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2025年12月15日月曜日

Joe Clifford / Give Up The Dead -Jay Porterシリーズ第3作!-

今回はJoe Cliffordの『Give Up The Dead』。2017年にOceanview Publishingより出版されたJoy Porterシリーズ第3作です。

ドラッグの蔓延に疲弊したアメリカの行き止まりのような田舎町を舞台とした、2010年代後半~20年代を代表するシリーズとして注目してきたJoy Porter5部作の第3作。いや、注目してきて少しでも早く読まなければと思ってたのだけど、結局前やってから 2年か…。あっ勘違いしてたけど、そんとき色々重なって2023年11月から2024年1月まで休みになって、2023年11月ごろに書き始めたけど実際に出したのは2024年2月とかなってたんだ…。あー…。あの時のごたごたやいまだに修正されてないところとか 思い出してややへこんだ…。
2年前の前回は、更にしばらく前に読んだまま書けなかった第1作『Lamentation』(2014)と第2作『December Boys』(2015)を一緒にという感じになってしまった。…なんかこれまでの数々の不始末をまとめて見せられる感じになってるんだが…。 まあへこんでばかりいても進まないんで、何もなかったような顔をしてまずはそっちのJoy Porterのこれまでから。

第1作『Lamentation』では、ニューハンプシャーの田舎町Ashtonに住み、地元で死亡した人の不動産を片付ける仕事をしていた青年Jay Porterが、唯一の肉親だがドラッグ中毒で面倒ばかり起こす兄の起こした事件に巻き込まれて行く。友人と共に PC関連機器の回収処理業を始めた兄Chrisは、地元の有力な一族でChrisとも過去に因縁があったLombardi家の営む建設会社の廃棄されたハードディスクをたまたま入手し、そこから引き出した情報により命を狙われることとなる。何とか兄を助けようと 試みるJayだったが、Chrisは決して真相が明らかにならない謎を残しながら、Jayを助け自身の苦痛に満ちた人生を終わらせるため、半ば自殺という形で警官隊の銃火の前に飛び出し、死亡する。
Jayとの間に息子Aidenをもうけながら、別れて別の男性と暮らしていたJennyとも最後には和解し、事件の捜査のためやって来た親友Charlie Finnの旧友である保険会社の調査員Fisherの紹介により保険会社に就職しAshtonから出て行くというところで、第1作『Lamentation』は終わる。

そして第2作『December Boys』。前回途中までしか書いてなかったので、こちらややネタバレになるかも。第1作でよりを戻したJennyとその後結婚したJayは、保険会社の支社に調査員として務め、そこに近いPlastervilleに家を借り家族三人で暮らしていた。 Jayは、ある事故による保険金請求案件を調べるうち、近隣のティーンエイジャーの少年少女が些細な件で次々と矯正施設に送られている不審な動きに気付く。気が進まないままにその件を追って行くうちに、彼は地元の判事までが関わるティーンエイジャー、 ドラッグ中毒者の矯正施設建設にまつわる黒い利権の陰謀へと巻き込まれて行く。そしてその背後にいたのは、またしてもLombardi家だった。一方で家庭では妻Jennyとの関係もこじれ、彼女は息子Aidenを連れて母の許へと帰ってしまう。様々に追いつめられ、 パニック障害を患ってしまうJay。かつて兄が殺害されそうになった湖で、Lombardiの手の者たちに殺されそうになるが、保安官Turleyに救われ、判事の不正も明るみに出て事件は解決する。だが、Jennyとの関係は完全に修復不可能となり、離婚へ至り、Jayは 一人、Ashtonの町へと帰って行く。

これらの過去の事件は今作でも度々言及されることになるのだが、第2作『December Boys』の方は、作品内世間的にニュースになったRoberts判事の事件といういわれ方をすることが多い。
あと過去作からのことで知っておいた方がいいのは、Lombardiのセキュリティとして第1作でJayを度々脅かした元バイクギャングのErik Bowman。第2作でも登場するのだが、後半ある事情からLombardi家と対立することとなり、Jayに表には出ていない 情報を教えるという形で、部分的に協力する。あくまでも情報だけで、どういう形でも手を貸すようなことはしないのだが。実は今作でもほんの少しだけ登場するのだが、多分そこまでは書かないと思うのだけど一応。
前作の最後で殺されかけたときに、Jayは足の神経を痛め、歩行などの際に時々ぼやく。
何かと過去からの連続としての言及も多く、全くここから本作を単独で読むことはおススメできないのだが、とりあえずあらすじ説明する分にもわからなくなるかもしれないところはこのくらいかと。ではここからJoy Porterシリーズ第3作『Give Up The Dead』 です。


Give Up The Dead


前作の事件から3年後。感謝祭の日、Jayは元妻Jennyと息子Aidenと食事をした。他に開いている店が無かったので、Denny'sになってしまったが…。
その一時間ほどの間、彼は幸せに過ごした。そしてJennyの新しい夫が車で迎えに来て、元妻と息子は去り、Jayは独り駐車場に残された。

そして沈鬱な気分で自分の車に向かっているとき、彼の現在の仕事のボス、Tom Gableから電話が掛かる。
「今晩、オークションをやってもらえないか?」
「今晩かい?」
Ashtonに戻ったJayは、以前の仕事であるTom Gableの不動産片付けの会社の仕事に戻っていた。依頼されてその家屋の家具などのオークション販売会を行うのも業務の一環だ。だが、祭日にそういう依頼が来るのはとても珍しい。そこそこ長く勤めている Jayが憶えている限りでも一度だけぐらいのものだ。
感謝祭を家族で過ごすので、頼んでしまうことになって申し訳ない、と謝りながらTomは言う。「このKeith Mortensonという依頼人は、ノースカロライナからのフライトで来たんだ。家族の地所の整理のために。世襲財産さ。帰りを急いでるんだ。 もし俺たちがやらなきゃ、Owen Eatonのところに行っちまい、俺たちは委託を失う。ちょっとした掘り出し物だと思うんだが」
Owen Eatonは、この地で同様の商売をしている、Tomより大きな商売敵だ。Tomは現在の彼の会社をJayに売却すると話しているが、なかなかにそれだけの額の金を作れない現状、常にそれを狙っているEatonが買い取るというケースもあり得る。
Jayは通常のパーセンテージに加えて、300ドル払うというTomの申し出に、オークションの代理を承諾する。

一旦Tomの家に寄ってからオークション会場になる倉庫へと向かっているところで、親友Charlieから電話が掛かる。
かつて電話会社に勤めていたCharlieだったが、背中を痛め退職し、現在は手当で暮らしながら行きつけのパブDublinerに入り浸っている。その時の電話も同じDublinerからだった。
感謝祭の夜ひとりで過ごすのも寂しかろうぐらいの気持ちで、断るだろうと思いながらオークションを手伝ってくれと持ち掛けると、以外にも引き受けるとの返事。Jayは途中でCharlieを拾ってから、会場に到着する。

途中しばらくのブランクはあるものの、高校卒業からTomのところでこの仕事をしているJayは、中古家具などについてそこそこのエキスパートになっており、並べられた家具や装飾品にオークション用の値札をつけて行く。
そこには既に数人のバイヤーが到着しており、その中にはOwen Eatonの姿もあった。Eatonは一人の中年男と話していたが、Jayの姿に気付くと男に外に出るように促す。
不審に思ったJayが、あれは誰だと尋ねると、Keith Mortensonだと答えが返って来る。このオークションの依頼者だ。
外に出てみると、Mortensonはその駐車場に駐められたEatonトラックの傍にいた。中を見てみると、Jayの知識ならわかるヨーロッパの高価で取引されるアンティーク家具が置かれていた。
Eatonはこれに目を付け、Jayを通さずMortensonと直接取引しようとしたのだ。
Mortensonにいくらの値で売るのか尋ねたところ、案の定法外に安い価格だった。企みがばれたEatonはもう少し高い金額を提示し、オークション主催者としてのJayに手数料も払うと申し出る。手持ちでは足りないが、その価値に対しては払えない金額ではない。 だが、Tomに相談している時間の余裕もないのだろう。Jayは諦め、手数料を受け取りEatonの取引を容認する。
苦い気持ちで中に戻ると、Keith Mortensonが追ってきて、今日のオークション開催の礼ということで包みを手渡して去って行った。中を見るとそれは冬用のコートだった。

