ぐらいの心配なのですがね。
しかしながらこの作品、最後にシリーズをここまで読んできた人なら、かなり衝撃を受けるあることが起こって終わる。
言ってしまえば、その衝撃でこれからJayはどうなんの?というだけで充分続きへと引っ張って行けるものなのだがね。自分もかなり気になるし。
この作品はシリーズこれまでと同様に、Jay Porterの一人称のみで書かれている。
彼の一人称による語りは、自分の境遇、兄の事、別れた妻と子の事、などの苦悩が様々な局面で重く繰り返され、そこにわけもわからないまま親代わりぐらいに思っている人物への襲撃犯として疑われるという事態まで加わり更に苦悩は深まり、作品終盤頃には大雪の中結構大変なところを進んで行くシーンもあるのだが、そういった際の肉体的な大変さみたいなものさえあまり強調されないぐらいになって来る。
そして前述のように、前作後半からはこれまでの苦難の結果として、パニック障害を患っており、それを鎮めるために薬を求めるような場面も頻出する。
ややネタバレかとは思うが、既に完結しているシリーズを説明する際には出てきていることだし、多分これまでにも書いていると思うのだが、このシリーズは主人公Jay Porterがドラッグ中毒者となり、そこから復帰するという形で終わるらしい。 それは作者Joe Clifford自身の体験に基づいたものだ。
シリーズ真ん中の本作は、物語がそこへと向かっている途上ということなのだろう。
この作品が出た2010年代後半頃は、本当にあちこちで近親者が薬物中毒で更生施設にいるというような文章をよく読んだ。もはやアメリカでは、親戚や友達の友達ぐらいの範囲で誰もが身近にそういう人間がいるような状態なんだろうと思った。 現在でも多分その状態にそれほど変わってはいないのだろうが、世間の関心となるような社会問題がまた別のところへ行ってるのだろうと思う。
Joe Clifford/Jay Porterシリーズ五部作は、そんなアメリカ社会の現在を、自身の体験に基づいて描いた、2010年代後半という時代のハードボイルドを代表すると言える作品である。…いや、本当はもっと早くこのくらいは全部読破して次に向かっていなければ いかんと常に思うのだけどね…。
かなり衝撃な事態から続く、Jay Porterシリーズ第4作『Broken Ground』も、なるべく早くに紹介の予定です。あ~こんなんばっか…。
さて作者Joe Cliffordの近況。近年いくつかの作品を出していたPolis Booksが昨年終了となり、どうなったんだろうかと思っていたところ、現在はそこからの作品の再発も含め、活動の中心がSquare Tire Booksというところに移っている。 初めて聞くところだけどどういうところなのかと調べてみたところ、元々はSquare Tire Recordsという、…えーと今どう言うのが正しいのか既にわかんなくなってるんだが、とにかく古くからの言い方で言えばレコード会社。
どういう経緯でこうなったのか、と色々調べてみたところ、ここからCliffordが自分のバンドThe Wanderingのレコードを出してることがわかった。色々用語が古いところは勘弁してくれ…。
そういった関係からここと交渉し、出版部門を立ち上げてもらったという感じなのではないだろうか。現在、このSquare Tire Booksから出版されているのは、Cliffordの他には同じくクライム作家のDavid Corbettの作品。まだこの辺の活動も始まって 間もないと思われるが、インディークライムでは結構大手だったDown & Outがつい先日ぐらいに倒れたという昨今、業界でも顔の広いCliffordの伝手で色々な作家の作品が登場してくることになるかも。なるべく気に留めておきたい。
CliffordのJay Porterシリーズ以降の作品だが、ちょっと分かりやすくなった感じで見てみると、サイコサスペンスや犯罪実話といった傾向の物に移行して行ってる感じ。近作ではホラーという方向の作品もあり。Square Tire Recordsは お馴染みキラーコンも開催される、何かそっち傾向のホラーの中心地みたいになってるのかもしれないテキサス州オースティンにあるそうなんで、その辺の毒気に影響されたのかも。前述の通り、Porterシリーズは自身のドラッグ中毒者経験に基づいたもので やや私小説方向というような重さがあるんだけど、その合間からエンターテインメント方向に上手さもあるのではないかなと思わせるところも見えて来たりするので、そういった作品も何とか読んでいければと思ってる。とにかくまずPorter終わらせないと。

Square Tire Books
■Joe Clifford著作リスト
〇Jay Porterシリーズ
- Lamentation (2014)
- December Boys (2015)
- Give Up the Dead (2017)
- Broken Ground (2018)
- Rag and Bone (2019)
〇その他
- Choice Cuts (2012) 短篇集
- Junkie Love (2013)
- Wake the Undertaker (2013)
- The One That Got Away (2018)
- Skunk Train (2019)
- Occam's Razor (2020)
- The Lakehouse (2020)
- The Shadow People (2021)
- Say My Name (2023)
- All Who Wander (2023)
- A Moth to Flame (2024)
- I Won't Say a Word (2024)
- Bigger Bites (2024) 短篇集
- The Skeleton Theory (2026)
Anthony Neil Smith先生最新情報
さてAnthony Neil Smith先生最新情報のコーナーです。当方では先生になんか動きがあれば伝えるという決まりになっています。以前からお伝えしてるFahrenheit Pocket Noirシリーズにて、Billy Lafitteシリーズ既刊4作がめでたく新カバーにて 揃いました。続く第5作はやや難航してるが進行中とのこと。Fahrenheitからは、Slow Bear三部作(結局三部作らしい)の合本版『Ghost Dance: The Complete Slow Bear Collection』が先月発売。SNS嫌いで一時はSubstackももう知るか!となっていた 先生だが、最近は過去の短編の再録というような活動も再開してくれた。12月になってからは俺は今年は色々本も出したんだから買え!と吠えていたり。当方の方では遅れているSlow Bearシリーズ第3作『Slowest Bear』の方も年内には間に合わなかったが、何とか来年早いうちにという予定です。
どうなんだよ?Wonderland Book Award?