オークションを滞りなく終了させた後、家には自転車で帰ると言うCharlieをDublinerに戻し、Jayは独り暮らしの自宅へ帰る。
Jayの現在の住居は、かつてAshtonから離れていた時と同じHank Millerのスタンド兼自動車修理工場の二階に住んでいる。HankもTom Gable同様に長い付き合いでJayを息子のように思ってくれる人物だ。
感謝祭の食事の残り物を温め直して食べているとドアにノック。
ドアを開けてみると、いかにも高級そうなスーツを着た、体格のいい男が立っていた。
「Vin Biscoglioという者です。聞いてもらいたい話があるのだが、入れていただけるかな?」
「少々遅い時間じゃないかな。俺はもう寝る所だったんだ。加えて、俺はあんたを知らない」
「遅くなってしまったのは申し訳ない。外で車の中に座ってご帰宅を待っていたのだがね。どうやら見逃してしまったようだ」それほど時間を取らせないことは約束する、とBiscoglioは付け加える。
仕方なく、Jayは彼を家へ迎え入れる。

「失踪した少年を見つける手助けをしてほしい」Biscoglioは言う。
「子供が失踪したのは気の毒に思うが、警察へ行ってくれってことだな」
「恐縮だが、我々は警察へは行けないんだ」
俺のところに来ることもできないよ、とJayは笑う。「多分あんたは違うJay Porterのところに来たんじゃないか?俺は地所整理の仕事をしてる。箪笥を動かして、誰もやりたがらない死んだ人の家の片付けをしてる」
君は保険会社で調査員として働いていたのではないかね、と問うBiscoglio。一年も保たずに辞めたよと答えるJay。

「ちなみに、俺のことはどうやって見つけたんだ?」
「君の友人のFisherからだ」
Biscoglioは過去のLombardi家との経緯、Roberts判事の事件の裏の事情などもすべて知っていた。
これはLombardi家に関わることなのか?と問うJay。Biscoglioは違うとだけ答える。
「これらのことを持ち出したのは、君が真実を得るために如何に深く掘り進むかを示しているからだ。これが私の雇用主の関心を惹き、君に仕事を頼むため探した理由だ」
「あんたのボスって誰だ?」
Ethan Crowder、ボストンの大手鉄鋼業社の経営者だとBiscoglioは答える。

Ethanと彼の元妻Joanneは離婚し、息子Phillipは妻が連れて行った。元々は善良な子供だったが、良くない友人と付き合いドラッグに溺れるようになってしまった。困り果てたJoanneは強引な手を打つ。彼の意思を無視し、軍隊式の更生施設に入所させたのだ。
「君はミドルセックス郡には詳しいかな?」Biscoglioは尋ねる。
ミドルセックス郡は自然豊かな地域で、その手の施設も多く、Jayの兄Chrisがそういうところに度々入所していたことで、彼にとってなじみの深い場所だ。当然その類いのことも調査済みなのだろうが。
Phillipが入所している施設は、Rewrite Interventionsというところだ。そこの方針として、彼はある夜、数人の男により枕カバーを被せられ誘拐され、そのまま強制的に入所させられ、携帯など外部に連絡を取る手段も取り上げられている。
「離婚して息子を元妻に取り上げられた父親として、これがどれほどCrowder氏にとってどれほど恐ろしいことか、君にも理解できるだろう」
Jayについて詳しく調べているらしいBiscoglioは、巧みに彼の弱いところを突いて来る。
「我々の共通の友人であるFisherが、君の兄について説明してくれた。君個人のドラッグ関連事件への関心を。君の捜査経歴からの印象で、君が助力について積極的であろうことを我々は望んでいるのだ。報酬を前提として、もちろんのことだが」
「もう遅い時間なんだ。俺は寝なきゃならない。Fisherが何と言ったか知らないが、俺は探偵じゃない。そいうことをやるには免許がいるだろう。俺が持ってる免許と言えば運転の類いだけ、それでゴミが運べる。あんたらが警察に行けないというんなら、ちゃんとした 私立探偵を雇えよ」
どうしても首を縦に振らないJayに、Biscoglioは最後に内ポケットから出した名刺をテーブルに置いて言う。
「これが私の番号だ。考えが変わった時のために。Crowder氏からの報酬提案は裏に書いておいた」

そしてBiscoglioは出て行った。
ふと思いつき窓から外を見るが、雪が降り続ける外を去って行く車は見えなかった。
まだ彼が下にいるのでは、という奇妙な感覚にとらわれ、外に出てみる。
携帯のライトで照らしてみても、足跡もタイヤの跡も見つからなかった。誰もここになどいなかったかのように。

翌朝、雪も止み、Jayは家主であるHankを手伝い、駐車場の雪かきをする。30分ほどでHankの罵り声が聞こえ、行ってみるとガレージの横のドアが錠を壊され開けられていた。
恐らくは近所をうろつくジャンキーの一人の仕業だろうが、Jayの兄の件をよく知るHankは言いかけた口を止め、嵐のせいだろうと言い直す。
Hankの気遣いに感謝しながら、Jayは自分の工具セットを使い、錠を止め直す。昨夜のBiscoglioのことが頭を掠めるが、あの高価なスーツを着た男がパーツを漁るようには思えない。
Hankの駐車場の雪かきを終え、JayはTomとのミーティングのために、彼がいつも朝食を食べるダイナーへ向かう。
Tomに昨夜のオークションの報告をして、リストと売り上げを渡し、彼の報酬を受け取る。少し早めのボーナスだと言い余分に報酬を渡してくれる。
朝食を食べた後、新しくピッツフィールドに借りた倉庫の契約に向かうというTomと駐車場で別れる。
別れ際、ふと昨晩のオークションの依頼者Keith Mortensonの話になり、そこでJayはMortensonがCrowder鉄鋼の社員であることを知る。

それからJayは、まずCharlieの家へ向かう。昨晩のVin BiscoglioがFisherからの紹介と話した件について、本人と話すために。FisherはCharlieの友人だが、Jayとはあまりそりが合わず、電話番号すらも知らない。
昨夜の後、またDublinerで飲み、朝に帰ったのだろうCharlieはどうやってもまともに起きず、何とか半分眠っている彼から電話番号を聞き出す。
そしてFisherに電話を掛けるが不在。思いついて昨夜渡された名刺を見て、Vin Biscoglioにも掛けてみるが、こちらも応答はない。
しばらく待ってみるが、双方ともかけ直してくる様子はない。今日もやらなければならない仕事がある。いつまでもこうしてはいられない。Jayはまた眠ってしまったCharlieに書置きを残し、仕事へと向かう。

午後いっぱいかかってU-ホールのレンタルスペースに預けていた様々な家具類を、別の倉庫へ移動するためトラックに積み込む。
一旦出発した後、忘れ物に気付き戻ったところで携帯が鳴る。
だが、それは待っていたどちらからの電話でもなかった。

電話は保安官Turleyからだった。「Tomが、その…、事故に遭った。今は病院だ」
驚愕するJayに、続けてTurleyは尋ねる「Tomは今朝早くピッツフィールドに向かってたのを知ってたか?」
「ああ、新しい地所のリース契約のためにな。展示兼オークションのために借りる所だ。それが?」
何か悪いニュースを聞いたように唸るTurley。
Jayは何があったのか尋ねる。ピッツフィールドからの帰路、山のふもとの人通りの少ない場所で、おそらくは故障を装ってとまっていた車に手を貸そうと降りたところで、頭部を殴られたということ。
「犯人が使った血が付いたバールも見つかっている。しばらくその状態で寒空の下に放置されていたようだ」Turleyは言う。

Jayは急ぎ病院へと向かう。到着しICUへと行くと、Tomの妻Freddieの姿を見つける。近付こうとすると、彼に気付いたFreddieは険しい眼で見返してくる。意味は分からないまま進もうとすると、近くにいたらしいTurleyに止められ、わきの通路に連れて行かれる。
状況が把握できないままにTurleyの話を聞くうちに、Jayは自分がTom襲撃の容疑者となっていたことを知る。
Tomと最後に会い、今日の行動予定を知っていた人間であること。更に現場で発見されたTomを殴打した凶器のバールが、Hank Millerのガレージから盗まれたものであること。
Jayの頭に、今朝のガレージのドアが壊されていたこと、そして昨夜のVin Biscoglieの痕跡も残さないような退去の件が浮かぶ。
更にTomの妻Freddieによると、昨夜深夜2時ごろ、Tomが電話で言い争う声が聞こえてきたということで、それもJayからではないかと疑われている。
Jayには心当たりもないとは言っても、Tomが現在ICUで昏睡状態ということでは何も証明することはできない。
そして更に、Turleyは今日Tomの書斎のデスクに置かれていたのをFreddieが見つけたという封筒をJayに見せる。
そこには、自分に何かあった時には自分の会社をJayに譲る、という遺書めいた文章が書かれた紙が入っていた。

とにかく町から出るな、程度の警告をTurleyから受けて、Jayは病院から出る。駐車場の車に戻った時、Fisherからの電話が掛かる。
FisherにVin Biscoglioの件を尋ねるが、Fisherはそんな名前のやつは知らないし、Jayを誰かに紹介したこともないと答える。

Jayの知らないところで何かが起こり、それは明らかに彼を単独で狙い、彼を事件の犯人へと仕立て上げようとしている。
それは何者で、一体どういう意図なのか?

*  *  *

またしても結構長くなってしまったが、序盤のオークションの件を含めて、この後のストーリーに大きく関わるところなんで、省くわけにもいくまい。
この謎に対する手掛かりは、まずVin Biscoglioと名乗る人物(省略してしまったが、この人物との連絡はその後途絶え、本当にCrowder鉄鋼に関係する人物なのかさえ不明になる)からの依頼であるPhillip Crowderという少年の捜索しかない。
Jayはそれがどこに行き着くのかもわからないまま、その少年の捜索を始める。
一方、電話で事情を聞いたFisherもやって来て、Charlieの家を拠点として、ネットを使い様々な断片から背景の事情を探り始める。
そして、JayはPhillipが入所しているというRewrite Interventionsに直接向かい、調査を始めるが…。

という展開となって行くわけだが、この辺で一旦だが、全5作からなるJay Porterシリーズ真ん中のこの作品、続き物だからという部分を差し引いても、単独でおススメするには少々問題あり、と正直に言っとかなければならんと思う。
これまで全く関わりのなかったようなところから突然巻き込まれるこの事件なんだが、メインである失踪した少年の事件については解決されるのだが、実はJayがなぜ巻き込まれたかという部分が、謎で終わる。実際には続く巻があるのだから、 そこのところは次以降に明らかになるんだろうなと思うんだが、要するにそこが上手く引っ張れてないのだ。
念のために言っとくが、自分はそういうところであら捜しをする人間でなく、これまでに何度かそういう状況で、そこんところは多分そうだから分かってやれよ、といってきた方だからね。
そんな自分でも、ここんところは必然的に突っ込まれちまうだろうなと思ったんで、事前の注意ぐらいのところなんだけど。

この作品で中心となる、そもそもがボストンにいるEthan Crowder、Crowder鉄鋼と、Jayとの間には全く繋がりはないのだが、調べを進めて行くうちに、単純に手頃なところに彼がいたので巻き込んだわけではなく、 明らかにJayを名指しという形で関わらせていることが判明して来る。しかし、その理由は最後に至ってもわからない。
ただ一つだけ手掛かりとなるのは、前述の前作・前々作から登場しているErik Bowmanという人物。Crowderについて調べているうちに、会社のイベントの写真の中にBowmanの特徴的な首の刺青を発見する。この件にはBowmanが関わっているのではないかと 考え、彼の行方を探しているところで、当人からJayへ連絡が来る。ごく短時間の電話だが、とりあえずその時点ではあまりよくわからないが、Jayを利するアドバイス。だが、その後にFisherが調べたことによると、Bowmanは現在刑務所に収監されている らしい。
明らかにJayが全く繋がりがなかったところからこの件に巻き込まれたのには、何らかのBowmanの介入があるのだが、物語はBowmanがなぜ刑務所にいるかの理由を明らかにする前に終わる。

こうやって説明すれば、続く話でその辺の関係もはっきり説明されてくる、というか次にやるのでその辺について書かなかったというあたりは誰でも推測できると思うんだが、その辺を引っ張る形の書き方が少し弱く、そのあたりをいい加減にしたまま 終ったと勘違いする人も出てくるかもと思う。
まあ変な風に勘違いして読まれて、躓かれるといやだな、ぐらいの心配なのですがね。
しかしながらこの作品、最後にシリーズをここまで読んできた人なら、かなり衝撃を受けるあることが起こって終わる。
言ってしまえば、その衝撃でこれからJayはどうなんの?というだけで充分続きへと引っ張って行けるものなのだがね。自分もかなり気になるし。

この作品はシリーズこれまでと同様に、Jay Porterの一人称のみで書かれている。
彼の一人称による語りは、自分の境遇、兄の事、別れた妻と子の事、などの苦悩が様々な局面で重く繰り返され、そこにわけもわからないまま親代わりぐらいに思っている人物への襲撃犯として疑われるという事態まで加わり更に苦悩は深まり、作品終盤頃には大雪の中結構大変なところを進んで行くシーンもあるのだが、そういった際の肉体的な大変さみたいなものさえあまり強調されないぐらいになって来る。
そして前述のように、前作後半からはこれまでの苦難の結果として、パニック障害を患っており、それを鎮めるために薬を求めるような場面も頻出する。
ややネタバレかとは思うが、既に完結しているシリーズを説明する際には出てきていることだし、多分これまでにも書いていると思うのだが、このシリーズは主人公Jay Porterがドラッグ中毒者となり、そこから復帰するという形で終わるらしい。 それは作者Joe Clifford自身の体験に基づいたものだ。
シリーズ真ん中の本作は、物語がそこへと向かっている途上ということなのだろう。
この作品が出た2010年代後半頃は、本当にあちこちで近親者が薬物中毒で更生施設にいるというような文章をよく読んだ。もはやアメリカでは、親戚や友達の友達ぐらいの範囲で誰もが身近にそういう人間がいるような状態なんだろうと思った。 現在でも多分その状態にそれほど変わってはいないのだろうが、世間の関心となるような社会問題がまた別のところへ行ってるのだろうと思う。
Joe Clifford/Jay Porterシリーズ五部作は、そんなアメリカ社会の現在を、自身の体験に基づいて描いた、2010年代後半という時代のハードボイルドを代表すると言える作品である。…いや、本当はもっと早くこのくらいは全部読破して次に向かっていなければ いかんと常に思うのだけどね…。
かなり衝撃な事態から続く、Jay Porterシリーズ第4作『Broken Ground』も、なるべく早くに紹介の予定です。あ~こんなんばっか…。