昨年これから毎年やりますと言ったWonderland Book Awardなんだが、そのまま今年音沙汰がなくどうしてるのかと思ってる人も、もしかしたら一人ぐらいいるのかも?実は本年のWonderland Book Award、10月頭ぐらいには最終選考が発表されているんだが、いつまでたってもその後の発表がない。これに関してはどうやら発表の場となっているBizarroConの開催の目処が立たないというのが原因らしい。本来なら 例年11月初めぐらいの予定のはずだったようだが…。
こちらも10月に最終選考発表でやろうかと思ったんだが、諸般の事情で余裕がなく、一か月ぐらいで本選発表だからその時でいいかと、そのまま放置してしまった。ごめん。ホラーの方も少し頑張って見て行きたいと前から言ってて、少し読み始めてはいるのだが、 そっちについて書く余裕がなかなかないような状態で。来年には何とかできるよう努力します。なんか年の瀬になると、来年先送りの言い訳ばっかだな…。
とりあえず最終選考作品についてはタイトルだけ並べておきます。
The Wonderland Book Awards – Final Ballot 2025
長編部門
- Starlet by Danger Slater (Ghoulish Books)
- Nympho Shark Fuck Frenzy by Susan Snyder and Christine Morgan (Madness Heart Press)
- Apeship by Carlton Mellick III (Eraserhead Press)
- Reality But More Fun by Madeleine Swann (Nictitating Books)
- Kennel by Garrett Cook (Madness Heart Press)
短篇集部門
- Inappropriate Toasts for All Occasions by Michael Allen Rose (Madness Heart Press)
- All Your Friends Are Here by M. Shaw (Tenebrous Press)
- Vile Visions: Volume Two by Riley Odell (Independently Published)
- The Expectant Mother’s Disinformation Handbook by Robert Guffey (Madness Heart Press)
- God Is Wearing Black by Kelby Losack (Ugly Child)
カントリーノワールの巨匠ダニエル・ウッドレル逝去
カントリーノワールの開祖であり、『ウィンター・ボーンズ』の作者としても知られるダニエル・ウッドレル氏が、本年11月28日、72歳で亡くなりました。12月頭ぐらいにウッドレルが死去したらしいとの噂が上り、それから一日ぐらいたって確認されたような様子で、アメリカでもそれほど大きくは報じられなかったらしい。
1986年、『Under the Bright Lights(邦題:白昼の抗争)』でデビュー。1996年の第5作『Give Us a Kiss』で初めてカントリーノワールという名称を使い、以来しばらくひとりジャンルのような状態だったが、近年のアメリカのハードボイルド/クライム作品の傾向と、 2006年の『Winter's Bone』の2010年の映画化のヒットなども重なり、追随するカントリーノワールジャンルの作家も増え、多くの作家たちからリスペクトも集まっていた。
当方でも今年やっとデビュー作から続くThe Bayou Trilogyの第2作『Muscle for the Wing』(1988)を読み、大変素晴らしい作品だったのだが、ウッドレルについては先の作品も読んでもっと深く語らねばとか、色々考えてるライオネル・ホワイトや チェスター・ハイムズあたりとも通ずる三人称複数視点ハードボイルドの重要作でもあるみたいな考えから、とりあえず三部作最後まで読んでからまとめて書こうとか考え、先送りになったままになってしまっていた。なんか後手後手ばかりで本当に 申し訳ない。死後も深く読み継がれるべき作家としてウッドレルについてはなるべく早期に書き始めて行きます。
ダニエル・ウッドレル氏のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。
Daniel Woodrell著作リスト
- Under the Bright Lights (1986) The Bayou Trilogy:1
- Woe to Live On (1987)
- Muscle for the Wing (1988) The Bayou Trilogy:2
- The Ones You Do (1992) The Bayou Trilogy:3
- Give Us a Kiss: A Country Noir (1996)
- Tomato Red (1998)
- The Death of Sweet Mister (2001)
- Winter's Bone (2006)
- The Outlaw Album (2011) 短篇集
- The Maid's Version (2013)
なんだか年末反省大会みたいになってしまったよ、ウッドレルの訃報まで含めて…。ただまあ、こんだけあると逆に一旦年の終わりに整理して、新たな年の始まりと同時にリセットで再スタートとかできるような気分になるから不思議だね。 とりあえず、ここで書いたことも書かなかったことも含めて、このまま引き摺って年を越えて、一つでも早く達成できるように頑張りたいと思います。あー来年まず最優先は、次のも出るエルロイか。そんなところで、あんまりガラじゃないけど、 そういうタイミングなんで、今年もありがとうございました、良い年をお迎えください。とか言えるような人もいくらかは読んでくれてると信じたいですね。ではまた来年に。
…とか言ってて、Wonderland Book Award急遽発表されて、年内に間抜けな感じで再登場することになるのかもな。ワシの人生なんていつもそんなもんよ…。
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