さて作者Joe Cliffordの近況。近年いくつかの作品を出していたPolis Booksが昨年終了となり、どうなったんだろうかと思っていたところ、現在はそこからの作品の再発も含め、活動の中心がSquare Tire Booksというところに移っている。 初めて聞くところだけどどういうところなのかと調べてみたところ、元々はSquare Tire Recordsという、…えーと今どう言うのが正しいのか既にわかんなくなってるんだが、とにかく古くからの言い方で言えばレコード会社。
どういう経緯でこうなったのか、と色々調べてみたところ、ここからCliffordが自分のバンドThe Wanderingのレコードを出してることがわかった。色々用語が古いところは勘弁してくれ…。
そういった関係からここと交渉し、出版部門を立ち上げてもらったという感じなのではないだろうか。現在、このSquare Tire Booksから出版されているのは、Cliffordの他には同じくクライム作家のDavid Corbettの作品。まだこの辺の活動も始まって 間もないと思われるが、インディークライムでは結構大手だったDown & Outがつい先日ぐらいに倒れたという昨今、業界でも顔の広いCliffordの伝手で色々な作家の作品が登場してくることになるかも。なるべく気に留めておきたい。
CliffordのJay Porterシリーズ以降の作品だが、ちょっと分かりやすくなった感じで見てみると、サイコサスペンスや犯罪実話といった傾向の物に移行して行ってる感じ。近作ではホラーという方向の作品もあり。Square Tire Recordsは お馴染みキラーコンも開催される、何かそっち傾向のホラーの中心地みたいになってるのかもしれないテキサス州オースティンにあるそうなんで、その辺の毒気に影響されたのかも。前述の通り、Porterシリーズは自身のドラッグ中毒者経験に基づいたもので やや私小説方向というような重さがあるんだけど、その合間からエンターテインメント方向に上手さもあるのではないかなと思わせるところも見えて来たりするので、そういった作品も何とか読んでいければと思ってる。とにかくまずPorter終わらせないと。
そして、先に書いたCliffordのバンドThe Wanderingなのだが、アルバム一枚と数枚のシングルがあり、昨年出たアルバム『A Better Machine』はアマゾンからMP3で買えると検索には出るのだけど、なぜか商品ページに繋がらずエラーになってしまうんで、 日本のアマゾンでは販売されてないのかも。そんな事情でとりあえず画像だけでリンクはないのだけど、Apple Musicで見てみたところ、こちらではアルバムとシングル2枚が聴けました。The Wanderingで検索すると、同名のメタルバンドが前に出てくるので、 アルバム画像の方のThe Wanderingを。ロック傾向の強いオルタナティブカントリーって感じなのかな。音楽の方はあんまりうまく表現できなくてごめん。一昔前だと、こういうのもあるらしいで終わってたんだろうけど、今はそういうのもその日に見つけて聴けるんで、 いい時代になったね。ぜひ御一聴を。
Square Tire Books

■Joe Clifford著作リスト

〇Jay Porterシリーズ

  1. Lamentation (2014)
  2. December Boys (2015)
  3. Give Up the Dead (2017)
  4. Broken Ground (2018)
  5. Rag and Bone (2019)

〇その他

  • Choice Cuts (2012) 短篇集
  • Junkie Love (2013)
  • Wake the Undertaker (2013)
  • The One That Got Away (2018)
  • Skunk Train (2019)
  • Occam's Razor (2020)
  • The Lakehouse (2020)
  • The Shadow People (2021)
  • Say My Name (2023)
  • All Who Wander (2023)
  • A Moth to Flame (2024)
  • I Won't Say a Word (2024)
  • Bigger Bites (2024) 短篇集
  • The Skeleton Theory (2026)


Anthony Neil Smith先生最新情報

さてAnthony Neil Smith先生最新情報のコーナーです。当方では先生になんか動きがあれば伝えるという決まりになっています。以前からお伝えしてるFahrenheit Pocket Noirシリーズにて、Billy Lafitteシリーズ既刊4作がめでたく新カバーにて 揃いました。続く第5作はやや難航してるが進行中とのこと。Fahrenheitからは、Slow Bear三部作(結局三部作らしい)の合本版『Ghost Dance: The Complete Slow Bear Collection』が先月発売。SNS嫌いで一時はSubstackももう知るか!となっていた 先生だが、最近は過去の短編の再録というような活動も再開してくれた。12月になってからは俺は今年は色々本も出したんだから買え!と吠えていたり。
当方の方では遅れているSlow Bearシリーズ第3作『Slowest Bear』の方も年内には間に合わなかったが、何とか来年早いうちにという予定です。

どうなんだよ?Wonderland Book Award?

昨年これから毎年やりますと言ったWonderland Book Awardなんだが、そのまま今年音沙汰がなくどうしてるのかと思ってる人も、もしかしたら一人ぐらいいるのかも?
実は本年のWonderland Book Award、10月頭ぐらいには最終選考が発表されているんだが、いつまでたってもその後の発表がない。これに関してはどうやら発表の場となっているBizarroConの開催の目処が立たないというのが原因らしい。本来なら 例年11月初めぐらいの予定のはずだったようだが…。
こちらも10月に最終選考発表でやろうかと思ったんだが、諸般の事情で余裕がなく、一か月ぐらいで本選発表だからその時でいいかと、そのまま放置してしまった。ごめん。ホラーの方も少し頑張って見て行きたいと前から言ってて、少し読み始めてはいるのだが、 そっちについて書く余裕がなかなかないような状態で。来年には何とかできるよう努力します。なんか年の瀬になると、来年先送りの言い訳ばっかだな…。
とりあえず最終選考作品についてはタイトルだけ並べておきます。

The Wonderland Book Awards – Final Ballot 2025

長編部門
  • Starlet by Danger Slater (Ghoulish Books)
  • Nympho Shark Fuck Frenzy by Susan Snyder and Christine Morgan (Madness Heart Press)
  • Apeship by Carlton Mellick III (Eraserhead Press)
  • Reality But More Fun by Madeleine Swann (Nictitating Books)
  • Kennel by Garrett Cook (Madness Heart Press)

短篇集部門
  • Inappropriate Toasts for All Occasions by Michael Allen Rose (Madness Heart Press)
  • All Your Friends Are Here by M. Shaw (Tenebrous Press)
  • Vile Visions: Volume Two by Riley Odell (Independently Published)
  • The Expectant Mother’s Disinformation Handbook by Robert Guffey (Madness Heart Press)
  • God Is Wearing Black by Kelby Losack (Ugly Child)


カントリーノワールの巨匠ダニエル・ウッドレル逝去

カントリーノワールの開祖であり、『ウィンター・ボーンズ』の作者としても知られるダニエル・ウッドレル氏が、本年11月28日、72歳で亡くなりました。
12月頭ぐらいにウッドレルが死去したらしいとの噂が上り、それから一日ぐらいたって確認されたような様子で、アメリカでもそれほど大きくは報じられなかったらしい。
1986年、『Under the Bright Lights(邦題:白昼の抗争)』でデビュー。1996年の第5作『Give Us a Kiss』で初めてカントリーノワールという名称を使い、以来しばらくひとりジャンルのような状態だったが、近年のアメリカのハードボイルド/クライム作品の傾向と、 2006年の『Winter's Bone』の2010年の映画化のヒットなども重なり、追随するカントリーノワールジャンルの作家も増え、多くの作家たちからリスペクトも集まっていた。
当方でも今年やっとデビュー作から続くThe Bayou Trilogyの第2作『Muscle for the Wing』(1988)を読み、大変素晴らしい作品だったのだが、ウッドレルについては先の作品も読んでもっと深く語らねばとか、色々考えてるライオネル・ホワイトや チェスター・ハイムズあたりとも通ずる三人称複数視点ハードボイルドの重要作でもあるみたいな考えから、とりあえず三部作最後まで読んでからまとめて書こうとか考え、先送りになったままになってしまっていた。なんか後手後手ばかりで本当に 申し訳ない。死後も深く読み継がれるべき作家としてウッドレルについてはなるべく早期に書き始めて行きます。
ダニエル・ウッドレル氏のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。

Daniel Woodrell著作リスト

  • Under the Bright Lights (1986) The Bayou Trilogy:1
  • Woe to Live On (1987)
  • Muscle for the Wing (1988) The Bayou Trilogy:2
  • The Ones You Do (1992) The Bayou Trilogy:3
  • Give Us a Kiss: A Country Noir (1996)
  • Tomato Red (1998)
  • The Death of Sweet Mister (2001)
  • Winter's Bone (2006)
  • The Outlaw Album (2011) 短篇集
  • The Maid's Version (2013)


なんだか年末反省大会みたいになってしまったよ、ウッドレルの訃報まで含めて…。ただまあ、こんだけあると逆に一旦年の終わりに整理して、新たな年の始まりと同時にリセットで再スタートとかできるような気分になるから不思議だね。 とりあえず、ここで書いたことも書かなかったことも含めて、このまま引き摺って年を越えて、一つでも早く達成できるように頑張りたいと思います。あー来年まず最優先は、次のも出るエルロイか。そんなところで、あんまりガラじゃないけど、 そういうタイミングなんで、今年もありがとうございました、良い年をお迎えください。とか言えるような人もいくらかは読んでくれてると信じたいですね。ではまた来年に。
…とか言ってて、Wonderland Book Award急遽発表されて、年内に間抜けな感じで再登場することになるのかもな。ワシの人生なんていつもそんなもんよ…。



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■Joe Clifford
●Jay Porterシリーズ

●短篇集

'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。

2025年10月30日木曜日

James Lee Burke / Purple Cane Road -デイヴ・ロビショー第11作!-

今回はジェイムズ・リー・バーク、デイヴ・ロビショー シリーズ第11作『Purple Cane Road』。出版は2000年。やっと2000年に届いたけど、まだ前世紀か。

未訳のロビショー第9作『Cadillac Jukebox』(1996)から始まったバーク作品紹介も今回でやっと3回。前回いつかと思えば去年の4月とかかよ…。年1作出版ペースのバーク作品だが、97年にはビリー・ボブ・ホランドシリーズも始まっており、 こんなペースじゃいかん、年2作ぐらいは読んで行かねばと思っているのだがどうにも難しい。あっちもこっちも読まなきゃならんばかりだし。とにかくこんなやり方じゃ、永久に追いつかんよ。いや、オレ本気で追いつきたいと思ってるんだからね!

さて1年半前の前回では、ホランドシリーズ始まってなんか変わった感じぐらいのことを曖昧に書いてたが、今回はその辺ももう少し見えて来たかという感じもあり、また一方で、あーそんな読み方じゃダメだよ、という反省点もあり、3回ぐらいやって来ると 見えてくるバークの考えみたいなもんにも迫って行ければ、と思っています。
バーク作品であれば、必然的にあらすじ部分だけでも長くなるんだし、早く書いて早く進めて早く次のやつ読めよというところなんで、とにかく早く始めなければ。
ジェイムズ・リー・バーク『Purple Cane Road』です。


【Purple Cane Road】


何年も昔、公文書においては、Vachel Carmoucheは常に電気技師と表記されていた。死刑執行人と呼ばれることは決してなかった。過去において、電気椅子はある時はアンゴラ刑務所に置かれていた。またある時には、それは付属する発電機と共に平台のセミトラックに 乗せられ、刑務所から刑務所へと移動していた。Vachel Carmoucheは州の仕事をしていた。それに優れていた。

こんな感じで、今作はまずVachel Carmoucheという人物の紹介から始まる。独身者でバイユー・テッシュの飾り気のない家に住む彼は、ロビショーがニューオリンズ警察の警官でアル中だった頃からの知り合いだった。
Carmoucheの地所の隣には、代々Labicheという一族が暮らしていた。南北戦争以前からの黒人ながら地域でそれなりの尊敬を受けているビジネスマンだったが、戦争を境に没落し、25年前、一族の末裔である夫婦は、売春あっせん業を営み、ニューヨークの 犯罪組織の宣誓証人となっているときに謎の死を遂げる。そしてあとに5歳になる双子の娘、LettyとPassionが残される。
双子の身元引受人となったのは、モルヒネの常用癖のある呪術師とも言われている叔母だった。そして隣人のVachel Carmoucheは、しばしば双子の世話をかって出ることになる。
そして、Carmoucheが双子に対し、性的虐待をしているらしいという噂が密かに伝わって来る。
かつてロビショーもそれに対し何とかしようと試みたが、自身のアルコールの問題も抱え、何も手を打てぬまま時が流れる。
その後、Carmoucheはオーストラリアに休暇で旅行した際、地元のテレビ局から死刑執行人という仕事についてインタビューされ、不適当と思われる発言を多く述べ、それがアメリカのテレビ局まで流れてきたことから、職を失い失踪し数年間姿をくらました。
そして8年前のある春の日、Carmoucheは戻って来る。庭の草を刈り、窓を塞いでいた板を外し、前庭のバーベキューピットでポークロストを焼いた。バルコニーには12歳の黒人少女がすわり、アイスクリームメーカーのハンドルを回していた。
陽が落ちてから、Carmoucheは家に入り、夕食を食べていた。そして裏の戸にノックがあり、彼はテーブルから立ち上がりドアを開ける。そして、彼は根掘りくわを何度も打ち付けられ、身体を刻まれ、惨殺される。
Letty Labicheは自宅の裏庭で、裸で逮捕される。着ていたローブと靴をゴミ缶で焼きながら、身体と髪を覆うVachel Carmoucheの血を、ガーデンホースで洗い流しているところで。
その後8年、Letty Labicheは、宣告された死刑判決が実行される日を待ちながら、刑務所に収容されている。

そんなある日、ロビショーは、クリート・パーセルから彼が現在関わっている仕事の関係で行き合ったLittle Face Dautrieveという黒人の娼婦が、Letty Labicheに関する新聞記事の切り抜きを集めているという情報を聞く。
Lettyの境遇を気に掛けていたロビショーは、クリートの案内でLittle Faceを訪ね、彼女がその切り抜きをヒモであるZipper Clumのためにやっていると話される。
日曜日、妻ブーツィーと娘アラフェアと共に教会に行ったロビショーは、帰り道双子の片割れであるPassion Labicheの家を訪ね、得た情報について尋ねてみる。PassionはLittle Faceという女性は知らないが、Zipper Clumは昔の両親の知り合いだったと答える。 そして知らないと答えたLittle Faceについて、ロビショーが話さなかったにもかかわらず、黒人女性であることを知っていた。

その晩、クリートからZipper Clumが現れるとの情報を得たという電話があり、ロビショーはその現場へと向かう。
街から離れた場所にある窓に板を打ち付けられた廃屋のアパート。その前にクリートのキャディラックと、もう一台の車が駐まっていた。
屋根に足音、そして男の叫び声と木に重いものが落ちる音。
壁に張り付き、上を見上げると、屋根からクリートの頭が覗き下の何かを見下ろし、また引っ込む。
建物に入り、屋根へと上ると、クリートが黒人の男のベルトと襟を掴み、下の木へ向かって放り出したところだった。

奴らは16歳の女の子二人連れをレイプして撮影しようとしてた。Zipperと奴の仲間は映画ビジネスを始めたところだ。クリートはそう話す。
「そうだな、Zip?」片腕を避難はしごに手錠で拘束された白黒混血の男を蹴り、クリートは言う。
「ロビショーなのか?」Zipperはそう言って彼の顔を見つめてくる。
「なんでLittle Face Dautrieveは、Letty Labicheの新しい記事を集めてるんだ?」
「あいつの脳はケツにあるからだろ。なあ、あんたの仲間、歯止めが利かなくなってるんだよ。仲介してもらえねえか?」
クリートは同じ質問をZipperに投げかけ、満足の行く答えが得られず、Zipperも屋根から放り出すべく持ち上げる。
「ロビショー、あんたの母親の名前はMaeだろ…。待てよ、Guilloryと結婚してたんだっけな。彼女は…、Mae Guilloryって名前で通ってた。だが、あんたの母親だろう」Zipperは言う。
「何だと?」

「彼女はカードゲームの担当だったが、まだ少しは売春もしてた。ラフォーシェのクラブの後ろで。多分1966か67年頃のことだった」Zipperは続ける。
「連中は彼女を泥水たまりに押さえつけた。奴らは彼女を溺れさせたんだ」
「そいつらは私の…、もう一度話せ」ロビショーはZipperのシャツを掴み、顔に銃を突きつける。
「そのオマワリたちはカネを受け取ってた。Giacanosからだ。彼女は奴らが誰かを殺すのを見たんだ。奴らは彼女を泥の中で殺し、バイユーに転がしたんだ」Zipperは言う。
そこで、クリートが割って入り、ロビショーを止める。「俺を見ろ、ストリーク!そこから離れろ!」

前作『Sunset Limited』では、母がまだ幼いロビショーを残して、男と一緒にSunset Limitedに乗りハリウッドへと向かった過去の哀しい思い出が語られていた。
その後母は、ハリウッドで男に捨てられ、父の送った切符でグレイハウンドで家に戻る。
だがそれも長くは続かず、母は別の男と家を去り、二度と戻ることはなかった。
ハイスクール時代、友人達と共にバーに入り、そこで酔っ払いと踊っている母の姿を見かける。
それがロビショーが母を見た最後になった。

数日後、ロビショーは休暇を取りクリートに会いに行く。クリートはロビショーが母親の件に深入りすることを心配する。
「お前、本当にLittle Face Dautrieveに乗っかってる風俗課のオマワリと向かい合いたいのか?」
自分は彼女がなぜLatty Labicheの件に個人的に関わってるのか知りたいだけだ、と答えるロビショー。
「俺にはお前の中でハンドルが切られてるのが聞こえるんだよ、大将。お前は思い通りに進めなければ、界隈で一番悪い奴を見つけて、そいつの目に指を突き立てるんだ」クリートは言う。
「デイヴ、この風俗課は本物のクズだ。ちなみにNOPDの多くの連中は俺のことを流せない糞だと思ってるがな」

そして二人は警察署にその風俗課警官、Don Ritterを訪ねて行くが、当人は不在だった。
クリートの話では、Little FaceにはRitterの他につながるもう一人の男がいるという。
Jim Gableというその男は、現在は政治家となっているが、ロビショーとクリートがNOPDに入る以前に制服警官だったということだ。
電話で約束を取り付け、二人はGableに会いに行く。ロビショーはまずその立派な屋敷に驚く。
「心臓病の家系のアル中の女と結婚すれば、簡単な事さ」

Gableは豪壮な邸宅で二人をにこやかに迎え、まずは聞き及んでいたロビショーのベトナムでの戦歴を褒めたたえる。
Zipper Clumというヒモが、あなたと風俗課の刑事がLittle Face Dautrieveという名の娼婦に関心を持っていると話していたのだが、とロビショーは尋ねる。
「署の人間がZipperの顔をホットプレートに押し付けたことがあったよ。15か20年前のことだ。私がそれをやった者を解雇した。Zipperはそのことを忘れているようだな」
君ははるばるニューイベリアから、ニューオリンズ警察の腐敗をチェックしに来たのかね?と問うGable。
自分はLetty Labicheの事件に役立つ情報をその娼婦が持っているのではないかと考えただけだ、と答えるロビショー。
彼女は法の人間を殺害した。致死薬物注射より電気椅子で死刑を執行すべきだというのが私の意見だ。Gableはそう語る。

それからGableの屋敷を辞す二人。だが門近くまで来てロビショーは車を停め、もう一度屋敷へと戻る。
「何か忘れ物かね?」玄関を開けて、尋ねるGable。
「私の母の名はMae Guilloryという。彼女はこの近所で殺されたと私は考えている。Zipperによれば、'66か'67年頃ということだ。Mae Guilloryという名前に聞き覚えはないかね?」ロビショーは問う。
Gableは嘘をついている人間特有の笑みを浮かべて答える。
「なぜかね?知らんな。Maeだったか?そういう名前の女性をこれまで知っていたことはないと思う。いや、確実だ」

日曜の朝、Zipper Clumは従兄弟の芝刈り機店の裏で、ミュージシャンを志していた若い頃からの好みのジャズドラマーのテープをかけながら座っていた。
店の前に停められたピックアップトラックから、一人の男が降り立つ。後に目撃者が話したところによると、ある者は彼がティーンエイジャーに見えたと言い、ある者は30代だったと言う。だが、全員が一致していたことは、男が白人で、女の子のような口をしていて、 無害に見えたということだ。
男は店の正面のドアのベルを鳴らした。Zipperは裏から、店主である従弟は不在で、そのうちに戻ると伝える。
「あんたの従兄弟は、Jimmy Figにデカい借金がある。彼はFigに利子を払わなきゃならん」男は言う。
Zipperはカウンターまでやって来て、男に言う。「Jimmy Figは金を貸さねえ。マンコを売るだけだ」
「あんたが言うんならそうなんだろ。俺は言われたところに来ただけだ」

Zipperは帰ろうとする男を呼び止め、ギャンブルを持ち掛ける。俺が指の上で20ドル金貨を落とさずに3回転がせるかで50ドルだ。
乗ってきた男が、コインに気を取られている間にカウンターの下から38口径を取り出そうとしたZipperだったが、気が付くと銃を持った手が近くの棚にあった鉈で切断されていた。
男はカウンターを回って来て、倒れ込んだZipperに自分の25口径オートマチックを突きつける。
Zipperは殺される前に、ロビショーの母親の件だな、と言った。
薬莢を拾い、血が飛び散ったシャツを脱ぎ、鉈の柄の指紋を拭きとり、トラックに戻った男は、誰かの母親というわけのわからない話を少し奇妙に感じたが、そのまま去って行く。

今作では、かつて苦境から救うことができず殺人犯となり死刑を待つLetty Labicheを何とかできないかというロビショーの動きから、思いがけず母の死の真相の手掛かりが浮かび上がり、二つの事件をそれぞれに追って行くうちに、ロビショーは ニューオリンズ警察の中で過去から現在へとつながる腐敗に対峙し、戦って行くことになる。

そしてここでルイジアナ州の司法長官である女性、Connie Deshotelという人物が登場して来る。
ロビショーは彼女のオフィスを、過去の、警察が関わった可能性がある母親の死亡事件について調査を依頼しに訪れる。
快く受諾し、その後ロビショーの妻ブーツィーと同級生であった話などもして、親密気に誠実に対応して来るDeshotelだったが、その表面の裏で不審な行動をし、その疑いは徐々に広がって行く。
彼女はその件に何らかの関わりを持っているのか?

明らかに過去に関わる何らかの秘密を持ち、その地で権力の拡大を目指す人物Jim Gable。
彼に資産と地位をもたらした妻Coraは、かつてのハリウッド女優で、夫の強権に反する意図を持ちロビショーに接触して来る。
彼女に忠実に付き従う、ある暗い過去を持ち顔の半分に修復不能なほどの傷を負った運転手Micah。

Zipperの殺害により、一旦は失った母の死の手掛かりを追い続けるロビショーの前には、偽りの証言など様々な妨害がもたらされる。
またその一方で、ロビショーとも親交のある信頼に足る人物である知事のBelmont Pughも、何か重大な証拠でも見つからない限りLatty Labicheの死刑執行には、いずれはサインせざるを得ないと言う。

そして、Zipper Clumを殺害した風変わりな若き殺し屋。その後の調べで男はケンタッキーから来たJohnny O'Roarke、別名Rametaと判明する。
その後も近隣に潜伏し、同じ依頼者からの仕事でLittle Faceを狙い家屋に侵入などを行うが、気まぐれな行動と、正体が発覚したことから逆に依頼者から抹殺されそうになる。
結果的にロビショーに命を救われたことから、一方的に彼を味方とみなし、予測不能の行動を取り始める。

といったところでキャラクターも一通り説明できたか。重要なキャラクターが多くて、結構話進んだあたりからも次々出てくるのがバーク/ロビショーシリーズの特徴ぐらいのもの。あらすじ的にはZipper Clumが殺される辺りまででいいと思うのだけど。 あー、今作でかなり悪辣にロビショーの妨害に動く、ニューオリンズ警察風紀課のDon Ritterは名前出しただけだったか。
どうしてもロビショーの母の事件寄りの説明が主となってしまい、LettyとPassion Labicheの双子に関するあたりが薄くなってしまったかも。死刑囚になっている方がLettyで、外にいるのがPassionなのだが、またしてもクリートがPassionとくっつく展開となり、 まあ結果は…というところもあるのだけど。

タイトルのPurple Cane Roadは、実在するのかちょっとわからなかったのだけど、亡くなったロビショーの母が最後近くに生活していた場所の近くの道の名前。実際にそれが出てくるのは、結構後半ぐらいなのだが、それ以前にロビショーの夢の中に 実際のものとは違う形で非常に印象的に現れる。
そのくだりは、19歳の時ある石油リグで働いていた時の話から始まる。1957年の夏、大規模なハリケーンが通り過ぎた後の事。ケーブル修復のため、海中で作業していたロビショーは、作業で動かされた近くの海底から、泥と共に女性の遺体が浮かび上がるのを 目撃する。そのまま流されていった遺体を他に見た者はなく、自身でもそれが現実にあった出来事なのかあやふやになって来る。そして、その幻の女性は彼の夢に繰り返し現れることとなる。
その夜、彼女はロビショーの夢に戻って来る。別の姿で。
ダンスホールから続く泥の道を、彼の母Mae Robicheaixが走っている。道の両側は紫の太いサトウキビの密生した畑で塞がれている。ビアガーデンで働いていた時のピンクの服を着て、両手を広げ口を大きく開けた母は泥の道を走り続ける。その後ろから、 二人の警官がホルスターの銃が落ちないよう手で押さえながら、走って追って来る。
ロビショーはサトウキビの壁の向こうで、急流の中身動きもできず、その光景を見つめ、壁の間から叫んでいる。
そのうち、母の足元から徐々に水位が上がり、母は流れに呑み込まれて行く…。

これはロビショーがかつて母を最後の頃に見た場所として憶えていたPurple Cane Roadという道の名前が、潜在意識の中でこういう形となって夢に現れたというところなのだろう。
かつて水流の中でその遺体を弔うこともできず消えて行った幻の女性。救うことができないままに殺人という最悪の結果に至り、今刑務所で死刑執行を待つ女性。そしてまだ自分が若い頃に行方を失い、その死さえ知らなかった母。
それら救えなかった者たちへの想いが母の姿へと重なって行くのが、この幻想のPurple Cane Roadなのだろう。

*  *  *

さて、書かなきゃと思うところ結構多いのだけど、どこから行くか?やはり弁護士ビリー・ボブ・ホランド・シリーズを立ち上げた後の、バークの考えといったところがうかがえるようなところか。
裕福とまでは行かなくても、それなりに家系もあるホランドとの対比で、沼沢地帯の貧乏白人出身というロビショーの立ち位置を強く打ち出して行くという方向については、前作の時に書いた…、つもりだけどあんま伝わってなかったかも?
そしてそれに加えて、ロビショーという人間を更に内面から掘り下げるという方向に向かう。それが今作の母の死の真相を探るストーリーなのだろう。
今作は、そういったロビショーの過去だけではなく、現在共に暮らす人々も以前に増して事件に深く関わって行く。妻ブーツィーの過去のJim Gableとの関係。そして16歳に成長したアラフェアにある種の恋心を持って接近して来る予測不能の 行動を取り続ける若き殺し屋Johnny O'Roarke。
自身の家系をモデルとしたHolland Familyサガへと発展して行くホランド・シリーズ同様に、こちらのロビショー・シリーズも主人公の個人的関係、過去などの内面に深く関わって行く方向へと進んで行くのはまず間違いないところだろう。

かなり多くの人物が登場し、複雑な話になった前作『Sunset Limited』に比べると、今作はややシンプルに感じられた。前作にあったような複雑な人間関係の裏から伸びる枝というような部分が少なかったからだろう。ただここからこのシリーズが 以前よりシンプルな方向へ向かうかというと、それは違うのではないかと思う。前作におけるその枝的部分は、例えば中国からのブラックマネーといった現在犯罪社会状況といったものだった。南部沼沢地帯を舞台とし、過去・歴史といった方向で その地を立体的に描き出して行くバーク作品では、当然その歴史的地点である「現在」を描くことも重要である以上、こういった方向での複雑化が再び作品に現れてくるのは必然となる事だろう。

そして、キャラクターというところの話。以前『Cadillac Jukebox』のときに、その前作『Burning Angel』に登場したソニー・ボーイ・マーサラスや、『Cadillac Jukebox』のJerry Joe Plumbについてテリー・レノックス的というような 解釈をしたと思うんだが、それに前作『Sunset Limited』の兄妹と強い絆を持つ殺し屋Swade Boxleiter、そして今作の若き殺し屋Johnny O'Roarkeを並べてみると、これはノワール的なキャラクターということになるんじゃないかと思う。
バークの作品、ロビショー・シリーズにしても、ホランド・シリーズにしても、基本的には主人公がその土地で財力・権力を背景に不正を働く者と闘う、という形の言ってみればシンプルなものだ。そこにこういったノワール的キャラクターを 投入することで、物語を様々な方向に膨らまして行くというのが、ロビショー・シリーズにおけるバークのスタイルなのかと思う。ホランド・シリーズについては少し違うのかもという気もしてるので、そっちについては保留。
これがどの辺からなのか、もしかしたら第1作からなのかというところがよくわからないのは、自分が以前の翻訳されたところから結構時間が空いてしまってはっきりしないというところが申し訳ないんだが、とりあえず今後は、いかなる形で こういったノワール的キャラクターが登場するのかというところも注目点になるのだろう。いや、過去作もなるべく早く読み返して全体を俯瞰できるようにすることも必要なんだが。うーん、とりあえずなるべく早く…。

そんで、最初に書いた前回の反省点というところなんだが、ロビショー自身が登場しないシーンが増えたのではないか、なぜそうなったんか?という点についてのところ。
なんかさあ、話が複雑になってロビショーがいない場所で起こることが多くなった結果じゃないかみたいに書いたんだが、そんなわけねえだろ。
小説にしろ、あらゆる創作物なんてもんはそんな風にできてない。作家が頭で考えた「お話」を言葉にして書いて行ったらこうなりました、みたいなもんじゃないだろ。
作家は膨大な時間をかけて、熟考して作品を創り上げる。たまたまそうなりましたなんてことは起きない。何か違和感があったら、それは意図的なものだと考えるべきだ。
では、このロビショーが登場しないシーン、作品の中の三人称的シーンの増加は何を意味するのか?

なんというか、そもそも前作でそれが自分的に気になったのは、さらに遡るその前作『Cadillac Jukebox』に発端があったのだろうと今更ながら考える。
なんかてっきり書いたと思い込んでいたんだが、ごめん、読み返してみたら書いてなかったようなのだが、この作品では先に名前を出したこの作品のノワール的キャラクターであるJerry Joe Plumbが自身の過去について語る、Plumbの一人称による そこそこの長さがある独立した一章が、かなり印象強い形で作中に挟まれている。
そして続く『Sunset Limited』のロビショー不在の三人称場面の増加傾向。
なんかぼんやりしたボンクラ頭の片隅で、バークは何かやろうとしてるんじゃないかみたいなところを薄く考えての、前作のなんか引っかかった的な言い方に繋がったのかもと今になって考える。
ここに来てそこそこ断言的に言えるのは、この時期バークはかなり真剣に一人称記述である自作にいかにして三人称描写を取り込むかを考えていたのではないかということ。

まあ本人に聞いたわけじゃないんで、どう考えたみたいな部分は想像でしかないんだけどね。ロビショー・シリーズ、ホランド・シリーズともに一人称記述で書かれ、そのスタイルにこだわりがあると思われるバークだが、それまでの作品の中でも 度々主人公不在の現場で起こった事態の伝聞による三人称描写を挟むという手法を使ってきた。ともすれば一本道になりかねない一人称記述の作品に奥行立体感を作る有効な手法であり、これを自作の中で色々な形で応用して行こうとバークは 考えたのかもしれない。
そこでバークは三人称記述というものについて根本的に考え直したのではないか?一人称作品には主人公という語り手がいる。では三人称作品には語り手はいないのか?実は三人称作品の語り手というのは「私」という形で前に出てこない作者ではないのか? 一人称作品の中の三人称描写は、語り手主人公を作者という立場で考えて書けばいいのではないか?
なんかこんな考えによる三人称記述のストーリー内への多くの挿入が、本編の章の導入と同じ情景描写からのという形になったのではないか。まあその辺については前回ちょっと面白で揶揄しちゃって悪かったよ。バークさんごめん。
そしてこの伝聞シーン、三人称描写は今作で更に進化する。

ちょっと長くなっちゃうんでそこのところは端折るしかなかったんだが、Zipper Clumが殺害されるシーン。ここは実はZipperというのがどういった人物であったのかを子供時代に遡って語るというところから始まる。Zipperはどんな風に育ち、 そして一旦はミュージシャンを目指したが挫折し、という話が続いた後で、従兄弟の店の裏で好きなジャズドラマーのテープをかけて座っているというところへと繋がるわけだ。
この作品ではこのような手法が度々使われる。例えば冒頭部分も、まずVachel Carmoucheという人物の説明から入り、隣のLabiche一族の話になり、そこから幼い双子への性的虐待の疑惑、そしてCarmoucheの殺害へと至る。その他にも既に登場している人物が 改めてその出自などから語られた後に、ロビショー不在でその人物に関して起こった事件の伝聞による三人称描写へと繋がって行くという形のものが複数現れる。
なんかうまく説明できてるかやや不安だが、これがバークがそれを熟考した上での、前作からさらに進めた一人称作品の中への三人称描写を取り込む手法なのだろう。
そして、おそらくこれはここで完成形ではなく、続く作品では更なる試行錯誤が続けられて行く事になるものと思われる。

世の中にはあんまり考えないで書いて結局こうなっちゃった、みたいな作家もいるんだろう。だがジェイムズ・リー・バークは、決してそんな作家ではない。こういう作家の作品の中で違和感を感じたとしたら、それは必ずその作家が何かを意図していると いうことだ。
ロビショー・シリーズも既に11作。だが作者ジェイムズ・リー・バークはそこで停滞することも、安定することもなく、考え続け更なる高みを目指す、本当にすごい作家だ。こういう作家の作品を読まずに何を読むというんだね。 この現代まで続行中のハードボイルドの巨匠、ジェイムズ・リー・バークの作品をなにがなんでも全作制覇を目指して読み続けるものでありますよ。

さて次、という話だが出版順で行けば次はビリー・ボブ・ホランド・シリーズ第3作『Bitterroot』ってことになる。だがこんなバーク作品年1作目指す…、みたいなペースで読んで行けばせっかく色々見えて来たロビショー・シリーズを次に読むのは 2年後とかいう話になりかねん。そんなわけで、ここでホランド・シリーズはロビショーとは別枠!という考えでバーク作品年2冊を目指そうというのが今の考え。…いやまあ、考えれば時間が増えるってもんでもないんだけどさ…。なんか自分を 騙すぐらいの考えででもなんとかかなり大きいバーク作品未読の山を崩して行けんかというのが、現在の希望です。あーでも今年年内にエルロイの次のやつまで届かなそうだしな…。あれもこれも…。いや、いかんいかん!ちゃんと早く読むからね! では『Bitterroot』は半年後以内に!

さて作者ジェイムズ・リー・バークの近況だが、2022年の『Every Cloak Rolled in Blood』で作者自身に深く関わるところまできてここで終わりなんかな、と思ってたHolland Family Sagaの新作が今年2025年6月に出版。これはまた時間を遡る 過去の出来事についての話らしく、Holland Family Sagaはまだ今後も続行される模様。さらには来年2026年2月にはロビショー・シリーズの新作第25作となる『The Hadacol Boogie』の出版もアナウンスされている。ジェイムズ・リー・バークは まだまだ続く。もたもたしてる場合じゃねーよな。


せっかく頑張ろうと思ってたのに…

ここで残念なお知らせです。前回何とか立て直ったみたいだからこれからいろいろ紹介するよー、といってた矢先にDown Out Booksが10月14日をもって終了しました…。いや、ホントにこれ大丈夫なんだろうな、と思ってたところだったんだよ。 一時期はインディークライム出版の一つの大きな拠点であったわけだし、かなり多くの出版物を残してという感じで本当に残念です。前回のPablo D'Stairの『this letter to Norman Court』も画像もろともなくなってしまったわけで、早く とりあえずの修正ぐらいはせねばというところだったり。色々と消えてしまった多くの作品については、再版などあればなるべく伝えて行くつもりです。ただ、ほとんど紹介できてなかったんだよな…。残念。


なんかね、一方でバークの山ほどの未読がありなんとかしなくちゃ時間がない、と言いつつ、また一方ではなかなか読む時間が作れず手が回らなかったパブリッシャーの終了を惜しむ。客観的に見ればアホみたいなんだが、本読みってそういうもんだろ。 ホントにジェイムズ・リー・バークは絶対に読まなければならない素晴らしい作家で、これから毎日バークの著作だけを読むべきだぐらいに思う一方で、Down & Outの名前しか知らなかった作家の作品はどんなものだったのか、多くの作品を読んで行くことで なんか自分にまだ見えてなかった現代クライム作品の一つの傾向が見えたのかもしれないと思う。そしてまたその一方で、これはどんなものなのだろうか、何とか読んでみたいと思う作家、作品が常に現れ続ける。あー、ここんとこPaperback Warrior 師匠が推してて何度か取り上げてるDavid Agranoffってどんな作家なの?あーくそどっかねじ込んで読めないかなあとかさ。そんなこと繰り返してるうちに、山ほどの未読を残して死ぬんだろうね。まあそれも一つの本読みの人生ってやつなんじゃないんかな。


■James Lee Burke著作リスト

〇Dave Robicheauxシリーズ

  1. The Neon Rain (1987)
  2. Heaven's Prisoners (1988)
  3. Black Cherry Blues (1989)
  4. A Morning for Flamingos (1990)
  5. A Stained White Radiance (1992)
  6. In the Electric Mist with Confederate Dead (1993)
  7. Dixie City Jam (1994)
  8. Burning Angel (1995)
  9. Cadillac Jukebox (1996)
  10. Sunset Limited (1998)
  11. Purple Cane Road (2000)
  12. Jolie Blon's Bounce (2002)
  13. Last Car to Elysian Fields (2003)
  14. Crusader's Cross (2005)
  15. Pegasus Descending (2006)
  16. The Tin Roof Blowdown (2007)
  17. Swan Peak (2008)
  18. The Glass Rainbow (2010)
  19. Creole Belle (2012)
  20. Light of the World (2013)
  21. Robicheaux (2018)
  22. The New Iberia Blues (2019)
  23. A Private Cathedral (2020)
  24. Clete (2024)
  25. The Hadacol Boogie (2026)

〇Billy Bob Hollandシリーズ

  1. Cimarron Rose (1997)
  2. Heartwood (1999)
  3. Bitterroot (2001)
  4. In the Moon of Red Ponies (2004)

〇Hackberry Hollandシリーズ

  1. Lay Down My Sword and Shield (1971)
  2. Rain Gods (2009)
  3. Feast Day of Fools (2011)

〇Holland Family Saga

  1. Wayfaring Stranger (2014)
  2. House of the Rising Sun (2015)
  3. The Jealous Kind (2016)
  4. Another Kind of Eden (2021)
  5. Every Cloak Rolled in Blood (2022)
  6. Don't Forget Me, Little Bessie (2025)

〇その他

  • Half of Paradise (1965)
  • To The Bright and Shining Sun (1970)
  • Two for Texas (1982)
  • The Lost Get-Back Boogie (1986)
  • White Doves at Morning (2002)
  • Flags on the Bayou (2023)

〇短篇集

  • The Convict (1985)
  • Jesus Out to Sea (2007)


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James Lee Burke / Cadillac Jukebox -デイヴ・ロビショー第9作!-

James Lee Burke / Sunset Limited -デイヴ・ロビショー第10作!-


●Billy Bob Hollandシリーズ

●Hackberry Hollandシリーズ

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